刹那、俺と大臣の鋭利な刃がぶつかり、強烈な火花が舞った。あまりの速さにそう対応せざるを得なかった。『オ前ハ付イテクルカ』 大臣はさらに返してこようとするが、他3人による一斉攻撃によってそれは阻止されると、ヤツは後ろへ大きく飛んで距離を取ろうとする。 ⋯⋯ここしかない ズノウの≪壊滅虹一波(アークデストラクション・ワン)≫を即座に解き放つ。両手持ちになった丸いイーリスから、溜め込まれた激しいスペクトラムが一気に射出された。どこからどう見ても大臣の全身に直撃したそれは、大きな虹爆を起こした。三翼の天魔神の時、片腕を吹き飛ばすほどの威力だったんだ。相当の致命傷をこれでくらわすことが出来た、そう感じていたのは俺だけじゃなかったと思う。「なっ!?」 煙幕の中、飛んで来たのは"無傷のヤツ"だった。金と黒の鱗を纏ったヤツは、冷静な様子に変わりない。 どういうことだ!? なんであんな平気な!? 考える隙など無いまま、ヤツが真っ先に捉えたのはなんとユキだった。一歩遅れた俺の行動は、ユキには届かなかった。さっきまで片手のみだった"赤いクリスタル状の鋭刃"は、気が付けば両手に持たれており、防ぎきれなかったユキは激しく吹き飛んだ。「ユキッ!!!」 声空しく、勢いのまま壁へと強く打ったユキは頭部から流血し、ぐったりするように倒れた。気にする暇など与えられず、次に狙われたのはヒナだった。ヒナの強力な白い雨も光の槍も、全てが"障壁?"のようなもので弾かれ、一瞬で迫られる。 くそ⋯⋯これじゃ間に合わないッ!! そんな限界⋯⋯誰が決めた。俺は⋯⋯違うッ!!! シンヤの言葉が思い出される。『な? それに、お前は同じミスはしない、そうだろ?』 両足が焼き切れたかと思うほどの超反応を起こした俺の身体は、一瞬にしてヤツとの距離を詰めた。"七色の炎を纏った光刃"が現れ、蝶の羽根が燃え盛る。大きく反った俺の上半身は、感覚が分からなくなるほどの速さで連撃を繰り出した。 ≪七色蝶新星(セブンズ・スーパーノヴァ)≫と≪七色虹炎刃(セブンズ・インフレイムエッジ)≫を組み合わせたそれは、9階で得た新システム。 ≪七色虹炎刃(セブンズ・インフレイムエッジ)≫を3回連続で行う≪七色虹炎三重刃(セブンズ・インフレイムエッジ・トリニティ)≫は、止まる事無く21連撃を発する。だが、違和感があ
このUnRuleはそもそも前提が狂っている。何かによってリアル化されてしまった事で、実体への負担があまりに大きすぎる。本当はこんな事なく作られたはずだ。ズノウも身体をここまで酷使せず、ちょっとの動きで実現されていただろう。誰でも出来るようAIアシストが細部まで届き、軽い運動程度の負荷でやっているのが想像に容易い。 それが全て不明瞭になり、その不明瞭なモノで対応しなければならず、いくらAR慣れしていても限界がある。特にヤツと対峙して感じた、あの天魔神よりも強いヤツにこれ以上はもう⋯⋯俺には⋯⋯。 ふらつき、倒れそうになった時、「⋯⋯うッ!!」 またあの頭痛が始まった。いい加減にしろ、どこまで苦しめる? 歪んだ視界の先に、また"白いアイツ"が立っていた。右手には"あの銃剣"。「⋯⋯いい加減にしろ⋯⋯誰なんだお前ッ!!」 ヤツがこっちを見る。その瞬間、銃口が俺へと向けられた。ただ喋らない、静観だけを続けるアイツ。「⋯⋯ッ!!」 どうにか限界の腕を伸ばし、こちらも七色蝶の銃口を突き付けた。二つの銃剣が呼応するように、お互いの蝶羽根が激しく輝く。すると、ユキの笑った顔、ヒナの明るくなった顔、シンヤの嬉しそうな顔が、デジタルサイネージのように空中に浮かび上がって回った。次第にユエさんの顔、"死んでしまったあの人の顔"まで。いろんな人の喜んでいる様子が、俺たちの周りを回り続けている。『⋯⋯わたし⋯⋯いっしょにいたい⋯⋯いきて⋯⋯いっしょに⋯⋯いたいよ⋯⋯』 最後にユキの声が響いた。一緒にいたいって、生きて一緒にいたいって。「⋯⋯俺は⋯⋯」 倦怠感や痛み、寒気や痺れが動きの邪魔をする。どこまでも纏わりつく。それでも引き金を強く握った。「⋯⋯お前もヤツも⋯⋯超えるッ!!」 同時だった。俺とお前、トリガーを引いたのは。 現実世界へ戻ると、俺の銃剣は粉々に割れていた。と感じた時、脳内のズノウが全て搔き消され、一つだけ"消えかかった謎の項目"が残った。 ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ ≪螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕≫ ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ ≪螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕≫ ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ それは
