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第624話
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植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第625話
とわこは袋を彼の手に無理やり押し付けた。「奏、さっきお腹の中の赤ちゃんが動いたわ。あなたが今話していること、全部彼に聞こえているのよ」彼は呆然と彼女を見つめた。「お腹、触ってもいいか？」彼はかすれた声で尋ねた。「今は動いていないわ。まだ小さいから、そんなに頻繁には動かないの」これは彼女にとって二度目の妊娠だったが、最初の妊娠の時とは全く異なる感覚だった。最初の妊娠では、彼に知られるのを恐れて、妊娠中の全ての反応をひたすら我慢していた。母親になる喜びよりも、不安の方が大きかった。しかし、今回の妊娠では、彼女はその全過程を十分に楽しむことができた。彼の大きな手が彼女の膨らんだお腹に触れ、その手の温もりが彼女の体中に伝わった瞬間、彼女の体は緊張で固まった。お腹の赤ちゃんは、おそらく母親の緊張を感じ取ったのか、小さな足でお腹を蹴った！「また動いたわ！」とわこは思わず声を上げた。「俺も感じた！」彼はその感動に胸を打たれ、一瞬で暗闇が消え去り、光に包まれたかのようだった。「痛いか？」「痛くないわ。今はまだ力が弱いから」「そうか。お腹は空いてる？何か食べに行こう」彼の心の中は熱く燃え上がり、二人の間の隔たりなど気にせず、ただ彼女を大切にしたい気持ちでいっぱいだった。「空いてないけど、あなたがお腹空いてるなら、ホテルに戻りましょう」彼女は照れくさそうに言った。「分かった」彼は彼女を支えながら、ホテルへと向かった。二人が胎動をきっかけに争いを止めることになるとは、彼女は思いもしなかった。これまでも、二人の争いはしばしば、奇妙な形で終わることが多かった。一方その頃、常盤家の本宅では。はるかが弥を部屋に呼び出し、ドアを閉めた。「弥、とわこと仲良くしてるって言うけど、私をバカにしてるの？あなた、叔父さんのことをそんなに怖がってるくせに、本当に彼女と関係を持つ度胸があると思ってるの？彼女のお腹が今どれだけ大きいか分かってるの？！」はるかは冷たく皮肉を込めて言った。「彼女と浮気するなんて、何が目的なの？スリルが欲しいの？」弥は冷ややかな目で彼女を見下ろしながら言った。「はるか、今の君の姿は、本当にみっともない」「はっ、奈々のこと知ってる？」はるかは彼を睨みつけ、追い詰めるように言った。「クラブで抱いていた女
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第626話
この残酷な女が、なんと彼女の両目をえぐり取ったのだ！彼女の世界は、一瞬で真っ暗になった。彼女は、二度と外で働くことができず、人生は完全に壊れてしまった。彼女はすっかり心が折れ、ただ死にたいと思った。しかし、今や何も見えなくなった彼女にとって、死ぬことすら贅沢な夢のように思えた。その夜、この出来事が奏の耳に届いた。悟が彼に電話をかけ、事の大筋を説明した。この件はとわこが関与している可能性があるため、奏に伝える必要があったのだ。「はるかの状態は非常に不安定だ。眠っている時はいいが、目を覚ますと叫び始め、『とわこが私の目をえぐり取った』と言い続けた......」奏は断固として言った。「彼女には同情するが、とわこがそんなことをするはずがない」「そうだね。俺もとわこさんがそんな残酷なことをするとは思えない。ただ、はるかのこの状態を見ていると胸が痛む。彼女のお腹には弥の子供がいる。今のところ胎児には影響は出ていないが、彼女の精神状態が回復しなければ、いずれ影響が出る可能性がある」悟は深いため息をついた。「今すぐ向かう」奏は険しい表情で眉を寄せた。病院へ向かう道中、彼はスマホを取り出し、とわこの番号を見つけて電話をかけようとしたが、少し迷った後、結局発信ボタンを押さなかった。この件は絶対に彼女がやったことではない。だから、このことで彼女を巻き込む必要はない。では、誰がこんなことをしたのだろうか？現在、はるかは弥の子供を身ごもっており、彼女の生活は基本的に弥を中心に回っている。普通なら、誰かを怒らせるようなことはないはずだ。それとも、弥に恨みを持つ誰かの仕業なのか？車が病院に到着し、奏は入院棟へ向かった。まだはるかの病室に到着する前に、彼女の悲痛な叫び声が聞こえてきた。「とわこを殺してやる！あいつを殺してやる！あいつが私をこんな姿にしたのよ！あいつが！私は死んでも許さない！」「うわあああ......目が見えない......復讐もできない！お願いだから死なせて！死なせてよ！」「お父さん......お父さんは？連絡したの？なんでまだ来ないの？私のことを見捨てたの？お父さんまで私を嫌ったの？！」......病室の外に立つ奏は、はるかの凄まじい声を聞きながら複雑な気持ちに陥った。彼は病室の扉を開け、中に
