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第 58 話

Author: 一笠
口コミ通りの美味しいスイーツだったが、凛にはあまり食欲がなかった。

凛の機嫌が良くないのを見て、輝は早めに彼女を臨璽山荘に送り返した。

「姉さん」

凛が車から降りるのを見て、輝はためらいがちに言った。「もしかして、煌の言葉を聞いて、叔父さんのことを怒っているのか?」

「ううん。帰り道、気をつけてね」

そう言うと、凛は別荘に向かって歩き出した。

輝は仕方なく聖天にメッセージを送り、スイーツ店で起きたことを簡単に報告した。

メッセージが送信されると、聖天はそれを読み終える間もなく、凛がドアを開けて入ってくる音が聞こえた。

凛は玄関で靴を履き替えながら、靴箱の中の男性用の革靴を見て、少し驚いた。聖天
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