俺は女が嫌いだ。
ついでに言えば人間嫌いだし、友達面して近づいてくる奴らも大嫌いだ。
要するに人間が嫌いなのだ。
一人がいい。放っておいて欲しい。
俺がこう思うようになったのには、俺の前世が関係していた。
前世の俺は父と母、姉と俺という4人家族。
お嬢様育ちで、親父が稼いだ金を湯水のように使うだけの母親。その母の影響で弟は好き勝手命令できる存在だと勘違いしているオタクの姉。
俺は、そんな二人に「ねえ、洗濯はまだあ?」だの「コーヒー淹れてよ。熱いのにして!」「ケーキが食べたい。直ぐに買ってきて!」だのと、奴隷のようにこき使われて育った。断れば奴らは「男なんだからそれくらいして当たり前でしょう?男はね、女を守るものなんだから」と二人がかりで俺を責めるのだ。
親父は「海外に単身赴任になった」とさっさと家を出てしまっていたから、俺は馬鹿みたいに「この家で男は俺だけなんだ。父さんの代わりに俺が二人を守らなきゃ」だなんて思って、必死に二人の世話をやいていたのだ。笑えるだろ?
今思えば、女二人によってたかって洗脳された状態だったのかもしれない。
学校でだけは母と姉から解放されて本当の自分でいられた。でも部活には入れず、学校が終わるとまっすぐ家に帰らなきゃいけなかった。
だって、俺が夕飯を作ったり家事をしないと家が回らないのだ。洗濯しなきゃ服は勝手に綺麗にはならないし、食事を作らないとレトルトやカップヌードルばかり食べることになる。それが嫌なら、俺がやるしかなかった。
だから放課後や休みに友人に遊びに誘われても、断るしかない。そんな俺はみんなからしたら少し距離があるように思えたんだろう。友達はたくさんいたが、心を許した親友はできなかった。そんな自分が寂しくてみじめだった。
俺の唯一の楽しみは、夜ひとりで楽しめるゲームやアニメだけだったんだ。
だが中学になると、俺に初めて親友ができた。
そいつの名は阿須那レオン。中学生になるのを機に他の学区から引っ越してきたのだという。
俺が明日香という苗字だから、アスカとアスナで名簿順の席が前後になった。
彼は外国の地が入っているとかで、目が碧かった。おまけに田舎の中学では場違いなほどの美形で、そのせいで皆に少し遠巻きにされていた。みんなちょうど思春期だったから恥ずかしさもありどう接していいのか分からなかったのだろう。
実は、俺も最初は少し苦手だと思った。
だが、話をしてみると彼は王子様みたいな外見のくせに気取らない性格。妙に俺と気が合ったのだ。おまけにレオンもアニメとゲームが好きだった。はまっていたゲームが同じだったことで、あっという間に俺たちは打ち解けた。
放課後レオンから当たり前のように「一緒に遊ぼう」と誘われ「ああ、また」と思った。俺は断らなきゃいけない。そうしたら、きっとレオンも俺から離れていくんだろうな……。せっかくできた友達なのに……。寂しかった。断りたくないなあと思った。
ところが俺が「家事をしなくちゃいけないから帰らなきゃ」というと、彼はあっさりとこう言ったのだ。
「じゃあ、俺がアスカの家に行くよ。それならいいでしょ?俺も家事?手伝うからさ!さっさと終わらせて一緒にゲームしようぜ!」
太陽みたいな笑い顔。
母と姉に怒られるかもと思ったが、レオンと遊びたかった俺は、わずかな期待を胸にレオンを連れて家に帰ったのだった。
家でゴロゴロしていた母と姉は、俺が友人を連れてきたことに驚いていた。だが、二人とも某アイドル似の礼儀正しい美少年が気に入ったようだ。意外なほどに歓迎された。
それからも「レオンくんいつ来るの?」「もっと連れていらっしゃいよ!」というほどになったのだった。
一方のレオンは、俺の家に来て数回ほどで母と姉の異常さに気付いたらしい。
ある日真面目な表情で俺にこう言った。
「なあ。お前んちっておかしい。アスカばっかり一人で頑張ってるじゃん。なんでお母さんもお姉さんも何もしないの?アスカだけがこき使われて言いなりになってるの?」
改めて他人の口から言われてみると、自分がすごくみじめな存在に思えた。そのせいか、俺はぶっきらぼうにまるで言い訳のようなことを口にしてしていた。
「………ほら、うちって親父が単身赴任でいないだろ?男って俺だけだからさ。俺が二人を守んなきゃ」
「それって親の責任だろ?お前は子供なんだからさ。お前の母さんがやるべきことなんじゃないの?」
「…………母さんは……ほら、アレだから…………」