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第627話
はるかは首を振り、言った。「見ていない......気づいた時にはもう目がえぐられてたの！痛くて死にたかったわ！その時、私ははっきりと聞いたの。とわこが『これはあなたの報いよ』って言う声を......私は絶対に聞き間違えてない......奏、私は嘘なんかついてない！もう何も持っていない私が、嘘をつく理由なんてない！」「彼女の声だって？」奏は驚き、「本当に聞き間違いじゃないのか？」「ありえない！絶対に聞き間違ってなんかない！私は彼女が憎くて仕方ないから、その声を忘れるわけがないの！」はるかは奏の手をぎゅっと握りしめ、まるで希望を掴むようにすがりついた。「奏！私は絶対に嘘なんてついてないわ！もし私が嘘をついているのなら、調べればすぐに分かるでしょう！お願いよ......私たちに一度でも愛があったのなら、少しでも哀れんで......」奏ははるかの震える唇と血の気のない顔を見つめながら、重苦しい思いに包まれた。直感では、はるかが嘘をついていないと感じた。しかし、頭には別の声が響いていた。とわこがそんなことをするはずがない。「はるか、真実は必ず突き止める」奏は約束した。「それまでは、傷を治すことに専念してくれ」しかしはるかは激しく首を振った。「いや......私はこんな状態では生きていけない......父が来たら、一緒にアメリカに帰るわ。そして友人に頼んで安楽死させてもらう。私はこんな自分を受け入れられない......ははは......」はるかは笑いながら、次第に泣き声に変わっていった。「何を突き止めたところで、私にはもう関係ない。だって、私は確かにとわこの声を聞いたのよ！犯人は彼女以外にありえないわ！結果がどうあれ、私は地獄で彼女を待っているわ！」入院棟を出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。空からは細かな雨がしとしとと降っていた。ボディーガードが傘を差しながら奏のそばを歩いていた。車に乗り込むと、ボディーガードが尋ねた。「社長、どちらへ向かいますか？」奏は引き締まった顎をさらに固くし、冷ややかな声で答えた。「館山エリア」はるかは今、死ぬことしか考えておらず、お腹の子供すら顧みていない。彼はとわこに会い、この件が本当に彼女の仕業なのか確認する必要があった。もし違うならそれでいい。もし彼女がやったのだとし
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第628話
とわこの体は思わず後ろに下がった。目に宿る光が一瞬で消え失せた。そんなことが起きるなんて信じられなかったし、こんな濡れ衣を着せられるなんてなおさら信じられなかった！ただ昨日、はるかと口論になっただけで、彼女が犯人だと決めつけるなんて？滑稽にもほどがある！「とわこ！」奏は彼女が後ずさるのを見て、心臓がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。「俺の質問に答えてくれ！」「奏、私はあなたが嫌い！また嫌いになったわ！」とわこは彼よりも大きな声で叫び返した。「あなたに少しでも感情を抱き始めるたびに、あなたはどれほど酷い人間かを見せつけてくれる！」奏は彼女が感情を爆発させる姿に、呆然と立ち尽くした。外では雨が彼の背中を容赦なく叩きつけ、冷たさが体に染み渡った。しかし、彼の彼女を見つめる視線は熱かった。冷たさと熱さの間で理性の束縛を振り切り、彼は大股で彼女に向かって歩み寄った。「君がやったんじゃないんだろう？」彼は彼女の目の前まで来ると、やせ細った肩をぎゅっと掴み、かすれた声で言った。「君はそんな人間じゃない、とわこ。俺は知ってる。君がそんなことをするわけがない。だから君の口から聞きたいんだ。君じゃないと！」「私じゃないわよ！」彼女の目は赤く充血し、声には抑えきれない悔しさが滲んでいた。「そんな質問を私にすること自体、間違ってる！」人の目をえぐるなんてこと、口に出すだけでもぞっとする話だ。そんなことをするなんて、彼女には絶対にありえなかった。「でも、彼女は君の声を聞いたって言ってるんだ」奏は困惑した表情で続けた。「彼女が目をえぐられている時、君がそばで話しかけていたって」このとんでもない嘘に、とわこの心には冷笑が浮かんだ。しかし、彼の口調からは、彼女に対する疑念が感じ取れた。彼女は力強く彼の手を振りほどいた。「彼女が被害者だからって、彼女の言うことは全部信じるの？私がやってないことは、彼女がどれだけ言い張っても、私のせいにはならない！」「とわこ、俺は君がやったとは言ってない......」奏は喉を鳴らしながら、彼女の感情を落ち着けようとした。「直接そう言わなくても、あなたの目、声、その全てが私を疑ってる！」とわこは胸の痛みを抑えながら言った。「あなたは彼女の味方をして、調べに来たんでしょう......