これに対して、人間側はどんな解答を用意すればいい? 何を提示すればこの状況を捲れる? 既に共生などという容易い言い訳では、どのAIも聞く耳は持たない上、アイツも納得はしない。なら、俺が出す答えは⋯⋯。 今日受けるリモート講義はこれで終わり。展開されたARの画面を閉じ、玄関へと向かう。外に出ようとした瞬間、≪配達が完了しました≫とL.S.に簡易通知が走る。玄関ドアを開けた横、配達ドローンが仕事を終え、気持ちよさそうに飛ぼうとしている。置かれた箱の中に入っているのは、昨日買った服。 最近はほぼ全部の店でこうしてドローン配達をしてくれる。時間は24時間いつでも指定でき、少し多く払えば、買ったその日のうちにも届けてくれる。ほんと最近はいろんな場所でAI化が促進された。俺が知ってるのもほんの一部で、他にもいろんな場所でAI化されてるんだと思う。目の前で走ってる"コレ"だって、R.E.D.が総理に就く三ヵ月前は無かった。 そう思いながら、俺は止まっている"黒いコレ"に乗る。事前に指定した場所を送っているから、後は乗るだけって感じ。そんな無人自動運転タクシーに乗れるようになるのは、日本ではもう少し後になると思ったけど今では普通になっている、しかも格安。今までの運転手たちはどうなったのだろうか? 『ご利用ありがとうございました』という声がタクシー内から響く。料金も事前に支払っているため、降りる時もスムーズ。ちなみに、今や全部の車が無人自動運転化されている上に、事故もまだ聞いたことが無い。警察が暇になるほど事故は減少してるらしく、マンガやゲームで見てきた近未来化が異常に進んでる感がある。 秋葉原の大型複合施設M.I.O.に入ると、日曜だからか多くの人がいた。ネットではなく、リアルでしか手に入らない物を置いていたりと、店も手を尽くしてる。そして俺も、リアルでしか手に入らないモノがあるからここに来たんだけど。 今回発売された"UnRule"は初のL.S.専用ゲームで、XR技術を使った新感覚の非日常が東京でのみ楽しめると、あらゆる場所で告知されていた。まずは東京で様子を見て、規模を大きくしていくらしい。あれだけ告知はされてはいたが、映像は何も公開されておらず、まさかの日本政府開発とだけ知らされている。東京って物価も家賃も高いけど、その分こういった
赤いのは大型装置のとある部分を示して言う。置いたら一体どうなるんだろう。せっかくだしちょっと聞いてみるか。 「置いたらどうなりますか?」 聞くと、赤いのはこう答えた。 『特別仕様のL.S.へと交換させて頂きます。新たな機能と共にデータは全て一瞬で引き継がれるため、今まで通りにすぐご使用頂けます』 総理がR.E.D.になって、いきなり無料配布されたこのL.S.。正式名称は"Linked Someone"。今まで以上に誰かと繋がろうをコンセプトとしているらしい。 腕時計のような見た目でも、とんでもない機能を有している。起動すると、ホログラムディスプレイが幾つか展開され、それに触れて操作が出来る。今までのような画面を介さず、空気上に触覚を感じる技術が使われている。前々から研究は続けられていたようだが、一気に急発展を遂げ、今に至る。ARやVR技術も付いており、まさに何でもアリ。きっとまだまだ多くの機能が潜んでいると思われる。 充電に関しては血液発電が行われているらしく、こんな小型デバイスのどこにそんなものが用意されているのか、皆目見当が付かない。そして腕に付けてはいるが、実感をほぼ感じないほど皮膚に優しく、皮膚科医でさえ、永遠に付けていても大丈夫だと言う。 一般販売はされておらず、"一人一台まで"という謎の制限がかけられている。この約三ヵ月間にして一瞬で国民の約九割以上を依存させた、それほど今までと違った画期的な簡易次世代デバイスだった。 そんなL.S.をさらに特別仕様へと交換? 一体どんなモノに変わるんだ!? といっても、ここまで来て選択肢は無さそうだ。 言われた通り、大型装置の示された部分にゆっくりと置いてみることにした。すると、すぐさま俺のL.S.は沈むように中へと吸い込まれていく。 おいおい、大丈夫だよな、帰ってこないとかないよな!? 不安に思っていると、30秒も経たないうちに何かが大型装置の下から排出された。赤いのはそれを取り出すと、こちらへと差し出した。 『こちらが新仕様のL.S.となります。中の項目ににUnRule≪EL≫が入っておりますので、ご確認をよろしくお願いします』 前のような透明なメタリック感から、時間によって色が変わるような少し派手なモノへとなり、謎の特別感を醸し出している。さっそ
