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第784話 言ったはず

Author: 花崎紬
last update Last Updated: 2024-12-25 18:00:00
晴は晋太郎の後ろに立ち、目で合図して隆一に早く話を切り出すよう促した。

隆一は覚悟を決めたように口を開いた。

「晋太郎、昨夜……大丈夫だった?」

「ああ、紀美子とよりを戻した」

晋太郎は二人を一瞥して答えた。

「よりを戻したんだね……」

晴は呆然と頷いて相槌を打った。

「ああ、そうか、よりを戻したんだ……」

隆一も状況を飲み込めない様子で言った。

そして二人は顔を見合わせた。

次の瞬間、彼らは目を大きく見開いた。

「ちょっと待って!」

隆一と晴が同時に叫んだ。

「よりを戻したって!?本当か!」

「どうした?何か不満でもあるのか?」

晋太郎は眉をひそめ、不満げに問い返した。

「そんなわけないだろう!」

晴は興奮した様子で一歩前に出た。

「それって、紀美子から言い出したの?それともお前がまた誘ったのか?」

「誰からだって構わないだろう。結果が大事なんだ。晋太郎、これからどうするつもりだ?」

隆一は舌打ちして言った。

「これからって、何を指しているんだ?」

晋太郎は怪訝な表情を浮かべた。

「もちろん、恋愛モードを始めるんだよ!」

隆一は言った。

「ちゃんと説明しろ」

晋太郎は理解できない様子で言った。

「つまり、よりを戻しただけで何もしないのはダメだってことだ!今からお前たち、恋愛を始めるんだよ!」

晴が助け舟を出した。

「それで?」

晋太郎はさらに質問した。

「もちろん、花を贈ったりプレゼントを渡したり、食事に誘ったりするのさ!」

隆一は言った。

「少なくとも、毎日一束のバラは必要だ!」

晴は言った。

「そうだよ。少なくとも、彼女が世界で一番幸せな女性だってことを知らせなきゃ!」

隆一も同意して言った。

……

午後。

紀美子が会社に戻ると、受付の社員が彼女を呼び止めた。

「社長、贈り物が届いています」

女性社員はそう言いながら、後ろの椅子に置かれていた巨大なバラの花束を苦労して持ち上げた。

自分の体幅よりも大きなその花束を見て、紀美子は目を見開いた。

これ……少なくとも99本はある。

送り主が晋太郎であることは間違いなかった。

紀美子はため息をつきながら花束を抱え、エレベーターでオフィスに向かった。

オフィスのフロアに着くと、佳奈がバラの花束を抱えた紀美子を見て驚いた声を上げた。
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    紀美子は反射的に電話を取った。「もしもし?」「紀美子!」晴からの声は焦りに満ちていた。「今、時間ある?すぐ晋太郎を迎えに来てくれ!今から位置情報を送る。とにかく早く来てくれ!大変なことになったんだ!!」それを聞いて、紀美子の胸は不安で締め付けられた。彼女が何かを聞く間もなく、晴は電話を切ってしまった。晴が言った、「大変なことになった」という言葉を思い出すと、紀美子は不安で鼓動が早くなった。そして布団を投げ、慌てて服を着た。丁度その時、晴から位置情報が送られてきた。彼女は携帯を開き、地図上に表示された「サキュバスクラブ」という名前を目にすると、冷静さを取り戻した。今は隆一も戻っているし、晴もいる。おそらく彼ら二人に連れ出されて飲みに行ったのだろう。これまで彼らに呼び出されて晋太郎を迎えに行ったことは何度もあった。「大変」などと言われても……紀美子が少し腹を立てながら携帯を手に取り、拒絶のメッセージを送ろうとしたその時、晴から一枚の写真が送られてきた。写真には、頬を赤らめて目を閉じ、ソファにもたれかかる晋太郎の姿が映っていた。普段、彼が友達にここまで振り回されることはない。この写真を見た彼女は、彼がどれほど酒を飲まされたのかを悟った。彼女はため息をつき、メッセージを送った。「分かったわ。今すぐ行く」そしてコートを羽織り、車のキーを手に取った。今回はボディーガードを呼ぶことなく、彼女は自分で車を運転してバーへ向かった。到着すると、紀美子は直接個室に向かった。ドアを開けると、そこには晋太郎一人しかおらず、晴と隆一はどこかに行ってしまっていた。紀美子はまるでからかわれているような気がして、少し腹が立った。彼女は息を呑み、晋太郎の前に歩み寄った。彼の腕を肩に乗せようと身をかがめた瞬間、晋太郎が突然目を開けた。紀美子だと認識すると、晋太郎は彼女を一気に引き寄せ、抱きしめながら後頭部に手を回し、熱いキスをした。酒の匂いと共に感じた熱い息遣いに、紀美子は反射的に押しのけようとした。「晋太郎……んっ……噛まないでよ……痛い……」晋太郎は片手を放し、紀美子の手首をしっかりと掴んだ。彼は紀美子の唇を離したが、暗い個室の中でも紀美子は晋太郎の瞳に映る欲望を感じ取った

