「あ、あたし」
社長、どなたにお電話ですか? 「北村、今何してる? そうか。なら、大門前のいつものバーまで私のポルポル取りに来て。うん。そう。わるいな。10時半? 了解。お、そうだ。この間の企画書よかった。うん。お前主導で立ち上げてくれ。じゃあ、あとで」 「北村シニアマネですよね。大丈夫なんですか?」 車とプロジェクトの運転、両方とも。 「うん。大丈夫。あいつ運転は慎重だから。まあ、いっつも怒鳴ってるの見せてるから、あいつのことそんなふうに思うのも仕方ないけど、あいつはあいつでいいところあってね。昔、辻沢不動産をうちの傘下に入れようってた時……」 社長。その話、もう何度も聞きました。辻沢不動産の千福オーナーに3か月張り付いて、うんって言わせた。あいつは泥のように這いつくばって粘り強く仕事する昔ながらのビジネスマン、「二枚腰の北」と呼ばれてたっていう話ですよね。で、創業時一緒に汗したやつは特別とくる流れ。ちょっとうらやましい気がするけど、そこは踏み込んじゃいけない領域ってわきまえてますから。 「二人で3か月間、何してたと思う?」 え? それ初めて聞くな? わかりません。 「芸者遊びだよ」 「3か月間芸者遊びって、お金かかりそうですね」 「いや。一銭もかかんなかったんだ、それが」 全部、向う持ちってこと? 「ごっこ遊びだったんだ。千福と北村が姉妹の芸者って設定で、千福んとこで3か月間」 芸者ごっこって、アタマオカシイ? どっちが? オーナー? 北村さん? 「北村の芸者姿もまんざらじゃなかったって」 北村シニアマネ、見方180度変わった。北村シニアマネ来た。お疲れ様です(無声)。この人が白粉塗って着物着て踊ってたんだ。3カ月も。20年前はどんなだったか知らないけど、想像するのが恐ろしい。
社長をお店の前でお見送り。 「ヒビキんち、ここから近かったよね。じゃあ、また来週。あっちのほうも期待してるよ」 行っちゃった。ポルポル、もう点になってる。あたしんち、車だと陸橋渡れるからすぐだけど、歩くとなるとソートーかか昨日はなんとなく過ぎちゃったし、今日も午前中、何もしないでボーと過ごしてた。たまにはこんな休日もいいよね。でも今日は3時に高校の女バスで一緒だったセンプクさんのとこ行く約束してるからそろそろ出かけなきゃ。車ないからバスで。 「出かけてきます」 「あなた何言ってるの? 今日お客様来るって言っといたわよね」 占い師は客じゃないよ、おかーさん。あいつの言葉信じても幸せなんかにならないから。 「今日はあなたのためにいらっしゃるのよ。特別料金なのよ」 なんだよ特別料金って。見料、月額定額制なんだろ? そもそも占いでサブスクって何なのだけど。 「占い師に用はないから」 「占い師じゃないのよ、霊媒師さんよ。何度言ったら分かるの」 知るか! ったく、むかつく。おとーさんがいなくなってからああいうのにどんだけボラれたか。占いだ、宗教だ、オカルトだ、健康グッズだって、他人の言うことに振り回されてさ。前を向いて自分の頭を使わなきゃ人生は見つからないって。 ……あたしにそんなこと言う資格ないか。 久しぶりのバス。あれ、小銭切らしてら。 「ゴリゴリカード、2000円のください」 お、辻女冬服バージョン。辻女コンプ。これ使えない。 「すみません。もう一枚、2000円のください」 青洲女学館の夏服か。使うの惜しいけど、いっか。運転手さん、なに? その目。あたし制服フェチじゃないから。 「六道辻まで」 ゴリゴリーン。 目の前、成女工の生徒たちだ。土曜にガッコ? そっか、もう学生休みでなくなったんだった。「なんか、よく変な人見んの、ウチ」 「どんなよ」 人の前で足開いて座んなよ、見えちゃってるぞ、P。 「それがさ、ノースリーブで半ズボン履いてる女の子で、夜一人で歩いてんの」 「夕涼みっしょ。最近暑いし」 「いや、それが冬も同じカッコして歩いてるんだって」 「はあ? それはツリだわ」 「いや、マジでマジで」 「ツリツリ。だまされねーし」