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第629話
彼は彼女が雨の中を歩み出る姿を呆然と見つめていた。心が追いつく間もなく、体が先に動き、彼女の方へと向かっていった。彼は彼女を横抱きにすると、大股で室内へと入っていった。彼女が雨に濡れたのはほんの数秒だったが、その顔には雨......いや、涙が溢れていた。「とわこ、俺は君を疑ってなんかいない。君がやってないって言うなら、やってないんだ」彼は彼女をソファにそっと下ろし、横に膝をついて説明を続けた。「はるかが君のせいだって言い張ってる。もし彼女が警察に通報すれば、警察が君を容疑者として尋問することになるかもしれない。それが嫌なんだ。だから、君がその場にいなかった証拠を先に出しておけば、警察は君に来ない」とわこは彼のずぶ濡れで惨めな姿を見つめながら、怒る気力さえ失っていた。「今日、真に会いに行ったわ」彼女の声には、何の感情も込められていなかった。「彼の家で一日中過ごしたの」「彼の家で一日中？」奏の目から柔らかさが消え、明らかに緊張した口調に変わった。「そうよ。何をしてたか聞きたいの？」彼女の澄んだ瞳は彼の表情の変化を見つめ、胸が締め付けられるような痛みを感じていた。「それは私のプライベートだから、あなたには言えない」奏は暗闇の中で突然殴られたような衝撃を受け、心の中で苦しい呻き声を上げた。彼女と真には、彼にも言えない何かがあるということか......彼の体は冷え切って、震えが止まらなかった。彼は立ち上がると、彼女を見つめる目には失望と落胆が浮かんでいた。拳を固く握りしめ、彼は彼女の視界から姿を消した。今回は、彼は振り返ることなく立ち去った。深夜1時、マイクの車が前庭に入ってきた。マイクは代行に支払いを済ませ、ふらふらと車から降りた。別荘の玄関に向かう途中、開け放たれたドアと、リビングの暖かな明かりに気づいた。ソファに横たわるとわこの姿は、生気のない死体のように見えた。「とわこ！」マイクの酔いが一瞬で醒めた。彼は素早くソファに駆け寄り、彼女の頬に触れると、その体温に驚いて手を引っ込めた。「ちくしょう！なんでこんなに熱があるんだ」彼はすっかり動揺し、どうすればいいか分からなかった。彼女は妊婦だから、適当な薬を飲ませることはできなかった。薬が置いてある部屋から解熱シートを見つけ出し、彼女の額に貼る
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第630話
女性が男性の家に一日中滞在し、その女性が「これは私のプライベートだから、あなたにも言えない」と言った。彼らの関係が単純なものだと言えるだろうか？奏から見れば、彼らの関係は単純どころか、むしろ想像を掻き立てるほどだ。「分かった」自分の声が聞こえたが、そこには一切の感情の起伏がなかった。無関心なのか？いや、違う。ただ無力なだけだ。とわこが他の男性の家で一日中過ごすと言い、その理由を彼に話そうとしない。彼に一体何ができる？無理に彼女の口を割らせることでもするのか？いや、仮にそうしても、彼女は話さないだろう。病院で、警察は事件当時のとわこのアリバイを証拠としてはるかに提示した。しかし、はるかはそれを信じようとしなかった。「今の私は目が見えないから、何も確認できない。あなたたちが何を言おうと信じられない......私は信じません！」はるかは激しく感情をぶつけた。「小林さん、証拠はご親族に確認してもらえますよ」警察官は言いながら弥の方を向いた。「あなたは彼女の親族ですか？」弥はすぐさま答えた。「僕は警察の調査結果を信じます」はるかは声を張り上げて叫んだ。「彼は私の親族じゃない！警官さん、違います！」はるかはすべてを見透かした。自分の目を潰したのは、とわこ以外に弥も関与しているに違いない。もし弥が手を貸さなければ、とわこがこれほど簡単に事を運べるはずがない。だが、彼女は弥の名前を口にすることができなかった。自分の命を絶つ覚悟はできていても、もし弥のような卑怯者が父に危害を加えたらどうしようもない。「警官さん、私ははるかの父です。証拠を確認させてください」疲れ切った表情で健介が警察官の前に出た。「分かりました」警察官は答えた。「証拠の完全な資料は警察署にありますので、一緒にお越しいただけますか？」「分かりました」健介は娘の言葉を信じていたが、警察がとわこの無実を主張する以上、自分の目で確認する必要があった。館山エリアの別荘で、とわこは午前中あちこちを奔走した後、家に戻った。昨晩の熱は下がったものの、体は非常に弱り、何もやる気が起きなかった。昼頃、帰宅すると彼女は直接部屋に戻り、ベッドに横になった。マイクが彼女の部屋のドアを開け、目を開けている彼女を見て言った。「お粥を作ったよ。少し食べて。真が君
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第631話
