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第14話

著者: 冴川
last update 最終更新日: 2024-12-18 10:37:42
梓は恐怖で身を震わせた。恭一郎があれほど千夏を愛している以上、もし真実を知ってしまったら、自分に何をするのだろう?

考えるだけで足がすくむ。

その時、梓の脳裏に唯一の手段が浮かんだ。それは、自分を守るための策だった。

急いで配信機材を用意し、鏡の前でメイクや服装を手直しする。涙ぐましいほど哀れに見えるように仕上げた。

準備が整うと、梓は配信を開始した。画面の中で無言のまま涙を流し、その顔は悲痛な色で満ちていた。

「みんな、お願い、聞いてほしいの……私……私、ひどい目にあったの……

私の彼氏が……外にもう一人女の子がいるなんて、どうして……その子のために私を捨てようとしてるの……私、彼の子供を授かってるのに……!どうしてこんなことができるの?

彼は前はあんなに私を愛してくれてたのに……なんで……なんでこんなことに……」

涙声で訴えかける梓。その話は、歪められ、脚色され、彼女を悲劇のヒロインとして描き出していた。

さらに、千夏に対して行った自分の行いをすべて逆転させ、さも千夏が加害者であるかのように語る。

そう、彼女こそが哀れな被害者だと装ったのだ。

「みんな、お願い……助けて……彼が私のお腹の子供を……堕ろさせようとしてるのかもしれない……!

彼なんていなくてもいい。でも、この子だけは……私の心の支えなの。この子を失うなんて絶対に嫌……!」

梓は涙ながらに、視聴者たちに訴え続けた。心に訴えかけるその姿に、多くの視聴者が憤りを覚えた。

「その浮気女、許せない!」

「やっぱり男なんて信用できない!」

「配信者さんの家、近くだよ!俺が助けに行く!」

……

画面の向こうには、義憤に駆られた視聴者たちが次々と声を上げる様子が映し出されていた。

興奮に突き動かされた一部の視聴者たちは、実際に梓の家の近くまで駆けつけてきた。

彼らを受け入れるように、梓は一人ひとりに住所を教えた。

そして、ほどなくして彼女の家の前には野次馬たちが押し寄せ、賑わいを見せた。

「梓ちゃん、怖がらなくていい!たとえ相手がどれだけの大物でも、全部あいつが悪いんだ。俺たちが絶対守るから!」

無数の人々が梓を庇うように立ちはだかり、その言葉に安堵したように小さな腹をそっと撫でた。

だが、その瞬間だった。

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    最終更新日 : 2024-12-18
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    恭一郎は自分を責め続けた。 もし人生にやり直しがきくなら、絶対に本心を守り通すと誓うだろう。 だが、人生に「もし」は存在しない。 彼は見知らぬ街の中に立ち尽くし、迷子になった子供のように途方に暮れていた。 それでも、探し続けるつもりだろうか? ――もちろんだ。 だが、一体どこから手を付ければいいのか? 「こんにちは。この写真の女性は、僕の妻なんです。彼女は僕に怒って家を出てしまって……どうか彼女の連絡先を教えていただけませんか?」 恭一郎は心からの誠意を込めて尋ねた。 ホテルのスタッフはしばらく迷っていたが、彼が大金を差し出すと、たちまち笑顔になり、千夏の連絡先を教えてくれた。 急いで電話をかけたが、応答はなかった。 「きっと、まだ飛行機の中なんだ……」 恭一郎はそう自分に言い聞かせた。 千夏への謝罪の誠意を示すため、彼はネット上に詳細な反省文を投稿した。 どのように間違いを犯し、どうして自分の本心に気づいたのか――それを言葉に尽くして書き綴った。 彼の謝罪文は、真摯な内容だった。 それだけではなく、彼は毎日のように新しい謝罪文を投稿し、千夏が見てくれることを願い続けた。 最初は彼を憎んでいたネットユーザーの中にも、次第に彼の心情を察し、同情し始める人が現れた。 さらには、彼を擁護する声すら出てくるようになった。 だが、千夏はそれを見ても、ただ嘲笑を浮かべるだけだった。 「もし私が出て行かなかったら、彼がこうやって謝ることなんてあったの? ないわ。きっとますます調子に乗るだけ。梓だけじゃなく、もっと多くの女性を手に入れていたでしょう。浮気っていうのは、1回だけじゃ済まないものよ」 千夏は自問自答し、苦笑する。 ――許す理由なんてあるのだろうか? いや、今の生活で十分ではないか? 彼女は長年の夢を、ようやく叶えることができていた。 海辺の宿を営み、いくつかのペットと暮らし、時折新しい友人と出会う。 何もしない日には家でのんびりと、見た景色を絵に描く。 恭一郎を離れてから、彼女の体調は見違えるほど良くなった。 病院で再検査を受けたとき、医者からも健康状態を褒められるほどだった。 千夏は目を閉じ、ネットで飛び交う噂話を気に留めることはなかった。 彼女

