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第 0887 話

Author: 水原信
鋭い声が響き渡った。

立ちはだかったのは、他でもない、毒に倒れたはずで一時的に目覚めることはないと思われていた清墨だった。

白夜は反射的に海咲を背後にかばい、低い声で言った。

「彼女をここから連れて行く」

清墨は答えず、わずかに手を動かすと、ジョーカーが部下を率いて二人を包囲した。彼らは別の安全な場所へと連れて行かれた。

だが、彼らがそこに到着するや否や、新たな緊急報告が飛び込んできた。

「若様、大変です!淡路長老が反乱を起こしました!」

清墨は口元に冷笑を浮かべた。淡路朔都の反乱は時間の問題だった。ただ、白夜が海咲を連れて実験室から逃げ出したことで、淡路朔都の動きが早まったに過ぎない。

白夜
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