「昨晩あんなに雨が降っていたのに、どうしてドアを開けっ放しにしていたの？」マイクは事情をほとんど察していたが、言えなかった。彼女が話したくないのなら、それ以上は聞かないつもりだった。「はるかが言っていたわ。彼女の目を抉られたとき、私の声を聞いたって」とわこは冷ややかな表情で、さらに冷え切った声で続けた。「なんて下手な嘘。でも、それを信じる人がいるなんて」マイクは言った。「幸い、真さんが君の無実を証明してくれている。でも、昨日真さんの家に行ったのはどうして？」「ちょっと仕事の用事があったの」彼女は軽く言った。「でも、こんな風に説明しても、誰も信じてくれないでしょうけど」「信じるさ。君と真さんは男女の関係でもあるまいし。もしそうなら、とっくに一緒になってるだろう」マイクは冗談めかして言った。「でも正直言って、個人的には真さんみたいなタイプの男性は好きだな。ただ、ああいう人って、悪い女に好かれることが多いんだよな」とわこは反論した。「真さんは悪い女と一緒になんてならない！」「真さんがそんな女性と一緒になるとは言ってない。悪い女が真さんに惹かれるってだけさ」「そんなこと言わないで！良い女性だって真さんが好きになる！」「分かった、分かった。俺が間違ってたよ。真さんなら、きっと素敵な女性と出会うだろうね」マイクが話を切り替えると、とわこもそれ以上追及しなかった。彼女がお粥を食べ終えると、マイクは碗を受け取った。「でもさ、もし奏が君が昨日真さんの家にいたことを知ったら、俺みたいに簡単には信じてくれないだろうね」マイクはそう言い、「君が証拠を提出したら、彼もこの件を知ることになるだろうな」と続けた。「彼は昨晩すでに知っていたわ」とわこは目を伏せて答えた。「彼は、はるかを傷つけたのが私だと疑い、さらに真さんとの関係も疑っている」「ちゃんと説明すればいいじゃないか。君は何も悪いことをしていないんだから、喧嘩する理由なんてないだろう？」マイクはため息をつきながら言った。「証拠はもう提出した。でも、私が昨日真さんの家で何をしていたかを詳しく話さない限り、彼の疑念は消えないわ。でもそれは言えない。それは患者のプライバシーに関わることだから。しかも、仮に話したとしても、彼は怒るでしょう。彼からはもう仕事を引き受けるなって警告されている
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第632話
「俺が彼女を苦しめているって？」奏は低く呟き、突如声を上げた。「真、お前、自分がどれだけ恥知らずか分かってるのか？」「僕が恥知らずで、すべての過ちは僕にある。だが、君の考えが狭い」真の声は波立つことなく、穏やかで堂々としていた。「昨日とわこが僕のところに来たのは、教授が生前に残した医学ノートを探すためと、自分で作った治療プランを見せて僕の意見を求めるためだ。僕は彼女ほど腕前は高くないが、理論知識には自信がある」真がそう説明すると、電話の向こうで奏の呼吸が重くなった。「とわこは手術を引き受けた」真は続けた。「もし君が彼女がただ金のためにやっていると思うなら、それは君が浅はかすぎるということだ。彼女を愛しているなら、まず彼女を尊重することを学べ！」真がこんなに強い口調で人と話すことは滅多にない。彼の育ちが彼を抑制的にさせてきたが、奏相手ではその沈黙を守り続けることができなかった。奏は短い沈黙の後に反論した。「お前の言う尊重とは、底なしの甘やかしだ！俺がもし彼女を愛していなければ、放置することくらい簡単だ！」「砂を握れば握るほど、こぼれ落ちる量は増える。とわこを縛り付けることはできない。彼女は君だけのものじゃない」その言葉に奏は激怒した。「彼女は俺のものだ！」「この話題で争うつもりはない」真は声を荒げることを避け、話題を変えた。「結菜が誰と付き合うかを制限する権利は君にはない。彼女はもう君の思い通りになる子供ではない。彼女を尊重しろ！彼女の携帯を返してやれ！」奏は電話を切った。真はスマートフォンを置き、両手でハンドルを握りしめながら気持ちを落ち着かせた。奏は偏執的で、強い支配欲を持っている。とわこに対しても、結菜に対しても同じだった。しかし、不思議なことに、とわこも結菜も、この男を深く愛していた。もっとも、結菜の愛はとわこのそれとは異なる。それは人間が持つもっとも純粋的な愛だった。しばらくすると、真のスマホが鳴った。彼が画面を見ると、結菜からの電話だった。真はすぐに電話に出た。「真、さっきお兄さんが私に怒ってたの。あなたからの電話を出させてくれなかった」結菜の声はとても悔しそうだった。「でも、さっきやっと携帯を返してくれたの」「結菜、彼が怒っていたのは君にじゃなく、僕にだよ」真は彼女が誤解しないように
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植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第701話
