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第239話
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永遠の毒薬 第240話
紗希は力を振り絞って笑みを浮かべた。「十回言ったって、私たちの関係がただの体の関係だって事実は変わらないわ！でも、直人、私がそんなふうに割り切ってるって、あなたにとっては喜ばしいことじゃない？これからあなたが他の女と結婚するってなっても、私は文句言って騒いだりしないから、安心してちょうだい！」彼と一緒にいるこの数年間、彼女は何度も自分に言い聞かせていた。この人を愛しちゃいけないと。だって、大切な人を失う痛みは辛すぎるから。直人は鼻で笑った。「体の関係？俺たちの関係を、そんなふうにしか見てないのか？ただの体の関係というなら、なおさら遠慮する必要なんかないな！」そう言って、彼は紗希の身体を抱き上げると、ソファに投げ出し、そのままベルトを外し始めた......紗希は痛みから叫んだ。しかし、その叫びはまるで彼の耳には届いていないかのように、彼は罰を与え続けた。そして、やがて彼は彼女の白い肩に噛みついた。あまりの痛みに、紗希の額にはびっしりと汗がにじんだ。彼女の声も枯れて、もはや叫ぶことすらできなかった。どれくらい時間が経ったのだろうか。ようやく男が彼女から離れ、服を整えた。冷ややかな目で彼女の頭上を見下ろしながら、冷たく言った。「電話いつも出れる状態でいろ。いつお前を呼ぶかわからないからな！」そう言い放つと、小切手帳を取り出して一枚切り、彼女の前に放り投げてから、無言で部屋を出て行った。紗希は部屋の大きな窓に映る、自分のあまりにも無様な姿を見て、抑えきれずに涙が溢れた。この男は、半年前よりもずっと冷酷で、暴力的になっていた。でも、ひとつだけ救いがあった。それは彼を愛していなかったということだ。もし少しでも愛していたら、今の仕打ちに、きっと立ち直れないほど傷ついていただろう。しばらくソファにうつ伏せたままでいて、紗希はやっと身体の痛みが和らぎ、動けそうになった。紗希はソファの縁につかまりながら、少しずつ浴室へ向かった。鏡の前に立つと、肩の噛み跡から血が滲んでいるのが見えた。その瞬間、ようやく全身に激しい痛みが押し寄せた。体を引きずるようにしてシャワーを浴び、やっとの思いで部屋へ戻ると、直人がベッドスタンドに置いた袋が目に入った。それは林おかゆ専門店の海鮮のお粥だった。ここから車で行っても、最低でも
永遠の毒薬 第241話
「ありがとう！」紗希はそう言って袋を受け取ると、ドアを閉めた。服を着替えてホテルを出ると、すぐにタクシーで病院へ向かった。少し気まずかったが、肩の傷は早めに処置しないと、跡が残ってしまうかもしれない。医者が彼女の傷の手当てをするときに彼女を見た時の目は、少し妙な感じだった。この位置の咬み傷を見たら、どういうことなのかは一目瞭然だ。でも紗希は気にしなかった。終始、落ち着いた態度だった。どうせ知らない医者だ。男に噛まれたってバレたって、何の問題があるというのだ？ところが、処置を終えて病院を出たところで、彼女は思いがけず裕之と鉢合わせしてしまった。裕之の口元には血が滲み、頬には痣があった。どう見ても誰かと喧嘩でもしてきたようなボロボロの様子だった。紗希は彼が乃亜の敵であることを知っていたので、関わりたくなかった。彼女は顔を伏せて、知らないふりをして通り過ぎようとした。しかし、裕之の手が、ちょうど伸びて彼女の肩を掴んだ。「どういうことだ？挨拶さえもしないつもりなのか！」彼はさっき直樹とバーで喧嘩して、最悪な気分だったところに、目の前を通り過ぎようとする紗希の態度がさらに彼を苛立たせた。あの私生児の直樹が現れたせいで、本当に彼は何もかもがうまくいかなかった！紗希の顔は痛みから一瞬で青ざめた。「裕之、いい加減にして、手を離してよ！」彼女は子供の頃から乃亜と一緒に育ってきた。だから、この業界の御曹司たちとも顔なじみが多かった。凌央と美咲の件で、彼はいつも乃亜を敵視していた。紗希は裕之のことが本当に嫌いだった。しかも美咲に媚びるために、乃亜を貶めるようなやり方ばかりしていた。乃亜を踏み台のように利用していた。実に気持ち悪かった。「乃亜の飼い犬になると、誰にでも噛みつくんだな？」裕之の声は冷たく、怒りがこもっていた。ちょうどストレスのはけ口を探していた彼の目の前に、突然紗希が現れた。それに加え、乃亜は彼女の親友だった。彼が紗希を放っておくわけがなかった。彼女は咄嗟に彼の脚を蹴飛ばした。裕之は痛がり、反射的に手を離し、その目を怒りでギラつかせた。紗希は一歩も引かず、背筋を伸ばして言い放った。「私は何もしてないわ！ なんであなたに掴まれなきゃいけないの？ それに、私は女で、あなたは男。男女の間
永遠の毒薬 第242話
