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俺、転生する2

Author: をち。
last update Last Updated: 2025-04-17 16:17:00

そんな折俺にとんでもない話が持ち込まれた。

なんと「第一王子の婚約者に」と王家に請われたのである。

元々父は王と親しかった。

宰相である父は、職場である王城で「自慢の息子の話」をたびたびしていたようで、王が俺に興味を持ってしまったのだ。俺が3歳にもならぬうちから「息子の婚約者に」と言い出していたそうなのである。

父は「嫡男ですので」とそれをずっと断っていたようだが、ここにきて俺に弟が生まれてしまい「唯一の息子」ではなくなってしまった。弟というスペアができたことで、王家に請われたにもかかわらず断るほどの理由にはならなくなったのである。

俺はその話を聞いて何の理由もなく「嫌だ」と思った。

根拠などない。第一王子と聞き「嫌だ」と思い、レオンという名前を聞いて「絶対にダメ」だと思ったのである。

「父上、嫌です!俺は筆頭公爵家嫡男。王家の嫁になど言語道断。無理を押し通すような王家などこちらから切ってしまえばいい。王家にこう言ってください。「カイトはゴールドウィン家の後継者です。それを挿げ替えろと?ご無理をおっしゃる。王家に我がゴールドウィン家を敵に回すおつもりがあるのならば、婚約をお受けいたしましょう』と。それでも婚約をと言われたら、王家を討ちましょう。それがいい。父上と私ならできます!」

「落ち付くのだ、アスカ。まず一度レオン殿下に会ってみてはどうだ?殿下は5歳ながら非常に聡明で穏やかな気質だ。私から見て、お前とは合っているように思うぞ?それにお前には同年代の友もおらぬ。誰とも付き合わずに生きることはできぬのだぞ?公爵家は弟に継がせることもできる。それだけを理由に断るのは難しいだろう。そこまで嫌がる理由があるのならば、それをこの父に教えて欲しい」

今なら分かる。レオンがアスナと同じ名前だったからだ。そ彼がゲームでの俺の破滅の元、攻略対象だからだ。当時の俺は無意識にそれを感じていたのだろう。

だが、前世の記憶を取り戻す前の俺には、嫌な理由など言えなかった。俺自身分かっていなかったのだから。

こうして俺はレオンと婚約することとなった。

この時から俺は、訳の分からない苛立ちと焦燥「とにかく逃げなければ」という想いにかられるようになる。

とりあえず俺は目の前の退屈な授業から逃げ出した。いつも通り二階の窓から飛び降りて華麗に着地!

……のはずがあえなく失敗。飛び降りた先が、前日の雨でぬかるんでいたのだ。

泥で滑った俺は、飛び降りた勢いのまま後頭部を強打した。

そして……前世の記憶を取り戻し、そのショックで1週間寝込んだ。

幸いにも俺の負傷の原因である泥が倒れた衝撃をやわらげ、怪我自体は大したことはなかった。それなのになかなか目を覚まさない俺に、父も母もかなり心配したようだ。

目を覚ました俺は二人に号泣され、二度と二階から飛び降りないと誓わされたのだった。

さて、こうして俺は前世を思い出した。

そして全てを理解した。

筆頭公爵家嫡男アスカ・ゴールドウィン。王太子レオン・オルブライト。

どちらの名前にも聞き覚えがある。ありすぎた。

そう、ここは前世の姉がはまっていた、乙女ゲームの世界だったのだ。もう笑うしかない。

俺はハイスペックなラスボス、すなわち死にキャラに生まれ変わっていた。

おいおい、悪役令息かよ!死ぬ前に神を罵った腹いせか?なんて狭量な神だ!

だがこれで俺が生まれつき神童扱いされている理由も、明らかに異常なハイスペックであることにも納得がいった。全ては俺が「ラスボスだから」だ。敵は強大であれば強大であるほどクリアしたときの感動が大きいからな。

しかもこの乙女ゲームは単なる乙女ゲームではない。多様性だとやらで、男と女だけでなく、男同士、女同士、あらゆる恋愛が楽しめるクソみたいなハード仕様なのだ。

そして俺はどのルートでも必ずなにかしらの悪事を働き、どこかに飛ばされたり破産させられたりして野垂れ死ぬ。ハイスペックの設定なんじゃないのか?便利に使われすぎだろう悪役令息!