彼女の感情は、前よりずっと安定しているように見えた。心の中では依然として瞳のことを気にかけていたが、同時に、生まれたばかりの新しい命が彼女の心に少しの変化をもたらしていた。本来なら赤ちゃんは彼女のお腹の中で無事に育っていたのに、今回の出来事が原因で早くに生まれざるを得なくなった。看護師が赤ちゃんを抱えて彼女に見せたとき、彼女は泣きたくても涙が固まったように流れなかった。小さな赤ちゃんを見つめながら、彼女は激しい自己嫌悪に陥った。彼女が蓮やレラを産んだときも早産だった。双子の場合、ほとんどが予定より早く生まれるので、二人の赤ちゃんはほかの赤ちゃんより小さかった。しかし、蒼は、蓮やレラよりもさらに小さかった。赤ちゃんが無事に成長すると知りつつも、彼女の心は痛みでいっぱいだった。「とわこ、痛むか？」奏は彼女が少しぼんやりしているのを見て、沈黙を破った。彼女はかすかに首を振った。手術前に麻酔が投与されていたため、この時点ではまだ痛みを感じていなかった。「赤ちゃんを見た？」彼女はまつげを軽く震わせながら、小さな声で尋ねた。「見たよ。赤ちゃんは俺によく似てる」彼は彼女の手をそっと握りしめ、しわがれた声で言った。「とわこ、本当にお疲れ様」「赤ちゃん、まだあんなに小さいのに......」彼女は声を詰まらせながら言った。「私のせいよ。私、いい母親じゃない......」「君のせいじゃない。それに早産だからといって、赤ちゃんが健康じゃないとは限らない」奏は優しく彼女を宥めた。「あまり考えすぎるな。今はしっかり体を休めるんだ。瞳の件は、俺が必ず真相を突き止めて解決する」手術を終えたとわこは体がかなり弱く、心の中でどれほど悲しみや怒りが渦巻いていても、感情を爆発させる力は残っていなかった。一方、とわこが早産したという知らせは、直美の耳にも届いた。直美は非常に喜んでいた。早産だからといって赤ちゃんが必ず死ぬわけではないが、早産児には予期せぬリスクが伴う可能性があった。昨晩、直美は眠れぬ夜を過ごし、次の対策を考えていた。彼女は奈々にカードを手渡した。「今すぐここを離れなさい。このカードの中のお金で整形手術ができるわ」直美は言った。「もしあなたが奏に捕まったとしても、助けないから」奈々は感謝しながらカードを受け取っ
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第700話
「医者を呼んでくれ！」奏は鋭い声で叫び、とわこを抱えたまま病室に駆け込んだ。彼は彼女を慎重にベッドに横たえた。彼女のズボンには広い水の染みができており、彼は自分の手のひらを見つめた......幸い血ではなかった。「私、羊水が破れたんじゃないかしら......」彼女は泣きながら言った。「奏、ごめんなさい......苦しくて、自分を抑えられないの......」羊水が破れたということは、赤ちゃんをすぐに取り出さなければならないということだ。彼女の赤ちゃんはまだ妊娠8か月で、早産児となる。早産児には一般的にさまざまな合併症が伴う可能性がある。自分が妊娠後期にいることを知っていながら、彼女はこんなに悲しむべきではなかった。本来であれば感情をコントロールし、赤ちゃんの健康を守るべきだった。しかし、それがどうしてもできなかった。「とわこ、泣かないで。羊水が破れるのは大したことじゃない。赤ちゃんを無事に産めばいいんだ」奏はティッシュで彼女の涙を拭き取りながら優しく言った。「瞳はもう見つかって、命に別状はない。赤ちゃんを産んだら、すぐに会いに行こう」彼女は嗚咽を漏らしながら、微かに頷いた。やがて医師が駆けつけ、彼女の状態を確認した後、すぐに手術室へと運び込んだ。奏は閉ざされた手術室のドアを見つめながら、胸が締めつけられるようだった。「社長、心配しないでください。とわこも赤ちゃんもきっと無事です」子遠が慰めるように言った。奏は喉を鳴らし、厳しい声で言った。「そうでなければ、今回の事件の黒幕に必ず報いを受けさせる！」子遠は答えた。「一郎さんが直美を探しに行きましたが、彼女は今回の件を否認しています」「証拠がなければ、彼女が認めるわけがないだろう！」奏は冷たく言い放った。「瞳の体内には、きっと犯人の痕跡が残ってる。それを手がかりに追い詰めれば、証拠は必ず見つかる！」彼らが話し合う間、マイクは大きなあくびをした。一晩中寝ていなかったせいで、彼の目は重たそうだった。瞳が見つかり、とわこが出産を迎えた今、最悪の状況はすでに過ぎた。現代医学なら、とわこと赤ちゃんの安全を守れると信じていた。「俺は少し寝る」マイクは彼らにそう告げた。「一眠りしたら、俺が二人の子どもを連れて来るよ」「僕が送っていく。今の君の状態じゃ
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第699話
マイクは彼女が目を覚ましたら、この質問をするだろうと予想していた。彼女が昏睡でもしない限り、ベッドで安らかに休むなんてあり得なかったからだ。「まだ何の情報も入ってきていない。でも心配しないで、警察がずっと探してる。朝になればきっと見つかる」マイクは彼女に保証した。彼女は何の進展もないことを聞いて崩れ落ち、魂が抜けたような表情を浮かべた。「とわこ、とにかくベッドに横になっていろ。早産になったらどうするんだ？」マイクは彼女を抱き上げてベッドに戻しながら言った。「赤ちゃんはまだ8か月だ。今生まれたら生きられるとしても、保育器が必要になる。君も医者なんだから、この時期に生まれたら病気になりやすいことくらいわかるだろう。赤ちゃんに苦しい思いをさせたいのか？」マイクの言葉に、彼女の体は強張った。瞳を探しに行きたい。でもお腹の中の赤ちゃんを放っておくこともできない。感情を抑えようとしたが、どうしても抑えることができなかった。彼女の涙は止めどなく流れ、指先はシーツをきつく握りしめた。