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第 108 話

Author: 一笠
「もう一度、撮影し直したい」

「いいわよ」

凛はそう言ってから、輝がじっと自分を見つめているので、嫌な予感がした。

輝は何も言わずに、凛をじっと見つめていた。まるで、彼女に何かを気づかせようとしているかのようだった。

凛は心の中でぞっとした。「まさか、私に撮ってほしいなんて言わないわよね?」

「その通り!」

輝は目を輝かせて言った。「姉さん、この前、一緒に撮影現場に行った時、姉さんが写真に興味を持っているのがわかったんだ。だから、今、姉さんにチャンスをあげる」

「俺がモデルになるから、姉さんは好きなように撮ってくれ。どうだ?」

「嫌よ」

凛は迷わずに断った。

「あなたが本当に面目を立て直したい
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