昨日はなんとなく過ぎちゃったし、今日も午前中、何もしないでボーと過ごしてた。たまにはこんな休日もいいよね。でも今日は3時に高校の女バスで一緒だったセンプクさんのとこ行く約束してるからそろそろ出かけなきゃ。車ないからバスで。
「出かけてきます」 「あなた何言ってるの? 今日お客様来るって言っといたわよね」 占い師は客じゃないよ、おかーさん。あいつの言葉信じても幸せなんかにならないから。 「今日はあなたのためにいらっしゃるのよ。特別料金なのよ」 なんだよ特別料金って。見料、月額定額制なんだろ? そもそも占いでサブスクって何なのだけど。 「占い師に用はないから」 「占い師じゃないのよ、霊媒師さんよ。何度言ったら分かるの」 知るか! ったく、むかつく。おとーさんがいなくなってからああいうのにどんだけボラれたか。占いだ、宗教だ、オカルトだ、健康グッズだって、他人の言うことに振り回されてさ。前を向いて自分の頭を使わなきゃ人生は見つからないって。 ……あたしにそんなこと言う資格ないか。久しぶりのバス。あれ、小銭切らしてら。
「ゴリゴリカード、2000円のください」 お、辻女冬服バージョン。辻女コンプ。これ使えない。 「すみません。もう一枚、2000円のください」 青洲女学館の夏服か。使うの惜しいけど、いっか。運転手さん、なに? その目。あたし制服フェチじゃないから。 「六道辻まで」 ゴリゴリーン。 目の前、成女工の生徒たちだ。土曜にガッコ? そっか、もう学生休みでなくなったんだった。「なんか、よく変な人見んの、ウチ」
「どんなよ」 人の前で足開いて座んなよ、見えちゃってるぞ、P。 「それがさ、ノースリーブで半ズボン履いてる女の子で、夜一人で歩いてんの」 「夕涼みっしょ。最近暑いし」 「いや、それが冬も同じカッコして歩いてるんだって」 「はあ? それはツリだわ」 「いや、マジでマジで」 「ツリツリ。だまされねーし」六道辻。やっぱりここに来るのはしんどい。嫌なこと思い出すから。ツジカワさんがここで行方不明になって、すぐにシオネが、そして……。事件の発端の場所。バス停に立つと、ツジカワさんの家はほんのすぐそこ。この短い距離で何があったんだろうって思う。 センプクさんち、すんごいお屋敷。蔵が3つもある家ってどーよ。辻沢の中でも1位、2位じゃないかな。しかし、女バスのセンプクさんと辻沢不動産の千福オーナーがどうして結びつかなかったかね。あたし頭どうかしちゃった? センプクさんのおじーちゃんが千福オーナー。 玄関先の垣根、いい香り。クチナシだね。フツーは、いくつかくたって汚くなった花があるものなのに、全部真っ白。手入れが行き届いてる。「ヒビキ様。どうぞこちらへ」 電話した時はさんざん女バスの頃の話して盛り上がってたくせに、なんなの他人行儀なこの態度。しかし、広いにもほどがあるよ。玄関からどれだけ歩かせるんだ。冗談じゃなく迷子になりそう。 「しばらく、こちらでお待ちください」 「すみません。お手洗いを貸してもらえないかな」 お腹こわした。コンビ二に売り切れ続出のオレンビーナ・スカンポあったから買って飲んだのがいけなかった。あれ飲むと必ずお腹こわす。 「この前の廊下を、あちらにまっすぐ行かれて、突き当たりを左に行ったところに雪隠がございます」 雪隠ってまさか外でしろって? したものを雪で隠すから雪隠っていうって、ウィキに載ってなかったっけ。 まっすぐね。まっすぐって、ずいぶん長い廊下だ。突き当たってと、あれか。なるほど、これを雪隠って。ただの和風の便所じゃない。一応屋内で安心した。それに水洗だし。わざわざ雪隠っていうことあるか? 洗面台、天然岩? 水つめたい。きっと井戸水だ。格子窓の向こうに裏庭か。って、普通の庭より広いし。殿様がこうやって格子越しに裏庭を見ながら手を洗ってて、「そろそろ、あの枯れ枝も払うときよのう」なんてつぶやくと、隠密が下でそれを聞いてて、シュタタタって走り去るの。それで城代家老が暗殺されるっていう筋書き。 「ごきげんよう」 なんだ? センプクさんのお姉さん? じゃない。青洲女学館の制