マイクはベッドのそばに立ち、彼女の苦しむ様子を見て胸が張り裂けそうだった。彼女を慰めたかったが、瞳が見つかっていない状況では、どんな慰めの言葉も無力だった。マイクはただ彼女のそばに座り、黙って見守ることしかできなかった。その夜は、果てしなく長く感じられた。夜明け近く、彼女はようやくうとうとと眠りに落ちた。病室のドアが突然開き、子遠が朝食を持って入ってきた。「一晩中起きてたのか？」子遠はマイクの顔色を一瞥し、「朝食を食べて休んでこいよ。ここは僕が見てる。あと1時間で、社長が到着する」と言った。マイクはコーヒーを手に取り、眉をひそめながら尋ねた。「瞳はまだ見つからないのか？」「まだだ。もうすぐ行方不明から24時間になる。おそらく、望みは薄い」子遠は低い声で答えた。「くそっ！これをとわこが知ったら、絶対に耐えられないだろう！」マイクは食欲を失い、カップを置いて言った。「奏が来たら、俺は帰る。でも、それまで俺はここにいる。彼女が突然目を覚まして感情が爆発したら、お前だけじゃ手に負えない」子遠は頷いた。「確かに」1時間後、奏が急ぎ足で病院に到着した。病室に入ると、彼女は何かを感じたかのように目を開けた。奏は彼女の泣き腫らした目
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第698話
「当たってるよ。証拠がなければ、彼女は絶対に認めない」マイクが冷笑しながら言った。「だって、認めたところで何の得にもならないしね」子遠は時計を見ながら言った。「とりあえず、少し休んだらどうだ？」「休めると思うか？」マイクは病室の方に目をやり、「彼女が目を覚ました時、瞳がまだ見つかっていなければ、きっと彼女は崩れる......医者も言ってたが、彼女の今の状態では感情を激しく揺さぶられるのは良くない。そうでなくても、もう出血したんだ」「出血？」子遠は一瞬驚いた。「そうだ、医者によれば早産の兆候だと言われた」マイクは両手を腰に当て、「奏はいつ戻って来るんだ？」「明日の朝7時には着く」子遠は答えた。「とわこが朝まで眠れるといいんだけど」「朝まで眠れたところでどうなる？肝心なのは、瞳の行方がわからないことだ。もし彼女をさらった連中が何か酷いことをしたら、その結果は想像したくもない。はるかのことを思い出してみろ、そして奈々のことも.....全部直美の仕業だ」マイクは歯を食いしばりながら言った。「瞳がそんな酷い目に遭うなんて、耐えられない！」子遠の目には寒気が漂っていた。「裕之を探しに行く」デパートの監視室。裕之は一晩中監視カメラを見ていた。出口という出口を何度も確認したが、瞳が出ていく姿は全く映っていなかった。さらに、デパートは隅々まで徹底的に捜索されたが、瞳の姿はどこにもなかった。子遠が裕之に会った時、裕之の目は血走り、隠しきれない悲しみに満ちていた。「瞳は妊娠してたんだよ......彼女から聞く前にこんなことになるなんて......」裕之は話し始めると同時に涙を流し始めた。「普段は声が大きいけど、実はすごく怖がりなんだ。今どれだけ怖がってるか......僕が代わりに苦しみを受けたい！あのクソ野郎ども、僕に捕まったらただじゃ済まない！」「瞳はまだA市にいるはずだ。僕が駅や空港に問い合わせたけど、瞳の情報はなかった」「彼女が今どこにいるかは重要じゃない。重要なのは、あの連中が彼女に手を出してないかどうかだ！」裕之は背を向け、涙を拭いながら言った。「僕のせいだ......仕事ばかりで、彼女と過ごす時間が少なかった。もっと早くボディガードを雇っておくべきだった」「裕之、そんなに自分を責めるな。一郎がもう直美に警告してる..
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第697話
「もう寝たけど、蓮は寝てないみたいだ」子遠は言った。「彼が休めるように話しかけなかった」「そりゃそうだ。早熟な子だから、いろいろ考えて眠れないだろう」マイクは急診室の外で焦りながら歩き回っていた。「とわこが影響を受けて、今夜にも出産するかもしれない」「早産ってことか？」子遠は眉をひそめ、「赤ちゃんは大丈夫なのか？」「赤ちゃんがどうなろうと俺には関係ない。俺が心配なのはとわこだ……彼女の顔色がどれほど悪かったか、お前には分からない。そんな状態なのに、まだ瞳のことを気にかけているんだ……」マイクは廊下を行ったり来たりしながら言った。「一郎に電話をして、直美との話がどうなったか確認してくれ」もし瞳が救出されなかったら、たとえとわこが赤ちゃんを無事に産んだとしても、心の傷は癒えないだろう。「多分、望みは薄いな」子遠は直美のことをよく知っていた。「もし本当に直美が関わっているのなら、証拠を突きつけない限り、彼女は絶対に認めない。理屈や友情に訴えるなんて無駄だ」「とわこはこれが直美の仕業だと言い切っているが、どう思う？」マイクが尋ねた。「とわこの気持ちは分かるが、軽々しく判断できない」子遠は慎重に答えた「ところで、君は赤ちゃんの準備品を持ってきたのか？」「いや、まだだ」「じゃあ、僕が今から持って行こうか？家にはボディーガードがいるし、大丈夫だろう」「それで頼む。準備品はとわこの部屋にある。