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第172話

Author: 木真知子
「叔母様!あなたがいてくれて本当に助かった!」柔は感激のあまり涙がこぼれそうだった。

その時、突然会場が騒ぎ始めた、名家の令嬢たちの視線が一斉に入り口に向かった。

そこには、隼人と優希が肩を並べて登場し、二人とも人々の注目を集めていた。

周囲の全員が、この二人の天才たちに視線を奪われていた。宮沢家と本田家、どちらもそれぞれが巨大な影響力を誇り、この二人が揃う姿は、すべての女性の心を躍らせるには十分だった。

二人ともビシッとスーツを着こなし、隼人は黒のスーツで冷静かつ威厳に満ちた佇まいを見せ、圧倒的な存在感を放っていた。一方、優希は白いスーツで爽やかさと貴族的な雰囲気を漂わせていた。

「なんて素敵な二人なの!」

「この二人を同時に見られるなんて、生きててよかった!」

「隼人社長のあの長い足にあの顔!あれって乙女向けゲームキャラクターのモデルじゃない?完璧すぎる!」

「それに優希様!あのちょっと悪そうな笑顔がまた最高!もう大好き!」

柔は、ホッとするように笑いながら、優希に視線を向けてぼーっとしている白露を軽く突ついて、「お姉様、優希様ってほんとに人気あるよね。ずっと彼が好きだったけど、いつになったら彼を手に入れるつもり?」

「慌てないで!焦っても意味ないわ。優希様はいつか私のものになる!」と、白露お嬢様は不満げにつぶやいた。

「でもさ、他の女性たちが優希様を見ている目、まるでお肉を見る目みたいじゃない?お姉様、早くしないと、いつか取られちゃうんじゃない?」

その言葉に、白露は奥歯を噛み締め、苛立ちを隠せなかった。

彼女は、優希の妻になりたくて、いつも夢にまで見ていた。彼女は本田家の若奥様になることを願っていた。

だが、あの日、優希に恥をかかされたことを思い出すと、全身が震え、恥ずかしさに身を隠したくなってしまう。

しかし、彼女は絶対に諦めることはなかった。諦めれば、きっと柔に笑われるに違いない。

隼人と優希がこちらに向かって歩いてくるのを見て、柔の心は隼人に向かって飛び込みそうになって、すぐにでも駆け寄ろうとしたが、その瞬間、再びすべての視線がドアに集中した。

夕日がまばゆく輝く光の中、一人の美しい女性がゆったりと歩いてきた。

その優雅な姿は、まるで絵のように美しく、彼女は柔にとって目の敵であった——小春だった。

「小春.....
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