六道辻。やっぱりここに来るのはしんどい。嫌なこと思い出すから。ツジカワさんがここで行方不明になって、すぐにシオネが、そして……。事件の発端の場所。バス停に立つと、ツジカワさんの家はほんのすぐそこ。この短い距離で何があったんだろうって思う。 センプクさんち、すんごいお屋敷。蔵が3つもある家ってどーよ。辻沢の中でも1位、2位じゃないかな。しかし、女バスのセンプクさんと辻沢不動産の千福オーナーがどうして結びつかなかったかね。あたし頭どうかしちゃった? センプクさんのおじーちゃんが千福オーナー。 玄関先の垣根、いい香り。クチナシだね。フツーは、いくつかくたって汚くなった花があるものなのに、全部真っ白。手入れが行き届いてる。「ヒビキ様。どうぞこちらへ」 電話した時はさんざん女バスの頃の話して盛り上がってたくせに、なんなの他人行儀なこの態度。しかし、広いにもほどがあるよ。玄関からどれだけ歩かせるんだ。冗談じゃなく迷子になりそう。 「しばらく、こちらでお待ちください」 「すみません。お手洗いを貸してもらえないかな」 お腹こわした。コンビ二に売り切れ続出のオレンビーナ・スカンポあったから買って飲んだのがいけなかった。あれ飲むと必ずお腹こわす。 「この前の廊下を、あちらにまっすぐ行かれて、突き当たりを左に行ったところに雪隠がございます」 雪隠ってまさか外でしろって? したものを雪で隠すから雪隠っていうって、ウィキに載ってなかったっけ。 まっすぐね。まっすぐって、ずいぶん長い廊下だ。突き当たってと、あれか。なるほど、これを雪隠って。ただの和風の便所じゃない。一応屋内で安心した。それに水洗だし。わざわざ雪隠っていうことあるか? 洗面台、天然岩? 水つめたい。きっと井戸水だ。格子窓の向こうに裏庭か。って、普通の庭より広いし。殿様がこうやって格子越しに裏庭を見ながら手を洗ってて、「そろそろ、あの枯れ枝も払うときよのう」なんてつぶやくと、隠密が下でそれを聞いてて、シュタタタって走り去るの。それで城代家老が暗殺されるっていう筋書き。 「ごきげんよう」 なんだ? センプクさんのお姉さん? じゃない。青洲女学館の制
センプクさん、あのさ。って心ここにあらず。早いとこ用事すませて帰ろ。この時間ならまだ子ネコちゃんにミルクあげに寄れるから。 「これなんだけど、センプクさんのハンカチだよね」 カマ掛けて言ったのに、すごい動揺。あらら、泣き出したよ。まさか一枚かんでる? 会長の悪事に。 「で、このガラケーだけど」 ちょっと、そんなに握りしめたら壊れちゃうよ。あーあ、これじゃ話しもできやしない。収まるまで少し待つか。 この部屋広いねー。こんなの修学旅行以来。あの時、女バスだけ大広間に寝かされたんだよね。 「ぜってーなんか壊すだろお前ら」 川田先生に隔離されたんだけど、朝起きたらやっぱり誰かがフスマ蹴破ってた。全員2日目、3日目の自由行動なし。 「2度とフスマは蹴破りません」 って旅行ノートにずっと書かされてた。結局犯人は分からずじまい。誰の仕業だったんだ、でっかい穴、4つは開いてた。 センプクさん、落ち着いたと思ったら何だよ。今度はべらべらと。辻沢には古い家で構成する六辻会議っていうのがあって影の世界を支配してるとか、それが全部宮木野の家系だとか、センプクさんとこや町長の家もその一つだとかって。辻っ子ならなんとなく知ってるような話し始めて。どうでもいいっての。町長が昔、東京でヤクザやってたなんて、カイシャじゃ掃除のオジサンまで知ってる有名な話だよ。あ、でも町章にある6つの山椒の実の意味が分かったのは勉強になった、その六辻会議ってのが表象されてるのね。え? 志野婦神社の隠された真実聞きたいかって? いいよ、もう。感情に起伏ありすぎだよ、センプクさん。一応聞いとくけども。 例のメッセージを聞かせたら、しばらく黙ったままでいて、 「わかった、こいつはあたしが始末つけるから」 って。全部ヤリ方教わってるからって、あんたら何もん? あたしは何のネットワークにアクセスしちゃったんだ? いまいち不安だけどガラケーもハンカチも置いてきた。雄蛇ヶ池に捨てに行く手間が省けたって考えることにする。