「うん！」乃亜は軽く返事をした。紗希は嬉しそうに声を上げた。「わあ、最高ね！これで名付け親として、男の子も女の子もバッチリね！明日さっそくベビー服を買いに行くね！」彼女は本当に乃亜のことを嬉しく思っていた。「で、あなたはどうなの？元気？」乃亜は紗希から連絡がなかったので、心配して電話をかけていた。今、紗希の声を聞くと、何事もなさそうで安心した。「私は元気だよ、あなたに電話したらすぐ寝るつもりだったの」紗希は本当のことを話すつもりはなかった。乃亜に余計な心配をかけたくなかったのだ。「じゃあ、早く寝て。明日の朝、スタジオで会いましょう。」「乃亜、誕生日おめでとう！」「今日のエコーの結果が、私にとって最高の誕生日プレゼントよ。本当に幸せなの」蓮見家の本家では、今日は蓮見家のご隠居が親族全員を集めていたので、乃亜はあまりはっきり言えなかった。誰かに聞かれると厄介だからだ。「良かったわ。じゃあ、私はそろそろ寝るね」紗希は、本当は凌央が乃亜に何か誕生日プレゼントを用意したか聞きたかったが、やめた。もしプレゼントがあったら、乃亜はすぐに教えてくれるはずだ。何も言わないってことは、きっと何もなかったのだ！聞くと余計に心が痛くなるだけではないか？乃亜は「おやすみ」と言うと電話を切った。乃亜はスマホを握ったまま、夜空を見上げてぼんやりしていた。「俺を待ってたのか？」突然の声に思考が現実に引き戻された。乃亜の視線は、地面に寄り添う二つの影に落ちた。痛みはそれほどなかったが、ひどく気まずかった。蓮見家の二十数人の親族が彼を待っていたのだ。誰もが彼は会社で残業中だと思っていた。なのに……女といたとは！「乃亜、もしかして私が帰ると知ってて迎えに出てきたの？ほら、このケーキとプレゼント持ってくれる？重くて、手がもう限界よ」美咲はケーキと紙袋を乃亜に押しつけて、疲れたように手をさすりながら甘ったるい声で言った。乃亜はケーキに目をやった。長く置かれすぎてクリームは崩れていた。もう一度目をやると、袋の中にはモコモコのぬいぐるみが入っていた。このプレゼントとケーキ、手抜きもいいとこだ。心の中で乾いた笑いを浮かべながら、くるりと振り返って叫んだ。「新開さん、旦那様と奥様がお戻りです！」そして、さっき
永遠の毒薬 第243話
しかし心の中で思っていたのは、彼女と凌央が皆に見られるなら、今後正式に付き合うようになったときに、わざわざ一人ひとりに知らせる必要もなくて、ちょうどいいと思っていた。「俺も知らない」凌央は本当に知らなかった。というのも、以前に祖父が電話で言ったのは、ケーキと誕生日プレゼントを買ってこいということだけで、誰の誕生日かまでは言われなかったのだ。そして今、蓮見家の家族全員が揃っているのを見て、彼の疑問はさらに深まった。「じゃあ、行きましょ！」と、美咲は大勢の視線を意識して、わざと胸を張り、優雅な足取りで歩き出した。使用人の新開が中から慌てて飛び出してきて、最後には凌央の前で立ち止まった。「お荷物をお預かりします！」美咲はすかさず荷物を渡し、「ありがとう、新開さん！」新開は急いで答えた。「奥様、お礼なんてとんでもございません！」彼女はご主人様で、彼は使用人だ。このようなことをするのは当然の務めで、感謝の言葉など畏れ多いのだ。乃亜はゆっくりと階段を上り、大人しく脇に立った。もしこれが以前なら、凌央と美咲がこんなに親しげな様子を見て、きっと胸を痛めて台所に避難して、手伝いでもしていただろう。でも今は、彼女と凌央の関係は戦友。心には一片の波も立たなかった。それどころか、美咲がこんなにも堂々と凌央に腕を絡ませて帰ってきたことに対し、もしかしたら彼との関係を公にするつもりなのではないかと思わずにはいられなかった。もし本当にそうなら、彼女にとっては気が楽になる。少なくとも、凌央が祖母を脅し材料に、彼女を引き留めるようなことはもうないだろう。そうなれば、早く解放される日も近い。蓮見家の祖父は彼女を一瞥し、ぼんやりと立っているその様子が何とも哀れに見えて、胸が締めつけられるような思いだった。凌央のこのろくでなしめ、本当に腹立たしい！「真子、お前は使用人を連れて、支えて来い！義弟と腕を組むなんて、何たることだ！」祖父は怒りに震え、顔を真っ赤にしていた。今日は乃亜の誕生日で、皆は彼の帰りを待ってから食事を始めようとしていた。なのに、もうすぐ九時になる頃にやっと帰ってきた。もし彼一人だけが遅れていたのなら、祖父としても残業などを理由にして、乃亜の前でかばうことができた。だが、美咲と腕を組んで堂々と登場してきたのだ。ど
永遠の毒薬 第244話