センプクさん、あのさ。って心ここにあらず。早いとこ用事すませて帰ろ。この時間ならまだ子ネコちゃんにミルクあげに寄れるから。 「これなんだけど、センプクさんのハンカチだよね」 カマ掛けて言ったのに、すごい動揺。あらら、泣き出したよ。まさか一枚かんでる? 会長の悪事に。 「で、このガラケーだけど」 ちょっと、そんなに握りしめたら壊れちゃうよ。あーあ、これじゃ話しもできやしない。収まるまで少し待つか。 この部屋広いねー。こんなの修学旅行以来。あの時、女バスだけ大広間に寝かされたんだよね。 「ぜってーなんか壊すだろお前ら」 川田先生に隔離されたんだけど、朝起きたらやっぱり誰かがフスマ蹴破ってた。全員2日目、3日目の自由行動なし。 「2度とフスマは蹴破りません」 って旅行ノートにずっと書かされてた。結局犯人は分からずじまい。誰の仕業だったんだ、でっかい穴、4つは開いてた。 センプクさん、落ち着いたと思ったら何だよ。今度はべらべらと。辻沢には古い家で構成する六辻会議っていうのがあって影の世界を支配してるとか、それが全部宮木野の家系だとか、センプクさんとこや町長の家もその一つだとかって。辻っ子ならなんとなく知ってるような話し始めて。どうでもいいっての。町長が昔、東京でヤクザやってたなんて、カイシャじゃ掃除のオジサンまで知ってる有名な話だよ。あ、でも町章にある6つの山椒の実の意味が分かったのは勉強になった、その六辻会議ってのが表象されてるのね。え? 志野婦神社の隠された真実聞きたいかって? いいよ、もう。感情に起伏ありすぎだよ、センプクさん。一応聞いとくけども。 例のメッセージを聞かせたら、しばらく黙ったままでいて、 「わかった、こいつはあたしが始末つけるから」 って。全部ヤリ方教わってるからって、あんたら何もん? あたしは何のネットワークにアクセスしちゃったんだ? いまいち不安だけどガラケーもハンカチも置いてきた。雄蛇ヶ池に捨てに行く手間が省けたって考えることにする。
センプクさんのところから直行して子ネコちゃんに会いに行った。いつになく心がぞわぞわしたから。ミルクをあげてたらまた時間忘れて明け方になっちゃって、そのままカイシャ来た。まだ頭がボーとしてる。幸い、社長も朝から外出で、「デイケアセンター」は平和そのもの。「ねーさん。ホントに山車、この外形でいいんすか? どう見てもチ○コですけど」 こいつは後輩のカワイ。イケメンを自認してやがって生意気なくせに小心者。芸人でもないのに人のことねーさん呼ばわりする。 カワイしつこいぞ。いいつったらいいんだ。ったく、コマイこと気にすんなっての。 「いいよ」 「でも、町長から苦情来ますよ、絶対。その時は、ねーさんが社長に変な屋号で怒られてくださいよ」 「いい? カワイくん。まず、これは町長サイドの要望。次に、町長はうちに文句を言える立場にない。分かったらさっさと設計書仕上げる」 「りょーかいっす。でも、なんで町長はうちの社長に頭上がんないんすか?」 「そりゃーね、キミ」 お、吉田エグゼクティブ。机間巡視専任役員。高下駄履いてんのかってくらいの背丈。カイシャに3人いるエライ吉田さんの一人。 「ヤクザ破門になって野垂れ死にしそうになってたところを、うちの社長に拾ってもらったからだよ。青物市場で」 「「そーなんですかー」」 カワイ。顔がニンギョーになってるぞ。ビジネスは表情からだ。眉毛くらいは動かせな(無声)。ねーさんこそ(無声)。 あたしらに何の反応もないから吉田エグゼクティブ行っちゃったよ。次の獲物探してる。 さてと、設計書仕上げなきゃね。 「それにでっかく町長の名前入れとけな」 「おーけーっす」 「でっかく」 「っす」 廊下を歩いてるのは北村シニアマネだ。また厚生室の方に消えてった。ちょっと聞きたいことあるからお邪魔しちゃお。 あれ? 中でうろうろしてる。変だな、黄緑のバランスボールはあるのに。どうしたんだろ。前に社長からいただいた屋号=怒号、バランスボールだけじゃ癒されなかったの? 「北村シニアマネ。ちょっといい
