Chapter: 9. 脱出 まさかコイツだったなんて⋯⋯なんでコイツがこんなところに⋯⋯? だったら、やっぱり"本物の先生"は⋯⋯ 頭を巡る最悪の答え。俺は意を決して"頭の無くなった人物"の近くに寄った。 ⋯⋯先生がいつも着ていた服だ。胸元には【新東京大学】の教職員証。名前は⋯⋯ 【名誉教授:君野正義】 薄赤い部屋で見にくかったが、これで分かった。ここで何があったのかを。「⋯⋯そういうことかよ」 あんな事を先生がするはず無い。それが分かったのと同時に、悔しさと怒りが込み上げてきた。どうして先生をこんな⋯⋯「ユキ⋯⋯先生は⋯⋯」 俺を見て察したのか、小さく頷いた。夢だったらいいのにと、今何回思ったか。どれだけ思っても、これは"非現実の現実"で、変わらない。 ユキは自分を責めているようだった。もう少し早く来れば助けられたんじゃないかと。 ⋯⋯無理だ。緊急メッセ―ジは、"ヤツ"が送っていたんだから。俺はとにかくユキを慰め続けた。その後間もなくして、また"アイツ"から通話が入った。アイツの顔がL.S.のホログラムパネルに映る。「おい! 新崎さんも一緒にいるんだよな!? 早くそっから出ろ!!」 真剣な表情でアイツが言う。「何体かそこへ入っていきやがった!! "さっきの"が!!」「は? まだ他に"コイツ"が!?」「あぁ⋯⋯いる!! 特に"赤いヤツ"には気を付けろ!! アイツはマッポを瞬殺しやがった!!」「警察が⋯⋯? シンヤって今"1階"だよな?」「そう! 後、降りてくる時には"階段"を使え!! アイツらエレベーター前でも待ってやがる!! ここもヤバいから後でな!!」 そう言って、シンヤからの通話は途切れた。シンヤの場所もGPSで共有しているからすぐ分かる。さっき窓を割ったのは、たぶんコイツだ。それ意外あんな行動するのは、考えられない。「ユキ、他にも"コレ"がいるらしい」「まだいるの⋯⋯?」「シンヤが言うにはだけどな、急いで出よう」「シンヤ君が⋯⋯うん」 俺は先生の教職員証を拾い、自分の胸にしまった。この人の意志は、俺が持っていく。君野教授研究分室のドアをL.S.で開ける。ヤツが遠隔で閉めたのだろうか? 研究分室を先に出たユキは、「⋯⋯今までお世話になりました」 と、小さく呟いた。その言葉は、"俺の胸の証"にも響いた気がした。 走りながら一応警察に
Last Updated: 2025-03-28
Chapter: 8. 決別 目の前の事実を信じる事が出来ない。あの優しかった、人気だった、先生が。今までの先生とのやり取りがフラッシュバックした。「なんで⋯⋯なんでッ!!」 すると、口から血を垂らしながら"先生?"は、「イヒヒヒッ!? 三船ェ!? 新崎ィ!? ナゼ二人ナンダァァァ!?」 目の焦点が合っていない。これは先生なんかじゃない。「ワタシガ呼ンダノハナァ!? 新崎ィ!? オ前ダァ!?」「君野先生!! こんな事はやめてくださいっ!!」「黙レェェェェェェ!!!」「ひッ!?」 ユキの目には涙が零れていた。「早クゥ!!! 身体ノ中ヲ見セロォォォ!!!」 狂気に満ちた顔。電気が伝うように、全身の鳥肌が立つ。「⋯⋯来るなッ!!」 俺はユキの前へと割り入り、"ヤツ"に抵抗しようとした。が、人間とは思えない怪力で壁まで投げ飛ばされた。その瞬間、右肩に鋭い痛みが走った。「ルイッ!!」「アハァ!? 三船ハ後ダァァ!!! ナァ、新崎ィ!?」 ヤツはとうとうユキの間近まで迫り、顎に手をかけた。顔を近づけながら、「オ前ハナァ? 女ノ中デモ優秀ダァ!? 身体ノ中ヲナァ? ヨク見セテクレナァ?」