美咲は固まった。真子がまさか、自分に家に戻って住めと言うなんて思ってもみなかった。もし家に戻ったら、夜に凌央に付き添ってもらえなくなるし、苦肉の策で彼を呼び寄せるチャンスもなくなる。凌央に会えなくなってしまったら、彼女は死んでしまう！それに、毎日真子と一緒にいたら、自分の秘密なんてすぐにバレてしまう。「そういうことなら、母さんの言う通りにしよう」凌央が低い声で言った。美咲は絶望した。以前の凌央は、家には戻らせない、外に家を用意するって言ってたのに。今になって急に放り出すとは、もしかして、さっき彼の腕にわざと絡んだのを怒っているのだろうか。これは警告ということだろうか？じゃあ、これから自分はどうすればいいのだ？真子は側にいた使用人に向かって言った。「支えてあげて。旦那様に負担をかけるんじゃないわよ！」使用人は急いで美咲のところへ来て、「奥様、お足元にお気をつけてください」と声をかけた。美咲は悔しさで歯を食いしばりながらも、怒るわけにはいかず、笑顔を作ってありがとうと礼を言い、惜しそうに凌央の腕からそっと手を離した。真子はにこやかに凌央に言った。「凌央、早く乃亜のところに行ってあげなさい。ずっとあなたを待ってたのよ。今夜はわざわざ自分であなたの大好物を作ってくれたんだから」凌央の視線は、階段の上に立っている乃亜に向いた。距離があるせいで表情までは見えなかったが、彼女から漂う優しい雰囲気が、不思議と彼の心を安らがせた。美咲はこっそり凌央の方を見た。彼が乃亜を見つめているのに気づいて、怒りで歯を砕きそうになった。乃亜、この女！わざとあそこに立って凌央の目を引こうとしていた。いっそのこと死ねばいいのに！そう思った瞬間、彼女の脳裏に残酷な計画が浮かんできた。乃亜、お前はもうすぐ死ぬことになるわ。真子が近づいてきて、美咲の腕をぐっとつかみ、思い切りつねった。「あとで使用人にベッドの用意をさせるわ。あなたは前に拓海と使ってた夫婦の部屋に住みなさい！」これで決定だ。美咲はあまりの痛みに声を上げた。凌央が振り返った。「どうした？」真子は笑いながら答えた。「私がうっかり美咲の足を踏んじゃったのよ。大丈夫、あなたは乃亜のところに行きなさい！」そう言いながら、再び美咲の腕をつねった。人の心とは、一
永遠の毒薬 第245章
凌央のことを完全に空気のように無視した。彼は二十人以上を何時間も待たせておいているのにもかかわらず、理由が美咲一人のためだなんて、たとえただの協力関係だったとしても、そんな行動は反感を買うに決まってるし、彼女だって付き合う気なんて起きなかった。凌央の表情がさっと冷えた。「乃亜、お前はどういうつもりだ！」彼女はわざと、多くの人の前で彼に恥をかかせようとしているのだ。「凌央、いい加減にしろ！」蓮見家の祖父が怒鳴り声を上げた。「お前は乃亜の夫だぞ。妻の誕生日を知らなかったのはまだしも、俺がわざわざケーキを買ってプレゼントを用意するように言ったのに、この有様か？ケーキなんて生クリームが溶けかかって、原型がわからんし、プレゼントに至っては、ネットで買った数百円のぬいぐるみだと？お前は金がないのか？それとも時間がないのか？ケチくさいにもほどがある！そんなお前に、乃亜を責める資格があると思っているのか！」お爺様は本気で怒っていた。最初、ふたりが姿を現した時点ではまだ我慢できていた。でも、使用人が手にしていたケーキとぬいぐるみを見た瞬間、彼の怒りは一気に燃え上がった。元々は今日は乃亜の誕生日だから、波風を立てたくなかった。でも今、凌央が逆に乃亜を責めるような態度を取ったことで、ついに堪忍袋の緒が切れた。その場にいた二十数人の視線が一斉に凌央に向けられた。みんな、凌央が乃亜を好いていないことは知っていた。けれど、三年も夫婦をやっていれば、少しは情が湧いているだろうと思っていた。しかし、こんなにもひどい仕打ちをするとは、誰もが思ってもみなかった。そして同時に、彼らは乃亜への敬意も芽生えていた。夫が他の女を連れて帰ってくるところを目の当たりにしても、平然とした態度を保ち、彼に責められても怒ることなく、むしろみんなお腹が空いてるから、早くご飯にしようと気遣いを見せる。こんな女性を大切にできないなんて、凌央は本当に見る目がない。いずれ失ってから後悔することになるだろう！祖父に叱られ、凌央は険しい表情で乃亜を見つめた。「どうして誕生日のことを教えてくれなかったんだ？」もし乃亜が教えてくれていれば、彼は山本にもう少し高価なプレゼントを用意させたのに。乃亜は明るい笑顔を浮かべて答えた。「教えたところで、何が変わるの？私が言ったら、美咲
永遠の毒薬 第246話
