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私の彼氏、宮城公 ①

Auteur: 紅城真琴
last update Dernière mise à jour: 2025-04-10 19:49:31

「おはよう」

「おはようございます」

翌朝の病院のコンビニで、当たり障りのない朝の挨拶。

私の視線の先にいるのは、宮城公(みやぎこう)35歳の内科医。

優しい口調と温厚な性格で、患者さんにも人気がある。

10年以上にわたって僻地医療に携わり、今では県内の若手医師のホープと言われている人だ。

そして、私の彼でもある。

ん?

レジに並ぶ公が、私を見ている。

『今日もまたサンドウィッチとデザートなの?』って目が言っているけれど、好き嫌いの激しい私が食べられる物ってこれくらいしかない。

テへへと笑ってみせると、仕方ないなあと公が肩を落とす。

「あら、宮城先生」

そうこうしているうちに、ほらまた患者さん。

「その後いかがですか?」

「はい、おかげさまで」

「季節の変わり目ですからね、気をつけてください。何かあれば受診してくださいね」

「はい、ありがとうございます」

患者さんは笑顔で立ち去った。

こんな調子だから、公には普段からお見合いの話がよくくる。

もちろん、断ってくれてはいるけれど、そのうち断れないようなお見合い話がくるかもしれないな。

***

そもそも、私たちの出会いは2年前に遡る。

研修医のローテで内科を回ったときにお世話になったのが彼だった。

優し気な顔立ち、体格は中肉中背。身長は180センチで165センチの私とも良いバランス。

元々かわいげがなくて、好かれるか嫌われるかのどちらかしかない私は、2年前の内科研修でも苦戦していた。

3ヶ月間の研修中、お局様のベテラン女医に捕まってしまったのだ。

本当なら愛想笑いでもしてかわいらしくすればいいのに、それがでない私は完全にロックオンされてしまい意地悪をされた。

「カルテの整理と、診断書の作成を明日までに終わらせてね」

言い残して帰るお局様。

大量に残されたカルテと書類の束を見ながら、こんなの1人でできるわけないってわかっているのにと落ち込んだ。

***

その日の夜中に医局で1人、カルテの整理と診断書の作成。

どうせやってもケチつけられるとわかっていても、投げ出すことのできないのが意固地な私。

その時、突然声をかけられた。

「何してるの?診断書、何で1から作るの?」

私のデスクに並んだ書類を見ながら、呆れた顔をする宮城先生。

一方、意味のわからない私は口をとがらせる。

「1からじゃなくて、どうやって作るんですか?」

「医療秘書は?」

医療秘書って、ドクターのサポートをしてくれるスタッフ。

「ったく、もう少しうまくやれよ」

宮城先生は思い切り肩を落とし、全く優しくない言葉をかけてきた。

「はあ?」

私もつい顔に出てしまう。

大体、この人はいつも優しくて、患者にもスタッフにも人気の先生。

でも今は・・・別人みたいだ。

「半分よこせ」

「え、でも、先生当直なのに」

「これだけの量、1人でできるわけないだろうが」

「それはそうですが・・・」

先生だって、今夜当直で朝からまた勤務なのに。

「悪いと思うなら、手を動かせ」

「は、はい」

結局、宮城先生は仮眠も取らずに手伝ってくれた。

***

「オイ」

声がかかり、肩を揺すられた。

ヤバ、寝てしまった。

「すみません」

完全に意識が飛んでいた。

「帰って寝ろ」

時刻は、午前3時。

ええええ。

私が寝落ちしている間に全部終わってる。

「本当に、申し訳ありませんでした」

立ち上がり、90度に腰を折った。

「ふーん、お前謝れるんだな」

「はい?」

一体私はどんな人間と思われているんだろう。

「もういいから、今度おごれ。俺はちょっと寝る」

言うだけいって仮眠室へ向って行く宮城先生。

しかし、その時先生のPHSが鳴って、

「はい、宮城です。・・・わかりました。すぐ行きます」

そのまま足早に駆けだした。

きっと、呼び出しだ。

なんだか、すごく申し訳ない事をしたな。