センプクさんのところから直行して子ネコちゃんに会いに行った。いつになく心がぞわぞわしたから。ミルクをあげてたらまた時間忘れて明け方になっちゃって、そのままカイシャ来た。まだ頭がボーとしてる。幸い、社長も朝から外出で、「デイケアセンター」は平和そのもの。「ねーさん。ホントに山車、この外形でいいんすか? どう見てもチ○コですけど」 こいつは後輩のカワイ。イケメンを自認してやがって生意気なくせに小心者。芸人でもないのに人のことねーさん呼ばわりする。 カワイしつこいぞ。いいつったらいいんだ。ったく、コマイこと気にすんなっての。 「いいよ」 「でも、町長から苦情来ますよ、絶対。その時は、ねーさんが社長に変な屋号で怒られてくださいよ」 「いい? カワイくん。まず、これは町長サイドの要望。次に、町長はうちに文句を言える立場にない。分かったらさっさと設計書仕上げる」 「りょーかいっす。でも、なんで町長はうちの社長に頭上がんないんすか?」 「そりゃーね、キミ」 お、吉田エグゼクティブ。机間巡視専任役員。高下駄履いてんのかってくらいの背丈。カイシャに3人いるエライ吉田さんの一人。 「ヤクザ破門になって野垂れ死にしそうになってたところを、うちの社長に拾ってもらったからだよ。青物市場で」 「「そーなんですかー」」 カワイ。顔がニンギョーになってるぞ。ビジネスは表情からだ。眉毛くらいは動かせな(無声)。ねーさんこそ(無声)。 あたしらに何の反応もないから吉田エグゼクティブ行っちゃったよ。次の獲物探してる。 さてと、設計書仕上げなきゃね。 「それにでっかく町長の名前入れとけな」 「おーけーっす」 「でっかく」 「っす」 廊下を歩いてるのは北村シニアマネだ。また厚生室の方に消えてった。ちょっと聞きたいことあるからお邪魔しちゃお。 あれ? 中でうろうろしてる。変だな、黄緑のバランスボールはあるのに。どうしたんだろ。前に社長からいただいた屋号=怒号、バランスボールだけじゃ癒されなかったの? 「北村シニアマネ。ちょっといい
「ちょっ、ちょっと北村シニアマネ」 「なんだい?」 「あの、聞きたいことがありまして」 「僕に聞くより、ウキペディヤだったかな? あれの方がよっぽど有意義な答えが載ってるんじゃないかい?」 大方はそうでしょうが、これは北村シニアマネしか知らないことなので。 「あの、辻沢不動産の千福オーナー落とした時、芸者ごっこした話を聞かせていただけないかと」 「なぜそれを? そうか、社長が話したのか。社長は君には腹を割って何でも話すんだもの、知ってて当然か」 なんだろな。北村シニアマネの台詞、そのままあたしもトレースしたことがあるような気が。 「いいよ。望まれて何ぼのサラリーマンだ。お話して進ぜよう」 うーん、誰の言葉だろ。松下幸太郎か稲森和夫ってところか。世代的に。 「芸者ごっこっていうのは誤解があるな。まあ、ジョーロリのお稽古なんだけどね」 お稽古してたの? 3か月間。二人で? 「君は知らないと思うけど、ジョーロリの演目で……」 うおー、そんな情報いらない。失礼ですけど、そんなだからダラダラと仕事が進まないんじゃないですか? もっと考え廻らして、相手の欲しいものをダイレクトに提示しましょうよ。 ナニナニ? 父親が殺されて、母親も死んじゃったイナカ娘が、江戸で花魁やってる姉を頼って上京して涙の再会を果たしたのち、二人で剣術を習って親の仇を見事果たすって話なの。ふーん。どっかで聞いたことあるような。そんで? お稽古の合間に二人で衣装付けて遊んだんですか。 北村シニアマネが姉の|花魁《おきの》、千福オーナーが妹の|イナカ娘《おのぶ》で、ちょっと二人の姿を想像できない。というかあたしの脳内にそれを拒否る何かがある。 でも、なんでそんなに楽しそうなんですか? 北村シニアマネ。 「キレイだったのよ。おのぶさんが。とっても。色が白くてが肌が透き通るようでね。鼻筋がすっと通ってて、ふっくらとしたほっぺ、黒目が闇のようで。前歯がちょっと出てるのが玉にキズなんだけど、それも愛嬌でゆるせちゃえるほどなの。それが、『ござるチャー』ってかわいらしくいうのなんて、もう」