王太子と婚約の話が出たことで、現在俺の置かれている状況が分かった。

今、俺はBLの王太子ルートにいる。しかも俺の意志など関係なく。

ちなみにBLルートでは男同士でも問題なく結婚できる。剣と魔法の世界なので、魔法で身体を出産可能に作り替えることができるからだ。

ゲームのままだと、俺は王子の婚約者として主人公の前に立ちふさがる。愛され系ピンク頭の主人公令息に嫉妬の炎を燃やし、主人公を貶めるためにあらゆる悪事に手を染め、断罪されることになる。

どおりでレオンという名に嫌悪を覚えるわけだ。王太子との婚約?もってのほかだ!面倒だし嫌に決まっているだろう!どちらも俺にとっては鬼門でしかないではないか!

だが実際のところ「面倒で嫌だ」というだけ。生死を分けるほどの問題ではない。

他の奴なら詰んだだろう。だが転生したのは他でもない、この俺なのだ。

記憶を取り戻した俺は無敵だ。何故なら俺は全ルートの攻略済。鬼畜オタクな姉にての全スチルの回収を命じられていたため相当やりこんだ。つまり、このクソゲームを熟知しているのである。

更には今の俺は悪役といえど最高位貴族。ビジュアル的にも文句なしの美形。おまけに頭よし運動神経よし魔力膨大という高スペック。怖いものなしだ!

そもそもゲームの強制力かなんだかしらんが、ここまで最強の設定の俺が「頑張る健気な主人公」やら「お育ちの良いご立派な王子様」やら「王子の側近軍団」程度になぜ敗北する?普通に考えたらあり得ないだろう。

この俺の新しい人生に敗北という文字はない。こう言い切るだけの根拠もある。

実はBLルートの俺にはある得点があった。このルートでだけ特殊な能力が使えるのだ。

通常、魔法は「火」「水」「風」「土」「木」の5種類。だがそこに例外が加わる。「光」と「闇」だ。これは訓練では身に着けることができない特性で、「能力」と言われる異能になる。

このルートでだけ俺はこの能力が使える。光属性のヒールと浄化、闇属性の呪いと解呪が。

しかし難点がひとつ。この能力が判明するのは、婚約式で教会に行った時だ。婚約の誓いのため神像に手を触れた際、神棚に置かれた光と闇の宝玉が光る。そこで初めて俺の能力が判明するのだ。つまり、婚約式に出ないと判明しないのだ。

この能力は、俺の神童ぶりをいわば神の域にまで高めてくれる能力だ。だから、利用しない手はない。存分に世間に知らしめたい。

従って婚約式には出席するしかなくなったのだが。まあ、そこは仕方がない。諦めよう。婚約してもレオンを避けて避けて避けまくればよいのだから。

レオンだってそこまで拒否してくる相手とは婚約継続したくないだろう。早期に向こうから円満に婚約解消させればいいのだ。文句を言われたら「なら俺は将来他所の国に行く」という伝家の宝刀を抜けばいい。歴代最高の魔力の能力持ちを手放すわけにはいかないから、王家も黙るしかないだろう。

万が一不敬が問われ国外追放コースになっても、今から備えておけば野垂れ死ににはならない。いや、こんなスペックを持ちながら、ゲームの俺が大人しく断罪され野垂れ死にしたことの方がおかしいのだ。

この世にはめったに現れぬというこの異能を利用して俺は生き残る。

ひとりで好き勝手に異世界無双をさせて貰おうではないか。

こうして俺は婚約式でレオンと初めて顔を合わせた。

「う、嘘だろ……!無理だ……!!」

髪の色こそ違うが、アスナの面影がそこにあった。

ふるりと身を震わせた俺にレオンが「大丈夫?」とほほ笑みかけ、手を差し出してくれる。

が、俺はとっさにその手を払いのけてしまった。

パチン!

