第29話

私の第三の一手は、実のところ、誠司の「再生」によって狂わされることはなかった。

人間というのは、自分の尺度で他人を測るものだ。

特に誠司のような冷徹なビジネスマンならなおさらだろう。

彼の目には、今夜の私の行動はこう見えるはずだ。

白川家のリソースを利用して桐島家の株を強引に買収し、裏で取締役会を操って亮一をトップに据える。

だが、彼は第二の選択肢があるなんて夢にも思っていない。

何しろ彼自身、今夜を待ち焦がれているのだ。自らの栄光の復活を遂げるために。

でも、私がそんな彼の思惑通りに進ませるはずがない。

最初から、私の第三の一手は「敵対的買収」なんかじゃなかった。

桐島家の会長は素晴らしい実業家だ。

勤勉で、社員を大切にし、そして白川家のことも信頼してくれている。

彼が今夜心臓発作を起こすかもしれないと知っていたなら、対策を講じない理由なんてない。

誠司が「再生」してからまだ1ヶ月。彼は知らないだろうが、桐島会長は半年以上前から定期的に健康診断を受け、薬も以前より多く服用している。

彼の体調は以前の運命よりも遥かに良くなっていた。

最初から、私の目的は誠司への疑念を桐島会長に抱かせることだった。

第一の一手も、第二の一手も、そのための布石だった。

第三の一手は、誠司に敵対的買収を計画していると錯覚させるための演出だ。

誠司が極端な行動を取れば、それまでの不信感も加わって、桐島会長はきっと彼を後継者から外すだろう。

以前よりも彼を川沿いに呼び出したのも、そのための小細工の一つだ。

誠司を桐島家本社に残しておけば、私たちの仕掛けを見抜かれる可能性が高かったから。

今夜の「クーデター」は、桐島会長の協力もあって成り立ったものだ。

父が「誠司には不穏な動きがあるかもしれないから試してみては」と進言し、桐島会長はその提案を受け入れてくれたのだ。