展開されたのは俺だけではなかった。目の前のユキ、他の全員。辺りが「え!? なに!?」と騒ぎ始める。 L.S.のホログラム画面には、朝の有名なニュース番組が勝手に映し出された。店内テーブルに埋め込まれているタッチパネル画面にさえも、同様の画面が出ている。時間はAM 10:33。 『速報です。AI総理大臣が新たな経済対策を発表しました。この後すぐ会見が行われるそうです』 番組内では、いつものメインキャスターを始め、日替わりで出る何人かのメンバー、狼型アンドロイドのロアが場繋ぎの議論をし始めた。この番組は平日午前十時から十二時にやっており、俺もたまに見る事がある。 「こんな事って初めてね。経済対策で速報までして大袈裟に発表する意味ってなんだろ?」 「ん~、AI初の政策をよっぽどアピールしたいか、それか国民全員に給付する何かとか⋯⋯」 俺たちはとりあえず番組を見続ける事にした。 『いや~突然ではありますけども、どんな経済対策を発表されるんでしょうね~、柊木さん!』 『ちょっと予想出来ない感じしますね。私たちが今は当たり前に付けているL.S.でさえ、突然一人一つ配布されましたから』 『私今年で六十になりますけどねぇ、これ無いと生活できないですよ! 行政関連やあらゆる事がこれ一つで完結してますし、L.S.銀行は預けてるだけで毎日ログインボーナスとして少額付与される! さらには最近、VRやらARやら、それより凄い何かがあるのが分かったんでしょ!? 付いていけないなぁ~』 『大丈夫です。AIの僕らはどんな人でもずっとサポートしていきますので、このL.S.をきっかけに親しんでいって下さればと思います。AIの僕でさえ、情報や技術が日進月歩すぎて困るほどです』 メインキャスターの槇野アナ、若手女性起業家で人気の柊木社長、芸能人大御所の倉木さん、ロアの順に話が続いたところで、ロアはもう一言放った。 『ところで僕は今回のこの経済対策、今までに無いほどの規模になると予想します。500兆円以上はいくでしょうか。それほどの支援が全体へ行われるのではないでしょうか』 『えぇ!? 500兆!? そんな規模ですか!?』 ロアの発言に槇野アナを始め、一同が驚いている。 興味無くて、適当に演技して驚いてるヤツもいそうだが⋯⋯。それより、500兆なんてお金どこから
『え~、気付かれた方も多いと思いますが、ロアが今ちょっといません。先ほど急に動かなくなりまして、現在裏で様子を見てもらっています』 は? さっきまであんなに会話してたのに? 最後のアレはどうなったんだよ!? その後番組は止まる事無く、100万給付の事や新経済対策の内容、東京内建造物の急な赤い光、終盤にはロアが最後に言おうとしていた事の考察が数分だけされた。 L.S.を使った新事業を売り出す、外交を増やして国々の物を組み合わせた限定品を作る、宇宙事業を新たに進める、と様々な意見。しかしその反動で、一気に税金を上げる、公共料金が引き上げられる、L.S.の使用料を毎月取られる、といった意見も。 だが、俺が本当に気になったのはそれらではなかった。ほんの少数だがSNSでこう言ってる人たちがいた。 「人間を殺して、その分を取り上げるんじゃないか?」 なんでかは俺にも分からない。なぜかこの言葉だけがずっと脳裏に残った。この違和感はなんだろう⋯⋯。 「ねぇ、ルイ」 考えていると、不意にユキが話しかけてきた。 「総理の会見って夜にもするって言ってたよね」 「ん⋯⋯言ってたな」 「会える人は会いましょうって言ってたけど、次は強制的に見せるとかじゃないってことかな」 「かもな。また夜に見てみるしかない、ってか、この100万どうするよ?」 「う~ん⋯⋯私は一旦貯金かなぁ。ルイは?」 突然の100万に対しても、ユキは案外冷静な様子だった。昔っからの冷静さは、ここでも変わらずのよう。ちなみに俺もと言っておいた。特に欲しいものっていっても、そんな今はない。 「さて、そろそろ出ますか」 「うん」 俺たちが出ると同時に、一気に人が入っていった。もう昼が近いからか、人気だったりするからか、それかあの席の良さがまさかバレてるなんて事は、流石にあまり無さそう。 会計は出る時に自動でL.S.から支払われるため、特に接客とかは無い。何年か前から自動会計の無人店舗が広がっていったが、こんな施設内まで今や無人みたいなもの。奥に管理人一人くらいはいるんだろうけど。 「えっと、10階でやってるんだよね? それ」 俺の新仕様になったL.S.を指してユキは言う。そんなこんなでユキに連れられ、エスカレーターで例の10階に向かう。またあの場所に行くってわけ
サラリーマン風の中年の男は、肩や頭が食われて血が噴き出ている、これ以上見たくない。だって、頭が無い。逃げるしかない、今は。言葉など通じそうにもない。 「逃げるぞ!!」 「あ⋯⋯あれ⋯⋯頭が⋯⋯頭が⋯⋯」 「ユキッ!!」 ユキは手で口を覆い、震えていた。もう無理やり連れていくしかない。 「ッ!!」 俺はユキの手を取り、なりふり構わず走った。後ろでヤツの不穏な足音が常に聞こえる。音的にはたぶんまだ走ってはいないはず、振り返ってる暇は無い。 ヤツがいるのは出口方面だったため、ホーム側に走るしか無かった。同様に考えている人ばかりで、エスカレーター前は混んでいる、こんなのは待ってられない。 「⋯⋯ッ!! 階段で行くぞッ!!」 「ごめん⋯⋯足が⋯⋯つって⋯⋯」 痛そうに右足を抑えるユキ。