あとは言えなかった。
そんな俺にレオンは不満そうだったが、これ以上どうしようもないと彼も分かっていたのだろう。それ以来何も言わなくなった。ただ黙って俺の家に来て遊んでくれた。
俺の事情ごと俺を受け入れてくれるレオンに俺は懐いた。いつも彼と共にいるようになった。
そしてレオンは、まるで母親の代わりのように俺の世話を焼くようになったのだった。
高校に上がると、中学とはうって変わってレオンの人気が爆発した。
バスケ部の期待の新人で、アイドルのように恵まれた容姿。頭も良くて学年トップ。これで人気が出ないわけがないのだ。
レオンはしょっちゅう女子に呼び出され、告白されるようになる。
ところがレオン本人は、相変わらず俺にべったり。中学からの延長で、朝は俺の家に迎えに来て、帰りは部活が終わると俺の家に寄って俺が作った飯を食う。
「たまには自分の家で食えよ」といいたくもなるが、「飯のお礼に」と家事を手伝ってくれる上に緩衝材としてうまく母と姉の機嫌をとってくれるので、何もいえない。
で、食事の後は俺とゲームをして一緒に宿題をして帰っていく、というのがいつものパターンだった。
これが出会ったときからずっと変わらない俺たちの習慣だったが、高校に上がるとそれが問題になった。俺たちがあまりにも一緒にいるせいで、レオンに振られた女子が「あの二人おかしいでしょ」「アスカくんが阿須那くんを束縛しているのでは?」「阿須那君は優しいからアスカ君のことが見捨てられないんだ」などと言い出したのだ。
その噂は一気に広がり、俺は女子から嫌がらせをされたり悪評をたてられたりするようになった。
レオンが席を外したすきに「阿須那くんから離れなさいよ!いいかげん解放してあげたら?」と罵られたり、ノートや教科書を隠されたり。ありとあらゆる嫌がらせを仕掛けてくる。
うんざりした俺はレオンに「学校では少し距離を置こうぜ」と提案した。でも、それにレオンが納得しなかった。曰く「関係ない奴らのために何で俺たちが離れなきゃなんないの?」だそうだ。
代わりにレオンは「アスカは俺の大事な人なんだ。俺が好きでアスカと居る。俺はアスカと離れるつもりはないから!」とみんなに向かって宣言した。だが……これは悪手だった。
「男のくせにレオンのお気に入り」なのだと妬まれ、俺は女子連中からさらに嫌がらせされるようになったのだった。
そうなるともう俺には苦痛しかない。いくらレオンが庇ってくれても、限界がある。
家では母と姉が俺を召使扱いし、学校ではクラスの女子や見ず知らずの女子が俺に悪意を向けて来る。
心休まるときがなく、俺は疲れ切っていた。
学校は、母や姉の横やりがなく俺が俺でいられる唯一の場所だったのに。それすら失ってしまった。
レオンが俺を庇えば庇うほど女子の俺への当たりは強くなる。おまけに男にまで俺は避けられるようになった。過敏になったレオンが周りを威嚇するからだ。
俺の周りから人がいなくなるのと反比例するように、レオンは「アスカは俺が守る」と俺にくっついて離れなくなった。そのせいで周りのヘイトがなぜか全て俺に向かうようになる。
どうして俺が恨まれなきゃいけないんだ?憎まれなきゃいけないんだ?レオンがほんの少し俺との距離を考えてくれれば済む話だろう?どうしてレオンは俺から離れてくれない?
別に友人をやめろと言っているわけじゃない。家に来るなというわけじゃない。人前では過剰なスキンシップを控えろと言っているだけなのだ。普通にして欲しいだけなのだ。
ここから俺とレオンの関係はおかしくなっていく。俺がレオンと距離を置こうとすればするほど、レオンは俺を束縛するようになる。
レオンには、俺と離れるつもりはなかった。彼は常に俺を側に置きたがり、俺の周りから彼以外の人を排除するようになっていった。
気が抜ける場所がない。俺は、心底ひとりになりたかった。
進学先を選ぶとき、レオンは当たり前のように俺にこう言った。
「大学進学は遠くにしようかな。アスカはさっさと家を出たほうがいいだろう?俺、上京するから、お前も一緒に上京したらいい。それで一緒に住もう?そうすれば家賃だって節約できるだろう?学費は親父さんが出すとして、食費くらいならバイトで何とかなるとおもうぞ?親父さんに相談してみろよ」
そうすれば俺は学校でも家でも一日中レオンに束縛されることになる。ゾッとした。そのどこに俺の自由があるというんだ?