探してみてくれ」「分かった」高級マンションにて。一郎は険しい表情で直美を見つめていた。「裕之は僕の後輩で、普段から僕を尊敬してる。彼を弟のように思ってるし、瞳は彼の妻だから、彼女を妹だと思ってる」「そんなこと私に言ってどうするの？あなたたちの関係には興味がないわ」直美はワインを2杯持ってきて、そのうちの1杯を差し出した。「まさか瞳の件が私と関係あると思ってるんじゃないでしょうね？」「直美、この件は君と無関係であるべきだ」一郎は冷たい目で彼女を見据え、差し出されたワインを受け取らなかった。「もし関係があるなら、奏だけでなく、僕も君を許さない。人としての一線を越えたら、それはもう人間じゃない」「人間じゃない」との言葉に、直美の顔から穏やかさが消えた。「なぜ私を疑うの？私が悪事をしたら、すべてのことも全部私の仕業だと思うの？」直
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第696話
彼女に返ってきたのは、果てしない沈黙だった。瞳を誘拐した者たちは、とわこに何かを要求するつもりはないようだ。そうでなければ、一言も発しないわけがない。とわこは動画に映る興奮して暴れる男たちを見た。それは瞳に襲いかかる姿で、彼女の頭皮は痺れるほど緊張し、血液が沸騰し、体が止められないほど震えた。死に直面するような絶望が彼女を覆い尽くした。まるで誰かが刃物で彼女の体を何度も刺しているようだった。彼女の悲鳴を聞いたマイクは急いで彼女の部屋に駆け込んだ。浴室のドアを支えるように前かがみになっている彼女を一目で見つけた。「とわこ！どうしたんだ？！」マイクは彼女を支え、彼女の顔色が青ざめているのを見て、胸騒ぎを覚えた。「まさか産まれるのか？今すぐ病院に連れて行くぞ！」彼は彼女を抱き上げようとしたが、彼女の体が緊張で硬直し、彼女はかすれた声で言った。「救急車を呼んで......」「とわこ、驚かさないで！ここで待ってろ。俺がすぐに救急車を呼ぶ！」マイクはそう言うと、すぐさま携帯を取りに走った。しばらくして、救急車が到着した。とわこは救急車で搬送され、マイクも同乗した。二人の子供は家で待機することになった。マイクは子遠に電話をして、子供たちの世話を頼んだ。実際のところ、二人の子供は特に世話が必要なわけではない。彼らは非常に大人しく、毎晩9時には自分たちでベッドに入る。しかし、母親に突然の出来事が起きた以上、きっと不安に感じるに違いない。マイクは彼らを病院に連れて行くわけにはいかなかった。そうすればさらに混乱するだけだった。「お兄ちゃん、弟ってもうすぐ産まれるのかな？」とレラはつぶやいた。蓮は冷静な表情で外の夜空を見つめ、低い声で言った。「瞳おばさんが危ない目に遭った」彼の頭の中には、ママの苦しそうな悲鳴がまだ響いていた。レラはママが出産すると思っていたが、蓮は知っていた。ママがあんなにも苦しんでいたのは、瞳おばさんのためだった。「瞳おばさんに何が起きたの？お兄ちゃん、瞳おばさんに何も起きてほしくない」レラは口を尖らせ、悲しそうにしていた。「瞳おばさんは悪者に捕まった。でも警察がきっと助け出してくれる」蓮はレラの手を引き、階段を上がって部屋へと向かった。「これから外に出るときは必ずボディーガードを連れて
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第695話
直美は残酷な人であり、彼女の手にかかれば無事では済まない。「......子遠に一郎を探しに行かせて！一郎に直美を追及させて！」マイクはとわこを直美の元へ行かせるつもりは毛頭なかった。「直美は君が問題を起こすのを夢見てるんだ。今行けば自分から面倒事に首を突っ込むだけだぞ」マイクの声が屋敷中に響き渡った。蓮とレラが険しい表情で近づいてきた。「ママ、外に出ないで」蓮が低く言った。「ママ、マイクおじさんとお兄ちゃんの言うことを聞いて、家でおとなしくしていてよ！」レラは彼女の腕をつかみ、甘えた声で懇願した。二人の子供の存在が、とわこの理性を少しずつ取り戻させた。「わかった、母さんは出ない」彼女は妥協し、ソファから立ち上がった「シャワー浴びてくる」心は焦りで燃え盛るような感覚に包まれていた。何か行動を起こしたかったが、体は重く感じられた。さっき外に出ようとしたとき、お腹の子が何かを感じたように、ずっと彼女を蹴っていた。寝室に戻り、ドアを閉めると、彼女は背をドアにもたれかけ、深く息をついた。本当に何もできないのだろうか。もし自分が同じ目に遭ったら、瞳はきっと何とかして助けようとしてくれるはずだ。こんなふうに家にいるだけなんて......そのとき、携帯の着信音が彼女の思考を現実に引き戻した。電話に出ると、奏の力強い声が響いてきた。「とわこ、焦るな。俺がもう人を派遣した。瞳を見つけるためなら、この街全体をひっくり返してでも探す！」彼の言葉で、彼女は少しだけ息をつけた。「私、本当は昼にあなたにメッセージを送るつもりだったの。でも、それを間違えて瞳に送ってしまった。彼女はそのメッセージを見て来ることを決めたのよ......」「とわこ、これは誘拐事件だ。彼女を誘拐した奴らは、今日動かなくても、明日や明後日には行動していた。君には何の責任もない！」奏は彼女の考えを正そうとした。「どうして私に関係ないなんて言えるの？」とわこはかすれた声で反論した。「直美以外に誰がいるって言うの？瞳が私の親友じゃなかったら、絶対に誘拐されなかった！」「一郎がもう直美のところに向かっている......」「それが役に立つと思うの？」とわこの目は冷たく、声もさらに冷え切っていた。「私が一郎と直美の関係を知らないとでも思ってるの
