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第297話

啓司が交通事故に遭い、視力を失ったことはあまり長く隠されず、数日後には大手メディアがこぞって報道した。

その結果、黒木家が所有する黒木グループの株価は大幅に下落した。

株主たちは一時的にパニック状態となった。

高齢の黒木おお爺さんも、やむを得ず事態の収拾に乗り出した。

唯は紗枝が借りている家にやってきて、テレビで放送されているニュースを見ながら感嘆した。「まさかこんなことになるとは思わなかったよ。数日前まではあんなに意気揚々としていたのに、今では目が見えなくなっちゃって」

「黒木グループみたいな大企業、一体誰が引き継ぐんだろう?」

紗枝はりんごを切って彼女の前に差し出した。

「唯、お願いしていた再起訴の件、どうなった?」

唯の表情が少し曇った。「紗枝、ごめんなさい」

「どうしたの?」

「数日前、あなたと啓司の離婚訴訟が大々的に報道されてしまって、それをうちの父が見ちゃったの」唯はため息をついた。「私が仕事を見つけたことも彼は知っていて、私を折れさせるためにコネを使って弁護士資格を取り消させたの」

紗枝は驚いて声を出した。

「そんなことってあり得るの?」

「私を澤村家に嫁がせるために、父はそんな手段なんてなんとも思わないのよ」

清水家は成り上がりの家庭で、清水父は幼い頃貧困に苦しみ、その反動で彼の年代になってからは貧困への恐怖が強く、また貧乏な暮らしに戻ることを何よりも恐れていた。

だから、娘を裕福な家に嫁がせ、娘が生活に困ることなく、さらには実家も助けられるようにと願っていた。

「それで、今はどうするつもり?」と紗枝は聞いた。

「事務員の仕事を見つけたわ。月に二十万だけど、節約すればなんとかなる」唯は父に屈するつもりはなかった。

「もし何か私にできることがあれば、遠慮なく言ってね」紗枝がそう言った。

唯は何度もうなずいた。「うん」

「今度、他の弁護士を紹介するから…」

唯が話し終える前に、紗枝のスマホが鳴り始めた。

彼女が電話に出ると、それは綾子からだった。「啓司が言っていたわ。もう離婚の訴訟はしなくていいって。彼は離婚に応じるわ」

「明日の10時に市役所に行きなさい」

綾子はそう言うと、すぐに電話を切った。

彼女はすでに考えをまとめていた。啓司がまだ生きている限り、その方面の問題はない。

紗枝と離婚した後、多少お
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