だが皮肉なことにこのレオンの言葉が俺の希望になった。「大学進学を期に家を出る」という部分だ。何もかもを捨てて家を出る。その先に俺の幸せがある気がしたのだ。
俺はレオンと同じ大学も受験する一方で、寮がある地方の大学をこっそりと受けた。
これを逃せばチャンスはない。
家事をしながら必死に勉強し、無事に希望の大学に合格した。
母と姉、レオンに気付かれぬよう、こっそりと寮に入る準備を進めた。
父親が協力してくれたのが幸いだった。俺を母と姉の人身御供にしているという自覚があったのかもしれない。
ついに家を出るその日。
心労と無理のたたった俺は、疲れのあまり歩道橋の上でふらついた。
そして一気に階段から転げ落ち……頭を打って死んだ。
遠のく意識の中で、これまでの人生と神を呪いながら……。
こうして俺は悪役令息カイト・ゴールドウィンに転生した。
俺が人間嫌いな理由が分かっただろう?
前世の俺の周りにはろくな奴が居なかった。
俺は母と姉に搾取され、振り回され続けた。
信じた親友は俺を束縛するようになった。
そいつのせいで俺は女子から嫌がらせをされ、男子には避けられ、学校という唯一の居場所を失った。
だから今度は俺はひとりで生きる。
誰の言うことも聞かないで俺のためだけに生きる。
地位と能力を活かして好き勝手に振る舞い、やりたいことをするのだ。
俺はそれを前世頑張った分の正当な権利だと思っている。
新しい人生は、剣と魔法のある異世界で始まっていた。俺は王家に次ぐ権力を持つ筆頭公爵家、ゴールドウィン家の長男として生を受けたのだ。父は敏腕宰相で現王と幼馴染。黒髪にグレーの瞳というクールで知性的な容貌の美形だ。高位貴族で人物容姿にも優れた将来有望な父には、適齢期になったとたん釣書が殺到した。父はその頃のことを苦い表情でこう語る。「血で血を洗うような戦いが水面下で行われていた」。想像するだけで恐ろしい。そんな父が選んだのは公爵家でもなく、侯爵家ですらなかった。サーズ伯爵家の三女、マーゴット。俺の母だ。母は……こう言っては何だが、貴族社会には珍しい無邪気でおっとりとした女性だ。銀髪に金の瞳という薄い色彩もあり、まるで妖精のように見える。父によれば、母は当時「妖精姫」と呼ばれ、男性からは憧憬を集め女性からは守る対象として慈しみ可愛がられていたという。父はそんな母の浮世離れした様子に一目ぼれをし、姫を守る騎士となることを自らかってでた。誰よりも近くで母を守り、大切に慈しんだ。そうして母の信頼を得るやいなや、あっという間に婚約の了承を貰い、そのまますぐスピード婚に持ち込んだ。家格の差を気にする母に対し父はこう言い放ったのだそうだ。「この私に後ろ盾など必要だとでも?」わが父ながらなかなかのものだ。要するに父は母に惚れこんでいた。こうして貴族には珍しい恋愛結婚の末に生まれたのがこの俺、アスカ・ゴールドウィンだ。髪の色と知性を父から、珍しい金色の瞳と美しい容貌を母から受け継いだ。俺は生まれた時からどこか特別だったそうだ。赤子なら泣くのが仕事だというのに、よく見えぬ目でじいっと周りを観察していたという。そして妖精のように可憐な母の腕を拒絶し、父に向かって腕を伸ばした。父は驚き躊躇いながらもしっかりと俺を抱きしめた。ちなみにこれが父の俺への溺愛が決定した瞬間だ。拒絶された母はといえば、気にすることもなくおっとりとほほ笑んだという。「まあまあ。カイトちゃんはお父様が大好きなのねえ。お母様といっしょねえ」と。さすが妖精姫だ。たまたまかと思われたそれは、物心ついてからも続く。俺はどうしてだか女性が近づくと泣き、拒絶したのである。それでも拒絶してもそれをおっとりと躱し俺に関わり続けた母のことだけは、受け入れて甘えるようになった。赤子としてかなり異質だったと
そんな折俺にとんでもない話が持ち込まれた。なんと「第一王子の婚約者に」と王家に請われたのである。元々父は王と親しかった。宰相である父は、職場である王城で「自慢の息子の話」をたびたびしていたようで、王が俺に興味を持ってしまったのだ。俺が3歳にもならぬうちから「息子の婚約者に」と言い出していたそうなのである。父は「嫡男ですので」とそれをずっと断っていたようだが、ここにきて俺に弟が生まれてしまい「唯一の息子」ではなくなってしまった。弟というスペアができたことで、王家に請われたにもかかわらず断るほどの理由にはならなくなったのである。俺はその話を聞いて何の理由もなく「嫌だ」と思った。根拠などない。第一王子と聞き「嫌だ」と思い、レオンという名前を聞いて「絶対にダメ」だと思ったのである。「父上、嫌です!俺は筆頭公爵家嫡男。王家の嫁になど言語道断。無理を押し通すような王家などこちらから切ってしまえばいい。王家にこう言ってください。「カイトはゴールドウィン家の後継者です。それを挿げ替えろと?ご無理をおっしゃる。王家に我がゴールドウィン家を敵に回すおつもりがあるのならば、婚約をお受けいたしましょう』と。それでも婚約をと言われたら、王家を討ちましょう。それがいい。父上と私ならできます!」