美咲は唇をかみしめて言った。「お義母さん、私が愛してるのは信一だけです。子どもの頃からずっと、彼だけを想ってきたんです！私は蓮見家に残って、彼のことを一心に想い続けます。白髪になるまで、ずっと！」そう言いながらも、心の中では毒づいていた。最初から信一があんな使えない奴だって知ってたら、絶対最初から凌央を狙っていたのに！そした乃亜が割り込む余地なんてなかったはずだ！「じゃあ、あんたの言葉を信じておくわ。もしできなかったら、もう容赦しないわよ！」真子は冷たくそう言い切り、美咲に二つの道を与えた。そして美咲は自分の意志で選んだのだから、当然それに従うべきだというわけだ。美咲は深く息を吸い込み、笑顔を作ってうなずいた。「大丈夫です、お義母さん。必ず約束を守ります。どうか、見ていてください！」近くにいた使用人が、美咲をそっと一瞥して心の中で思った。さっきの凌央へのベタベタ具合を見る限り、絶対心の中で思ってるのは凌央の方だろう。彼女が、大人しく未亡人なんてしてられるわけがない。奥様も頭が切れるのに、なんで気づかないのだろうか？しかし真子はそれ以上何も言わず、美咲の腕を放してその場を離れた。真子が遠ざかるのを見計らって、美咲は一気に態度を変え、使用人に向かって罵声を浴びせた。「その汚い手をどけなさいよ！誰が触っていいって言ったの！？」使用人はびっくりして手を引っ込め、ぴしっと姿勢を正した。「すみません、奥様、私が悪うございました」真子が振り返るのを警戒して、美咲はそれ以上怒鳴らず、鼻で笑いながらその場を離れていった。使用人は彼女の後ろ姿を見送って、小声で毒づいた。彼女がどこまでイキってられるか見ものだ！美咲は部屋に入ると、ダイニングには二つの大きな円卓が置かれ、すでに人で埋まっていた。乃亜は蓮見家の祖父に寄り添うように主賓の席に座り、その隣には凌央が座っていた。二つの大きな円卓には、なんと一つの空席もなかった。明らかに、彼女の席だけが用意されていなかった。彼女の心の中には怒りが一気に込み上げてきた。蓮見家の祖父、あのくそ爺、わざとやったな！いずれ必ず、自分の手で始末してやる！そう思いながらも、美咲は満面の笑みを浮かべて乃亜に近づいた。そして、手首のブレスレットを外して差し出しながら言っ
永遠の毒薬 第247章
一連の言葉で、乃亜は自分の立場をはっきり示した。同時に、凌央に向かって美咲が彼を好きなら、私は彼女と争うつもりはないとも伝えた！おじい様はその言葉を聞いて、すっかり気分がよくなった。乃亜が落ち込むばかりで言い返せないんじゃないかと心配していた。しかし、今になって見てみると、どうやらその心配は無用だったらしい。彼の乃亜はついに成長して、恋に盲目だった頃の自分を乗り越えてくれたようだ！実に嬉しいことだ！それに対し、美咲は思いもよらなかった乃亜の返しに驚いた。以前の乃亜だったら、人前で自分をこんなふうに恥をかかせるようなことは絶対にしなかったはずだ。今日の彼女は、いったいどうしたというのか？最後には、どうすることもできず、助けを求めるように凌央を見つめた。うるんだ瞳で「凌央、私……」と、か細い声を絞り出した。とても弱々しく、頼りなげな姿だった。それは、まるで世界中の人が彼女をいじめているかのようだった。凌央は眉をぴくりと動かし、彼女の手からブレスレットを取り上げると、そのまま乃亜の手に押し付けた。「ただの気持ちだ。受け取らなきゃ、その想いを踏みにじることになるだろう！」乃亜は手に握られたブレスレットを見つめながら、全身に嫌悪感が走った。胸の奥が締めつけられ、目にはじんわり涙が浮かんだ。凌央が気にしているのは、美咲の気持ちだけ。彼女がこのブレスレットで乃亜を侮辱したことなんて、まるで気にもしていなかった！乃亜が傷ついているかどうかなんて、最初から眼中にないのだ。そんな彼女の異変に気づいたおじい様は、乃亜の手からブレスレットをひったくり、そのままゴミ箱に放り込んだ。そして怒鳴った。「お前たち二人とも、今すぐ出て行け！」おじい様がここにいるというのに、凌央が乃亜をこんなふうにいじめるだなんて、もし彼がいなかったら、乃亜がどれだけ苦しい思いをしているのだろうか！考えただけで胸が張り裂けそうだった。美咲は、ブレスレットがゴミ箱に捨てられたのを見て、たちまち涙をあふれさせた。慌てて泣きながら懇願する。「おじいさま、ごめんなさい！全部私が悪いんです！私が出て行きます、だから凌央だけは追い出さないでください！」おじい様は冷たく鼻で笑った。「前にも言っただろう、お前はもうこの本家に来るなと、お前の顔は二度と見た
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永遠の毒薬 第254話
凌央は眉をひそめ、不満げな顔で言った。「おじい様、それはどういう意味ですか？」乃亜と離婚する？そんなこと、彼が望むはずがない！ましてや、美咲と結婚するなんて、ありえない。そもそも彼と美咲の間には、そんな関係なんてなかった！祖父は彼の顔をじっと見て言った。「まずは、はっきり答えなさい！」以前、彼は乃亜と話し合い、彼女は凌央にもう一度チャンスを与えると言っていた。けれど、今夜の凌央の行動は、あまりにもひどすぎた。彼はもしかすると、乃亜はもう本当に離婚を決意してしまったのかもしれないと思っていた。「乃亜と離婚なんて、一度も考えたことありません！」彼がそんな馬鹿げたこと、するはずがなかった。それに、身体の相性が合うのも乃亜だけだった。もし彼女と離婚すれば、全部自分でどうにかするしかなくなる。そのようなことを自分で処理するというそんな状態が長く続けば、精神的におかしくなってしまうかもしれない。