「ちょっ、ちょっと北村シニアマネ」 「なんだい?」 「あの、聞きたいことがありまして」 「僕に聞くより、ウキペディヤだったかな? あれの方がよっぽど有意義な答えが載ってるんじゃないかい?」 大方はそうでしょうが、これは北村シニアマネしか知らないことなので。 「あの、辻沢不動産の千福オーナー落とした時、芸者ごっこした話を聞かせていただけないかと」 「なぜそれを? そうか、社長が話したのか。社長は君には腹を割って何でも話すんだもの、知ってて当然か」 なんだろな。北村シニアマネの台詞、そのままあたしもトレースしたことがあるような気が。 「いいよ。望まれて何ぼのサラリーマンだ。お話して進ぜよう」 うーん、誰の言葉だろ。松下幸太郎か稲森和夫ってところか。世代的に。 「芸者ごっこっていうのは誤解があるな。まあ、ジョーロリのお稽古なんだけどね」 お稽古してたの? 3か月間。二人で? 「君は知らないと思うけど、ジョーロリの演目で……」 うおー、そんな情報いらない。失礼ですけど、そんなだからダラダラと仕事が進まないんじゃないですか? もっと考え廻らして、相手の欲しいものをダイレクトに提示しましょうよ。 ナニナニ? 父親が殺されて、母親も死んじゃったイナカ娘が、江戸で花魁やってる姉を頼って上京して涙の再会を果たしたのち、二人で剣術を習って親の仇を見事果たすって話なの。ふーん。どっかで聞いたことあるような。そんで? お稽古の合間に二人で衣装付けて遊んだんですか。 北村シニアマネが姉の|花魁《おきの》、千福オーナーが妹の|イナカ娘《おのぶ》で、ちょっと二人の姿を想像できない。というかあたしの脳内にそれを拒否る何かがある。 でも、なんでそんなに楽しそうなんですか? 北村シニアマネ。 「キレイだったのよ。おのぶさんが。とっても。色が白くてが肌が透き通るようでね。鼻筋がすっと通ってて、ふっくらとしたほっぺ、黒目が闇のようで。前歯がちょっと出てるのが玉にキズなんだけど、それも愛嬌でゆるせちゃえるほどなの。それが、『ござるチャー』ってかわいらしくいうのなんて、もう」
三社祭の擦り合わせ、神社側は終わった。第1案だと予算オーバーするから、神社にも少し被ってもらおうと思ったんだけど、宮司さん金が絡むと絶対うんって言わないな。当たり前か。 「カワイくん。町長には初めから第2案でいく」 「りょーかいっす」 「それから、キミに任せてるイベントの件だけど」 「あれは、イベント屋さんにお願いすることになるかと」 「どこ?」 「ゴーマルサンイベントさんです」 いっつも忙しがってるあそこか。 「駅前広場にステージ張って、何かやるみたいっす」 「何かって?」 「何かっす」 カワイにさせろって社長が言うから任せてるけど。 「アイミツは?」 「アイミツ?」 「相見積もりだよ」 「あっ!」 あっ! じゃねーだろ。そこに頼むにしても、他から見積もり取って比較しねーと、ぼられてるかわかんねーだろが。アイミツ効果であっちが勝手に値引いてくれたりもすんだから。ビジネスの基本だろーが。カワイ、大丈夫か? 町役場はほとんどの職員がご帰宅ずみらしく、めっちゃ静かだ。 「なんで、役場の打ち合わせはこんな遅い時間なんでしょうね。7時前だったことないんすから」 確かに、この時間から役場に行くのしんどいよな。今回は特にね。あのハナゲはともかく、広報さんがどう言うか。 町長室。すぐ来るって言ったけど、もう15分待ってる。この悪趣味なインテリアの中にいると町長色に染められていきそうで気分が悪い。 「ヒビキちゃーん。こんばんはっと。あなたは? カワイくんね。ヒビキちゃん、おっかないでしょー」 「ヱ、ハヒィっす」 カワイは町長初めてか。ひとまずしゃべるな(無声)。っす(無声)。 「ヒビキちゃんは今日もズボン? 女はスカートがいいよ。アタシはね、ここの制服をセーラー服にしようと思ってるんだがね。その前にミスコン開催するんだよ。もちろん女子全員エントリーの。それでアタシマターのランク付けてね。ランクの低い者はズボンをはかせる。足がね、美しくないとね。そんなもんだよ。ズボンをはく女な