入学から二か月。剣術の授業の後逃げ遅れた俺は、あっという間にクラスメートに囲まれてしまった。「アスカ様、今日も素晴らしかったです!」「流石ですわあ!希代の天才だというのは本当ですわね!!完璧ですわ!」「素晴らしい剣筋だ!あの域に達するにはどれほどの修練を積まれたのですか?!」全く、相も変わらずうるさいものだ。こうも目をハートにしてくる意味が分からない。俺は彼らに冷酷といっていいような対応しかしていないのに、こいつらはマゾなのか?「当然だ。貴様らごときが俺を称えるなど一万年早いぞ?」ニヤリと笑いながら軽く顎をしゃくってみせると、取り巻きどもは嬉しそうに顔を輝かせた。だから何故これで喜ぶ?こいつら、おかしすぎるだろう。俺が戸惑うのはこういうところだ。ここの女は俺が知る前世の女たちとは違いすぎる。なんというか……俺に対してあまりにも好意的すぎるのだ。俺のこの「美しい」と言われる容姿のせいか?いや、前世の俺だって容姿は悪くなかった。優しくしているわけでもないのに、いつまでも好意的なわけがわからない。男どもも俺を妬むどころか羨望の眼差しで褒
なんとなく感傷に浸っていれば、そこに馬鹿みたいな声を上げながら、派手な女がやってきた。「アスカ様〜♡ 今日のお茶会、もちろん来てくださいますよね?うふふ。特別な趣向をご用意しておりますのよ?」こいつは確か家が商会をしているとかいう男爵令嬢だ。金にものを言わせて爵位を買ったという噂の成り上がり。豪華な衣装を着ているが、話し方も素振りも下品そのもの。権力にこびへつらい、下の者には辛く当たるタイプだ。実際、こいつが侍女を蹴倒しているのを見たことがある。まさに俺の大嫌いな「女」を具現化したような女。女は甘えたように鼻にかかった声でわめきたて、図々しくも俺の腕にしがみつこうとしてくる。せっかく少しいい気分だったのに、台無しだ。俺は軽く一歩引くことでしがみつこうとした女の手をさりげなくいなし、冷たく吐き捨てた。「ふん、貴様なんぞ知らん。この俺がなぜ貴様の下らぬ茶会になんぞ行かばならんのだ?女、不快だ。俺に触れる許可を出した覚えはないぞ。わきまえろ」容赦のない言葉含まれた明らかな侮蔑と拒絶。それを聞いて、居合わせた周りのやつらがきゃあきゃあと騒ぎ出した。&n
入学式をさぼることはできなかった。なぜなら、残念ながら俺は学年総代。入学式で祝辞を読まねばならないからだ。本来なら王太子がその学年にいる場合は王族が祝辞を読むのが常。しかし、俺は全教科満点の上、王子の次に高位。さらには俺の異常なほどの神童ぶりは知れ渡っていたため、例外的に俺が祝辞を読むこととなったのだ。全く、学園も余計なことをしてくれた。例外になどしてくれる必要はなかったのに。しかしそうと決まった以上俺にさぼるという選択はない。面倒だが、トップとしての義務ならば果たす。それが俺の矜持だからだ。「総代、アスカ・ゴールドウィン」名を呼ばれ壇上に向かう俺に、多くの好奇に満ちた視線が集中する。俺はほとんど公の場には顔を出さない。パーティーにも最低限しか出ず、それもすぐに引っ込むという徹底ぶりだ。従って、俺の名だけは知っていても顔を見るのは初めてというものが多いのだ。「まあ!なんて素敵な方なの!」「ほら、伝説の妖精姫の……」などという声が、ため息とともにあちこちから聞こえてくる。5歳で既に美の片鱗を見せていた俺だが、15歳になった今はまさに「美少年」「端麗」という言葉がふさわしい男に育っていた。父も母もがっしりしたタイプではないので線は細い。しかし剣術訓練や恵まれた資質により引き締まった筋肉としなやかな身体を持っている。背は年齢にしては少し低めではあるが、それでも女性よりもはるかに大きい。容貌に関しては言わずもがな。あの伝説の「妖精姫」の繊細な美しさと、父から引き継いだ怜悧な美貌の絶妙なミックス。艶やかな漆黒の髪を片側だけ編み込みにすることで、特徴的な黄金色の瞳がより強調されていた。自分で言うのもなんだが、いっそ近寄りがたいほどの美貌なのだ。親しみやすく見せる必要などない。俺は誰ともなれ合うつもりはないのだから。集まる羨望のまなざしの中、ひときわ強い熱を感じた。ピリピリと突き刺さるような視線。その持ち主は……分かっている。最前列のあの眩しい金色……そう、俺の婚約者様だ。頬に焦げるような熱を感じながら通り過ぎ、壇上へ。上に立つとさらに顔が良く見える。レオン・オルブライト。 久しぶりに彼を正面から見て驚いた。金髪と黒髪という違いはあれど、レオンが前世で俺をさんざん振り回したアイツにそっくりな顔になっていたからだ。だが、レオンがアイツではないように、俺