三社祭の擦り合わせ、神社側は終わった。第1案だと予算オーバーするから、神社にも少し被ってもらおうと思ったんだけど、宮司さん金が絡むと絶対うんって言わないな。当たり前か。 「カワイくん。町長には初めから第2案でいく」 「りょーかいっす」 「それから、キミに任せてるイベントの件だけど」 「あれは、イベント屋さんにお願いすることになるかと」 「どこ?」 「ゴーマルサンイベントさんです」 いっつも忙しがってるあそこか。 「駅前広場にステージ張って、何かやるみたいっす」 「何かって?」 「何かっす」 カワイにさせろって社長が言うから任せてるけど。 「アイミツは?」 「アイミツ?」 「相見積もりだよ」 「あっ!」 あっ! じゃねーだろ。そこに頼むにしても、他から見積もり取って比較しねーと、ぼられてるかわかんねーだろが。アイミツ効果であっちが勝手に値引いてくれたりもすんだから。ビジネスの基本だろーが。カワイ、大丈夫か? 町役場はほとんどの職員がご帰宅ずみらしく、めっちゃ静かだ。 「なんで、役場の打ち合わせはこんな遅い時間なんでしょうね。7時前だったことないんすから」 確かに、この時間から役場に行くのしんどいよな。今回は特にね。あのハナゲはともかく、広報さんがどう言うか。 町長室。すぐ来るって言ったけど、もう15分待ってる。この悪趣味なインテリアの中にいると町長色に染められていきそうで気分が悪い。 「ヒビキちゃーん。こんばんはっと。あなたは? カワイくんね。ヒビキちゃん、おっかないでしょー」 「ヱ、ハヒィっす」 カワイは町長初めてか。ひとまずしゃべるな(無声)。っす(無声)。 「ヒビキちゃんは今日もズボン? 女はスカートがいいよ。アタシはね、ここの制服をセーラー服にしようと思ってるんだがね。その前にミスコン開催するんだよ。もちろん女子全員エントリーの。それでアタシマターのランク付けてね。ランクの低い者はズボンをはかせる。足がね、美しくないとね。そんなもんだよ。ズボンをはく女な
何この荷物、重いっての。先に送っとけばよかった。 うちの田舎の路線のフォーム、なんだってあんな端の端の端の端の端の端の端のほーにあんのさ。でっかい荷物引っ張ってる身にもなれっての。ま、コロコロついてっからいいけど。てか、なんでエスカレーターないの? バリアフリーしょ、いまドキ。 くっそ重い。階段、荷物ドカ、ドカって、中のもの大丈夫かな。何入れたんだっけ。全部お洋服なはずなんだけど。 あ、そこのおニーさんスカしてないで手伝う気は? ないよね。写真撮るんで忙しそーだ。 いいよ、いいよ。宮木野線が皆様のキョーミを引くなんてカイムだから。じゃんじゃん写真撮って、ツイッターとかインスタとかにあげて有名にしください。バエルかどうかは知らんけど。 押しどころは、たった20キロの間に8校も女子高あるところ。 ちょっとまって、逆に、恐怖の女子高頻発路線とかって闇サイトあったりして。……ないか。 やっと階段降りたと思ったら、なんで汽車あんなホームの隅に停まってんの? もっと階段のほうに来いよ。 ぐいぐい出てこいや。 いまどきチョコレート色だからって恥ずかしがることねーから。 汽車、空いてるって、日常の風景。ゆったりのんびりがモットーの宮木野線ですから。 おばーちゃんたちがゴザひいて、お茶してんのなんてのはジョノクチ。 ウチが一番びっくりしたのは、双子の赤ちゃん抱えたおかーさんが、 両方の胸出してでっかいおっぱい咥えさせてるの見たとき。座席の真ん中で。 こっちのシネコンに『カレー☆パンマン危機一髪』って映画、パパと一緒に観に来た帰りだった。あの時はマジ、ビックリした。 運転手さんやっと来た。トーイところゴクローサマです。 ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。 発車のベル、前より可愛くなった。 ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。 相変わらず、うっさいドアの閉まる音。 〈は、っさすあぬ〉プファン。 アナウンスわかんねー、かろうじて状況判断。 ハイ発車しましたー。 懐かしー景色。ウチを育んだ自然。