この時、さっきの通話時の事を思い出した。「研究が思ったより進んで昨日私も寝てな~い」と言っていた事を。 座ってばかりだったのか、突然の走りに身体が付いていって無い様子が見て取れた。 「置いてっていいから⋯⋯行って」 「んなこと」 「行ってッ!」 ヤツの方を一瞬見ると、少し先にいた花柄のワンピースの女性の肩を掴んでいた。女性は激しく助けを呼ぶも、近くにいた黒ぶち眼鏡の男は「む、無理だってッ!!! い、今、警察呼んでるからッ!!!」とL.S.を展開しながら叫ぶ。自ら助けようとする様子は一切無い。 ヤツは口を大きく開け、今にも肩を噛もうとしている。女性は身動きできず、さらに泣き叫び、 「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 俺はそれを見ている事しか⋯⋯でき⋯⋯ない⋯⋯。あの人も"アレ"のようになる? 他人だし放っておいていいよな? いいよな? イ イ ヨ ナ ? 「ルイ⋯⋯? ダメよ⋯⋯ダメだってッ!」 俺の体は、勝手にヤツの方へ走り出していた。無意識の中走りながら、奥の頭の無くなった中年男性をまた見る。 アレのように俺もなる? 妄想の恐怖が全身を覆う。真っ赤な何かが、脳内を侵食しようとしてくる。心臓の鼓動音が大きくなりすぎて、大半の音が聞こえない。でも、後ろでユキらしき声の叫びは聞こえた。 昔っからの付き合いなんだ、音が聞こえなくたってそれくらい分かる。わりぃな、ユキ。 覚悟を決めた瞬間、
そういや、さっき助けた女性と黒ぶち眼鏡の男の二人組がここへ来た。「本当に助けてくれてありがとうございました!」とお礼を言ったかと思えば、二人は喧嘩。最後は「あ~!! こんな良い人と彼女さんが羨ましい!!」と隣の男へブチ切れ、別れを切り出して去っていった。それに這いつくばるように、目の前の男は「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! 俺も必死だったんだッ!!」と。 えっと⋯⋯俺のした事って間違ってなかったんだよな⋯⋯? もちろん見過ごせば、あの女性は死んでいたかもしれないわけで。「私、ルイの彼女だって」 男が去った後、ユキがそっと呟く。「何回目だよ、これ言われんの」「う~ん、何回目だろ」「けど、これは久しぶりだな」「これって⋯⋯"これ"?」 ユキは握っている右手を少し上下させて言う。「渋谷までこのままでもいい?」「まぁ、いいけど」 いつもと違う感覚に戸惑いながら、ビル群が続く景色を見る。ガラス越しに映るユキは、少し寂しそうに見えた。 品川に着く頃、ある質問をしてみる。「なぁ、電車がこんな"三階建て"に変わってるとか知ってた?」「知ってたよ、いろんな場所で見たから」 あまり知らなかった事を伝えると、少し笑われた。人がゲームしまくってる間に変わりやがって。日進月歩すぎて、付いていけてるヤツ何人いるんだ? きっとこれさえも、一部なんだろう。 品川からは三階にも人がやってきて、男からの鋭い視線が突き刺さった。"そんな可愛い彼女どうやってゲットしたんだ"、みたいなやつ。これも今まで何回されてるのか。 そうこうしていると、渋谷駅へと着いた。簡易型エスカレーターは主要駅のみ出るようで、東京、品川、その次は渋谷で用意された。狙ってやってるかは分からないが、まるで旅行から帰って来た気分になる。「やっぱいつもより多いな、人」「はぐれないようにしないと」 そう言うと、ユキはまた手を握ってきた。「駅から出るまで、ね?」 これって恋人繋ぎ⋯⋯。さっきから積極的すぎないか? これで付き合って無いってのはなんだ? 俺は歩きながらL.S.を展開し、SNSを見る。すると、"あの事件現場の前後"が動画として流され、既に記事にもなっていた。でも、"謎の機械"の事が書かれていない。あるのは死亡者について【松尾孝明(47)】と、秋葉原駅構内で事件が起きたとあるだけ。
このUnRuleはそもそも前提が狂っている。何かによってリアル化されてしまった事で、実体への負担があまりに大きすぎる。本当はこんな事なく作られたはずだ。ズノウも身体をここまで酷使せず、ちょっとの動きで実現されていただろう。誰でも出来るようAIアシストが細部まで届き、軽い運動程度の負荷でやっているのが想像に容易い。 それが全て不明瞭になり、その不明瞭なモノで対応しなければならず、いくらAR慣れしていても限界がある。特にヤツと対峙して感じた、あの天魔神よりも強いヤツにこれ以上はもう⋯⋯俺には⋯⋯。 ふらつき、倒れそうになった時、「⋯⋯うッ!!」 またあの頭痛が始まった。いい加減にしろ、どこまで苦しめる? 歪んだ視界の先に、また"白いアイツ"が立っていた。右手には"あの銃剣"。「⋯⋯いい加減にしろ⋯⋯誰なんだお前ッ!!」 ヤツがこっちを見る。その瞬間、銃口が俺へと向けられた。ただ喋らない、静観だけを続けるアイツ。「⋯⋯ッ!!」 どうにか限界の腕を伸ばし、こちらも七色蝶の銃口を突き付けた。二つの銃剣が呼応するように、お互いの蝶羽根が激しく輝く。