それからもレオンは俺に対して好意的な様子を隠そうともしなかった。事あるごとに俺に声をかけ、近づこうとする。「アスカ、一緒にランチをしよう。君の分も用意してきた」「やあ、もしよければ放課後時間を取れないかな?お茶でもどうだい?」金髪碧眼、優し気で端正な容貌の絵にかいたような王子様。彼を嫌いだというものなどいないだろう。普通の生徒ならば喜んで受けるに違いない誘い。だが俺は別だ。俺の答えはいつも同じ。「面倒ごとは御免だ。形ばかりの婚約者だ。俺のことは放っておけ」レオンと俺の同じようなやりとりは、学園のあちこちで定期的に繰り広げられた。今では俺とレオンが婚約者であること、そして俺がレオンに対して冷淡であり毎回すげなく断っていることを知らないものはこの学園にはいない。レオンの信奉者からは「不敬だ」だの「なんて生意気なのだ」だの言われるが、そんなのは俺の知ったことではない。だってレオンは攻略対象なのだ。どのみちピンク頭の主人公とくっつくのだから、関わらないほうがいい。俺の記憶では、夏になるころ主人公が遅れて登場する。「身体が弱く療養していたため入学が遅れた」という触れ込みなのだが、実際は違う
「……憑依?もしくは依り代か?」レオンの気配を探れば……うむ、確かにおかしな気配がある。奥に異質になもの……。なんだ、これは?俺は目を細めた。ああ、なるほど。確かにこれは呪いと呼んでいいのかもしれない。レオンの魂に絡みつくようにして彼を縛るもの。彼の精神を苛むもの。俺が知るどの呪いにも当てはまらない。闇の魔力でもなければ、魔物でもない。かといって魔道具の魔力とも異なっている。ん?これは……面白くなってきた。コイツは俺のことを認識している。この際だ、助けた上で思いっきり恩を売ってやる。「いいだろう。調べてやろう 」俺が傲慢な笑みを浮かべてみると、わずかにレオンの空気が緩んだ。「……すまない。助かるよ、アスカ」
不遜な笑みを見せた俺にレオンが眉を寄せる。「アスナ、とは誰のことだ?……コレか?」俺はその問いには答えずもう一つの質問をした。「猶予がない、と言ったな?アレはどういう意味だ?」「僕の質問にも答えて欲しいけど……きっと関係あるんだよね。コレに気付いたのはアスカと出会ったとき。そして、アスナに避けられていた間はコレは大人しかったんだ。『手に入れなければ』という訳の分からない焦燥感はあったが、それも『無理強いしてはいけない』という理性で抑え込める程度のものだった。どちらかといえば後者の気持ちの方が強かったのかもしれない。なにしろ私自身の『会いたい』という気持ちにもブレーキをかけるくらいだったのだから」「つまり、その俺を手に入れようとするヤツ、そいつを抑えようとするヤツがいるんだな。便宜上こいつはクロとシロと分けて呼ぶことにするぞ?」「分かった。そうだね。意識としては2種類のものがあるように感じる」ふむ。あの俺に執着して俺を孤立させたアスナをクロとするなら、シロの意味がわからない。アスナとは別のものなのか?それが俺に執着する?果たしてそんな偶然があるものだろうか?「この10年はシロの方が優勢だったんだ。そのおかげか、普段はクロもシロも眠っていて、たまに目を覚ます、という感じだった。だけど……学園で君に再開したとたん、クロが優勢になった。私の意識がクロに浸食され始めている。………引かないで欲しいんだが、君に会いたくてたまらなくなる。君を自分だけのものにしたい。君が誰かに笑いかけるだけでその相手をどうにかしたくなるんだ」「………気持ち悪い」「引かないでくれと言っただろう?私じゃない!いや、確かに私も君に会いたかったのだが、違うんだ!も