  • 春を迎えぬ冬   第22話

    ベッドの上のスマートフォンが「ピンポン」と絶え間なく鳴り続けていた。 送られてくるのは、ネット上の人々が提供した写真や行動情報だった。 膨大な情報の中から、どれが有益でどれが無意味なのか、恭一郎にはほとんど判断がつかなかった。 報酬目当ての人々が入り混じり、情報の精査は容易ではなかった。 いくつかの人を雇い選別を手伝わせても、それでも膨大な作業量だった。 その時、恭一郎は自分のこの計画を後悔し始めていた。 だが、他に方法がなかった。 広大なネットワークの力を借りるか、千夏が自ら何か情報を漏らしてくれるかしか、彼女を見つける手段はなかったのだ。 恭一郎はベッドに座り込み、絶望に押しつぶされそうだった。 その時、数人の秘書から数枚の写真が送られてきた。 「社長様、A国B市の教会前で奥様を目撃したという情報が入りました。すでに現地に人を派遣していますので、至急向かってください」 その報告を聞いた瞬間、恭一郎の胸に再び希望の火が灯った。 それが真実かどうかは関係なかった。試す価値がある。 彼はこの唯一の希望を手放すことなどできなかった。 千夏がいない日々は、彼にとって酸素や水を失ったのと同じだった。 彼女なしでは、1日たりとも耐えることができなかったのだ。 今まで何とか持ちこたえてきたのは、ただ意地で支えていたからに過ぎない。 最後の力を振り絞る魚のように、彼はもがき続けるしかなかった。 恭一郎は何日もまともに休んでいなかった。 千夏に会えない日々の中、彼が眠るのは、体が限界を迎えたときだけ。 短い1~2時間の睡眠を取るだけで、再び彼女の情報を追い求めていた。 A国行きの飛行機の中でも、彼は国内の仕事を片付け続けた。 飛行機が着陸し、荷物を受け取りに向かう間にも、彼は知らなかった。 その時、千夏が同じ空港で飛行機に乗り込んでいることを―― すれ違いのように、またしても二人は運命に翻弄される形となった。 千夏の飛行機が離陸した後、恭一郎は急いで教会の近くへ向かった。 付近のホテルを次々に訪ね歩いたが、千夏を見たという人には出会えなかった。 それでも諦めずに探し続けた末、ようやく小さなホテルの一つで千夏の痕跡を掴む。 「その美しい女性なら、今日すでにチェックアウトされ

  • 春を迎えぬ冬   第21話

    恭一郎の心の中で緊張がどんどん募っていく。 手のひらには冷たい汗がにじみ、落ち着かない。 長い間待ち続けたが、誰もドアを開けてくれなかった。 焦りに駆られ、彼は無意識にドアを押してみる。 だが、ドアはしっかりと鍵が掛かっていて、びくともしない。 その横には小さな黒板が掛けられていた。 そこには「本日休業」と書かれている。 最初、彼はそれを見て、千夏が自分と会うためにわざわざ休業の札を掛けたのだと勘違いした。 だが、すぐにそれが「会う気はない」という意思表示であることに気付いた。 この瞬間、彼はようやく悟る。 千夏は彼を弄んでいたのだと。 彼女は初めから彼に会うつもりなどなかった。 その事実がまざまざと突きつけられる。 ――「ごめんなさい。あなたを許すつもりはない」 宿をじっと見つめる恭一郎。 そこは彼女と一緒に海辺での生活を夢見て語り合った記憶の場所だった。 彼女は海風を感じながら、二人で寄り添い合うだけで幸せだと言っていた。 彼は彼女の夢を叶えるために、国内の沿岸にある宿をいくつも購入し、時折彼女を連れて遊びに行った。 千夏はそのたびに満面の笑みを浮かべ、驚きと喜びを隠さなかった。 彼女が褒める言葉の一つ一つが、彼の心を甘く満たした。 だが、いつからだろう。 二人で出かけることがなくなってしまったのは。 恭一郎はぼんやりと考え込む。 梓と関係を持ち始めてから、彼が千夏と過ごす時間は確実に減っていた。 あの宿にも、もう何年も行っていない。 彼女に誓った約束も、多くを破ってしまった。 後悔が胸に押し寄せ、自分自身への怒りが募る。 彼は心の中で何度も過去の自分を罵った。 ――なぜ、もっと早く気づけなかったのか。 せっかく手に入れた千夏。 彼女が不安を抱えていることも、彼女が両親のような結末を恐れていることも分かっていたはずだった。 それでも、彼は自分を抑えられなかった。 かつてはどんな誘惑にも揺らがなかった自分が、なぜあの時、守り切れなかったのか。 彼は自分を殴りつけたくなるほどの後悔に苛まれる。 ふと、火照るような金髪の女性が彼に近づいてきた。 その鋭いオーラに目を輝かせ、彼女は挑発的な笑みを浮かべる。 「ねえ、素敵な殿方。飲