その音に皆の視線が集中する。

払いのけられたレオンの手は少し赤くなっていた。かなりの強さで叩いてしまったようだ。わざとではない。だが、これはさすがにヤバかったかも。

ところがレオンは、俺に向かって怒るどころかほほ笑んだのである。

「ごめんね?びっくりしたよね?……僕は君と婚約できてうれしい。これから仲良くしてね?」

父の言う通り穏やかな性質ではあるようだ。大人たちも賞賛の目をレオンに送っている。

「…………驚いたのだ。わざとではない。痛い思いをさせてすまなかった」

俺は婚約や仲良くということには一切触れず、手を叩いたことだけを謝罪した。

下手に頷いて言質をとられたくなかったのだ。

認めたくないが、俺はレオンが怖かった。笑顔でありながらレオンが俺に向けるその視線には、どこか子供らしくない熱が籠っていたから。

俺は、なんとしてもレオンを避け続けようと心に誓ったのだった。

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    なんとなく感傷に浸っていれば、そこに馬鹿みたいな声を上げながら、派手な女がやってきた。「アスカ様〜♡ 今日のお茶会、もちろん来てくださいますよね?うふふ。特別な趣向をご用意しておりますのよ?」こいつは確か家が商会をしているとかいう男爵令嬢だ。金にものを言わせて爵位を買ったという噂の成り上がり。豪華な衣装を着ているが、話し方も素振りも下品そのもの。権力にこびへつらい、下の者には辛く当たるタイプだ。実際、こいつが侍女を蹴倒しているのを見たことがある。まさに俺の大嫌いな「女」を具現化したような女。女は甘えたように鼻にかかった声でわめきたて、図々しくも俺の腕にしがみつこうとしてくる。せっかく少しいい気分だったのに、台無しだ。俺は軽く一歩引くことでしがみつこうとした女の手をさりげなくいなし、冷たく吐き捨てた。「ふん、貴様なんぞ知らん。この俺がなぜ貴様の下らぬ茶会になんぞ行かばならんのだ?女、不快だ。俺に触れる許可を出した覚えはないぞ。わきまえろ」容赦のない言葉含まれた明らかな侮蔑と拒絶。それを聞いて、居合わせた周りのやつらがきゃあきゃあと騒ぎ出した。&n

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    入学から二か月。剣術の授業の後逃げ遅れた俺は、あっという間にクラスメートに囲まれてしまった。「アスカ様、今日も素晴らしかったです!」「流石ですわあ!希代の天才だというのは本当ですわね!!完璧ですわ!」「素晴らしい剣筋だ!あの域に達するにはどれほどの修練を積まれたのですか?!」全く、相も変わらずうるさいものだ。こうも目をハートにしてくる意味が分からない。俺は彼らに冷酷といっていいような対応しかしていないのに、こいつらはマゾなのか?「当然だ。貴様らごときが俺を称えるなど一万年早いぞ?」ニヤリと笑いながら軽く顎をしゃくってみせると、取り巻きどもは嬉しそうに顔を輝かせた。だから何故これで喜ぶ?こいつら、おかしすぎるだろう。俺が戸惑うのはこういうところだ。ここの女は俺が知る前世の女たちとは違いすぎる。なんというか……俺に対してあまりにも好意的すぎるのだ。俺のこの「美しい」と言われる容姿のせいか?いや、前世の俺だって容姿は悪くなかった。優しくしているわけでもないのに、いつまでも好意的なわけがわからない。男どもも俺を妬むどころか羨望の眼差しで褒

  • 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈   俺、転生する2

    そんな折俺にとんでもない話が持ち込まれた。なんと「第一王子の婚約者に」と王家に請われたのである。元々父は王と親しかった。宰相である父は、職場である王城で「自慢の息子の話」をたびたびしていたようで、王が俺に興味を持ってしまったのだ。俺が3歳にもならぬうちから「息子の婚約者に」と言い出していたそうなのである。父は「嫡男ですので」とそれをずっと断っていたようだが、ここにきて俺に弟が生まれてしまい「唯一の息子」ではなくなってしまった。弟というスペアができたことで、王家に請われたにもかかわらず断るほどの理由にはならなくなったのである。俺はその話を聞いて何の理由もなく「嫌だ」と思った。根拠などない。第一王子と聞き「嫌だ」と思い、レオンという名前を聞いて「絶対にダメ」だと思ったのである。「父上、嫌です!俺は筆頭公爵家嫡男。王家の嫁になど言語道断。無理を押し通すような王家などこちらから切ってしまえばいい。王家にこう言ってください。「カイトはゴールドウィン家の後継者です。それを挿げ替えろと?ご無理をおっしゃる。王家に我がゴールドウィン家を敵に回すおつもりがあるのならば、婚約をお受けいたしましょう』と。それでも婚約をと言われたら、王家を討ちましょう。それがいい。父上と私ならできます!」

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