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第694話
瞳が行方不明になった！彼女は午前11時に家を出たきり、姿を消したのだ。裕之は交通管制センターで、瞳が家を出た後の監視映像を確認していた。映像には、彼女が車で市内のショッピングモールに向かい、地上駐車場に車を停めた様子が映っていた。しかし、それ以降車は動かされていない。つまり、瞳はモール内で事件に巻き込まれた可能性が高い。ショッピングモールには多くの監視カメラがある一方、死角も数え切れないほど存在する。裕之は交通管制センターから急いでショッピングモールの監視室に向かった。そのとき、とわこから電話がかかってきた。彼は深呼吸し、電話に出た。「瞳の車はモールの外に停まっている。彼女はモールの中で行方不明になったんだ」「どうしてそんなことに」とわこは息を呑んだ。瞳が誰かに誘拐された可能性を思ったが、口に出すのをためらった。すると裕之が喉を詰まらせるように言った。「きっと誘拐された！以前、君がボディーガードを雇う話をしたとき、僕は彼女にもボディーガードをつけるべきだって話し合ったんだ。でも、瞳は『私は仕事をしていないし、出かけない日も多いから必要ない』って言った！あのとき、無理にでも説得すべきだった！」瞳は松山グループの相続人で、父親の遺産は将来的に彼女のものになる。その立場を考えれば、ボディーガードをつけることは当然だった。しかし、人は危険が自分に降りかかるまでは「自分だけは例外だ」と思いがちだ。「裕之、そんなに自分を責めないで。瞳はモールで事件に巻き込まれたんだから、監視カメラを確認するしかないわ！」とわこは話しながらバッグを手に取り、家を出る準備をしていた。「私もそっちに行って、一緒に映像を確認するわ」裕之は胸が張り裂けそうな思いだったが、まだ冷静さを保っていた。「とわこ、君が来る必要はない。僕一人で十分だ。瞳の情報がわかったらすぐに知らせる」そのとき、マイクが声を聞きつけてやってきた。彼はとわこの手からバッグを取り上げ、置きながら言った。「君はここで待機してくれ。もし君に何かあれば、事態はさらに悪化する」とわこはその場に立ち尽くした。「私のせいだ......もし私が瞳にメッセージを送らなかったら、彼女は急に来るなんて言わなかったのに......」と彼女は呟きながら、急に声を張り上げた。「瞳は妊娠して
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第693話
「本当に美味しいわ。甘すぎないし、これならもっと食べられる」とわこは褒めながらもう一口食べた。「結菜、本当にどんどん上手くなってるわね。次は何を学びたいの？」「運転を習いたいの。でもお兄さんがダメって言うのよ」結菜は眉をひそめ、とわこにお願いするように言った。「とわこ、お兄さんに頼んでくれない？」とわこは目を上げて、真に視線を向けた。「二人が来たのは、その話をするため？」真は首を横に振った。「結菜は君にケーキを食べてもらいたくて来たんだよ。でも運転の件については、僕も反対だ」とわこは結菜に向き直った。「結菜、どうして運転を習いたいの？危ないと思わない？」「みんな運転できるから、私もやりたいの。人が多いところには行かないから大丈夫だよ」結菜は涙目になりながら、とわこに哀願するような目を向けた。ちょうどそのとき、とわこの携帯が鳴った。画面を見ると、奏からの着信だった。とわこは結菜に画面を見せて優しく微笑んだ。「彼に頼んでみるわ。もしダメって言われたら、私にもどうしようもないけどね」結菜は笑顔を浮かべながら小さく頷いた。とわこは電話に出て、スピーカーモードに切り替えた。奏の声がすぐに響いた。「とわこ、もうご飯食べた？」「まだ......瞳が来るって言ってたから、待ってるの」とわこは咳払いしながら話を続けた。「結菜が運転を習いたいんだって。試しにやらせてみてよ。ちゃんと一人で運転しないように言えば大丈夫でしょ」「彼女、そっちにいるの？」奏の声が少し厳しくなった。「ええ。ケーキを作って持ってきてくれたの。味がすごくいいのよ。帰国したら、あなたにも食べさせてあげる」とわこはフォークでケーキを一口運びながら言った。「明日帰国する。帰ったらまた話そう」奏の口調からは、結菜が運転を習うことを許すつもりがないのが伝わった。「わかった」とわこは電話を切ろうとした。「今、国内は午後1時半だよ。先にお昼を食べてね」奏は念を押した。「わかってる」とわこは電話を切り、携帯を置いた。「結菜、彼に頼んでもダメだったわ」結菜は少しがっかりした様子だったが、怒ることはなく、「真も私に運転を習わせたくないし......とわこは本当に優しいわ」と言った。「彼らが反対するのは、あなたの身の安全を心配してるからよ。さあ、私もまだお昼