すると、ユキの笑った顔、ヒナの明るくなった顔、シンヤの嬉しそうな顔が、デジタルサイネージのように空中に浮かび上がって回った。次第にユエさんの顔、"死んでしまったあの人の顔"まで。いろんな人の喜んでいる様子が、俺たちの周りを回り続けている。『⋯⋯わたし⋯⋯いっしょにいたい⋯⋯いきて⋯⋯いっしょに⋯⋯いたいよ⋯⋯』 最後にユキの声が響いた。一緒にいたいって、生きて一緒にいたいって。「⋯⋯俺は⋯⋯」 倦怠感や痛み、寒気や痺れが動きの邪魔をする。どこまでも纏わりつく。それでも引き金を強く握った。「⋯⋯お前もヤツも⋯⋯超えるッ!!」 同時だった。俺とお前、トリガーを引いたのは。 現実世界へ戻ると、俺の銃剣は粉々に割れていた。と感じた時、脳内のズノウが全て搔き消され、一つだけ"消えかかった謎の項目"が残った。 ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ ≪螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕≫ ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ ≪螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕≫ ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ それは
刹那、俺と大臣の鋭利な刃がぶつかり、強烈な火花が舞った。あまりの速さにそう対応せざるを得なかった。『オ前ハ付イテクルカ』 大臣はさらに返してこようとするが、他3人による一斉攻撃によってそれは阻止されると、ヤツは後ろへ大きく飛んで距離を取ろうとする。 ⋯⋯ここしかない ズノウの≪壊滅虹一波(アークデストラクション・ワン)≫を即座に解き放つ。両手持ちになった丸いイーリスから、溜め込まれた激しいスペクトラムが一気に射出された。どこからどう見ても大臣の全身に直撃したそれは、大きな虹爆を起こした。三翼の天魔神の時、片腕を吹き飛ばすほどの威力だったんだ。相当の致命傷をこれでくらわすことが出来た、そう感じていたのは俺だけじゃなかったと思う。「なっ!?」 煙幕の中、飛んで来たのは"無傷のヤツ"だった。金と黒の鱗を纏ったヤツは、冷静な様子に変わりない。 どういうことだ!? なんであんな平気な!? 考える隙など無いまま、ヤツが真っ先に捉えたのはなんとユキだった。一歩遅れた俺の行動は、ユキには届かなかった。さっきまで片手のみだった"赤いクリスタル状の鋭刃"は、気が付けば両手に持たれており、防ぎきれなかったユキは激しく吹き飛んだ。「ユキッ!!!」 声空しく、勢いのまま壁へと強く打ったユキは頭部から流血し、ぐったりするように倒れた。気にする暇など与えられず、次に狙われたのはヒナだった。ヒナの強力な白い雨も光の槍も、全てが"障壁?"のようなもので弾かれ、一瞬で迫られる。 くそ⋯⋯これじゃ間に合わないッ!! そんな限界⋯⋯誰が決めた。俺は⋯⋯違うッ!!! シンヤの言葉が思い出される。『な? それに、お前は同じミスはしない、そうだろ?』 両足が焼き切れたかと思うほどの超反応を起こした俺の身体は、一瞬にしてヤツとの距離を詰めた。"七色の炎を纏った光刃"が現れ、蝶の羽根が燃え盛る。大きく反った俺の上半身は、感覚が分からなくなるほどの速さで連撃を繰り出した。 ≪七色蝶新星(セブンズ・スーパーノヴァ)≫と≪七色虹炎刃(セブンズ・インフレイムエッジ)≫を組み合わせたそれは、9階で得た新システム。 ≪七色虹炎刃(セブンズ・インフレイムエッジ)≫を3回連続で行う≪七色虹炎三重刃(セブンズ・インフレイムエッジ・トリニティ)≫は、止まる事無く21連撃を発する。だが、違和感があ
さらに長いエスカレーターの先。最上階には、紀野大臣が座って待っていた。大臣はガラス超しに竹下通りを見下ろしている。クリスタル状の赤いデスクには、【法務大臣 紀野裕司(きのゆうじ)】と書かれた木彫りのネームプレートや様々な物が置かれ、デスク横には日本国旗が掲げられている。そうそうに一般人が入れない厳格な雰囲気がここには漂っていた。 「おいッ!! そっから呑気に俺たちを弄びやがってッ!! 裏部さんをどこにやったんだよッ!! おっさんッ!!」 そんな雰囲気など、1ミリも気にする様子も無いシンヤが一言投げかけた。 「おっさん? 誰のことを言っている?」 「あんた以外誰がいんだよッ!!」 「ふん。私の事をそう呼ぶのは、君が初めてだな」 座っているクリスタルチェアを回転させ、とうとうこちらを向いた。何かを見通すようなあの鋭い目つき、やっぱりこの人は見るだけで畏怖する。高圧的なその有様からは、まるで圧迫面接を受けさせられているように感じた。 これが法務大臣という立場に就き、法を管理してきた人間の権力の有様なんだろうか。いや、この人がそういう性格の人なんだ。 