だから、彼は絶対に乃亜とは離婚しない！「だがな、お前と美咲の行動は、もはや義理の姉弟の範疇を超えている。しかも今日、みんなの前で乃亜を責めたことは、あの子の心を深く傷つけた。お前が離婚したくなくても、あの子の方が離婚したがってるかもしれんぞ？それに、彼女は弁護士なんだぞ！」祖父は、彼が離婚する気はないとはっきり言ったことで、少し胸をなでおろした。まだ、色欲に目がくらみ、理性を完全に失っていないようだ。「おじい様、安心してください。乃亜が離婚なんて言えないように、俺がうまくやります！」凌央は自信たっぷりだった。何しろ……乃亜の祖母の治療は、彼の医療チームにかかっているのだから。離婚なんて、彼女の口から言えるはずがない。「そういうことなら、もう一度だけ信じてみよう。だが、今日乃亜が受けた屈辱に対しての償いとして、創世グループの株式1%を彼女に贈与する。これはお前が手配しなさい！今回は、前回のように、邪魔が入ったからといって途中で諦めるようなことは許さん。必ず彼女に渡すのだ。そうじゃないと私の気が済まん！」金のことなど、祖父にとってはどうでもよかった。だが、乃亜に株を与えて創世グループの一員にすれば、きっと凌央との未来を考え直すだろう。そのための株だと思えば、とても価値があると思えた。「
永遠の毒薬 第253話
彼はただ、そんなふうに一生を過ごすつもりだった。まさか最後に乃亜と結婚することになるなんて、思ってもいなかった。祖父は彼をじっと見つめ、深くため息をついた。「乃亜のことは十年以上前から知っている。しかも、昔あの子は私の命を救ってくれたこともある。彼女がどういう人間か、私はよくわかっている。お前と一緒に過ごしたこの三年間、どんなにつらくても、彼女は一度も私の前で不満を口にしたことはない。ましてやお前の悪口なんて、一言も言わなかった！」凌央は眉をひそめた。もし乃亜が祖父に訴え出ていないのなら、二人の間にあった出来事を祖父がどうやって知ったというのだ？まさか、祖父は本当に見通せる力でもあるのか？「乃亜が私に訴えに来たとでも思ってるのか？ 御臨湾には私が手配した人間がいる。お前たちのことは、全部把握してるんだ！以前こっそり乃亜に、離婚を考えたことがあるかと聞いたことがあるが、彼女は明確には答えなかった。だが、私はわかった。彼女はもう離婚を考えているのだ！」祖父は、今夜会場で起きたことを思い出すたび、胸が痛んで仕方なかった。すべては彼が、乃亜を火の中に突き落としたせいだ。そのせいで、彼女にあんな思いをさせてしまった。凌央は祖父の厳しい表情を見上げた。その顔を見て、彼の言葉が嘘ではないことがわかった。彼は、今まで乃亜が離婚したいと口にした理由は、彼女が彼に美咲の世話に行ってほしくなくて、離婚の話はただの脅しだと思っていた。本気になんてしていなかった。だが、今こうして祖父の言葉を聞き、初めて気づいた。乃亜は本気で離婚を望んでいるのだ。彼女はお金がないのではなかったか？祖母の治療費も必要ではなかったのか？もし離婚すれば、何もかも失うことになる。祖母がそのまま亡くなるのを見ているしかないかもしれない。それでも、彼女は恐れていないというのか？「以前は、お前が乃亜に冷たくするのは、無理に結婚させた私に反発しているからだと思っていた。でも今日になってようやくわかった。お前が本当に愛しているのは、美咲だったんだな！」祖父は自嘲するように笑った。「兄嫁と義弟が、皆の前で堂々とイチャついて、自分の妻を責め立てるとはな！」ここまで言うと、祖父の脳裏には、会場で乃亜が気を失う直前に彼に言った言葉が、何度もよみがえって
永遠の毒薬 第252話
凌央は慌てて乃亜を引き留めようと手を伸ばした。身体のバランスを崩し、今にも倒れそうになったその瞬間、乃亜はもう気を失ったふりなどしていられず、ぱっと目を開け、椅子の肘掛けを掴もうと手を伸ばした。だが、掴んだのは椅子ではなく、男の手だった。一瞬ためらった後、彼女はその手の力を借りて、体を起こした。茂美は真っ青になっていたが、乃亜が無事なことを確認すると、ほっと胸を撫でおろし、急いで駆け寄って謝った。「ごめんなさい、さっきはわざとじゃなかったの」乃亜に責められないかと、彼女は内心とても不安で、両手をぎゅっと握りしめ、手の甲の血管が浮き上がっていた。乃亜は手を離し、ゆっくりと振り返って彼女を見つめ、やさしい声で言った。「茂美さんに助けてもらったのは私の方です。ですのでお礼を言うべきなのは私です。ありがとうございます！」蓮見家の中で、彼女は誰に対しても礼儀正しく接していた。茂美は、乃亜が祖父に可愛がられていることを知っているため、恩を着せるようなことは恐れ多く、何度も手を振った。「とんでもないわ」乃亜は彼女の居心地の悪さを察し、それ以上の形式的な言葉は避けた。そして立ち上がり、場の人々に向かって真摯な表情で言った。