お、イケメン二人組だ。めずらしいな。たいがい宮木野線なんかに乗る男子は鉄ちゃんだけど。なんだ、やっぱそーだよ。一人は鉄ちゃんだ。これはキマリ。カメラ抱えて、なんか機材みたいの持ってる。で、見てるとこ変でしょ。窓の風景とかガン無視で、車内の、ほら、鉄板貼ってあるとこ、それバッカ見てるもん。間違いないね。 しかし、もう一人のほうがわかんないな。あのイケメンは、場違いっつーか、人違いっつーか。ちゃんとしてればアイドルグループ候補の補欠に落ちた、くらいな。って、アイドルまったくムカンケー。節子それアイドルちゃう。でもやっぱ鉄ちゃんじゃないなー。ほとんど手ぶらだし。乗り鉄? やっぱちがうね。おっと、見落としちゃいけないTシャツを。『前々々世紀 江戸ゥン・ゲリオン』の綾梨レイ、制服バージョンじゃない。あいつは、ゲリ男。ここんとこあんまり見かけなかったゲリ男。新作出るってなったからまたまた復活してきたんだね。なるほどね、二人はオタクつながりってやつか。 よし、ひさしぶりにキャプションつけてやろ。 「ボク、鉄ちゃん。三鉄(撮り・乗り・読み)なんです。どうです? 今度、ミヤギノ線でも調査しに行きませんか」(妙に低い声) 「ボク、ゲリ男。オッケーです。こんどミヤギノ線で江戸ゥコラボやってるんで」(口臭い) てな、流れか。 なつかしー。勝手にキャプション。知らない人の会話に勝手にキャプション付けて楽しむ遊び。誰考えたんだか知らないけど女バスで流行ったやつ。 因みにウチはオタじゃないから。パパがそーいうセーヘキの人だったから、ちょこっと知ってるくらい。 なんだろーね、さっきから。きもいんだよ、あの二人組。ウチのことちらちら見て。そりゃーね、ウチはここらのイナカ少女に比べたらちょっとはイケテルカモだよ、都会生活が長いから(三年だけど)。だからって、そのいやらしー、ものほしげーな視線は迷惑なんだよ。あんたたちのために可愛いミニスカート履いてるわけじゃないんだっての。なんなの? トーサツ?
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜は
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜
おひさー。女バスの子たちとは卒業式以来。みんな元気そーでナニヨリ。ナナミは安定の肩幅だね。あれ? セイラやつれてない? 地元のシステム会社に就職したって聞いたけど、ソッカー。やっぱキビシーよね、実社会は。特に女子にはさ。ミワおかーさんだけだね、輝いてるの。ムセッかえるっての? ムネやけするっつーか。最近トミニ匂いがきっついな、ミワちゃんのそばいくと、くらくらするから離れて座ろ。ゴメンね。何これ?「あ、おとーしになりますー」 ゴマスリセットが? で、なんでみんなしてゴマスリし始めてんの? 席に着くなりゴリゴリゴリって、変じゃね? ナナミがゴリゴリゴリ。「ミワ、まゆまゆ誰に預けてきたの?」「ママ友。気楽に頼める人がいて助かる」「「「それ希少種。レッドデータ、イマドキ」」」「ところでセイラ、なんで金髪にした? 前の黒髪の方があんたらしくてよかったのに」「彼氏でもできたの?」「うん、そんなとこ」「似合ってるよ。セイラ」「ありがと。ミワ」「おまたせー」 カリン来たー。遅かったね。スーツにスラックス。かっこいい。ナナミがゴリゴリゴリ。「おー、カリン」 ミワちゃんが(以下、略)。「遅かったねー」 セイラが(以下、略)。「待ってたー」「仕事がね、たまっちゃってて」 ナナミが(以下、略)。「かせーでるね」「サービスありきっての? よう、レイカ。おひさ」「んっちわ」 みんな思ってたほどじゃなくてよかった。落ち着いてる感じ。やっぱ、四年も経つと忘れてくるのかな。さみしー気もするけど、事件が事件だから、これでいいよね。 エッグノックって初めて飲んだけど、おいしかったな。ミワちゃんがウチの前に次々置いてくれるんでいい気になって5杯も飲んじゃった。酔って寝ちゃったんだ、ウチ。ふわー。あれ? カリンとセイラだけだ。ミワちゃんたちは?「用事済ませて三〇分くらいしたら戻るって」「ナニやってるの、それ」「ゲーム」 すげないね