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    「研修医にしてはいいところに住んでるんだな」ファミレスを出て、宮城先生と2人で家の前まで来た。 きっと翼が帰っているのだろう、家には明かりがついている。「実家な訳、ないよな」色々考えながら探るような言葉を口にする宮城先生。「ええ、違います」フフフ。 良い気分。 さっきまで宮城先生ペースだったのに、今は完全に私のペースだ。「良かったら寄っていきますか?」 「嫌、でも・・・」最初は送るからと言われ流れでここまで来てしまったが、私は宮城先生を驚かせたくなった。「コーヒーくらい入れます」 「うん、じゃあ」やっぱり気にはなるらしい。***鍵を開け玄関の中へ。「ただいま」 「お帰り」入り口で立ち尽くす宮城先生。 すると、何も知らない翼が顔を出した。「遅かったな」次の瞬間、 「ええ」 「あっ」 男性2人の声が重なった。よし、勝った。 私はガッツポーズでもしたいくらい。 一方、驚いて声も出ない宮城先生。「お前・・・」 翼は私を睨んでいる。驚かせてごめん。 私が手を合わせて謝ると、翼は肩を落として見せた。「宮城先生、ごゆっくり。失礼します」 一方的に言って、翼は消えていった。「先生どうぞ。2階です」驚いている宮城先生を、私は部屋に案内した。***「シェアハウスって事か」2階に上がった時点で、先生も状況を理解したらしい。「まあそうです」 「随分と大胆だな。変な噂でも立ったらどうする?」 「別に気にしません」何、嫁入り前の娘がとでも言う気? バカらしい。「で、コーヒーは?」 「ああ、そうでした」好き嫌いの激しい私は、食べられないものが多い。 その分好きなものにはこだわりがあって、コーヒーもその1つ。「ブラックでいいですか?」 「ああ、ありがとう。あれ、豆から挽くのか。こだわってるな」 「ええ、ちょっと待ってくださいね」どうしてもインスタントを飲めない私は、家では豆から引いてコーヒーを入れる。 面倒くさいけれど、やっぱり美味しいから。「うまい」 いつもの診察室で見せる優しい笑顔。「ありがとうございます」「ねえ、これは?」宮城先生は壁一面に作り付けられた本棚にぎっしり並べられた本を手に取る。「私の趣味です」 「へえー」並んでいるのは全部医療物。 小さい頃から、私は医療物

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    その後再び宮城先生と話すことができたのは、4月から異動になったドクターやスタッフの歓迎会の席だった。 その日は私たち研修医も部長命令で全員参加したものの、飲み会の花形は赴任してきたイケメンな若手たち。宮城先生も中心から少し外れたところで中堅看護師達と座っていて、私もなんとなく向かいの席に着いた。さすがに医者の参加する飲み会だけあって料理もいつもより豪華だったため、ここぞとばかり私は箸を動かしていた。「お前は、注ぎに行かなくて良いの?」飲み会も中盤に差し掛かった頃、宮城先生の小さな声が聞こえた。「ええ、そういうのは嫌いなので」 「へぇ」と、何か言いたそうな顔。遠くの方では研修医仲間達がかいがいしく片付けやビールの追加を出しているし、夏美と翼はお姉さん看護師達や、若手スタッフに囲まれている。 こうしてみると、品の悪い合コンにしか見えないわね。***2時間ほどで、歓迎会もお開きの時間。「じゃあね、また明日」みんな気持ちよさそうに帰って行く。 何人かは2次会に行くみたいだけれど、私が誘われるわけもなく、ありがたく帰らせていただく。「オイ」 「はい」後ろから声がかかり、振り向くと宮城先生だった。「この間のお礼は?」ああ、そういえば。「いいですよ。どこ行きますか?」 「ラーメンは?」 「入るんですか?」 「ああ」私は無理だ。 歓迎会で、食べ過ぎてお腹いっぱい。 それに、「ごめんなさい。私、麺類苦手なんです」あの、ズルズル吸う感じが好きになれない。「ふーん、じゃあファミレスにするか?」 「はい」ファミレスなら食べられるものがあるから、大歓迎です。 ***なぜか焼き豚丼を頼んだ宮城先生と、ケーキセットを注文した私。「よく食べられますね」 「何で?」 「結構食べてましたよね?」 「悪いか?」 「いいえ」何なのよ、この威圧感。 普段の温厚さはどこにおいてきた?「先生、二重人格ですか?」決して悪口のつもりで言ったわけではない。 でも、あまりにも普段と違う。「お前はわかりやすく裏表がないな」 ちょっと意地悪な顔。「ええ。それをモットーに生きてます」 「医者になるくらいだから頭良いんだろうに、バカだな」 「はあ?」 「生き辛いだろう」 「まあ。そう

