第2話

彼女の名前は涼子。

雅也の初恋の女だ。

涼子は佐藤家の私生女で、佐藤夫人は彼女を認めない。そのため、彼女の立場はいつも微妙で複雑だ。

しかし、広末家の親類が二人の関係を反対し、涼子は自尊心が強く、侮辱に耐えられず雅也を捨てて遠くへ行った。それ以来、彼女の消息は全くない。

当初、雅也が私に一目惚れしたのも、私と涼子の顔が似ていたからだ。

今、本物の涼子が戻ってきたので、私という代用品はもう必要ない。

涼子が戻ってきたのは、ちょうど雅也がここ二ヶ月間忙しく過ごしていた時期と重なっている。

この展開は、全てが合理的につながっている。

そんな話を聞くと、思わず苦笑してしまう。

まさか、こんなありきたりのドラマチックな「代用品」のストーリーが自分の身上に当てはまるとは思わなかった。

涼子は結婚式を強行することで、雅也への所有権を主張し、私が長年「広末夫人」として占めていた地位への復讐を果たそうとしている。一方、雅也はその場で涼子への一貫した愛を示し、怒ってる彼女をなだめ、広末家に涼子を認めさせようと計画している。

私と丁寧に準備された結婚式は、彼らの遊びの一部に過ぎない。

この世界は、巨大な「独裁者小説」のようになっている。

正直、あまりの展開に思わず悪口を言っちゃった。

その夜、私の家の灯りはまだ消えていない。

翌日結婚式なのに、私は荷造りに忙殺されている。

二時間前には、国外行きのファーストクラスのチケットを予約していた。

彼が涼子に奪われるなら、私も礼儀正しく「姿を消す」ことで逃げ出すつもりだ。

幸い、私の家族は既に国外に住んでいて、今回の結婚式でも遠方の親類や友人を招く手間がなかった。国内で仲の良い友人だけを呼ぶことにした。

当初は、両家の親が結納の際に会っていたので、国外で改めて結婚式を行うことで、言葉の問題もなくなると考えていた。

この計画が、今の私の逃亡を容易にしてくれた。

親友の綾乃に私の考えを簡単に話すと、彼女は無言で私の手から荷造り箱を取り上げ、真剣な顔を浮かべた。

彼女の心の声は読めないが、彼女の反応がおかしいと思った私は声をかけた。

「綾乃、私を止めようと思って？」

綾乃は目線を上向けて、少し機嫌を損ねた様子で言った。

「バカ。私は尿素を入れる麻袋を持ってきたんだよ。これなら荷物を入れやすいでしょ」

ああ、綾乃の家は農薬業をやってることを忘れていた。

結婚式当日、ウェルカムドレスを着た私は雅也と一緒に遠方から来たゲストを歓迎した。

その時、雅也の心の声が私の頭を痛くした。

「涼子は来たか？」

「ついに涼子と一緒になる。三年間、涼子を待った。彼女がついに広末夫人になるんだ」

「この強行結婚で、涼子は私の心が変わらないと信じてくれるだろう」

......

雅也の言葉に、私は思わず悪寒を感じ、何度も彼を見つめた。しかし、彼の表情はいつもの優しいもので、気にかけてくれた。

「純子、顔色が悪いみたいだね。休憩室で少し休んだ方がいいかもしれない。ゲストの受付は私がするから、結婚式の開始時に戻ってきて」

そうだね。

私にとって、これほど良い逃げ道はないだろう。

私は軽く頷き、控え室で普段着に着替えようと思っていた矢先、涼子と偶然出会った。

似た顔と心の声のおかげで、彼女を一瞬で見分けた。綾乃が伴娘のドレスを着て、雅也を殴ろうとしていた腕を押さえ、何も知らないふりをした。

「あなたは雅也の友人？早く中に入って。あと数時間で結婚式が始まるよ」

涼子の笑顔が急に消え、私の雅也に対する親密な呼び方に不満げに、少し皮肉な口調で言った。

「松本さん、申し訳ありませんが、今日ちょっと同じ服を着てしまったね。知らない人が見たら、新婦は私だと思うかもしれないわ」

涼子の心の声が同時に耳に響いた。

「笑っていられるかしら。あと三時間で、あなたの新郎は私のために逃げてしまうわ。その時も笑っていられるかしら？」