「今日は私の誕生日にお集まりいただきありがとうございました。しかし、残念ながらこのような事態になり、食事を続けられなくなってしまいました。本当に申し訳ありません！」そう言って、彼女はバッグとスマホを手に取り、紗希の方へ歩き出した。凌央の身体から怒気がにじみ出ているのを感じたが、ここで口論になるのは避けたかった。けれど、今度ばかりは彼を完全に見限った。彼女は考えた。祖母を転院させるか、早く回復してくれれば、桜華市を離れて二人で自分たちの生活を始められる。そう思った。紗希が手を差し伸べた。「乃亜！大丈夫？」乃亜は笑って首を振った。「大丈夫よ。行こう」二人は手をつないでその場を離れた。直人は一度、凌央を見ると、そのまま立ち去った。凌央は目を細め、紗希の後ろ姿を見つめながら腹立たしさを感じていた。あの女、さっきは気絶したふりをしていたのか！元々祖父の体調が良くないことは分かっていたくせに、あんな芝居をして驚かせるとは、ひどすぎる！彼は怒りに満ち、冷たい空気をまとっていた
永遠の毒薬 第251話
あのクソジジイ、本気でやりすぎじゃないか。痛すぎる！この恨みは絶対に晴らしてやる！美咲が起き上がったのを見て、真子は相変わらず落ち着いた様子でエンジンをかけ、車を門の外へと走らせた。「美咲、正直に言いなさい。お腹の子は一体誰の子なの？」美咲の心臓はドキッと跳ね、声が少し鋭くなってしまった。「お義母さん、前にも言ったじゃないですか。信一の子です。どういうことですか？まさか私を疑っているんですか？」真子はルームミラー越しに冷たく一瞥し、「信一の子であればいいけどね！」と吐き捨てた。もし違ったら、彼女は絶対に許さないだろう！美咲の体は一気に冷え、両腕で自分をギュッと抱きしめながら、心の中で固く決意した。絶対に凌央と結婚してやる！凌央さえ夫にすれば、安心を得られる。真子だって手出しできなくなるし、あのジジイも彼女に指一本触れられないだろう！「おじい様が怒ってるから、しばらくは病院にいて。どうせ創世系列の病院だし、一銭もかからないから安心しなさい。おじい様の機嫌が直ったら、私が話を通して、家に戻れるようにしてあげるから！」真子は美咲のことを嫌っていたが、お腹の子は自分の孫だ。いざこざは産んでからでも遅くはない。「お義母さん、凌央が、私に家を一軒プレゼントしてくれるって言ってくれたんです。私はそこに住むことにしたんです。よかったらお義母さんも一緒に住みましょう！」美咲は小さな声で媚を売った。彼女は内心では真子の死を願っていた。しかし、表面上は絶対にそれを悟られてはいけない。凌央と結婚して、強くなったその時に真子と決着をつけるのだ！「凌央からもらった家に住むって言うなら、好きにしなさい。使用人を二人つけてあげるわ。私は今の場所の方が慣れてるし、引っ越す気はないわ」真子は淡々とした表情で、何を考えているのか読み取れなかった。「でも、お義母さん、実はずっと考えてたことがあるんです。やっと言う決心がつきました」美咲は一瞬黙って、真子の反応を待った。真子は聞いた。「なに？」「乃亜が妊娠していると聞いたんです。もし彼女の子どもが私のより先に生まれたら、蓮見家の跡取りって私の子じゃなくなっちゃうのではないですか？」美咲は眉をひそめ、不安げに言った。真子は冷静なまま、「あなたはただ、元気な子を産めばい
永遠の毒薬 第250話
蓮見家の次男の夫人は急いで夫に目配せした。「お父様の言う通りにすればいいのよ！」おじい様はすでに激怒している上、乃亜まで気を失った状態だ。このまま反抗すれば、祖父が倒れるか、乃亜に何かあれば、誰が責任を取れるというのか！蓮見家の次男の夫人は隣の三番目の夫人に乃亜のカバンを指さし、携帯を取り出すよう合図した。しかし携帯を探している途中、丸めたティッシュの塊が引っ張り出され、中から白い錠剤が床に転がった。第三夫人は叱責を恐れ、慌てて謝罪した。「お父様、申し訳ありません！電話をかけたらすぐに片付けます！」そして急いで紗希に電話をかけた。おじい様は床の薬をしばらく見つめ、やがて凌央に尋ねた。「乃亜は病気なのか？」凌央はたじろいだ。「知らない」彼は乃亜のことは本当に何も知らなかった。おじい様の顔がさらに険しくなった。「夫として妻の状況を一切知らないとはな。凌央、離婚の覚悟はできているのか？」以前は彼だって二人に一緒でいてほしかった。この騒ぎがあった今、はっきりわかった。乃亜がこのまま凌央と一緒にいたら、状況は悪化していくだけだ。乃亜みたいに良い子を結婚が原因で壊すわけにはいかなかった。凌央は沈黙した。祖父の指摘は正しかったからだ。かつて乃亜は家で仕事の話をよくしていた。奇妙な依頼人や事件について、楽しそうに語っていたものだ。しかし、彼はいつも面倒くさがり、聞きたくないと遮っていた。次第に乃亜は彼に何も話さなくなり、喜怒哀楽のない淡々とした表情になっていった。乃亜も話さず、彼も聞くことはなく、ベッドの上での交わり以外、話をすることがなくなった。そして、乃亜は完全に静かになってしまった。彼は、家の中が少し寂しくなったと感じたものの、違和感は覚えなかった。どうせ、彼は忙しく、やることが多かった。頭を休ませなくてはならなかった。だが今、祖父が乃亜のことを口にしたことで、凌央はふと気づいた。美咲が妊娠してからというもの、体調を崩すことが多くなり、自分の意識はすっかり彼女の方ばかりに向いていた。乃亜のことなんて、まるで気にかけていなかった。乃亜が離婚を切り出してきたとき、彼女は彼に構ってほしくて、存在感を示そうとしてるだけだと思っていた。けれど、よくよく考えてみると、どうやらそれは違ったようだ。乃