ストン、と腑に落ちた。そうだ、すっかり忘れていた。◇◇◇まだ俺がアスナを「唯一無二の親友」だと信頼していた中学のころのことだ。俺は自分と同じ名を持つアスカが、恵まれた能力を持ちながら断罪されていくのがはがゆかった。だって、俺は大した能力もなく、家族にも恵まれず。そんななかで必死で「家族を守る」という役目をはたしている。なのにアスカは愛してくれる家族に恵まれ、完全無欠というほどの能力を持ち、天使の美貌を受け継ぎながら、断罪される。すごく納得がいかない。普通ならアスカが不幸になるわけがない。「この悪役、なんで断罪されるんだろ?こいつのスペックがあればやりたい放題じゃん!いいなあ、俺がこんなだったら最高の人生を送ってやるのに!」俺は自分のままならない状況をアスカに重ねていたのかもしれない。アスカが幸せになれば俺も幸せになれるような気がした。そこで、なんとかアスカ救済ルートを探すべくひたすらにゲームをやりこんだ。もしかしたら裏ルートがあるのでは?隠しキャラがいるのでは?そんなありもしない希望を胸にひたすらやりこみ……撃沈したのである。そうだ、それでたしか、落ち込む俺をアスナが励ましてくれたんだ。「だ、大丈夫だって!ゲームはゲームだろ?飛鳥とアスカは違う」「分かってるけどさ。なんか……俺にとってアスカって特別なんだよなあ。異世界転生とかあるんならさ、俺がアスカになりたい。そんくらいには好きなキャラなんだよ。だってアスカって完璧なんだもん。俺がアスカだったらあんな攻略対象なんて無視する。黙ってやられたりなんかしないし、好き勝手に楽しく生きてやるんだ」「じゃあ、俺はレオンになってアスカの味方になる。そしたら断罪ルート全部へし折ってやる!」「ははは!だな。レオンも名前が一緒だし、俺たちこのゲームと縁があるのかもな」「じゃあ、約束な?生まれ変わるなら一緒だ。レオンとアスカになろう!」「あははは!なれたらな!約束!」◇◇◇だが、俺がこの世界に来た理由は分かった。神様を罵ったからなんかじゃなかった。俺がそれを望んだからだったんだ。もしかして、アスナはあんな昔のことを覚えていたのか?俺本人ですら今まで忘れてしまっていた、子供同士の遊びの中で俺が言った戯れのような言葉。それだけをよすがにこんなところまで俺を追ってきたのか?あんな俺の一言を大
不遜な笑みを見せた俺にレオンが眉を寄せる。「アスナ、とは誰のことだ?……コレか?」俺はその問いには答えずもう一つの質問をした。「猶予がない、と言ったな?アレはどういう意味だ?」「僕の質問にも答えて欲しいけど……きっと関係あるんだよね。コレに気付いたのはアスカと出会ったとき。そして、アスナに避けられていた間はコレは大人しかったんだ。『手に入れなければ』という訳の分からない焦燥感はあったが、それも『無理強いしてはいけない』という理性で抑え込める程度のものだった。どちらかといえば後者の気持ちの方が強かったのかもしれない。なにしろ私自身の『会いたい』という気持ちにもブレーキをかけるくらいだったのだから」「つまり、その俺を手に入れようとするヤツ、そいつを抑えようとするヤツがいるんだな。便宜上こいつはクロとシロと分けて呼ぶことにするぞ?」「分かった。そうだね。意識としては2種類のものがあるように感じる」ふむ。あの俺に執着して俺を孤立させたアスナをクロとするなら、シロの意味がわからない。アスナとは別のものなのか?それが俺に執着する?果たしてそんな偶然があるものだろうか?「この10年はシロの方が優勢だったんだ。そのおかげか、普段はクロもシロも眠っていて、たまに目を覚ます、という感じだった。だけど……学園で君に再開したとたん、クロが優勢になった。私の意識がクロに浸食され始めている。………引かないで欲しいんだが、君に会いたくてたまらなくなる。君を自分だけのものにしたい。君が誰かに笑いかけるだけでその相手をどうにかしたくなるんだ」「………気持ち悪い」「引かないでくれと言っただろう?私じゃない!いや、確かに私も君に会いたかったのだが、違うんだ!も
「……憑依?もしくは依り代か?」レオンの気配を探れば……うむ、確かにおかしな気配がある。奥に異質になもの……。なんだ、これは?俺は目を細めた。ああ、なるほど。確かにこれは呪いと呼んでいいのかもしれない。レオンの魂に絡みつくようにして彼を縛るもの。彼の精神を苛むもの。俺が知るどの呪いにも当てはまらない。闇の魔力でもなければ、魔物でもない。かといって魔道具の魔力とも異なっている。ん?これは……面白くなってきた。コイツは俺のことを認識している。この際だ、助けた上で思いっきり恩を売ってやる。「いいだろう。調べてやろう 」俺が傲慢な笑みを浮かべてみると、わずかにレオンの空気が緩んだ。「……すまない。助かるよ、アスカ」