「普段ならば黙れと一掃するところだが、今回は特別だ。ここまで来た君らに一つ提案をしよう」 「⋯⋯提案だぁ?」 「君たちを"例外有能者"として総理に推薦しよう」 「は、はぁ!!? 総理に推薦だぁ!!?」 「(⋯⋯これって、"チャンス"ってこと⋯⋯?)」 真横のユキが耳へと囁いてきた。 「(⋯⋯分からない。とにかく最後まで聞こう)」 この人の考えがまだ分からない。どこまで本当で、どこまで先を考えているのか。ここはよく最後まで聞いた方がいい。 「総理は有能な人間は残そうと考えておられる。その有能と考えられる要因を占めるのは、"理不尽に対して抗い、AIにも改革を起こしていこうとする力"だ」 紀野大臣は立ち上がると、再び背を向けた。 「だが、その力の本質を知る人間が何人いる? 行動に起こせる人間が何人いる? おそらく東京総人口の0.0001%にも満たないだろうな。つまりは何が言いたいかというと、君らは"その枠"に入っていると私は思う」 ⋯⋯なんだ!? なんかここ動いてないか!? 突如足場が動き、大きなテーブルとイスが用意された。座れとでも言っているのだろうか? 「まぁ座り給え
エスカレーターを上る度、徐々に薄暗さが増していく。危険なのかどうか、常にユエさんが教えてくれるからスムーズに対応しやすい。今の時間は12時。前までだったらゆっくり食事をしたり、ゲームしたり、そんな日々を送ってるんだろうか。そんな日常はもう存在しない。死なないようにはどうすべきか、総理を止めるには何をしたらよいか、それらが今の俺たちを覆っている。この"死のヴェール"が拭える事は今後無い。『⋯⋯ここはちょっとヤバいかもしれないわね』 9階付近へと足早に行ったユエさんから警告が入る。「どんなヤツがいるっすか!?」『あれは⋯⋯"神明官フォルセティウス"。三翼の天魔神ほどではないけど、厄介なボスモンスターね』「なんでもかんでもしやがってッ!! あんのクソジジイがッ!!」「勝てるでしょうか⋯⋯?」 シンヤがイラついている横で、ヒナが不安そうなにこっちを見る。ユキまで。「⋯⋯俺が前で戦う。怖けりゃ下がってていい」「でも、ルイにばかり任せるわけにはいかないわ。あまりに負担が大きすぎるもの」「車内でも少し教えてもらいましたけど、この槍の元のモンスターの時はどうやって戦ったんですか?」「あー、アイツはルイが"一人で"やっちまったんだよなぁ」「え!? 一人で!?」 仰天した目でヒナが見てきた。「皆のおかげだよ。他を全部やってくれたから、俺はなりふり構わずやれた」 あの時の事が脳裏で再生される。俺は結局ずっと引きずっている、"あの人"の事を。察するようにシンヤが肩に手を置いてきた。「次は大丈夫だって、な?」 ユキまで俺の肩に手を置く。いつまでも引きずってられないのは分かってる。分かってんだよ⋯⋯。 長いエスカーレーターが終わりを迎え、ついに9階へとやって来た。10メートルほど先に、"金色の巨大な何か?"が椅子に座って待っているのが見えた。目をこらして見ると、明らかにヤバい見た目をしたものがいる。『アイツの攻撃は2つだけ知ってる。同じモーションなんだけど、光り方で違うの。青い方は地面からジグザグに炎が沸いて、紫の方は天井からジグザグに炎が降って近付いてくる。他は、裏部がいれば分かるんだけど⋯⋯』「後はやって覚えていくしかないってことですね」『えぇ。私のこのプロトロアだと、ここからはもう付いていけないわ、ごめんなさい⋯⋯でもあなたたちなら、すぐ対応
「ほぉ、私を知っているかね。近頃の若いのは、政治家など興味無いと思っていたが」 鋭い目つき。まるで俺たちの内側を見抜くような⋯⋯この人は圧がヤバい。テレビで何度か見た事がある、現法務大臣をしている人だ。「紀野さん、あなたはまだ人ですか?」「気になるかね? なら、ここなら全てが分かるかもしれないな」 その瞬間、ついに赤ビルのドアが開いた。あれだけ開かずの間だった場所なのに。時間は"PM 10:00"を示している。「来ないのか? 用があるんだろう? この中に」 なんなんだこの人。俺たちのやろうとしている事に気付いている⋯⋯? 紀野大臣は驚く様子もなく、毅然と中へ入ろうとする。「オーラヤベぇな」「怖い感じ、しますよね」 シンヤとヒナがひそひそと話す。どちらにせよ、俺たちは中へ行くしかない。「行きましょう、私たちも」「⋯⋯選択肢は無いしな」 こうして俺たちは、連れられるようにして、とうとう赤ビルの中へと入った。そこで待っていたのは、異世界のような空間だった。「んじゃこりゃぁ!? こんなん誰が好きなんだよぉ!?」 上を見て叫ぶシンヤ。それもそうだ。天井には"L.S.のクソデカい版?"のようなものが、俺たちを見下すようにぶら下がっている。周りはどこまでも赤黒い壁。さらには不規則に散りばめられた"赤いクリスタルの置物"。これ以上は言葉では表しにくい。 右端にはエレベーターと思われるものが見える。そこが開き、紀野大臣が先に入っていく。「悪いが、一般人は"階段とエスカレーターのみ"になっている。