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   私の彼氏、宮城公 ①

    「おはよう」 「おはようございます」翌朝の病院のコンビニで、当たり障りのない朝の挨拶。私の視線の先にいるのは、宮城公(みやぎこう)35歳の内科医。 優しい口調と温厚な性格で、患者さんにも人気がある。 10年以上にわたって僻地医療に携わり、今では県内の若手医師のホープと言われている人だ。 そして、私の彼でもある。ん? レジに並ぶ公が、私を見ている。『今日もまたサンドウィッチとデザートなの?』って目が言っているけれど、好き嫌いの激しい私が食べられる物ってこれくらいしかない。テへへと笑ってみせると、仕方ないなあと公が肩を落とす。「あら、宮城先生」 そうこうしているうちに、ほらまた患者さん。「その後いかがですか?」 「はい、おかげさまで」 「季節の変わり目ですからね、気をつけてください。何かあれば受診してくださいね」 「はい、ありがとうございます」 患者さんは笑顔で立ち去った。こんな調子だから、公には普段からお見合いの話がよくくる。 もちろん、断ってくれてはいるけれど、そのうち断れないようなお見合い話がくるかもしれないな。***そもそも、私たちの出会いは2年前に遡る。 研修医のローテで内科を回ったときにお世話になったのが彼だった。 優し気な顔立ち、体格は中肉中背。身長は180センチで165センチの私とも良いバランス。元々かわいげがなくて、好かれるか嫌われるかのどちらかしかない私は、2年前の内科研修でも苦戦していた。 3ヶ月間の研修中、お局様のベテラン女医に捕まってしまったのだ。 本当なら愛想笑いでもしてかわいらしくすればいいのに、それがでない私は完全にロックオンされてしまい意地悪をされた。「カルテの整理と、診断書の作成を明日までに終わらせてね」 言い残して帰るお局様。 大量に残されたカルテと書類の束を見ながら、こんなの1人でできるわけないってわかっているのにと落ち込んだ。***その日の夜中に医局で1人、カルテの整理と診断書の作成。 どうせやってもケチつけられるとわかっていても、投げ出すことのできないのが意固地な私。その時、突然声をかけられた。「何してるの?診断書、何で1から作るの?」私のデスクに並んだ書類を見ながら、呆れた顔をする宮城先生。 一方、意味のわからない私は口をとがらせる。「1からじゃなくて