それからもレオンは俺に対して好意的な様子を隠そうともしなかった。事あるごとに俺に声をかけ、近づこうとする。「アスカ、一緒にランチをしよう。君の分も用意してきた」「やあ、もしよければ放課後時間を取れないかな?お茶でもどうだい?」金髪碧眼、優し気で端正な容貌の絵にかいたような王子様。彼を嫌いだというものなどいないだろう。普通の生徒ならば喜んで受けるに違いない誘い。だが俺は別だ。俺の答えはいつも同じ。「面倒ごとは御免だ。形ばかりの婚約者だ。俺のことは放っておけ」レオンと俺の同じようなやりとりは、学園のあちこちで定期的に繰り広げられた。今では俺とレオンが婚約者であること、そして俺がレオンに対して冷淡であり毎回すげなく断っていることを知らないものはこの学園にはいない。レオンの信奉者からは「不敬だ」だの「なんて生意気なのだ」だの言われるが、そんなのは俺の知ったことではない。だってレオンは攻略対象なのだ。どのみちピンク頭の主人公とくっつくのだから、関わらないほうがいい。俺の記憶では、夏になるころ主人公が遅れて登場する。「身体が弱く療養していたため入学が遅れた」という触れ込みなのだが、実際は違う
入学式をさぼることはできなかった。なぜなら、残念ながら俺は学年総代。入学式で祝辞を読まねばならないからだ。本来なら王太子がその学年にいる場合は王族が祝辞を読むのが常。しかし、俺は全教科満点の上、王子の次に高位。さらには俺の異常なほどの神童ぶりは知れ渡っていたため、例外的に俺が祝辞を読むこととなったのだ。全く、学園も余計なことをしてくれた。例外になどしてくれる必要はなかったのに。しかしそうと決まった以上俺にさぼるという選択はない。面倒だが、トップとしての義務ならば果たす。それが俺の矜持だからだ。「総代、アスカ・ゴールドウィン」名を呼ばれ壇上に向かう俺に、多くの好奇に満ちた視線が集中する。俺はほとんど公の場には顔を出さない。パーティーにも最低限しか出ず、それもすぐに引っ込むという徹底ぶりだ。従って、俺の名だけは知っていても顔を見るのは初めてというものが多いのだ。「まあ!なんて素敵な方なの!」「ほら、伝説の妖精姫の……」などという声が、ため息とともにあちこちから聞こえてくる。5歳で既に美の片鱗を見せていた俺だが、15歳になった今はまさに「美少年」「端麗」という言葉がふさわしい男に育っていた。父も母もがっしりしたタイプではないので線は細い。しかし剣術訓練や恵まれた資質により引き締まった筋肉としなやかな身体を持っている。背は年齢にしては少し低めではあるが、それでも女性よりもはるかに大きい。容貌に関しては言わずもがな。あの伝説の「妖精姫」の繊細な美しさと、父から引き継いだ怜悧な美貌の絶妙なミックス。艶やかな漆黒の髪を片側だけ編み込みにすることで、特徴的な黄金色の瞳がより強調されていた。自分で言うのもなんだが、いっそ近寄りがたいほどの美貌なのだ。親しみやすく見せる必要などない。俺は誰ともなれ合うつもりはないのだから。集まる羨望のまなざしの中、ひときわ強い熱を感じた。ピリピリと突き刺さるような視線。その持ち主は……分かっている。最前列のあの眩しい金色……そう、俺の婚約者様だ。頬に焦げるような熱を感じながら通り過ぎ、壇上へ。上に立つとさらに顔が良く見える。レオン・オルブライト。 久しぶりに彼を正面から見て驚いた。金髪と黒髪という違いはあれど、レオンが前世で俺をさんざん振り回したアイツにそっくりな顔になっていたからだ。だが、レオンがアイツではないように、俺
なんとなく感傷に浸っていれば、そこに馬鹿みたいな声を上げながら、派手な女がやってきた。「アスカ様〜♡ 今日のお茶会、もちろん来てくださいますよね?うふふ。特別な趣向をご用意しておりますのよ?」こいつは確か家が商会をしているとかいう男爵令嬢だ。金にものを言わせて爵位を買ったという噂の成り上がり。豪華な衣装を着ているが、話し方も素振りも下品そのもの。権力にこびへつらい、下の者には辛く当たるタイプだ。実際、こいつが侍女を蹴倒しているのを見たことがある。まさに俺の大嫌いな「女」を具現化したような女。女は甘えたように鼻にかかった声でわめきたて、図々しくも俺の腕にしがみつこうとしてくる。せっかく少しいい気分だったのに、台無しだ。俺は軽く一歩引くことでしがみつこうとした女の手をさりげなくいなし、冷たく吐き捨てた。「ふん、貴様なんぞ知らん。この俺がなぜ貴様の下らぬ茶会になんぞ行かばならんのだ?女、不快だ。俺に触れる許可を出した覚えはないぞ。わきまえろ」容赦のない言葉含まれた明らかな侮蔑と拒絶。それを聞いて、居合わせた周りのやつらがきゃあきゃあと騒ぎ出した。&n