全てを知りたいなら、最上階まで上って来たまえ。上がれるなら、だが」 そう言い残すと、一人乗って行ってしまった。「お、おいッ!! コラッ! 俺らは乗れねぇってどういうことだよッ!!」 シンヤがエレベーターを無理やり開けようとするが、ビクともしない。奥にある階段とエスカレーターでしか、本当に上がれないのだろうか。引き返す事ももちろん出来ない、次にこのドアが開くのは4時間後の14時だ。「どうする?」「どうしますか?」 ユキとヒナが同時に俺の方を向いてくる。やっぱり俺が決めるしかないか⋯⋯。まず、このビルは10階まである。なぜなら、エレベーターの階数表記が10まであるからだ。 次に、紀野大臣が「上がれるなら、だが」と言っていた事からして、もし普通に1階ず
この原宿駅竹下口改札からだと、アレの全貌がよく見える。ユキと見てきたあの赤ビル、そのまんまだ。中には何があるのか。とうとう今日、アレに入るわけか⋯⋯。「SNSでめちゃくちゃバズってませんでした? AIだけで造られたそうですね」「らしいよなぁ! 俺らが一番に中を拝んでやろうぜぇ!」「それもいいが、まずは"目の前のコレ"が気になるな」 竹下通りに連なる多くの人。今までの日本だったら、観光客や旅行客でいっぱいになるのは分かる。でも、今こうなるのはさすがに不自然だ。それだったら、他で全く人がいないっていう説明がつかない。ここがこんなにいるんだったら、他でも多くいるはずだ。「ルイ、一人で突っ走っちゃダメだからね?」「わかってるって」 俺とシンヤが先を行き、ユキとヒナが後ろから続く。適当に竹下通りを歩いてみてはいるが、周りの人たちは普通に観光を楽しんでいるように見える。当たり前の光景だったはずなのに、気持ち悪いと感じる日が来るなんて。まさか、ここにいる人だけ"影響を受けない"ようになってるとか? そんなことあるのか?【タイムリミットまで後24分】「シンヤ、誰でもいいから話しかけてみてくれよ、本当に人なのか確かめてくれ」「え、俺が!?」「お前得意だろ、そういうの」「え~、別に得意もねぇぜ?」 と言いながらも、シンヤはポニーテールの女性に話しかけに行った。この違和感を拭うには、シンヤくらいコミュ力あるヤツがやった方が分かりやすい。「シンヤ君、似合うわね」「ほんとはあーやって裏で毎日ナンパしてたんじゃね?」「ふっ」 ユキに笑われるシンヤ。あれだけ一緒に遊んできたのに、実は裏でやってたら最高すぎる。【タイムリミットまで後15分】 シンヤが戻って来た。「なぁ、俺には"普通の人"にしか感じなかったぜ?」「⋯⋯」「おい、ルイ?」 普通の人。なら、なんであの人は"アイツら"に襲われてないんだ? 俺は"この方向を見ろ"と顔で合図した。シンヤが慌てて銃を取り出す。それに伴い、ユキとヒナも出した。「ねぇ、あっちにもいる!」 ユキの視線の先にも、同様に10体ほどのネルト集団がいた。マズい、ここに時間を割くわけにはいかない。ここは⋯⋯。「俺とヒナで左、ユキとシンヤで右!」「わかったわ! 行くわよ、シンヤ君!」「お、おうよ!」【タイムリミットま
やっぱりこの車だけ異質だ。自動運転がどれだけ発展しようと、飯塚車だけは唯一って感じがある。広さとしてはリムジンぐらいあるが、少人数の時は上手い具合にコンパクトになる。要は、大型自動車から軽自動車へと自由自在になれる感じ。龍の顔をして7枚羽が付いているのは、奇抜なデザインすぎて何とも言えないけど⋯⋯。でも中はAI自動風呂があって、寝室もAI自動調理も付いてるってのは、その辺の部屋に住むより断然良い。というより、ここまでの車はまだ世に出てない無いだろうな⋯⋯自分たちで創ったのだろうか? そんな車は新しくヒナを連れ、東京ミッドタウン八重洲およびネビュラスホテル東京を後にする。短い時間だったけど、部屋や食事はマジで良かった、"あの事件"さえ無ければ⋯⋯。 右手にはまだ薄っすら浮かんで見える、あの血痕が。もう血が付着しているわけじゃないのに、いつまでもいつまでも。「飯原さんには、結局挨拶せずにだったわね」「あの人なら起きてすぐ気付く、あれに」「今の時代に置き手紙なんて、ビックリしますかね」「たまにはいいんじゃね! そんなのも! 粋な事すんのな、新崎さんも!」 きっとあの人ならすぐに気付く。今回の件で、より目をこらすようになっただろうし。流れていく都会のビル群を見ながら、そう思った。 表参道へと入った頃、周囲の雰囲気がガラッと変わるのを感じた。これを感じたのは俺だけじゃないと思う。さっきまで広い車内を堪能していたヒナが、ずっと外を見るほどだ。だって、普通に"大勢の人間が何事も無いかのように"歩き回っている。「なんか、ここおかしくね?」 とうとうシンヤがその一言を放った。それによって話が広がる。「まるで日常が戻ったみたいね、ここだけ」「なんでしょうね、これ⋯⋯」 俺は口を開かなかった、みんなの思ってる通りだったから。外に出るまでは"本当の違和感"に気付けそうにない、そうも感じる。先頭にいたユエさんがこっちへと戻ってきた。「そろそろ目的地周辺よ。見ての通りみたいだから、各自油断しないようにね」「もしかして、竹下通りなんですか?」「そう。ちょうどここの監視カメラに映っていたのよ。それで、あの赤ビルの方へ入ったっきりまだ出てきてないの」「え、赤ビル!?」「えぇ」 原宿の竹下通りにもあるのか? いつ出来たんだ? 覚えている限り、渋谷と秋葉原しか知