永遠の毒薬 第249話
「お母様なんて呼ぶんじゃない！さっさと出て行きなさい！」真子は罵りながら、目で合図を送った。何としても腹の子を守らねばならない。もし祖父に手を出されて、体を傷つけられて、流産でもしてしまったら大変だ！この女は心底憎いが、彼女にとっては孫の命が最優先だった。息子を失った上に、待望の孫まで失えば、彼女は崩壊してしまう！使用人が鞭を持って現れ、大衆を見た後、おじい様に慎重に手渡した。真子の胸が騒いだ。おじい様は本気で鞭を振るう気だ！美咲が今すぐ去らなければ、鞭で打たれるほかない！そこまで考えた真子は美咲を蹴りつけ、怒鳴った。「出ていけと言ったでしょう、聞こえないの？」美咲は凌央の手にすがりついた。「凌央、私のせいよ。乃亜を罰しないで！」彼女は真子の意図をわかっていた。しかし、彼女は残って凌央と共に罰を受けようと思っていた。そうすれば、凌央は後悔するだろう。そして彼女にさらに優しくして、言いなりになってくれるはずだ。凌央は乃亜を見た。彼女の青白くなっている顔の額には豆粒大の汗が光っていた。なぜかわからなかったが、その時彼の胸が痛んだ。それはまるで……何かが引き剥がされるような感覚で、ひどく傷んだ。こんな時になっても美咲は、あいかわらず偽善的な言葉を口にしていて、それを聞いた周囲の人々は、彼女の恥知らずさに本気であきれ返った。まさに、彼らの常識をぶち壊すほどの衝撃だった！なにより驚きなのは、蓮見家の当主である凌央が、なんとそんな彼女をかばっていたことだ。それが本当に理解できなかった。おじい様は美咲のその発言を聞くなり、手に持っていた鞭を振り上げ、彼女の背中に振り下ろした。「蓮見家にはお前みたいな恥知らずはいらん！さっさと出ていけ！それから、みんなよく聞け！今後は絶対に、こいつを家に入れるんじゃない！どの家の門もだ！真子、お前の義理の娘だからってかばうなら、俺が死んでも葬式に来るな！」この発言は、おじい様としてはかなり厳しい決断だった。その場にいた誰一人、口を挟む者はいなかった。美咲は痛みに叫び声を上げた。この老いぼれ、本気で容赦ない！絶対にいつか、今日受けた仕打ちをそっくり返してやる！真子は怒りに任せて、美咲の背中を思いきり蹴り飛ばした。「出ていけ！」もし彼女が本当に美咲を
永遠の毒薬 第248話
美咲の突然の行動に、乃亜は頭が真っ白になり、一瞬反応できなかった。手を引っ込めることもできず、美咲に手を握られたまま、自分の手で美咲の顔を何度も打たせる羽目になった。祖父は内心怒りを感じつつも、乃亜が美咲に鬱憤を晴らせば気が楽になるだろうと、わがままな期待を抱き、制止しなかった。真子は先ほど美咲のせいで祖父に叱られた恨みがあり、今こそ美咲に懲らしめを受けさせたいと思い、沈黙を守った。他の者たちも、祖父が乃亜を溺愛していること、そして美咲の偽善的な行為に嫌悪感を抱いていたため、この光景をただの茶番として眺めていた。誰も美咲を擁護したり、乃亜を非難したりする者はいなかった。凌央は険しい表情で乃亜の手首を掴み、鋭く言い放った。「乃亜、いい加減にしろ！ひどすぎるだろう！」手首に激痛が走り、乃亜は顔を歪めて小さく叫んだ。「痛い……放して！」「お前が彼女を殴ったとき、彼女の痛みを考えなかったのか？」凌央の視線は冷酷で恐ろしいものだった。心臓を刃で切り裂かれるような痛みに、乃亜は体が揺らぎ、椅子に掴まってようやく倒れずに済んだ。「みんなが見ていたでしょう？彼女が私の手を取って自分の顔を打たせたのに、どうして私が殴ったことになるの？凌央、あなたは目が見えないのかしら？」激昂のため、声はわずかに震えていた。凌央が美咲を愛し、彼女を愛していないから、美咲に何かある度、真っ先に彼女を疑うのだ。彼女は証拠も動画も渡したのに、凌央の考えは変わらなかった。今や20人以上の目撃者がいるというのに、なぜまだ事実を見ずに、彼女を責めるのか！私を死に追いやりたいのか？凌央は殺気立ち、危険な眼差しで言った。「乃亜、なぜいつもこうなんだ？自分の行為を認められないのか！今すぐ美咲に謝れ！」床に倒れ込んだ美咲は腫れ上がった頬を押さえ、泣きながら言った。「凌央、乃亜のせいじゃない。私が自分で打たせたの！早く手を放して！」息が荒く、激しくすすり泣いていた。この光景を見ていた祖父は血圧が上がり、碗を手に取り、床に叩きつけて怒鳴った。「凌央、今すぐ手を離せ！使用人、家法で罰しろ！」こんなことになると知っていたら、今日凌央を呼び戻すべきではなかった！凌央がいなければ、美咲も来なかっただろう。凌央のせいだ！善良な乃亜がこんな屈辱を受け