何この荷物、重いっての。先に送っとけばよかった。 うちの田舎の路線のフォーム、なんだってあんな端の端の端の端の端の端の端のほーにあんのさ。でっかい荷物引っ張ってる身にもなれっての。ま、コロコロついてっからいいけど。てか、なんでエスカレーターないの? バリアフリーしょ、いまドキ。 くっそ重い。階段、荷物ドカ、ドカって、中のもの大丈夫かな。何入れたんだっけ。全部お洋服なはずなんだけど。 あ、そこのおニーさんスカしてないで手伝う気は? ないよね。写真撮るんで忙しそーだ。 いいよ、いいよ。宮木野線が皆様のキョーミを引くなんてカイムだから。じゃんじゃん写真撮って、ツイッターとかインスタとかにあげて有名にしください。バエルかどうかは知らんけど。 押しどころは、たった20キロの間に8校も女子高あるところ。 ちょっとまって、逆に、恐怖の女子高頻発路線とかって闇サイトあったりして。……ないか。 やっと階段降りたと思ったら、なんで汽車あんなホームの隅に停まってんの? もっと階段のほうに来いよ。 ぐいぐい出てこいや。 いまどきチョコレート色だからって恥ずかしがることねーから。 汽車、空いてるって、日常の風景。ゆったりのんびりがモットーの宮木野線ですから。 おばーちゃんたちがゴザひいて、お茶してんのなんてのはジョノクチ。 ウチが一番びっくりしたのは、双子の赤ちゃん抱えたおかーさんが、 両方の胸出してでっかいおっぱい咥えさせてるの見たとき。座席の真ん中で。 こっちのシネコンに『カレー☆パンマン危機一髪』って映画、パパと一緒に観に来た帰りだった。あの時はマジ、ビックリした。 運転手さんやっと来た。トーイところゴクローサマです。 ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。 発車のベル、前より可愛くなった。 ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。 相変わらず、うっさいドアの閉まる音。 〈は、っさすあぬ〉プファン。 アナウンスわかんねー、かろうじて状況判断。 ハイ発車しましたー。 懐かしー景色。ウチを育んだ自然。
お、イケメン二人組だ。めずらしいな。たいがい宮木野線なんかに乗る男子は鉄ちゃんだけど。なんだ、やっぱそーだよ。一人は鉄ちゃんだ。これはキマリ。カメラ抱えて、なんか機材みたいの持ってる。で、見てるとこ変でしょ。窓の風景とかガン無視で、車内の、ほら、鉄板貼ってあるとこ、それバッカ見てるもん。間違いないね。 しかし、もう一人のほうがわかんないな。あのイケメンは、場違いっつーか、人違いっつーか。ちゃんとしてればアイドルグループ候補の補欠に落ちた、くらいな。って、アイドルまったくムカンケー。節子それアイドルちゃう。でもやっぱ鉄ちゃんじゃないなー。ほとんど手ぶらだし。乗り鉄? やっぱちがうね。おっと、見落としちゃいけないTシャツを。『前々々世紀 江戸ゥン・ゲリオン』の綾梨レイ、制服バージョンじゃない。あいつは、ゲリ男。ここんとこあんまり見かけなかったゲリ男。新作出るってなったからまたまた復活してきたんだね。なるほどね、二人はオタクつながりってやつか。 よし、ひさしぶりにキャプションつけてやろ。 「ボク、鉄ちゃん。三鉄(撮り・乗り・読み)なんです。どうです? 今度、ミヤギノ線でも調査しに行きませんか」(妙に低い声) 「ボク、ゲリ男。オッケーです。こんどミヤギノ線で江戸ゥコラボやってるんで」(口臭い) てな、流れか。 なつかしー。勝手にキャプション。知らない人の会話に勝手にキャプション付けて楽しむ遊び。誰考えたんだか知らないけど女バスで流行ったやつ。 因みにウチはオタじゃないから。パパがそーいうセーヘキの人だったから、ちょこっと知ってるくらい。 なんだろーね、さっきから。きもいんだよ、あの二人組。ウチのことちらちら見て。そりゃーね、ウチはここらのイナカ少女に比べたらちょっとはイケテルカモだよ、都会生活が長いから(三年だけど)。だからって、そのいやらしー、ものほしげーな視線は迷惑なんだよ。あんたたちのために可愛いミニスカート履いてるわけじゃないんだっての。なんなの? トーサツ?
