電話だ。スオウさんから。珍しいな。
「はい。あー、分かるよ。おひさ。まあまあ忙しいかな。うん。シラベが帰って来たんだ。いや、知らなかった。そうなんだ。ひさごで、来週の金曜日に。時間は遅めで。うん。分かった。じゃ」 それにしてもスオウさんは未だに通話オンリーなんだな。女バスでSNSグループ作ろうってなった時、スオウさんがそんなオタクなことするならバスケ部辞めるってなって、結局女バスはいつも電話連絡だった。女バスで集まるの卒業以来か。情報収集できるから今回は行ってみようか。シラベに会うの、気が重いけど。先週は仕事が忙しくてお休みしたから2週間ぶりのジョーロリ講座。お師匠さんってば、
「いいのよー。真似してくれればー」 って言うんだけど、何言ってんのかが分からないのに、どうやって真似しろっての? 最初の最初に、サワリのところだけ録音させてもらえたけど、それさえ聞き取れてないのに。 録音していいですかって言っても、 「覚えられるわよー」 って許してくれない。だから、全然進まないんだよね。勘亭流みたいな太い字で書かれたテキストも全然読めないし。結局また、テキスト1ページ分も進まなかった。 「ヒビキさんは、いい香りがします」 え? 「取り入れたばかりの洗濯物みたいな」 おテントウさまの香りってやつですか? それは褒めていただいたんでしょうか? 「それでヒビキさん。あの人のことはどうなりましたでしょう?」 「引き裂けたかと」 浮気相手を告訴って話振ったら、あの巫女さん泣きだしちゃって、宮司さんにムリヤリだって。駅前のスイーツ屋さんで、はいはいって感じで話聞いて、パンケーキプリンアラモード食べさせて帰しただけだけど。 「はて? そのような感触はなかったような」 「そうなんですか?」 「あの人に何かあれば、すぐにこの胸に響きますので」 えー、なんかすごい。強い絆で結ばれてる二人なんだ。それなのに、宮司さんってばサイテー。なんなのこんな夜中にユサのやつ。家に来いってから家のある隣町かと思ったら、青物市場で一人住まいしてるってじゃない。青物市場ったら旧本社の近所っしょ。なんか生臭くさそうで行きたくないんだけど。 車、路駐だけど大丈夫かな。ここらへんコインパーキングないから仕方ないけど。 ここか。すっげー、タワマンじゃん。そういえばここ、「キムタクが住む予定」って噂になったタワマンだ。こんなイナカにキムタク住むわけないのに駅前の一等地にタワマン建つとどこでも噂んなるよね。サーフィンの拠点とか近くに親戚がいるとかまことしやかなディテールがついて。ふーん。エントランスがオートロックで監視カメラ付きなのね。おーいユサ、来たよ(無声)。見えてんのかな、あのカメラ。お、開いた。で、最上階までエレベーターで行って、廊下の一番奥の扉の呼び鈴を押すっと。 なかでドカドカ音がして、ちょとたってインターフォンから、 「今開けるね」 扉が開いて顔出したしたのは、うっすら化粧したユサ。 あんだ? その恰好は。すっけすけのガーゼみたいなの着て。おっぱい見えてんぞ。 「どうぞ、入って」 「おじゃま」 ピンク系のインテリアが鼻に着くリビングに通された。 「ごめんね、急に呼び出して。多分、ヒビキは分かってると思うけど、さっきまでカイチョーがここにいてさ」 なるほど、それで子ネコの写真がひっくり返してあるわけだ。ん? この部屋なんか変な臭いする。あたし乙女だから何の臭いか分かんないや。 「人がシャワー浴びてる間に、あたしのパソコンでインターネット見てたみたいで。カイチョー、開いたページ閉じないでネットする癖あって、帰ったあともそのまんまになってたからブラウザのタブ一つ一つ開いて見てたら、ほとんどがエッチなサイトだったんだけど、その中に気になるサイトがあって」 相変わらずユサの話はグダグダだな、で? 「これ、『スレイヤー・V』をクリアするとアカウントもらえる会員制のSNSで、 『スレッター』 っていう」 だから? 「ちょっと観てみて。なんか調べてるんでしょ。カイチョーのこと」