永遠の毒薬 第247章
一連の言葉で、乃亜は自分の立場をはっきり示した。同時に、凌央に向かって美咲が彼を好きなら、私は彼女と争うつもりはないとも伝えた！おじい様はその言葉を聞いて、すっかり気分がよくなった。乃亜が落ち込むばかりで言い返せないんじゃないかと心配していた。しかし、今になって見てみると、どうやらその心配は無用だったらしい。彼の乃亜はついに成長して、恋に盲目だった頃の自分を乗り越えてくれたようだ！実に嬉しいことだ！それに対し、美咲は思いもよらなかった乃亜の返しに驚いた。以前の乃亜だったら、人前で自分をこんなふうに恥をかかせるようなことは絶対にしなかったはずだ。今日の彼女は、いったいどうしたというのか？最後には、どうすることもできず、助けを求めるように凌央を見つめた。うるんだ瞳で「凌央、私……」と、か細い声を絞り出した。とても弱々しく、頼りなげな姿だった。それは、まるで世界中の人が彼女をいじめているかのようだった。凌央は眉をぴくりと動かし、彼女の手からブレスレットを取り上げると、そのまま乃亜の手に押し付けた。「ただの気持ちだ。受け取らなきゃ、その想いを踏みにじることになるだろう！」乃亜は手に握られたブレスレットを見つめながら、全身に嫌悪感が走った。胸の奥が締めつけられ、目にはじんわり涙が浮かんだ。凌央が気にしているのは、美咲の気持ちだけ。彼女がこのブレスレットで乃亜を侮辱したことなんて、まるで気にもしていなかった！乃亜が傷ついているかどうかなんて、最初から眼中にないのだ。そんな彼女の異変に気づいたおじい様は、乃亜の手からブレスレットをひったくり、そのままゴミ箱に放り込んだ。そして怒鳴った。「お前たち二人とも、今すぐ出て行け！」おじい様がここにいるというのに、凌央が乃亜をこんなふうにいじめるだなんて、もし彼がいなかったら、乃亜がどれだけ苦しい思いをしているのだろうか！考えただけで胸が張り裂けそうだった。美咲は、ブレスレットがゴミ箱に捨てられたのを見て、たちまち涙をあふれさせた。慌てて泣きながら懇願する。「おじいさま、ごめんなさい！全部私が悪いんです！私が出て行きます、だから凌央だけは追い出さないでください！」おじい様は冷たく鼻で笑った。「前にも言っただろう、お前はもうこの本家に来るなと、お前の顔は二度と見た
永遠の毒薬 第246話
美咲は唇をかみしめて言った。「お義母さん、私が愛してるのは信一だけです。子どもの頃からずっと、彼だけを想ってきたんです！私は蓮見家に残って、彼のことを一心に想い続けます。白髪になるまで、ずっと！」そう言いながらも、心の中では毒づいていた。最初から信一があんな使えない奴だって知ってたら、絶対最初から凌央を狙っていたのに！そした乃亜が割り込む余地なんてなかったはずだ！「じゃあ、あんたの言葉を信じておくわ。もしできなかったら、もう容赦しないわよ！」真子は冷たくそう言い切り、美咲に二つの道を与えた。そして美咲は自分の意志で選んだのだから、当然それに従うべきだというわけだ。美咲は深く息を吸い込み、笑顔を作ってうなずいた。「大丈夫です、お義母さん。必ず約束を守ります。どうか、見ていてください！」近くにいた使用人が、美咲をそっと一瞥して心の中で思った。さっきの凌央へのベタベタ具合を見る限り、絶対心の中で思ってるのは凌央の方だろう。彼女が、大人しく未亡人なんてしてられるわけがない。奥様も頭が切れるのに、なんで気づかないのだろうか？しかし真子はそれ以上何も言わず、美咲の腕を放してその場を離れた。真子が遠ざかるのを見計らって、美咲は一気に態度を変え、使用人に向かって罵声を浴びせた。「その汚い手をどけなさいよ！誰が触っていいって言ったの！？」使用人はびっくりして手を引っ込め、ぴしっと姿勢を正した。「すみません、奥様、私が悪うございました」真子が振り返るのを警戒して、美咲はそれ以上怒鳴らず、鼻で笑いながらその場を離れていった。使用人は彼女の後ろ姿を見送って、小声で毒づいた。彼女がどこまでイキってられるか見ものだ！美咲は部屋に入ると、ダイニングには二つの大きな円卓が置かれ、すでに人で埋まっていた。乃亜は蓮見家の祖父に寄り添うように主賓の席に座り、その隣には凌央が座っていた。二つの大きな円卓には、なんと一つの空席もなかった。明らかに、彼女の席だけが用意されていなかった。彼女の心の中には怒りが一気に込み上げてきた。蓮見家の祖父、あのくそ爺、わざとやったな！いずれ必ず、自分の手で始末してやる！そう思いながらも、美咲は満面の笑みを浮かべて乃亜に近づいた。そして、手首のブレスレットを外して差し出しながら言っ