〈ぬぇ・いー。ぬぇ・いー。っぎは『ヒナギクさく丘』、ぬぇ・いー。デス〉相変わらず、アナウンス分からない。成実。ナルミって言ってるの。なんで「ヒナギクさく丘」だけテープなんだろ。ここには遠征で何回も来た。ライバルの成実女子工業高校、成女工があるんだ。女バスのみんなして、暑いときはTシャツにバスパン、寒くなったらジャージとシャカパンで、一人一つずつ肩から一個用ボールケース下げてね。試合に負けた帰りはみんなして悔し涙を流したし、勝った時は大声で歌を歌いながら帰った。 乗ってきたよ。成女工の集団。ここの制服もかわいいよ、ちょっとだけね。うわ。一気にJK率上昇。ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。〈は、っさすあぬ〉プファン。 さすがこんだけJKがいると、圧迫感アル。ん? ナンカ変な声する。「うおあっは!。うおあっは!。うおあっは!」 あれー。あのイケメンだ。突然のJK集団に刺激されて本性出したんだね。真っ赤な顔してキョドっちゃてる。セーヘキだ。あれは、カンペキなセーヘキ持ちだ。あいつゲリ男じゃなくって、制服系のセーヘキ持ちか? きょーれつやばい。おーい、そっちのJKってば(無声)。お話にムチューなのはわかるけど、あんたたちシトが急激襲来中(極太明朝体)だよ。元ライバルのウチがいうんだから信用しな。そのイケメンは人間の皮被った怪物。気を付けて! ホラ。そいつの前に立たないの。悪いことは言わないから。油断してっと、チー吸われちゃうから。早く逃げて! ATフィールド張り巡らしちゃって。ガガッガガン、ガガッガガン! おっと、名曳川鉄橋だ。ここは鉄橋の音がうるさくって大声出しても何言ってるか分かんない。だから試合の帰りに女バスのみんなしてここで好きほーだい叫んでた。ヒマワリ、鼻くそほじんなーとか、セイラはマジオタクーとか、レイカはpkしすぎーとか、レイカのボケはヤマハイ仕込みーとか。ほっとけや。 あー。鉄ちゃん、窓から乗りだして写真撮ってる。危ないっての。周りのJK引いてるし。名曳川鉄橋は撮り鉄にはたまらんスポットだけど、あーいうのはチョット。とかいうウチらだって窓から叫んでたんだから一緒か。
三社祭。日中は暑かったけど、夕方になっていい感じに涼しくなってきた。シラベたちに一緒にって誘われたけど、仕事って断った。これも一応仕事だし。一人でぶらぶらしてるのは運営委員会が決めた変なルールに反すると思って、せめてってこのお面買ったけど大丈夫かな。ピロシキに目鼻つけたようなやつだった。これ、違くないか? 夜店のどぶづけの中見たら、「辻沢ダイゴ」ばっかり残ってるし、ラベルシール、瓶からはがれて水の中で泳いじゃってる。やっぱプロダクトの急ごしらえは禁物だ。「ママー、このミルクおえー」「だから変なの買わないのっていったでしょ。いらないなら捨てちゃいなさい」「ぼく。泣くな」 お、いなせなおニーさん登場。さらしにハチマキ、似あってるね。「このラムネと交換してあげるよ。いいや、お金はいらないよ、ママさん」「すみません。ダイキ、ありがとう言いなさい」「ありがとー」「いいって、こんなまずいもん押しつけやがるから、みんなが迷惑してらーね」 社長に見せらんない。おニーさん、ノボリに八つ当たりしなくても、あーあ。あとで買戻し要求されるの覚悟しとこ。 |陽物《チンコ》神輿にでっかく「辻川雄一朗をよろしく!」。町長の名前、思った以上に映《バ》えるね。電飾派手にして正解だった。それより、チンコの神輿、今年初めてなのに、皆さんに受け入れてもらえたのはありがたいな。「ねーちゃん。恥ずかしがんなって。毎晩、旦那のにまたがってんだろー」「乗りなれてるじゃねーの、あねさん。さすがベテランだね」「うるさいね。うちのやつは3年前から、使い物になんないよ」「おーい、旦那さんよー。頑張んないと捨てられちゃうよー」「いいよ、いいよ、持って帰っちゃって。それは奥さん専用だ」 それにしても、今年年女じゃなくてよかった。誰が言いだしたのか、年女はあれにまたがるもんだって。絶対社長に、「なに? ヒビキ年女なの、じゃ乗れ!」 って言われて、先頭切って乗る羽目になってた。あんなのに乗せられたら乙女一生の不覚だったよ。