朝食後、車内から戻ってきたユエさんによって、急遽原宿へと移動する事になった。なんでも、UnRuleモンスターに詳しい国家研究員の裏部さんをそこで見かけたという情報があったという。つまり、ここでこの高級ホテルとは一旦離れる事になる。それはヒナとの別れも表していた。「もう行くんですか!?」「すぐ行かないと、また移動されるかもしれないしな」「そうですか⋯⋯」「まぁ、次何かあったら飯原さんが対処してくれるはずだ。最悪、こっちに連絡くれてもいい」「はい⋯⋯」 ヒナに感謝し、背を向ける。またどこかで会えるはず、そう思いながら。すると、急に後ろから抱き着かれた。「っ! ヒナ!?」「私も一緒に行きますッ!」「いや、でも」「だろうとは思ってたぜ」 振り向くと、謎に待っていたシンヤ。こいつさっきユキと一緒に車へ行ったんじゃ⋯⋯。「ひなひーさ、昨日ずっとお前の事聞いてきてたんだよ。だからなんとなく、こうなるとは思ったわ!」「でも原宿は絶対危険だ。ヒナじゃさすがに」「戦えますから! 私もッ!」 そう言うと、ヒナは三叉の黄色い槍を出現させた。先端から小さな電気が一定間隔置きに走り、ただの槍ではない事を示している。全長は2メートル近くあるだろうか? ユキの持っている鎌と同じくらいの大きさがあった。「うおぉ! なんかでっかいの持ってんなぁ!」「はい。ELの方ほどの強さは無いんですけど、迷惑かけないように頑張りますから!」「だってよ、ルイ。いいじゃねぇか! ひなひーが一緒にいてくれるなんて、普通じゃありえねぇ凄い事だぜ!?」「まぁそうかもだけど」「なんだよ、なんか不満あんのか?」「⋯⋯アオさんの事、頭に過って」「んだよ! いつまでも引っ張んなって!」 そんなの分かってんだよ。でも俺はあの時知ったんだ。人はいとも簡単に死ぬ。 ⋯⋯謎の空撃だった、それでアオさんはバラバラにされた。それがヒナにされたらと思うと⋯⋯考えるだけで吐き気がする。「ひなひーがここにいたって、いつまで安全かなんて分からないぜ?」「そ、そうです! 一緒にいた方がむしろ安全だと思います!」「な? それに、お前は同じミスはしない、そうだろ?」 シンヤは挑発するように言う、まるで試しているかのように。こいつ、勝ちたくてずっと俺の事を見てやがる。「⋯⋯わかったよ」 言った瞬間
「や~っと帰ったかよ!」「待ってました!」 帰ると、ヒナとシンヤ、さらには飯原さんまでもがエントランスで待っていた。そして突然、「申し訳無かった」と飯原さんが頭を下げてきた。「町田さんから聞いたよ。まさかそんな事になっていたなんて、管理不十分だった私の責任だ」 実は首謀者だと思っていた飯原さんは小柴に騙されており、契約最後に足されていた追記は"特殊仕様"が施されていた。どうやら契約した者のみ、数時間経ってから"追記が浮かび上がる"よう、細工されていたらしい。 騙されていた女性は多くおり、あのまま放っておけば、被害はとんでもない数になっていそうだった。元々の契約書は飯原さんによって本当に"善意で作られたもの"であって、あのような事実は一切無かったという。 部屋に戻る途中、会う度いろんな人になぜか感謝された。守ってくれてありがとう、と。でもこれは、ヒナが必死に説明してくれた事、警察が既に機能していない事の二つが大きかったんだと思う。俺のやった事が決して正しかった訳じゃない。本当はあそこまでやる必要は無かった、なのに身体が勝手に⋯⋯。 現状、正しさは自分たちで決めないといけない。状況が状況だったとはいえ、俺は本当は刑務所行きだったかもしれない。急激に来る冷静さと同時に、自分がしてしまった事がどういう事なのか、まだ考え続けている。シャワーで流れていく湯を横目に。 俺の右手に"ヤツの血"はもう無い。無いはずなのに焼き付いて離れない、アイツらの死んだ顔が。血が溢れる瞬間が。 ⋯⋯分かってる。どれだけ責められなかろうと。『人殺しのバケモンがぁッ!! 付いてくんじゃねぇッ!!!』 もう一度右手を見る。視界が霞み、また"あの血"が見える。それはいつまでも訴えてくる。 オ 前 ハ 人 ヲ 殺 シ タ 俺はもう⋯⋯帰 レ ナ イ ?「ルイさん、入りますね」 背後を見ると、水着姿のヒナが勝手に入ってきていた。「今日は私が身体洗いますから」「いや、いやいやいや、なんで!? 自動で洗われるからいいって!」「そう言わずに! えいっ!」 ここからなぜか、あまり覚えていない。途中からのぼせてたような⋯⋯。それほどヒナの洗い方が気持ちよかったんだろうか。「ルイ? 生きてる?」 ふと意識が戻ると、いつの間にかユキとベッドに横たわっていた。記憶が少しずつ鮮明にな