おもしろい写真見つけた。なるほどね、こーゆーこと。この写真の端に映ってる白い車のお尻のラインは、エクサスLFA。こんな高級車、辻沢あたりに1台だけだよ。これ釣り場じゃないな。森の中? 広場っぽいな。どこだろ。もう一つの写真のほうも森の広場だな。同じ場所? 木の様子が少し違うような。倉庫みたいな建物あるし。別の場所かも。コメントは、「餌場視察」。情報はこれだけか。町長とミミズでも掘るつもりとか? まさかね。「この記事、他の情報ないかな。裏コメントとか」「ちょっと待って。この写真をローカルに保存して。ツール、ツール。これをこいつで開くと、ビンゴ! イグジフファイルだ」「イグジフファイル?」「撮った場所とか時間が埋め込まれてる画像ファイル」 そうか、文字だけが情報じゃないよな。「どうしてわざわざそんなファイルをアップしてんの? この人」「位置情報ONにしてるスマフォとかだと、設定変えないままだと勝手にこのファイル形式で撮影したりすることある」「ってことは」「抽出した緯度・経度をゴリゴリマップで検索して」 作業慣れした感じする。ユサ元々SEだからあたりまえか。「場所が特定できるっと。来た。青墓の杜」 いっつも暗くて陰気臭くて、辻っ子は夜に絶対近寄らない場所。こんなところで何してるんだろ、町長と深夜の2時に。「衛星画像で拡大してみて」 あるね。森の中にちょっと開けた場所。少し離れたところにも広場ある。こっちは広くて建物があるな。行くとしたら、辻沢バイパスから間道入って真っ直ぐ青墓の杜に入って、間道から先はこれじゃ分からないな。行ってみるしかないのかも。一人で行くのは嫌だな。ユサは青墓詳しいけど、一緒に行ってもな。 気付くとカーテンの外が明るくなっていた。朝か。「そろそろ帰るよ」「また来てくれる? ここ一人じゃ広すぎて、なんか嫌なんだ」 そうだね、あたしらのお給料じゃ住めない広さだね。ユサ、頑張り方変えないと。「じゃあね。今度また二人で子ネコちゃんたちに会いに行こう」「うん。でも、こんなことしてたら、あの子たちに怒られちゃうかも」
さっきまでと違い、やたらと暗い画面で静止画像かと思うほど動きがない。でもよく見ていると何かが画面の底で蠢いている。しばらくすると、蠢いていたものがゆっくりと立ち上がり、何かを手にぶら下げながら立ち去って行って動画が終わった。さっきのとこれとの違いは、ウエアラブルカメラの映像と設置カメラの映像であるところだ。暗すぎて細かいことは分かりにくいけれど、画面からは言いようのない背徳感が滲み出している。 「闇の匂いする」 「だよね。だからヒビキに観てもらおうって」 「ユサって広報だったよね。何か知ってるんでしょ」 「知らないの」 「知らないって。それでどうやってこのプロダクトのこと広報してんの?」 「広報の仕事って言っても、ポスターの印刷頼んだり、ユーザ宛てのメールの文書作ったりするだけだもん。だからほとんど蚊帳の外」 なんだ、使えないか。 「これでも頑張ったんだよ。なんとか食い込もうと思って。でもダメだった、ヒビキと違って」 あたしはそうならないように、うんとアタマ働かせてやって来たけどね。 「それでも、他の人が知らない余計なことは知ってる」 聞きたかない。 「だから、この動画アップしたのは、カイチョーって言える」 なに泣いてんだよ。こいつのこういうところが嫌なんだ、ホント。 それから観られるだけ観たけど、どれもこれも同じような動画だった。フィルターがかかってる? 「ヒビキ分かる? カイチョーの投稿にパターンがあるの」 「パターン?」 「うん。短期間のうちに3回あげたら、1、2ヵ月空けてまた短期間で3回あげてる」 タイムラインをhoukeikamenで検索して、日付でソートするとユサが言うとおりのパターンが見て取れた。 「ホントだ。よく気づいたね」 「システムやってると、タイムスタンプにはうるさくなるんだよね」 なるほど、習性ってやつか。 「ユサんところの社長SNSってあるじゃない。あれって見てる?」 「カイチョーの『桜の森の満太郎のつぶやき』? 見てない。一、二度見たけど、許せな