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   共に暮らす男、福井翼

    「ただいま」家に帰り、自分の部屋のリビングで、ソファーに倒れ込む。「おーい、酔い覚まし飲めよ」 玄関から翼の声がする。「はーい」私は冷蔵庫から翼のお母さんが送ってくれた漢方を取り出した。 うわー、これ苦手なのよね。 でも、明日の勤務のことを考えれば、ありがたいと思っていただきます。ゴックン。 うわ、やっぱり苦っ。「なあ紅羽、お前明日日勤だろー」またまた階段下から大きな声。 ッたく、うるさい。 でも、勝手に入ってこないのが翼だ。 あくまでもシェアハウスなんだから、必要以上に干渉したりはしない。「そうよ。だから寝るの」 「母さんがパンを買ってきてるから、食えよ」へ?言われてドアを開け、2階に上がったところにある踊り場スペースを見ると、紙袋にぎっしり入ったパンが置かれていた。「ありがとう、いただきます。お母さんにお礼言ってね」 「ああ、おやすみ」 「おやすみなさい」いつもありがとうございます。 お母さんは誰が食べているか知らないんだろうけれど・・・ 申し訳ないようで、とってもありがたい。***世間では、とは言っても同期や仲のいい友人の親しいごく一部だけれど、私たちが付き合っていると思っている。 飲み会も一緒に出かけるし、仕事で困ったときにはやはり翼に相談してしまうから、周囲から見れば私たちは恋人同士に見えるんだろう。 でも、違うんだなあ。 本当は、翼の女よけ。それだけの存在でしかない。 世間の常識的にこの関係が正しいのかどうかは別にして、私も翼も今の状態に満足している。 でなければ、大学時代から数えて7年もこんな生活を続けたりはしない。うーん、午後11時か。 ほどよく回ったお酒が気持ちいい。 これで明日が元気なら文句無しなんだけれど・・・ピコン 『ちゃんと帰ったか?』 それは毎日この時間にやってくるメッセージ。 私はイエスのスタンプを返信した。『明日勤務だろ、早く寝るんだぞ』 『分っています』 『ならいい。おやすみ』 『おやすみなさい』これが、毎晩の日課。 実は私には、付き合って2年になる彼がいるのだ。

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   同期の飲み会

    「カンパーイ」 盛り上がる店内。ここは最近評判のレストラン。 なかなか予約が取れないって噂なのに、誰かがコネを使ったのね。「おーい、ビールおかわり」 「こっちはハイボール」 「すいませーん、注文お願いしまーす」色んな所から声が上がる「はーい、お待ちください」店員さんも忙しそう。 そんな中、相変わらず大騒ぎしている若者達は一気飲みや訳のわからないゲームまで。 パッと見は、大学生にしか見えないけれど・・・「これでも医者なのよねー」 「あんたもね」すぐ隣から呆れた声が聞こえてきたから、私も次々とグラスを空けている隣の美女、夏美に突っ込みを入れた。「そういう紅羽(くれは)も、顔が真っ赤よ」自分は全く顔に出さないからって、夏美が笑ってる。「夏美とは違うの。一体どれだけ強いの」私だってお酒が弱い方ではないけれど、夏美が強すぎるのだ。 勤務後、夕方7時から始まった飲み会はすでに2時間以上がたち、みんなそれなりに酔っ払ってきている。 当然、私も夏美もかなり飲んでいるのだが・・・。***私、山形紅羽(やまがたくれは)は27歳の小児科医。 この春やっと研修医の肩書きがとれて、医師として歩き出したばかり。 今日は同じ大学の同期で、付属病院に就職したメンバーとの飲み会。 夏美は大学の同期で、私と同じ小児科医。 本当はお金持ち開業医の娘なのに、チョー現実主義者。 今だって、「もったいないから、ほら飲みなさい」と、良い所のお嬢さんとは思えない発言を繰り返している。「ほんと、黙っていれば美人なのにね」 「紅羽、やかましい」あら、聞こえてた。「こら紅羽、飲み過ぎだぞ」今度は、どこからともなく現れた翼が注意する。「はいはい、分ってます」福井翼(ふくいつばさ)は大学からの同期。 同じ病院の救命医として勤務している。 見た目は雑誌から飛び出てきたような、THE王子様。 顔が良くて、頭が良く、それで性格の良い奴ならモテないはずがない訳で、当然のように学生時代からかわいそうなくらい目立っていた。「飲み過ぎるなよ。介抱なんてごめんだからな」 耳元に口を寄せ、翼が小声でささやく。ッたく、不必要なまでにいい男。 ここまでくると、嫌みよね。「分っているわよ。自分の足でちゃんと帰ります。ご心配な

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