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6 君の優しさと君の夢

作者: けいこ
last update 最終更新日: 2025-02-27 13:10:48

実は、最近、母が階段から足を踏み外してしまって……」

「えっ!!お母さん、大丈夫なの?」

「はい。でも、その時は本当にびっくりしました。大きな物音がして、慌てて見にいったら母が倒れてて。すぐに階段から落ちたってわかったんですけど、僕、心臓が止まるかと思いました」

「それはもちろん心配するよ」

「……はい。歩けない状態だったし、頭を打ったみたいだったから救急車を呼んで松下総合病院に運んでもらったんです。頭のCTは異常なくて、でも怪我して血が出てたから、白川先生が急いで処置してくれました」

「白川先生が……」

「はい。すごく丁寧に対応してくれて、色々検査もしましたが、特に骨にも異常なくて……本当に安心しました。母は、みんなに心配かけちゃうなんて看護師として失格ね……って笑ってましたけど」

「大変だったね」

「母があんな風に倒れている姿を思い出すと背筋が凍るんです。もしあの時僕が家にいなかったら母はどうなっていたんだろうって」

「うん……」

「母は、今まで僕を1人で育ててくれた大切な人です。本当に大変な苦労があったと思うんです。だから、僕が看護師として早く一人前になって、もっと生活を楽にしてあげたい、安心させてやりたいってすごく思います。これからもずっと母を大事にして恩返しがしたいです。もちろん、今はまだまだ半人前にも届かないですけどね」

初めて聞いたけれど、歩夢君はこんなにもお母さんのことを大切に思っている。色々つらいことがあったからこそ、歩夢君はもう二度とお母さんを悲しませたくないのだろう。

なんだか泣けてくる……

「不思議……です」

「えっ?」

「母がシングルマザーだってこと、今まで誰にも話したことなかったんです。なのに藍花さんには何でも話せてしまうっていうか……話したくなります」

歩夢君……

「私なんかに話して良かったのかな……。でも私、話を聞いて、歩夢君の真っ直ぐで優しい気持ちは、必ずお母さんに伝わってるって、すごく思ったよ。本当に素敵な親子の絆だよね」

歩夢君は、私に向かってニコッと微笑んだ。

その顔がとても可愛らしくて、少しだけ「キュン」となった。
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    ただ靴下を脱がされただけなのに、どうしてこんなにもドキドキするのだろう。蒼真さんはお医者さんとして私の傷を心配してくれているだけなのに。「うん、確かに良くなってるな。爪も綺麗だ」「はい、ありがとうございます。あれからちゃんと感染症にならないように診てもらってましたから、本当に大丈夫です」私は慌てて靴下を履こうとした。なのに、手が震えて上手く履けない。落ち着けば当たり前のようにできることが、なぜか上手くできなくて焦る。その時、蒼真さんがモタモタしている私の手にサッと触れた。「履かなくていい。このままでいいんだ。このままで……」「えっ……」「藍花、覚えてる?この前、患者さんに言われたこと。俺達はお似合いだって」「……はい。覚えています。確かに言われましたけど、あれは私をからかってただけですから」「あの人はからかってなんかいない。本気だった。本気で俺と藍花が似合っていると言ってくれたんだ。それに俺も、そう思ってる」蒼真さんは、ソファに座る私を見上げた。その瞳は潤み、唇は艶を帯び、恐ろしい程、男の色気を感じた。「わ、私達が似合ってるなんて、蒼真さんまでからかわないで下さい」「藍花……」その瞬間、私は頬に温もりを感じた。蒼真さんの手が触れている。気づけば目の前に美し過ぎる顔があって、私は直視できずに、思わず自信のない顔を背けた。「目を逸らすな。俺を見て……」「そんなこと言われても、わ、私……み、見れません」心臓が激しく脈打ち、あまりのことに息の仕方がわからなくなる。「藍花、見て。俺を見るんだ」心も体も溶かすような甘い声。私はその声につられるように、ゆっくりと蒼真さんの顔を見た。とんでもない至近距離で目と目が合う。その不純物など全くない美しい瞳にハッとして、私の全てが吸い込まれてしまいそうになった。「俺は、お前が欲しい」「えっ……」あまりにも深い衝撃。蒼真さんの言葉に撃ち抜かれたように体中に電気が走る。「藍花……」例えようのないその妖艶な姿。蒼真さんの表情が情欲に満ちた瞬間、私達の間に残っていた壁は……完全に崩れ去った。

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   8 情熱的なあなたと夜明けを迎えて…

    嬉しいとはいえ、この心臓が飛び出しそうなシチュエーションは、そろそろ限界に近い気がする。月那は、「美味しいご飯、美味しいお酒、ベランダから星を見たりなんかして……。あ~もうその後は『私、どうなってもいい!』ってなるんだよ、絶対に」なんて楽しそうに言っていた。本当に人ごとだと思って……私達はベランダになんか出ない。だから、何も起こらない。きっと……起こるわけがない。蒼真さんはこんなに落ち着いているのに、私だけが内心あたふたしているのがすごく恥ずかしい。「カレー、本当に美味しかった。ありがとう」「いえ……。こちらこそたくさん食べてもらえて嬉しかったです」「美味しいものでお腹が満たされると、人は幸せな気持ちになれるな」「そうですね……」蒼真さんがとても穏やかに言ってくれた言葉が、何だかくすぐったく感じる。美味しい……と、何度も言われると心から作って良かったと思えてくる。2人の時のこの優しさが、病院でもずっと続けばいいのに……とつい願ってしまった。子どもの頃のこと、好きな食べ物、影響を受けたテレビのこと、プライベートな内容を惜しげもなくたくさん話してくれる蒼真さん。話せば話すほど興味が湧き、もっと色々聞いてみたいと思った。まるで患者さんと話すみたいに……いや、それ以上にリラックスしている蒼真さんに、私も次第に心を開いていった。「白川先生」と、こんなにも自然体で会話ができる日がくるなんて、少し前までは思いもしなかった。私達は、時間を忘れてお互いのことを話した。「藍花、足はもう大丈夫か?」「あ、はい。もう大丈夫です。本当にありがとうございました。蒼真さんにすぐに手当してもらったおかげです」「見せて」先生はソファから降りて、私の足の前にしゃがみこんで傷口辺りに手を伸ばした。「本当にもう治ってますから」私は、思わずロングスカートの中に足を引っ込めて隠した。「ダメだ。ちゃんと見せて」蒼真さんは私の足を優しく掴んで、スカートの裾から外に出した。そして、靴下をゆっくりと脱がせた。やっと緊張が少しずつ溶けてきたのに、こんなことをされたらまた……

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