画面はSNSっぽくタイムラインに投稿が並んでる。 「記事中の動画リンクはYSSの 『ゴリゴリ動画』 に飛ぶようになってるんだけど」 ある記事のリンクを踏んで動画に飛ぶと、屋外らしき暗い場所で数人がムジャキにすり鉢かぶってスリコギ振り回してる動画が表示された。フラッシュモブとか、盆踊りとかに見えなくもないけど、中の人たちの必死な顔からそうでないのが分かる。 「この人たち、『スレイヤー・V』に出てくるキャラの名前を口にしてて、それと戦ってるつもりらしいの」 〈カイ・ドラキュラはこれで3体目の討伐です。ヒル人間はミッションレベルが上がるたびに手ごわくなってきます。しかし、わが隊は徹底したタッチアンドアウェー攻撃で対抗しています。ヴァンプオブチキン隊でした〉 〈がんばれー、臆病ヴァンパイア〉〈負けるなー〉〈氏ぬなー〉〈いや、むしろ氏んで来い!〉 「これって、『スレイヤー・V』をリアルにやってるふうなんだよね」 リアルにって『スレイヤー・V』はヴァンパイア狩りのアクションゲームだったはず。するとターゲットはヴァンパイアなんだけど、それらしきものは画面の中には見当たらない。そっかARか。拡張現実ってやつだ。画面に映ったキャラがあたかもそこにいる感じでプレー出来るやつ。スマフォかざしてる風でもないから、グラス系のデバイスかなにか着けてARキャラを見てる? 〈やられました。負傷者多数。我々の裏をかいて横道から数体のカーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラが連携して襲ってきました。なんとか討伐しましたが、ヒル人間はかなりの知能を持っているかと。大丈夫か? 肩の傷は深そうだぞ。あ、厚木エンデバー隊でした〉 〈やられたか。けが人で済んでよかったな〉〈クロキジ隊ってのがこの間全滅したのを見たぞ〉〈動画は削除されました(中の人)〉〈あちらさんも攻勢かけてきてる?〉 今の人、肩押さえて痛がってるけど、演技? それとも同士討ち? 「レベルが13になると、それまでのヒル人間殲滅からギキ討伐にステージがアップするの」 「ギキ?」 「『スレイヤー・V』で上級ヴァンパイアのこと。それをこのゲームでは芸妓の妓と鬼と書い
なんなのこんな夜中にユサのやつ。家に来いってから家のある隣町かと思ったら、青物市場で一人住まいしてるってじゃない。青物市場ったら旧本社の近所っしょ。なんか生臭くさそうで行きたくないんだけど。 車、路駐だけど大丈夫かな。ここらへんコインパーキングないから仕方ないけど。 ここか。すっげー、タワマンじゃん。そういえばここ、「キムタクが住む予定」って噂になったタワマンだ。こんなイナカにキムタク住むわけないのに駅前の一等地にタワマン建つとどこでも噂んなるよね。サーフィンの拠点とか近くに親戚がいるとかまことしやかなディテールがついて。ふーん。エントランスがオートロックで監視カメラ付きなのね。おーいユサ、来たよ(無声)。見えてんのかな、あのカメラ。お、開いた。で、最上階までエレベーターで行って、廊下の一番奥の扉の呼び鈴を押すっと。 なかでドカドカ音がして、ちょとたってインターフォンから、 「今開けるね」 扉が開いて顔出したしたのは、うっすら化粧したユサ。 あんだ? その恰好は。すっけすけのガーゼみたいなの着て。おっぱい見えてんぞ。 「どうぞ、入って」 「おじゃま」 ピンク系のインテリアが鼻に着くリビングに通された。 「ごめんね、急に呼び出して。多分、ヒビキは分かってると思うけど、さっきまでカイチョーがここにいてさ」 なるほど、それで子ネコの写真がひっくり返してあるわけだ。ん? この部屋なんか変な臭いする。あたし乙女だから何の臭いか分かんないや。 「人がシャワー浴びてる間に、あたしのパソコンでインターネット見てたみたいで。カイチョー、開いたページ閉じないでネットする癖あって、帰ったあともそのまんまになってたからブラウザのタブ一つ一つ開いて見てたら、ほとんどがエッチなサイトだったんだけど、その中に気になるサイトがあって」 相変わらずユサの話はグダグダだな、で? 「これ、『スレイヤー・V』をクリアするとアカウントもらえる会員制のSNSで、 『スレッター』 っていう」 だから? 「ちょっと観てみて。なんか調べてるんでしょ。カイチョーのこと」