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    塚原悟はチェリーを一個取り、入江紀美子に渡した。「この話はあまりにも現実的すぎだ。そうだろう?」紀美子はじっと悟を見つめた。通常であれば、彼女と森川晋太郎がこれからやろうとしていることを、悟が分かるわけがなかった。なぜ悟はいきなりそんなことを聞いてきたのだろう。「そうよ」紀美子は彼の話に合わせることにした。「だから」悟は続けて聞いた。「もし彼の父親がいなくなったら、君は彼と元通りになるのか?」「わからないわ。それまでに自分と晋太郎との間に何かが起こるかもしれないし、今ははっきりとした答えを出せないの」「分かった、もうこんな煩わしいことを話すのは辞めよう」そう言って、悟は立ち上がった。「もう遅いから、そろそろ帰るよ、明日朝早いし」「まだ19時半だけど?」紀美子は時計を眺めた。「君は、俺に帰ってほしくないのか?」悟はコートを着ながら冗談を言った。「い、いいえ、私はそんな意味じゃ……」紀美子は恥ずかしくて顔を赤く染めた。「大丈夫だ」悟は腰を下ろして紀美子の耳元で囁いた。「本気で受け止めてなんかいないさ」その挙動は、紀美子の顔を更に赤く染まらせた。彼女は急に立ち上がり、悟の後ろに回った。「送ってあげる!」二人は玄関まで行って、悟は隣の別荘を眺めた。「さっき来たときに気づいたんだけど、隣の別荘はもう売りに出したのか?」「うん、今日の午後手続きを終わらせたけど、なんだか買主が随分と急いでるみたい」悟は暫く隣の別荘を眺めていた。うす暗い街灯の光が、彼の瞳に映りこんで揺れていた。紀美子が気になって聞こうとすると、悟は視線を戻して車の鍵を出した。「もう帰るね、外は冷えてるから、君は部屋に戻って」紀美子は玄関で悟に手を振り見送った。夜。夜9時半頃。森川晋太郎は田中晴、そして鈴木隆一と一緒に外で酒を飲んでいた。「佳世子はもうお前を手放したのか?なんだか随分と自由だけど。晋太郎が憂鬱な目で晴を見て聞いた。「俺が遊びに出てきたとでも思ってんのか?俺はあいつに、あんたと紀美子の幸福のための対策検討会に出ると言って来たんたぞ!」晋太郎はテーブルに並んでいる酒のボトルを眺め、あざ笑いをした。「酒の場で俺の幸せを検討する?」「いや、俺