「やめて⋯⋯ください⋯⋯いやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」 見ている事しか出来ない。全身を強く打ち付け、意識が朦朧とする。今の衝撃で右肩が脱臼したらしく、痛みが余計に意識を奪う。 ⋯⋯ユキ⋯⋯ ⋯⋯ユ⋯⋯キ⋯⋯「誰ダァァァァ!?」 ⋯⋯窓の⋯⋯割れる音⋯⋯? 謎に次々に割れる窓。誰がやっているのか、ヤツは割れた窓から外を確認し始めた。 直後、右腕のL.S.に違和感があった。そのおかげか、なんとか俺は意識を少し取り戻した。 "誰かと通話"が繋がってる⋯⋯?「おいルイ!! 大丈夫か!?」「⋯⋯うぅ⋯⋯お前どうして」「んな事は後だろ!! 今すぐ"UnRule"を起動しろッ!!」「⋯⋯なにいって」「いいから早くッ!! 俺を信じてやれッ!!」 瞬時後ろを見ると、ドアは閉められているようで、出られそうにない。今ユキを助けて逃げる方法は、"後ろのドアを無理やり蹴破る"か、"窓から飛び出るか"の二択しかない。ドアは頑丈で開きそうにもない上、ここは15階だ。「⋯⋯信じるからな」 意を決し、L.S.のホログラムパネルから"UnRule≪EL≫"を選択した。すると右手に何かが出てきた
Last Updated: 2025-03-27
Chapter: 7. 大学 俺とユキは今、新東京大学の3年生。"東京大学の次世代"として、東京大学の隣に新しく出来た大学だ。ここは"ほぼ全部がリモート講義"である上に、講義の時間が決まっていない。 L.S.を用い、目の前に24時間いつでも先生たちの用意している講義を出現させ、受けられる。受けている人に応じて、AIが柔軟に対応してくれるため、どんな人でも理解しやすい仕組みなってるらしい。 他大学よりも自由度が高い分、単位を取る難易度も高いみたいで、3年初めから卒業研究も始まるため、留年してしまう人も結構多い。 俺は肌に合っていたからか、今のところ苦に感じてはいない。最新の事を学べて、やりたい事もやり続けられるから、かなり好きなほう。様々なAI搭載の設備も使え、一人だろうが何だってしやすい。時々はまり過ぎて、他の人に迷惑かけてるかもだけど⋯⋯。 そんな俺に君野先生は「是非研究室に来て欲しい」と、直にオファーをくれた。普通は自分から志願して、行きたい研究室へと面接に行く。こんな逆推薦は、新東大では初めての事だったそうだ。でもこの時俺は⋯⋯。「俺より、新崎ユキさんの方がいいと思いますよ」 オファーを蹴った。実際、ユキの頑張りを小さい時からずっと見てきたからだ。そしたら先生は大笑いし、「はははっ! そうかそうか! ならこうしよう三船君。君の推薦する新崎君と二人で研究室へ来るのはどうだろう。君たちのしたい事をそれぞれ研究としてやればいい。共同研究なんて選択肢もいいだろう」「え⋯⋯本当ですか!?」「あぁ、どうかな? 実はね、私は君たちが卒業する時にちょうど退職するんだよ」「え!? そうなんですか!?」 君野先生は小さく頷いた。まさかの事実だった。こんなに人気な先生が、もう定年退職するなんて知らなかった。「それで最後に新しい刺激が欲しくてねぇ、君の力を貸してくれないかな?」「⋯⋯分かりました。でも、一つだけ聞いていいですか?」「何でもどうぞ」「なぜ、僕が選ばれたんですか?」「はははっ! それはねぇ、"君の両親と長い付き合いもあったり"で、小さい頃から君を知ってるんだ! 凄い子だって事もね!」 驚いたに決まってる。親と君野先生って、そんな関係だったのかよって。何一つ教えてくれなかったからな。 つまりは、小さい頃から世話になってるって事。んなの、"UnRule"より優先する
Last Updated: 2025-03-26