あそこの二人は、控え目に牙付けて口に血のりシール貼ってるだけだけど、さっきすれ違った二人組なんか、全身ヴァンパイアコスプレだった。紫と赤の全身タイツ着てマントつけて。気合入ってんなーって、注目の的だった。二人ともスタイルよかったし。 ウチらジモティーは夜店で買ったヴァンパイアのお面、頭に乗っけておしまい。あー、そうね。あそこにもいるけど、沿線のJKは、制服にヴァンパイアメークってのが流行りみたい。お揃いコーデ、メンドーだからだと思うけど。けっこー、かわいい。スカートの丈つめて、ブットい足晒して。 ヒ! ちっさいおばーちゃんたち。チョー怖い。 「なんか、今年の志野婦の神輿、ちん(ピー)の形してるんだって」(ナナミ、ファール) 「やめてよー。ナナミ」 「セイラ、お前。何ぶりってんだ?」 「ないわ、辻沢の祭りは女祭りだよ」 「山椒の木の寄木造りって書いてある」 「レイカ、お前はどこの人だ。さっきからパンフばっか見て」 ケッコー面白いよ。 「山椒の木ってのは最悪だね。宮木野さんとこNGのはずなのに」 「どぃうこと?」 「宮木野さんは山椒の木の元で死んだから、神社に山椒は持ち込めないことになってる」 ふーん。そーいえば、役場の宮木野さんも山椒の木の下に寝転がってた。 「年女があの神輿に跨がるってパンフに書いてある。豊作祈願だって」 ちん(ピー)に女の子が乗るって、恥ずい。(レイカ、ファール1。反省) 「セイラ、今年、年女でなくてよかった」 「そーだねー。セイラは乗せらんないね」 「ミワちゃんは?」 「あたしは、別に気にしない」 「ちん(ピー)にのったミワの姿って、ワラエル」(ナナミ、ファール2) 「ウケル。そん時は、ナナミも同乗してるから。同い年、二人とも笑」 「レイカもそん時は年女だろ。ママハイ仕込みが」 「ほっとけや」 って、ナナミ、ヤマハイ仕込みでなくってママハイって言ってたんだ。ママの言うことハイハイ聞くって意味か。ウチ、そんなでもなかったよ。とくにコーコーの頃は。ナナミにテクニカルファールみとこ(ナナミ、ファール
今夜は三社祭です。ミワちゃんとナナミとセイラと来てる。カリンも誘ったけど仕事だって、こんな日に。かなりブラック、カリンの会社。ミワちゃんの黄色地に白い花柄の浴衣キレー。ナナミ、相変わらず肩幅広っろ。その浴衣おとーさんの? 渋すぎでしょ。セイラはいったいいつからそーいう趣味になった? ゴスロリ浴衣って。でもアンガイ似あっててカワイイ。ウチはママの拝借。ちょっとオトナな感じの赤地に黒い縦じまの浴衣。高倉さんにママの浴衣出してって頼んだら着付けまでしてくれた。《《おはしょり》》長すぎて腰紐高くしてるのは内緒。 三社祭は宮木野神社と志野婦神社のお祭り。二社しか参加しないのに三社っていうのは、カゲ社といって数揃えを入れてるから。二より三の方が縁起いいしょ。でも、三つ目は青墓の杜にむかーしあった青墓神社のことって言う人もいる。ホントのところは分かんない。ウチは俗説の、宮木野さんと志野婦さんの双子の姉妹の他にもう一人男の兄弟がいて、三社ってのが好き。 ウチは8年ぶりの三社祭。もとは4年ごとのお祭りで、ちょうど4年前にはあの事件があって中止になってた。でも、ミワちゃんたちは毎年参加だって。ヒマワリのパパが商店街振興を掲げて町長に当選してすぐの仕事が、三社祭を毎年開催に変えたこと。無理っていわれてたことを共催企業を募ることで実現したって。これはお祭りのパンフの受け売り。「ヤオマンの提灯と、三社祭の提灯、半々って感じ」「ほんとだー。んっぐぐ」「レイカ、お前、その腐れ牛乳好きだな。何本目だ?」「3本目。おいしーよ。あれ? なんて名前なんだっけ。ラベルない」「辻沢ダイゴ。あのノボリに書いてある」「ダンス・飲・ザ・辻沢ダイゴ!」「ほれ、レイカ。踊れ!」「あ、かっぽれ、かっぽれ」「なにそれ?」「知らない」 あぶな、人にぶつかりそーになった。あんなでっかいヴァンパイアの被り物二人でしてたら邪魔でしょに。てか、周りヴァンパイアだらけ。 宮木野さんと志野婦さんの双子姉妹がヴァンパイアって言い伝えをもとに、女の人はヴァンパイアの格好をして参加するように呼びかけてるんだって。二人一組でね。お揃いヴァンパイアコーデってやつ。