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第779話 遠慮はしなかったわ

    入江紀美子はてっきり露間朔也が帰ってきたと思ったが、来たのはまさかの塚原悟だった。悟は果物を持ったままディナールームの方を眺めた。紀美子を見て、彼は手に持っている袋を振ってみせた。「果物しかもってきていないけど、タダ飯を食べていいかな?」紀美子はいきなり訪ねてくる悟を見て驚いた。「来るなら言ってくれればいいのに」「君と子供達がきっと家にいると思って、ちょっと寄り道をしてきたのさ」悟はスリッパを履き替えながら説明した。紀美子は頷き、悟と一緒にディナールームに入った。子供達は一斉に悟を見つめた。「念江くん、随分と顔色がよくなってきたな。ちゃんと薬を飲んでるか?」悟は森川念江に言った。「悟おじさん、こんにちは」入江ゆみは悟が持ってきたチェリーを見ると、嬉しくてはしゃいだ。「悟お父さん、やっぱりゆみの大好物がわかってるね!」悟は微笑んでゆみの頭を撫でた。「後でご飯を食べたら、悟お父さんと一緒にリビングで食べよう、ね?」「うん!悟お父さん、こちらへ!」ゆみは頷いて、紀美子の隣の席を指さした。「やっぱり、悟お父さんはゆみのことしか心にないんだ?」悟が座ってから、入江佑樹が冗談を飛ばしてきた。「ごめん。みんなで一緒に果物を食べるつもりだったんだ」悟は少し驚いて、慌てて説明した。松風桜舞が悟に茶碗とお箸を渡した。「佑樹くんは最近ますますませてきたわね。気にしないで、悟さん」紀美子が言った。悟はリビングを見渡して、「朔也はまだ帰ってきていないのか?」と尋ねた。「最近工場の方が忙しくて、いつも食堂で食べてるのよ。彼が帰ってくると大体食事の時間は過ぎているから」紀美子は説明した。悟はただ頷いて、何も言わなかった。食事の後、子供達は悟が買ってきたチェリーを持ってはしゃぎながらリビングに走って行った。紀美子と悟は隣で子供達を見守った。「今日、単にご飯だけを食べにきたわけじゃないよね?何かあったの?」紀美子が尋ねた。「いいえ」悟は素直に答えた。「暫く来ていなかったし、主任になって少し時間的に余裕ができたから、寄り道をしただけさ」「病院はこの藤河別荘に近いし、もし食堂の飯が飽きたらいつでも桜舞の手料理を食べに来て」「それじゃお言葉に甘えて」悟

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第778話 一緒に行ってくる

    MK社にて。杉本肇は一人の中年男性を連れて森川晋太郎の事務所に入ってきた。「晋様、冴島さんが昨晩、藤河別荘の家を見に来てくれました。写真も撮ってきてくれましたが、どこか直す必要があるところはありますか?」肇がそう言うと、冴島拓郎はカバンから何枚かの写真を取り出して晋太郎の前に置いた。「森川社長、どこの設計を直しましょうか?」晋太郎は写真を受け取り、確認した。「2階に子供の部屋を3つ作って、うち二つは色をグレーにして。あまり大きくなくていい。真ん中の寝室は、両側の子供の部屋の面積を使ってもいいが、できるだけ広くして。その寝室の天井を星空の絵にして、部屋の中に豪華な着替え室を設けること。そして、3階の壁を全部取り、プレイルームにする」そう言ってから晋太郎は肇に指示した。「最高級のスペックのパソコンを2台用意して、二つの小さめの寝室に置いてくれ」「……」晋様は思い切りゆみさんを贔屓しているな!ゆみさんには一番大きな寝室と、丸ごと一フロアのプレイルームも用意するのに、他の二人のぼっちゃまにはパソコン室をケチるのか?「あの……晋様、こうすると二人のぼっちゃまのお部屋が残り100平米しかないのですが……」「その二人には寝るところさえあればいい。もっと広い部屋が欲しければ、自分で稼いで買うのだ」「森川社長、その家ですが、今日中に買われるのでしょうか?」デザイナーの冴島が尋ねた。「いつまでモタモタするつもりだ?」晋太郎は軽く眉を寄せて彼を問い詰めた。「2週間以内に完成してくれ」「かしこまりました、森川社長。今日中に買取の手続きを済ませておきます!」「肇、小切手を」晋太郎が頷いて肇に命令した。デザイナーが帰った後。「晋様、これはぼっちゃま達とゆみさんを自立させるためなのでしょうか」肇はもう一度晋太郎に確かめた。「時には、子供がお荷物でしかなくなることもある」晋太郎は肇を見て淡々と述べた。「えっ?」「お前はまだ独身だから分からないんだ。」「はい?」なんだか、すごく馬鹿にされた気がする!午後。竹内佳奈が入江紀美子の事務所に入ってきた。「社長、隣の別荘ですが、買取手が出ました。手続きは午後に進めるのですが、お時間はありますか?」紀美子は

