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第89話

しかし、写真には詩織の横顔しか写っておらず、男性の顔は写っていなかった。

だが彼女は拓海が昨日着ていたスーツと、ネクタイの色と形を覚えていた。詩織の向かいに座っている男性が拓海だとほぼ確信できた。

昨夜、拓海は運命の人とデートに行ったのだ。

紗希はカフェでの出来事を思い出し、目に嘲りの色を浮かべ、すぐにそのページを閉じた。

隣で、奈美は携帯を持って寄り添ってきて、画面には男性の後ろ姿が写っていた。「紗希、この男性の後ろ姿、見覚えない?」

紗希は冷ややかな表情で答えた。「分からない」

「どうして分からないの?この男性の後ろ姿は前回受け持ったあの別荘の男主人とまるで同じだ!」

「確かめたいなら、別荘に行って会えばいい」

紗希には奈美のような人に付き合う余裕がなかった。仕事には熱心でないくせに、他人の噂話には熱心な人だ。

奈美はようやく自分の席に戻り、同じ人だと確信していたが、すでに恋人がいるようだったが、もし自分がお金持ちの令嬢だったらいいのに、そんな運命ではないのだ!

紗希は一人でパソコンの画面を見つめ、しばらく何も描けずにいた。

最後に彼女は携帯を取り出し、拓海にメッセージを送った。「明日朝9時、区役所で必ず来るよ」

メッセージを送った後、紗希は携帯を裏返しに置いた。どうせ拓海と詩織はこんな関係になったのだから、離婚しないで何を待っているのか。

渡辺グループ。

拓海はまだ怒りの表情で言った。「一体誰が写真を撮って投稿したか?」

「社長、すでに話題を削除するよう手配しました」

拓海は眉をひそめた。このニュースを紗希はきっと見ただろう。

彼は携帯を手に取り、紗希からのメッセージを見て、眉間にしわを寄せた。

彼女はそんなに急いで離婚したいのか?彼は絶対に彼女の思い通りにはさせない!

男は薄い唇を引き締めて返信した。「暇がない」

そのとき、詩織から電話がかかってきて説明した。「拓海、ごめんなさい。昨日記者に追われるとは思わなかったわ。でも幸いなことにあなたの顔は写っていなかった。後で私は声明を出して説明するわ」

「ああ。こういうことが二度と起こらないようにしてくれ」

「拓海、安心して。今回は偶然だったの」

詩織は電話を切ると、顔には得意げな表情を浮かべた。昨夜のゴシップ記者は彼女が故意に用意したものだった。

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