なんとか説明して、北村シニアマネに分かってもらった。「すまなかったね。いやー、勘違い。ここに座るのはみんなそーなのかと思ってしまって」 そんなのは、北村シニアマネだけでしょう。バランスボール、座りたくなくなった。「なに聴いてたの?」 これですか?「三味線の音がもれてたから」 スピーカーON。「あれ? 片っ方のイヤホン、渡して聞かせてくれないの? よく公園のベンチで恋人同士がやってるじゃない」 どうしてあんたと恋人同士みたいなことしなきゃならない? 変な親近感持ってもらっちゃ困るんだよ。ぢー仲間じゃないからな。「これ、宮司の奥さんの声に似てるな。三味線も?」 北村シニアマネお知り合いなんですか? 実は、役場のカルチャーで……。「やっぱりそうなんだ。懐かしいな。あの時、千福オーナーのところで宮司の奥さんにもお稽古つけてもらった」「二人だけかと」「千福オーナー三味線弾けないからね」 そうなんだ。「宮司の奥さんも美しい人でね。お姉さんだけあって」「え? お姉さんなんですか?」「そうだよ。双子のね。美しいと思わないかい?」 それは認めます。物腰がおちついているからそれなりのお年だとは思うけど、「20代に見えるくらい若々しいです」 大げさなようだけど、実際あたしとタメに見えることある。「そう、僕の時も20代に見えたけど。美人は年を取らないものなんだね」 20年前から年を取らない?「あの頃は、二人は仲睦まじくてね。まるで恋人同士のようだったんだよ」 まるで恋人同士。「ひょっとしてですけど、お師匠さんて千福オーナーのこと人に話すとき」「《《あの人》》って言うよ。弟だけどまるで彼氏みたいにね」「じゃあ、志野婦神社の土地の所有者って、千福オーナー?」「そうだよ。以前はもっとあったが今はあそこだけだよ」 お師匠さんのターゲット間違ってた。宮司さんでなくって、千福オーナーだった。なら、あの人がしてる危
志野婦神社の神輿完成報告して社長によろこんでもらうはずが、あたしが余計なこと言ったせいで、社長室の温度、2度くらい下がった感じ。「ヒビキ、あんた何言ってるの? 宮大工が一生懸命仕事するのは当たり前、納期までに完璧に仕上げるのは当たり前。違うか?」「そうです」「なら、どうしてご祝儀をはずまなきゃならない? わが社は仕事に見合った金を払ってないとでも?」「いいえ。十分払ってます」「あまいぞ、ヒビキ。《《ひさしぶりに女バス仲間に会って》》、仲良しごっこが懐かしくなったか?」 ユサのこと? ひさごのことまで知ってる? まさかね。「すみません」「どうせ、現場に言っちまったんだろ」「いいえ、それはしてません。社長に相談してからと」 今のは、ほんの軽口のつもりですし。「まあ、いいよ。とにかくおまえがやってるのは、ビジネスだ。金儲け。わかった?」「わかりました」「わかったら、行っていいよ」「しつれいします」 何年ぶりだろ怒られたの。 社長室出たらカワイがすり寄ってきた。「ねーさん。めずらしいですね。社長、昨日からナンカ機嫌悪いみたいっすよ。御神輿見に行ったらしいんすよ、できあがったの。それ見て怒ったんじゃないっすかね。だからあんだけ僕がチ〇コはまずいって……」 まとわりつくなよ。一人にしてくれねーかな。そっだ、厚生室行こう。なるほど、こういう時こうやってあの部屋が呼ぶんだ。知らなかったよ。あった、バランスボール。紫の復活してる。こっちは北村シニアマネ専用だから、あたしは黄緑のにしよー。ぶーらぶーら。ケツがこそばゆい。これ、本当に心の水平リーベ棒になるのかな。もちょっと、やっててみるか。そっだ、お師匠さんのベンベン節聞きながらやってみよう。〈ビエン、ビエン。なげきのむちもあにぇはなおー、ビエン。いもとがしぇなを、ビ、なで、ビ、おろしー、ビエン、おーお、そなやにおもやるももっとも。しかし。そなたがちちははに、なごおそやったみのかほおー。これこのあねをみやいのおー……〉やっぱ癒される、
