第10話

　渡辺直熙は田中清音の父の死後すぐに記者会見を開き、記者たちに対して「亡くなった方を尊重し、私と田中清音の間に根拠のない噂を広めないでください」と述べた。

　ついに彼は真実を明らかにした。

　しかし、それは私が最も彼に真実を明かしてほしかった時ではなかった。

　しばらくしても進展がない中、執着心の強い渡辺直熙はついに新しい手段を使った。

　今回は何も持ってこなかった。

　彼は15分早く幼稚園に来て、先生に杏奈を教室から呼び出してもらった。

　「パパと一緒に帰ろう」

　杏奈は口をとがらせて言った。「直熙おじさんなんかパパじゃないもん。前にママのことを怒ってたでしょ。直熙おじさんは悪い人だもん。ママのお墓の前で、もう直熙おじさんを好きにならないでってお願いしたんだから」

　渡辺直熙はしゃがんで、優しく言った。「僕が悪かった。ママのことを誤解していたんだ。ごめんね。ずっと山田おじさんのそばにいたいの？もし山田おじさんが結婚したらどうする？」

　実は私はこの問題をずっと避けてきた。

　ここ数年、山田聡臣が女性と付き合っている様子は見たことがない。

　私が自分勝手すぎたのかもしれない。

　杏奈は少し考えて言った。「聡臣おじさんはママが好きだから、結婚しないよ」

　この子、何てこと言うの！

　この小心者の男の前でそんなことを言ったら怒るに決まってるでしょ？

　しかし、渡辺直熙は怒るどころか、さらに優しく言った。「じゃあ、まずパパの家を見てから決めようか？パパの家には、昔のママのものが残っているよ。部屋の中もずっと変わっていないんだ」

　私が以前住んでいた部屋が変わっていないなんて。

　私のものなんて、もうとっくに捨てられたと思っていた。

　杏奈の目が星のように輝き、元気よくうなずいた。

　私は止めなかった。もしかすると、私も昔のものを見たいのかもしれない。

　杏奈は山田聡臣に電話をかけ、その後、渡辺直熙の車に乗り込んだ。

　可愛らしい杏奈は少し警戒を解き、話題を振り始めた。「ママの箱の中に、直熙おじさんの写真がたくさん入ってるの知ってる？何回も見たよ。写真ほど若くはないけど、前に瑞臣おじさんの車にぶつかったとき、すぐにわかったんだ」

　渡辺直熙は笑って、「杏奈、賢いね」と褒めた。

　しばらくして、もう一度尋ねた。「ママの箱の中には、