入学から二か月。剣術の授業の後逃げ遅れた俺は、あっという間にクラスメートに囲まれてしまった。「アスカ様、今日も素晴らしかったです!」「流石ですわあ!希代の天才だというのは本当ですわね!!完璧ですわ!」「素晴らしい剣筋だ!あの域に達するにはどれほどの修練を積まれたのですか?!」全く、相も変わらずうるさいものだ。こうも目をハートにしてくる意味が分からない。俺は彼らに冷酷といっていいような対応しかしていないのに、こいつらはマゾなのか?「当然だ。貴様らごときが俺を称えるなど一万年早いぞ?」ニヤリと笑いながら軽く顎をしゃくってみせると、取り巻きどもは嬉しそうに顔を輝かせた。だから何故これで喜ぶ?こいつら、おかしすぎるだろう。俺が戸惑うのはこういうところだ。ここの女は俺が知る前世の女たちとは違いすぎる。なんというか……俺に対してあまりにも好意的すぎるのだ。俺のこの「美しい」と言われる容姿のせいか?いや、前世の俺だって容姿は悪くなかった。優しくしているわけでもないのに、いつまでも好意的なわけがわからない。男どもも俺を妬むどころか羨望の眼差しで褒
そんな折俺にとんでもない話が持ち込まれた。なんと「第一王子の婚約者に」と王家に請われたのである。元々父は王と親しかった。宰相である父は、職場である王城で「自慢の息子の話」をたびたびしていたようで、王が俺に興味を持ってしまったのだ。俺が3歳にもならぬうちから「息子の婚約者に」と言い出していたそうなのである。父は「嫡男ですので」とそれをずっと断っていたようだが、ここにきて俺に弟が生まれてしまい「唯一の息子」ではなくなってしまった。弟というスペアができたことで、王家に請われたにもかかわらず断るほどの理由にはならなくなったのである。俺はその話を聞いて何の理由もなく「嫌だ」と思った。根拠などない。第一王子と聞き「嫌だ」と思い、レオンという名前を聞いて「絶対にダメ」だと思ったのである。「父上、嫌です!俺は筆頭公爵家嫡男。王家の嫁になど言語道断。無理を押し通すような王家などこちらから切ってしまえばいい。王家にこう言ってください。「カイトはゴールドウィン家の後継者です。それを挿げ替えろと?ご無理をおっしゃる。王家に我がゴールドウィン家を敵に回すおつもりがあるのならば、婚約をお受けいたしましょう』と。それでも婚約をと言われたら、王家を討ちましょう。それがいい。父上と私ならできます!」
新しい人生は、剣と魔法のある異世界で始まっていた。俺は王家に次ぐ権力を持つ筆頭公爵家、ゴールドウィン家の長男として生を受けたのだ。父は敏腕宰相で現王と幼馴染。黒髪にグレーの瞳というクールで知性的な容貌の美形だ。高位貴族で人物容姿にも優れた将来有望な父には、適齢期になったとたん釣書が殺到した。父はその頃のことを苦い表情でこう語る。「血で血を洗うような戦いが水面下で行われていた」。想像するだけで恐ろしい。そんな父が選んだのは公爵家でもなく、侯爵家ですらなかった。サーズ伯爵家の三女、マーゴット。俺の母だ。母は……こう言っては何だが、貴族社会には珍しい無邪気でおっとりとした女性だ。銀髪に金の瞳という薄い色彩もあり、まるで妖精のように見える。父によれば、母は当時「妖精姫」と呼ばれ、男性からは憧憬を集め女性からは守る対象として慈しみ可愛がられていたという。父はそんな母の浮世離れした様子に一目ぼれをし、姫を守る騎士となることを自らかってでた。誰よりも近くで母を守り、大切に慈しんだ。そうして母の信頼を得るやいなや、あっという間に婚約の了承を貰い、そのまますぐスピード婚に持ち込んだ。家格の差を気にする母に対し父はこう言い放ったのだそうだ。「この私に後ろ盾など必要だとでも?」わが父ながらなかなかのものだ。要するに父は母に惚れこんでいた。こうして貴族には珍しい恋愛結婚の末に生まれたのがこの俺、アスカ・ゴールドウィンだ。髪の色と知性を父から、珍しい金色の瞳と美しい容貌を母から受け継いだ。俺は生まれた時からどこか特別だったそうだ。赤子なら泣くのが仕事だというのに、よく見えぬ目でじいっと周りを観察していたという。そして妖精のように可憐な母の腕を拒絶し、父に向かって腕を伸ばした。父は驚き躊躇いながらもしっかりと俺を抱きしめた。ちなみにこれが父の俺への溺愛が決定した瞬間だ。拒絶された母はといえば、気にすることもなくおっとりとほほ笑んだという。「まあまあ。カイトちゃんはお父様が大好きなのねえ。お母様といっしょねえ」と。さすが妖精姫だ。たまたまかと思われたそれは、物心ついてからも続く。俺はどうしてだか女性が近づくと泣き、拒絶したのである。それでも拒絶してもそれをおっとりと躱し俺に関わり続けた母のことだけは、受け入れて甘えるようになった。赤子としてかなり異質だったと