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第777話 贈り物

    杉浦佳世子は加藤藍子の話が気になった。「どうして晴が優しい男だと分かったの?」彼女は藍子の目を見て尋ねた。藍子は手を引き、自分にお茶を注いだ。「晴兄ちゃんと私は幼い頃から一緒に育ってきたじゃない。彼にはお世話になってきたし。こんな些細なこと、佳世子さんは気にしなくていいと思うわ」さすがトップクラスの清楚系ビッチだ!佳世子は心の中で罵った。田中晴が優しい男だとか、そんな些細なことを気にするなとか!いい加減あの口を無理やり塞いでやりたかった。何もったいぶってんのよ!「ねえ、晴。藍子さんって、本当に賢くて優しい方だね」佳世子は軽くあざ笑いをして、笑顔で晴を見た。佳世子に言われた晴は、思わずぞっとした。「ちょっ、デブ……藍子、何言ってんだよ」彼は佳世子が怒っているのを感じ、慌てて藍子を止めようとした。「あれって、もう随分昔の話だろ?」こんな状況では、「デブ子」のあだ名すらも口にすることができない。「ごめんなさい、つい……やはり晴兄ちゃんの言う通りだわ」は藍子が意味深な笑みを浮かべながら謝った。そして、彼女は用意しておいた二つのギフトバッグを出して、机の上に置いた。「これ、つまらないものだけど、間もなく生まれる赤ちゃん、そしてお二人への結婚祝いだよ」藍子は微笑んで言った。「無駄な金を使わなくていいのに。俺達は自分で買えるから」晴は戸惑いながらも受け取った。「晴、これは藍子さんの気持ちだから、受け取らないと失礼だわ。藍子さんは祝福の贈り物を渡したくて誘ってきたんだから、断られたら可哀想だし」佳世子は眼底に笑みを浮かべながら、晴を注意した。あんたが受け取らなかったら、絶対何かある!晴は佳世子に逆らえず、仕方なく藍子のものを受け取った。そして彼はそれを佳世子に渡した。「見てみる?」佳世子は藍子を見て、「今開けていいの?」と尋ねた。「はい、どうぞ」藍子は頷き、落ち着いた声で返事した。佳世子は贈り物を一つずつ開けた。赤ちゃんへの贈り物は金で作った首輪で、ボディには「平安健康」の文字と刻印されていた。佳世子と晴への贈り物は、唐物茶碗のセットだった。茶碗の高台が金色の釉薬が施されており、胴には墨絵がある。そのうちの一つが、寄り添う2羽の鳥、

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第776話 お二人の婚約

    「あまり良い予感がしないわ」入江紀美子は不安そうに言った。「でしょ?」杉浦佳世子も疑っていた。「何だか、彼女と晴の間には、絶対何かあった気がするの!」「……そんなことはないと思うわ。だって晴が一緒に行くと言っているんでしょう?彼は肝が据わっているわ」「いや、違う!彼はきっと、私に何かを悟られるのを恐れていて、ついて行くと決めたはずよ!例えば、話がヤバくなったら、目で藍子に合図をして止めるとか」佳世子は意味深く分析した。「それだったら、彼が藍子に電話をすればいいじゃない?ところで、晴は今傍にいるの?」紀美子が尋ねた。「いるよ」佳世子は台所の方を眺めた。「彼は今夜食を作ってくれてるの」「へえ、かの遊び好きの貴公子様が、自らご飯を作るほど完全にあなたにハマってるのね」そう言われた佳世子は、幸せの笑みを浮かべた。「でしょ?彼はこう見えて、結構いい所あるのよ!」「はいはい。もう遅いし、私は子供達を寝かせなきゃ。そろそろ切るね」紀美子は時計を眺めながら言った。「分かった、明日戻って来たら連絡する!」「は~い」電話を切った後、紀美子は1階に降りて子供達を寝かせようとした。階段を降りると、松風舞桜が戸惑った顔で入ってきた。「どうしたの?」紀美子は尋ねた。「紀美子さん、隣の別荘って、売り出されたの?」「よく分からないわ」紀美子は答えた。「私は普段忙しくて、全て秘書に任せているの。家を見にきた人がいたの?」「はい、でも夜に見に来る人は初めて見たわ」紀美子は窓越しに外を眺め、携帯で竹内佳奈に電話をかけた。「もしもし、佳奈?最近誰か別荘を見にきたいって言ってきた人いる?」「はい、連絡がありました」佳奈は答えた。「今日不動産屋に、連れていってもらいたいと連絡がありましたが、今来たのですか?」「そう。相手はどんな人とか、知ってる?」「何かのビジネスをやっている夫婦だそうです」佳奈は答えた。「そう、分かったわ。ありがとう」「いいえ、それじゃ」電話を切り、紀美子は桜舞に、そちらの方をよく注意してと指示した。今までの経験上、夜部屋を見にくる人はどうも怪しかった。もし相手が怪しい人だったら、彼らに売るつもりはない。3人の子供達がここに住

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