Chapter: 6. 渋谷 そういや、さっき助けた女性と黒ぶち眼鏡の男の二人組がここへ来た。「本当に助けてくれてありがとうございました!」とお礼を言ったかと思えば、二人は喧嘩。最後は「あ~!! こんな良い人と彼女さんが羨ましい!!」と隣の男へブチ切れ、別れを切り出して去っていった。それに這いつくばるように、目の前の男は「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! 俺も必死だったんだッ!!」と。 えっと⋯⋯俺のした事って間違ってなかったんだよな⋯⋯? もちろん見過ごせば、あの女性は死んでいたかもしれないわけで。「私、ルイの彼女だって」 男が去った後、ユキがそっと呟く。「何回目だよ、これ言われんの」「う~ん、何回目だろ」「けど、これは久しぶりだな」「これって⋯⋯"これ"?」 ユキは握っている右手を少し上下させて言う。「渋谷までこのままでもいい?」「まぁ、いいけど」 いつもと違う感覚に戸惑いながら、ビル群が続く景色を見る。ガラス越しに映るユキは、少し寂しそうに見えた。 品川に着く頃、ある質問をしてみる。「なぁ、電車がこんな"三階建て"に変わってるとか知ってた?」「知ってたよ、いろんな場所で見たから」 あまり知らなかった事を伝えると、少し笑われた。人がゲームしまくってる間に変わりやがって。日進月歩すぎて、付いていけてるヤツ何人いるんだ? きっとこれさえも、一部なんだろう。 品川からは三階にも人がやってきて、男からの鋭い視線が突き刺さった。"そんな可愛い彼女どうやってゲットしたんだ"、みたいなやつ。これも今まで何回されてるのか。 そうこうしていると、渋谷駅へと着いた。簡易型エスカレーターは主要駅のみ出るようで、東京、品川、その次は渋谷で用意された。狙ってやってるかは分からないが、まるで旅行から帰って来た気分になる。「やっぱいつもより多いな、人」「はぐれないようにしないと」 そう言うと、ユキはまた手を握ってきた。「駅から出るまで、ね?」 これって恋人繋ぎ⋯⋯。さっきから積極的すぎないか? これで付き合って無いってのはなんだ? 俺は歩きながらL.S.を展開し、SNSを見る。すると、"あの事件現場の前後"が動画として流され、既に記事にもなっていた。でも、"謎の機械"の事が書かれていない。あるのは死亡者について【松尾孝明(47)】と、秋葉原駅構内で事件が起きたとあるだけ。
Last Updated: 2025-03-25
Chapter: 5. 機転 サラリーマン風の中年の男は、肩や頭が食われて血が噴き出ている、これ以上見たくない。だって、頭が無い。逃げるしかない、今は。言葉など通じそうにもない。 「逃げるぞ!!」 「あ⋯⋯あれ⋯⋯頭が⋯⋯頭が⋯⋯」 「ユキッ!!」 ユキは手で口を覆い、震えていた。もう無理やり連れていくしかない。 「ッ!!」 俺はユキの手を取り、なりふり構わず走った。後ろでヤツの不穏な足音が常に聞こえる。音的にはたぶんまだ走ってはいないはず、振り返ってる暇は無い。 ヤツがいるのは出口方面だったため、ホーム側に走るしか無かった。同様に考えている人ばかりで、エスカレーター前は混んでいる、こんなのは待ってられない。 「⋯⋯ッ!! 階段で行くぞッ!!」 「ごめん⋯⋯足が⋯⋯つって⋯⋯」 痛そうに右足を抑えるユキ。この時、さっきの通話時の事を思い出した。「研究が思ったより進んで昨日私も寝てな~い」と言っていた事を。 座ってばかりだったのか、突然の走りに身体が付いていって無い様子が見て取れた。 「置いてっていいから⋯⋯行って」 「んなこと」 「行ってッ!」 