  • 春を迎えぬ冬   第20話

    最初は、ネット上の人々はただ冷笑し、嘲るだけだった。 それでも、報酬に目がくらんだ何人かが、無意味な情報や証拠をわざと送りつけてきた。 だが、やがて本当に有効な情報を提供する者が現れた。 実際に報酬を手にした人が出ると、ネット上のユーザーたちは一気に熱狂し始めた。 その話は、ついに千夏の耳にも届く。 彼女の行方を知りたいという人々の声が広がる中、千夏の心には何の感動もなかった。 むしろ、わずかな苛立ちさえ覚える。 すでに身分情報を抹消しているのに、それでも彼女の決意が伝わらないのだろうか? 千夏はよく分かっていた。自分は一度終わった関係に戻る人間ではない。 そして、最初から彼を許すつもりなど全くなかった。 恭一郎の謝罪の言葉を目にしても、彼女の胸に浮かぶのはただの嘲笑だった。 彼が自分の過ちに気づいているのなら、なぜこれまで何事もなかったかのように振る舞えたのだろう? 何度も思った。いっそのこと、彼がはっきりと自分に告げてくれれば良かったのに――「心変わりした」と。 「別の誰かを愛している」と。 そうしてくれれば、きれいに終わることもできただろうに。 だが、彼はそのどちらでもなかった。 梓との関係を身体で享受しながら、心の中では千夏を愛していると言い続けていたのだ。 ――彼女を欺くのが、そんなに楽しかったのだろうか? ならば、今度は彼女が彼を弄んでみる番だ。 千夏はわざと数人に写真や行動情報を提供し、それを恭一郎に渡させた。 冷ややかな笑みを浮かべながら、彼女は時間を計り、彼より一歩早くA国行きの飛行機に乗り込む。 大洋の向こう側、鮮明な写真と詳細な位置情報が恭一郎の手元に届いた。 彼の手は興奮で震え、その顔には喜びが溢れていた。 「千夏が僕を許す気になったんだ!きっと僕が迎えに行くのを待っているんだ!」 彼はすぐさまF国行きの最短のフライトを予約し、空港へと急いだ。 しかし、同じ時間に2機の飛行機が飛び立ったが、その航路も目的地も全く異なるものだった。 F国に到着すると、恭一郎は故郷に戻ったかのような不思議な緊張感に包まれた。 彼は秘書に何度も身だしなみを確認させ、問題がないことを確かめてから、心を整え、千夏がいるという宿へ向かう。 穏やかな海風が頬を撫

  • 春を迎えぬ冬   第19話

    あの離婚届は、千夏が恭一郎に残した最後の贈り物だった。 それは、彼と完全に決別するための印だった。 皮肉なことに、今や恭一郎はその離婚届を頼りに、千夏を思い出している。 彼はそれをラミネート加工し、日に何度も手に取っては眺めていた。 「千夏……君は今、どこにいるんだ? 僕は本当に間違ってた。許してくれなんて言わない。ただ一目だけでも、君に会いたいんだ。 千夏……君を傷つけた者たちには、それぞれ相応の罰を与えた。僕自身も、こんなにも苦しんでいる……どうか、君が僕を見てくれるだけでいい」 彼はどれだけ呟き続けたのか、自分でもわからなかった。 やがて身体が限界を迎え、意識を失った。 一方、恭一郎の元友人たちの家族にとって、事態はさらに深刻だった。 千夏との離婚が公になったことで、多くの人々が「もう愛なんて信じられない」と叫んだ。 かつて多くの人々が、彼と千夏を理想のカップルとして支持していた。 彼らの愛を応援するために、蒼月グループの商品を買い続けていたファンたちもいたのだ。 しかし、離婚のニュースが広がると、その支持は一転し、猛烈な批判が押し寄せた。 蒼月グループの公式アカウントには怒りのコメントが殺到し、グループの株価は急落した。 さらに、彼と梓の写真が内部の知る人間によって暴露されると、状況はさらに悪化した。 人々は、かつての彼らの愛を信じていた自分を嫌悪し、蒼月グループの商品を徹底的に否定した。 その中でも特に象徴的だったのが、千夏への愛を込めて作られたジュエリー「ユキナツ」だった。 かつては「真実の愛」を象徴していたそのジュエリーも、今ではただの安物扱いされ、価値を失った。 海外の宝石コレクターたちは、このニュースを聞いて激怒し、「ユキナツ」を安値で手放した。 そのジュエリーを買い戻したのは、他ならぬ恭一郎自身だった。 輝くジュエリーを見つめるうちに、彼は千夏の美しい笑顔を思い出した。 このジュエリーを作る時、彼は全ての愛情を注ぎ込んでいた。 素材の選定からデザイン、そして仕上げまで、すべてに自ら携わり、トップクラスのデザイナーと協力して作り上げた、世界で唯一無二の逸品だった。 「ユキナツ」という名前も、千夏への愛を象徴していた。 ――自分は、名前のない影の存在で

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