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娘の命が危ないのに、夫は幼馴染とサッカー観戦していました
娘の命が危ないのに、夫は幼馴染とサッカー観戦していました
作者: 悲しいカエルさん

第1話

作者: 悲しいカエルさん
「大丈夫、もう少しだよ。パパがすぐに来るからね」

私は娘の手をしっかりと握りながら励ました。

しかし、青の呼吸はまた苦しくなり始めた。もう我慢できず、再び司に電話をかける。

コール音が長く続き、諦めかけたそのとき、ようやく彼が出た。

「またかよ。医者に薬でも使わせればいいだろ?どうして俺を呼ばなきゃいけないんだ?」

不満げな声が響いた。

「司!娘の状態は本当に深刻なの。医者たちも薬を使うのを躊躇してる。司が来なきゃダメなの!」

私は電話越しに怒鳴った。

背景からは騒々しい歓声が聞こえてくる。司の声が続く。

「ほら、いい子にして。月悠の好きな選手、もうすぐ出てくるよ。こっちはもうすぐ終わるから」

その後、冷たい口調でこう言い放った。

「娘の病気のことなら心配いらない。これ以上、娘を口実に俺にしがみつくなよ。でないと、本気で怒るぞ」

何も言い返せないまま、電話は切れた。

青が力なく目を開け、小さな声で言った。

「ママ……死にたくないよ……パパは来ないの……?」

私は涙をこらえ、娘をなだめた。

「来るよ。大丈夫、パパは青が一番大好きなんだから。

林先生、他に方法はありませんか?」

私は医師にすがるように問いかけた。

林先生は無念そうに首を横に振る。

「できる限りの手は尽くしました。白羽先生がいれば、きっとなんとかできたはずですが……もう一度彼に電話してみます」

私は何度も頷き、期待を込めて見守る。

しかし、電話から返ってきたのは「電源が切られています」という機械的な声だった。

その一言が、私たちの希望を打ち砕いた。

「ピーッ――」

娘の心電図が直線を描く。

「急いで、除細動器を!」

林先生の指示が飛ぶ。娘の全身に広がった赤い発疹が私の胸を締め付ける。医療チームに押しのけられ、私は後ろへ追いやられた。

力が抜け、床に崩れ落ちる。涙で視界が滲む中、私はただ祈った。

「どうかこの子を連れて行かないで……」

だが、白い布が娘の体を覆う瞬間を目にしたとき、私は耐えきれなくなり、駆け寄った。

「嫌だ!まだ生きてるはず!この子を助けて!手がまだ暖かい!」

そばにいた看護師が私を引き離し、低い声で言った。

「奥さん……ご愁傷様です。この子が痛みを感じずに行けるようにしてあげましょう」

娘を失ったことで、私の心は深い絶望に沈んだ。

それでも、私は娘の後始末を懸命にこなした。

その間、司からの連絡は一切なかった。まるで彼が存在しないかのように思えるほどだった。

無心で娘の骨壺を何度も拭き続ける日々。

三日後、ようやく司が帰ってきた。

私は無表情で彼を一瞥しただけで、何も言わなかった。

彼は少し顔を曇らせたが、冷たい声で言った。

「そんな泣き面して、誰に見せるつもりだ?」

そして彼が差し出した箱には、またあの同じ人形が入っていた。

「これ、お前と青へのプレゼントだ。もう機嫌直せよ」

人形を見た瞬間、娘の言葉が脳裏をよぎる。

「ママ、見てよ。パパ、また同じ人形買ってきた。もう三つ目だよ。私、こんなの全然好きじゃないのに。パパって本当に適当だよね」

私は娘の頭をなでながら、司をフォローしたものだった。

「パパ、仕事が忙しいんだよ。毎日たくさんの患者さんを診てるんだから、大変なんだよ。このくらいのことで怒らないであげて。

ママが約束するよ。帰ってきたら、ちゃんとパパを叱って、青の好きなものを買わせるからね」

娘は困った顔をしながら言った。

「もういいよ、ママ。パパってすごい人なんだし、私は怒らないよ。

ママ、パパのご飯残しておいてね。残業から帰ってきたらお腹空いてるだろうし」

私はそんな気遣いができる娘を愛おしく思い、彼女のほっぺにキスをした。

「分かったよ、ママがちゃんとやっておくからね」

娘にとって、彼女のパパは怪獣と戦うヒーローだった。

だからこそ、彼を責めることなんてできなかったのだ。

でも、司は本当にそんなに忙しかったのだろうか?

いや、違う。彼は幼馴染の湊月悠(みなと つくよ)と過ごす時間を優先していただけだった。

私は、我慢を重ねれば家族の形を保てると信じていた。

だけど、それが間違いだったと気づいた。

こんな男のために、私は娘の命を犠牲にしてしまったのだ。

私は彼に冷ややかな目を向け、静かに言った。

「もう必要ない。私も娘もあなたなんて要らない。

離婚よ。今すぐ出て行って」

司の表情が険しくなる。

「夏音(かのん)、俺の我慢も限界だぞ。またその話をするなら、後悔することになるからな」

私は振り返りもせず、娘の骨壺を慎重に安置し、彼が持ってきた人形をゴミ箱に投げ捨てた。

「夏音、何してるんだ!どうして青へのプレゼントを捨てるんだ!」

彼は私の手首を強く掴み、詰め寄った。

私は叫んだ。

「娘はもういないのよ!今さら父親ぶるつもり?」

婚約指輪を外し、彼の胸に投げつけた。

「湊と一緒にサッカーでも何でも観てくれば?もう誰にも邪魔されることはないわ」

司の顔を見るたびに、嫌悪感が増していく。

盲目だった自分が、ただただ悔しい。

感情のない人間を温めようとするなんて、無駄だったのだ。

大学時代、私が不良に付きまとわれたとき、司が助けてくれたことがあった。

その際、彼はケガを負い、私は二か月間かけて彼を看病した。

そのうちに、私は彼に恋をしていることに気づいた。

けれど、彼の心はいつも月悠に向いていた。

彼は何度も私を拒絶した。

「水巻さん、助けたのは俺が心からしたいことだ。あの夜、誰でも同じことをしただろう」

涙を浮かべながら私は首を振った。

「司、私はあなたを愛している。この感情は、感謝なんかじゃない。愛よ」

彼は私の涙を拭いながら言った。

「少し時間が欲しい。俺たちの関係について、ちゃんと整理したいんだ」

私は慌てて頷き、彼を信じることにした。

でも、ほどなくして彼と月悠が付き合い始めたという噂が広がった。

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