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彼の心の声を聞いて、結婚から逃げ出しました
彼の心の声を聞いて、結婚から逃げ出しました
Author: 木村綾香

第1話

私は特別な能力を持っていて、私を好かない人の心の声が聞こえる。

この能力で、他人の愛情が本物かどうか簡単に見抜ける。

偽の友人たちからは距離を置け、長年片思いしていた男性からの告白にも動じなかった。

ドリアンを買うときも、売人の心の声を聞いて最も美味しいのを選ぶことができた。

彼らの心の声をはっきりと聞くことができる。

だから、普段はあまり見知らぬ人と目が合うことを避け、耳に入りすぎないように気をつけている。

しかし、初めて雅也に会ったとき、世界は私たち二人だけの静かな対話を残して、すべてが静まった。

「こんにちは、時間があれば、お互いの事少し知り合わない?」

心の声が聞こえなかった。

目が合った瞬間、雅也の心の声を読むことができなかった。

「こんにちは」

雅也が私を追求する間、私の耳に入るはシンプルで純粋な声だけだった。

私は信じてる、彼は私を愛している。

そして私たちは恋に落ち、交際し、結婚の話まで進んだ。

二年間、彼の心の声を読んだことが一度もない。

しかし、結婚式を目前にしたある日、急に雅也の心の声が聞こえるようになった。

結婚の準備のために、雅也は最近特に忙しくなった。

彼の家は裕福で、すでに父親から経営を引き継いだ、広末家の金融会社を一人で管理している。

結婚のスケジュール調整のため、私たちはたくさんのことを前もって処理しなければならなかった。特にここ二ヶ月はそれが顕著だった。

私はいつも自立心のある女性で、雅也の仕事にも敬意を払っている。

そのため、この期間中、私たちが会う機会は非常に少なかったが、今日は衣装の最終チェックの日で、久しぶりに二人きりになると思うと、胸がキュンとなる。

指定された時間にスタジオに着くと、すでに雅也が靴を試していた。

スタッフに何か指示を出した後、電話を片手に話しながら外に向かって歩き出した。その言葉には、相手をなだめるような意味合いがあった。

彼の忙しさは理解できる。会社を任されているから、簡単なことではない。ましてや、広末家には雅也以外にも継承者がいる。

私たちは互いの視線が合った。

しかし、その瞬間、雅也の声が私の耳に響いた。

「涼子が明日結婚を強行するって言ってるけど、運動靴の方が逃げるのに便利そうだな」

涼子?結婚を強行?

彼の言葉に私は呆然と立ち尽くし、彼の唇を見つめ、これが本当に彼の心の声であることを確認した。

夏の強い日差しが外に照りつけているのに、冷たい感覚が全身を駆け巡り、動くことができなかった。

彼の心の声が聞こえるようになったということは、それだけでも十分に意味がわかる。

私の視野の端に、スタッフが指示通りに結婚式用の服の中に軽い運動靴を入れているのが見えた。雅也は私に頷き、足を運んで外に向かおうとしていた。

これは私たちの間の合図で、彼には重要な用事があるはずだ。

しかし、先ほど耳にした言葉は偽りなく、私が聞き間違えることはあり得ない。

身体が勝手に動き出し、信じられない気持ちで追いかけた。

「雅也?」

私はもっと多くの心の声を読み取りたいと思っていた。目の前にいる、私の婚約者として振る舞っている男が、いったい何を考えているのか知りたかった。

なぜ今になって、結婚式の直前に心変わりしたのか。

私の呼びかけに、雅也は後部座席に足を踏み入れようとしていた足を止めたが、すぐに振り向き、急いで説明した。

「ごめん、急な用事が入ったから、すぐにお客さんのところに行かなければいけない」

彼は嘘をついている。

その瞬間、彼の心の中にはこんな思いが浮かんでいた。

「電話の声を聞く限り、涼子が怒ってるな。そのままじゃまた今夜帰らせないだろう」

私は自分を消耗させるだけの女じゃない。考え込むよりも、積極的に行動することを選んだ。

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