ヤツの方を一瞬見ると、少し先にいた花柄のワンピースの女性の肩を掴んでいた。女性は激しく助けを呼ぶも、近くにいた黒ぶち眼鏡の男は「む、無理だってッ!!! い、今、警察呼んでるからッ!!!」とL.S.を展開しながら叫ぶ。自ら助けようとする様子は一切無い。 ヤツは口を大きく開け、今にも肩を噛もうとしている。女性は身動きできず、さらに泣き叫び、 「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 俺はそれを見ている事しか⋯⋯でき⋯⋯ない⋯⋯。あの人も"アレ"のようになる? 他人だし放っておいていいよな? いいよな? イ イ ヨ ナ ? 「ルイ⋯⋯? ダメよ⋯⋯ダメだってッ!」 俺の体は、勝手にヤツの方へ走り出していた。無意識の中走りながら、奥の頭の無くなった中年男性をまた見る。 アレのように俺もなる? 妄想の恐怖が全身を覆う。真っ赤な何かが、脳内を侵食しようとしてくる。心臓の鼓動音が大きくなりすぎて、大半の音が聞こえない。でも、後ろでユキらしき声の叫びは聞こえた。 昔っからの付き合いなんだ、音が聞こえなくたってそれくらい分かる。わりぃな、ユキ。 覚悟を決めた瞬間、
Last Updated: 2025-03-24
Chapter: 4. 異変『え~、気付かれた方も多いと思いますが、ロアが今ちょっといません。先ほど急に動かなくなりまして、現在裏で様子を見てもらっています』 は? さっきまであんなに会話してたのに? 最後のアレはどうなったんだよ!? その後番組は止まる事無く、100万給付の事や新経済対策の内容、東京内建造物の急な赤い光、終盤にはロアが最後に言おうとしていた事の考察が数分だけされた。 L.S.を使った新事業を売り出す、外交を増やして国々の物を組み合わせた限定品を作る、宇宙事業を新たに進める、と様々な意見。しかしその反動で、一気に税金を上げる、公共料金が引き上げられる、L.S.の使用料を毎月取られる、といった意見も。 だが、俺が本当に気になったのはそれらではなかった。ほんの少数だがSNSでこう言ってる人たちがいた。 「人間を殺して、その分を取り上げるんじゃないか?」 なんでかは俺にも分からない。なぜかこの言葉だけがずっと脳裏に残った。この違和感はなんだろう⋯⋯。 「ねぇ、ルイ」 考えていると、不意にユキが話しかけてきた。 「総理の会見って夜にもするって言ってたよね」 「ん⋯⋯言ってたな」 「会える人は会いましょうって言ってたけど、次は強制的に見せるとかじゃないってことかな」 「かもな。また夜に見てみるしかない、ってか、この100万どうするよ?」 「う~ん⋯⋯私は一旦貯金かなぁ。ルイは?」 突然の100万に対しても、ユキは案外冷静な様子だった。昔っからの冷静さは、ここでも変わらずのよう。ちなみに俺もと言っておいた。特に欲しいものっていっても、そんな今はない。 「さて、そろそろ出ますか」 「うん」 俺たちが出ると同時に、一気に人が入っていった。もう昼が近いからか、人気だったりするからか、それかあの席の良さがまさかバレてるなんて事は、流石にあまり無さそう。 会計は出る時に自動でL.S.から支払われるため、特に接客とかは無い。何年か前から自動会計の無人店舗が広がっていったが、こんな施設内まで今や無人みたいなもの。奥に管理人一人くらいはいるんだろうけど。 「えっと、10階でやってるんだよね? それ」 俺の新仕様になったL.S.を指してユキは言う。そんなこんなでユキに連れられ、エスカレーターで例の10階に向かう。またあの場所に行くってわけ
Last Updated: 2025-03-24