電話だ。スオウさんから。珍しいな。 「はい。あー、分かるよ。おひさ。まあまあ忙しいかな。うん。シラベが帰って来たんだ。いや、知らなかった。そうなんだ。ひさごで、来週の金曜日に。時間は遅めで。うん。分かった。じゃ」 それにしてもスオウさんは未だに通話オンリーなんだな。女バスでSNSグループ作ろうってなった時、スオウさんがそんなオタクなことするならバスケ部辞めるってなって、結局女バスはいつも電話連絡だった。女バスで集まるの卒業以来か。情報収集できるから今回は行ってみようか。シラベに会うの、気が重いけど。 先週は仕事が忙しくてお休みしたから2週間ぶりのジョーロリ講座。お師匠さんってば、 「いいのよー。真似してくれればー」 って言うんだけど、何言ってんのかが分からないのに、どうやって真似しろっての? 最初の最初に、サワリのところだけ録音させてもらえたけど、それさえ聞き取れてないのに。 録音していいですかって言っても、 「覚えられるわよー」 って許してくれない。だから、全然進まないんだよね。勘亭流みたいな太い字で書かれたテキストも全然読めないし。結局また、テキスト1ページ分も進まなかった。 「ヒビキさんは、いい香りがします」 え? 「取り入れたばかりの洗濯物みたいな」 おテントウさまの香りってやつですか? それは褒めていただいたんでしょうか? 「それでヒビキさん。あの人のことはどうなりましたでしょう?」 「引き裂けたかと」 浮気相手を告訴って話振ったら、あの巫女さん泣きだしちゃって、宮司さんにムリヤリだって。駅前のスイーツ屋さんで、はいはいって感じで話聞いて、パンケーキプリンアラモード食べさせて帰しただけだけど。 「はて? そのような感触はなかったような」 「そうなんですか?」 「あの人に何かあれば、すぐにこの胸に響きますので」 えー、なんかすごい。強い絆で結ばれてる二人なんだ。それなのに、宮司さんってばサイテー。
役場に着いたらミワちゃんから、 「レイカ、あんた何したの? 町長さんに呼ばれてるよ」 ウチが? ウソ。町長室に忍び込んだのばれたのかな。やだなあの、ラブホみたいな部屋に行くの。 「トントン。すいませーん。お呼びだとかー」 「どうぞ」 女の人の声。秘書さんかな。 「シツレーします」 暗い部屋。カーテン閉まってる。外まだ明るいのに。 「こちらの、ソファーに掛けてお待ちください。町長、今呼んできますので」 出てっちゃった。あれ? 制服コレクションなくなってる。ってか、まったく別の部屋だ。フツーに町長さんの部屋。ウチ、この間は違う部屋に入ったんだろか。あー、同じ位置に黒木刀がある。机のバカでっかさも一緒だし、天井は、鏡じゃないな。絨毯は虎皮って、イマドキ。暗くてよくわからなかったからな。 奥の扉がバーンって開いて、すごい勢いで入ってきた背広のおじさん。ウチの前にドカって座っていきなりしゃべりだした。 「お待たせ。いやー、呼びだてしてすまなかったね。アナタの課はトップダウンでアタシが作ったもののひとつだから、なんたらかたら」 すっごいしゃべる、この人。ヒマワリのパパだよね。背高くって痩せてて、ちょっと見いい男だけど、頭がね。こんなにハゲちらかしちゃってて残念。あー、どこかで見たことあるって思ったら、ヒマワリの捜索の時、陣頭指揮取ってた人じゃない。あたしら女バスも助けになりたいって街中の捜索に協力したんだ(青墓へは連れてってもらえなかった)。あの時はたしか辻川助役ってよばれてた。あ、すみません(小声)。お茶出してもらちゃった。秘書さん、顔よく見えなかったけど、お肌真っ白。どこの美白化粧品使ってんだろ。あとで聞いてみよ。ズズー、アッツ。舌やけどした。 「アタシは、アナタの母上とは昔からの知り合いでね。それはお美しい方だった。それがね、あんな亡くなり方をするなんて。ご愁傷様でしたね」 「もにょごにょごにょ」(超小声)。 こういうときなんて返事すればいいのか分かんない。 「とにかく、美しい方でね。アタシが若いころ、まだヤッチャ場で小僧をしていたころだ。腐った菜っ葉にまみれてね」 ヤッチャ