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第258話

和泉夕子の胸が温かくなった。白石沙耶香はいつもそうで、彼女のために何でもしてくれる。沙耶香はただの良き姉だけでなく、夕子が暗闇に閉じ込められていたときの、唯一の希望の光でもあった。

こんな温かい人を、自分と一緒にイギリスに行かせて危険に巻き込むなんて、到底できることではない。

「私と池内蓮司の関係は複雑すぎて、未来がどうなるかなんて予測できないの。沙耶香を巻き込みたくないんだ」

「心配してくれてるのはわかる、でも、夕子……」沙耶香は夕子をじっと見つめ、揺るぎない眼差しで言った。「私はもう、家族はあなただけなのよ。あなたがいるところが、私の家」

「あなたがいるところが、私の家」というその言葉に、夕子はずっとこらえていた涙が一気に溢れ出してしまった。

沙耶香は彼女の背中を優しくなでながら、「泣かないで、夕子。イギリスには行ったことがないから、ちょっと見物に行く気分でね」と穏やかに言った。

夕子はもう一度沙耶香を説得しようとしたが、沙耶香は急に「あ、しまった!」と叫んだ。「忘れてた、私って学歴もないし、英語なんて『ハロー』とか『サンキュー』ぐらいしかわからないわよ。そんな状態でどうやってイギリスの連中と話すのよ?」

沙耶香は深刻そうな顔で、「手振りだけで通じると思う?」と自分に問いかけた。

夕子は涙を流していたが、沙耶香の独り言で笑みが戻り、感動の余韻もかき消された。彼女は涙を拭いながら、沙耶香に突っ込んだ。

「イギリスに行ったら、外国人はあなただよ」

沙耶香はやっと理解したように、「そうよね、私が外国人だ!彼らのほうが私に合わせるべきね!」と納得顔で言った。

夕子は微笑みつつ、「沙耶香、本当に決めたの?」と確認した。

沙耶香は彼女がようやく微笑んだのを見て、改まった表情で言った。「決めるも何も、あなたについて行くだけ。けど、少し時間をちょうだい。ナイトクラブの整理や……それに、霜村涼平とのことも片付けないと」

夕子は沙耶香の表情から、彼女が霜村涼平への未練がないことを感じ取った。霜村涼平は沙耶香にとってただの一時的な関係だったのだろう。

「以前、彼から離れたいって言ってたよね。でも、彼が放してくれないって。霜村涼平が簡単に手を引くとは思えないけど……」

沙耶香は少し考えた後、「その通りよ、彼は私を手放すつもりはないわ。でも、彼が私を愛してい
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