女子会、結局参加した。シラベは置いといてみんな変わってなかった。修学旅行でフスマ破った張本人がシラベだったってのには納得。夜中に暴れ出したから、スオウさんとセンプクさんの二人掛かりで取り押さえたって、ははは。笑えない。高2の秋だよ、修学旅行って。例の件、センプクさんせっついたら餌やってるとこって、イミフ。 休み明け、出社早々やられた感。三社祭の公式飲料に乳製品だと? どこの誰が神輿担いで汗かいてミルクをがぶ飲みする? そこはビールとかせめてスポドリだろ?「でも、風呂上りの牛乳は格別って」 そうやってすぐに迎合するのは悪い癖だぞ、カワイ。「風呂上りじゃねーの、祭りなの」「ねーさん。とりあえず、名前考えましょ、これの」 名前すら決まってねーのよ。ついでに。ラベルとかポスターとかどうすれっての? 今から間に合わねーだろ。だれのごり押しだよ。「社長っす」 だよな。社長以外ないな。このタイミングでこれぶっこんで来れるのは。あ、社長出て来た。「ヒビキ、ゴメン。懇意の人がこれをどうしてもってさ」「商品名もまだないって」「できたばっかなんだよ。昨日。でも、おいしいから飲んでみてごらん、ホントに」 そーですね、「自分の体験を売れ!」(BY ジュース・ウェルチ)でした。うそ、ウェルチそんなこと言ってない。 ただの牛乳じゃないのは分かってる。やばい色してるんだけど、大丈夫なのかなホント。うえー、何これ。ミルクって言うより、チーズのような豆腐のような、それでいて甘くて、酸っぱくて、呑み込めない。「どう、おいしいでしょ」 おいしいですって、言いたいデスけどいまちょっと口の中に残ってるんで感想ひかえさせていただいていいですか?(無声) カワイ、お前、何とか言えよ、ん? どうした。ねーさん、苦しい(無声)。鼻から出てんぞ、牛乳。「とにかくうちはこれを大々的に売り出す。分かった?」「「ほぇーいす。」」 社長、宣言だけして帰って行った。「社長逆切れだったな。カワイ、名前何てしようか?」 「窒息牛乳。窒息ミルク。窒息ちち」 窒息から離れろ
ウチはセイラの本棚物色。うーん、ブンガクな本ばっかり。ダザイオサム。ニンゲンシカクの人。サカグチヤスゴ? 誰だっけ。サクラノシタとかの人か。ナカジマアツシ。おー、サンゲツキの人。高二の現代文で冒頭の文章を暗記させられた。「ロウセイノリチョーハハクガクサイエー、テンポーノマツネン、ワカクシテナヲコボーニツラネ、ツイデコウナンイニホセラレタガ、セイ、ケンカイ、ミズカラタノムトコロスコブルアツク、センリニアマンズルヲイサギヨシトシナカッタ」。覚えてるねー。この人発狂して虎になっちゃうんだけど、それが妙にリアルでみんなすごく真剣に授業受けてたよね。 ウチはしばらくの間はうとうとしながら、カリンとセイラがゲームしてるのを遠くのほうの出来事みたいに感じてた。ときどき、「すごい。カーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラ、一撃」 とか、「こんなに早くメアリー・シェリーにたどり着くって」 とか、「黒幕はバイロン卿だと思ってたのに」「どうしてここで、ポリドリ?」 って、気になる名前が聞こえてた。トム・ホランドの『真紅の呪縛』面白かったな。パパの本棚にあったヴァンパイア小説で3番目くらいに。 なんて考えてたらウチはいつの間にか寝落ちしちゃってて、カリンが、「よっし裏ゲーム、ゲットー! 『スレイヤー・R』」 って叫んで、ビックリして起きた。いま何時ですかね。お日様出てますね。「3時間でクリアだって。さすがチート・モード」「『スレイヤー・R』はどんな感じ? カリン」「位置ゲーみたいだけど」「カリン見て。この地図、どこか分からないように省略してあるけど、位置許可してやると、ホラ、この地形、青物市場っぽい」「フィールドロケーションは辻沢なんだ」「辻沢で何をするゲームだと思う? モンスター集めて回るとか?」「まさか。モーケモンGOじゃないよ」 お二人さん、ウチには分からない世界の住人になってる。このままゲームをやり続けるって言うけど、ウチそろそろ。「どうしたの? 用事?」「ううん。PK」「なにそれ」「パンツ変えたい」
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜は
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