画面はSNSっぽくタイムラインに投稿が並んでる。 「記事中の動画リンクはYSSの 『ゴリゴリ動画』 に飛ぶようになってるんだけど」 ある記事のリンクを踏んで動画に飛ぶと、屋外らしき暗い場所で数人がムジャキにすり鉢かぶってスリコギ振り回してる動画が表示された。フラッシュモブとか、盆踊りとかに見えなくもないけど、中の人たちの必死な顔からそうでないのが分かる。 「この人たち、『スレイヤー・V』に出てくるキャラの名前を口にしてて、それと戦ってるつもりらしいの」 〈カイ・ドラキュラはこれで3体目の討伐です。ヒル人間はミッションレベルが上がるたびに手ごわくなってきます。しかし、わが隊は徹底したタッチアンドアウェー攻撃で対抗しています。ヴァンプオブチキン隊でした〉 〈がんばれー、臆病ヴァンパイア〉〈負けるなー〉〈氏ぬなー〉〈いや、むしろ氏んで来い!〉 「これって、『スレイヤー・V』をリアルにやってるふうなんだよね」 リアルにって『スレイヤー・V』はヴァンパイア狩りのアクションゲームだったはず。するとターゲットはヴァンパイアなんだけど、それらしきものは画面の中には見当たらない。そっかARか。拡張現実ってやつだ。画面に映ったキャラがあたかもそこにいる感じでプレー出来るやつ。スマフォかざしてる風でもないから、グラス系のデバイスかなにか着けてARキャラを見てる? 〈やられました。負傷者多数。我々の裏をかいて横道から数体のカーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラが連携して襲ってきました。なんとか討伐しましたが、ヒル人間はかなりの知能を持っているかと。大丈夫か? 肩の傷は深そうだぞ。あ、厚木エンデバー隊でした〉 〈やられたか。けが人で済んでよかったな〉〈クロキジ隊ってのがこの間全滅したのを見たぞ〉〈動画は削除されました(中の人)〉〈あちらさんも攻勢かけてきてる?〉 今の人、肩押さえて痛がってるけど、演技? それとも同士討ち? 「レベルが13になると、それまでのヒル人間殲滅からギキ討伐にステージがアップするの」 「ギキ?」 「『スレイヤー・V』で上級ヴァンパイアのこと。それをこのゲームでは芸妓の妓と鬼と書い
さっきまでと違い、やたらと暗い画面で静止画像かと思うほど動きがない。でもよく見ていると何かが画面の底で蠢いている。しばらくすると、蠢いていたものがゆっくりと立ち上がり、何かを手にぶら下げながら立ち去って行って動画が終わった。さっきのとこれとの違いは、ウエアラブルカメラの映像と設置カメラの映像であるところだ。暗すぎて細かいことは分かりにくいけれど、画面からは言いようのない背徳感が滲み出している。 「闇の匂いする」 「だよね。だからヒビキに観てもらおうって」 「ユサって広報だったよね。何か知ってるんでしょ」 「知らないの」 「知らないって。それでどうやってこのプロダクトのこと広報してんの?」 「広報の仕事って言っても、ポスターの印刷頼んだり、ユーザ宛てのメールの文書作ったりするだけだもん。だからほとんど蚊帳の外」 なんだ、使えないか。 「これでも頑張ったんだよ。なんとか食い込もうと思って。でもダメだった、ヒビキと違って」 あたしはそうならないように、うんとアタマ働かせてやって来たけどね。 「それでも、他の人が知らない余計なことは知ってる」 聞きたかない。 「だから、この動画アップしたのは、カイチョーって言える」 なに泣いてんだよ。こいつのこういうところが嫌なんだ、ホント。 それから観られるだけ観たけど、どれもこれも同じような動画だった。フィルターがかかってる? 「ヒビキ分かる? カイチョーの投稿にパターンがあるの」 「パターン?」 「うん。短期間のうちに3回あげたら、1、2ヵ月空けてまた短期間で3回あげてる」 タイムラインをhoukeikamenで検索して、日付でソートするとユサが言うとおりのパターンが見て取れた。 「ホントだ。よく気づいたね」 「システムやってると、タイムスタンプにはうるさくなるんだよね」 なるほど、習性ってやつか。 「ユサんところの社長SNSってあるじゃない。あれって見てる?」 「カイチョーの『桜の森の満太郎のつぶやき』? 見てない。一、二度見たけど、許せな
おもしろい写真見つけた。なるほどね、こーゆーこと。この写真の端に映ってる白い車のお尻のラインは、エクサスLFA。こんな高級車、辻沢あたりに1台だけだよ。これ釣り場じゃないな。森の中? 広場っぽいな。どこだろ。もう一つの写真のほうも森の広場だな。同じ場所? 木の様子が少し違うような。倉庫みたいな建物あるし。別の場所かも。コメントは、「餌場視察」。情報はこれだけか。町長とミミズでも掘るつもりとか? まさかね。「この記事、他の情報ないかな。裏コメントとか」「ちょっと待って。この写真をローカルに保存して。ツール、ツール。これをこいつで開くと、ビンゴ! イグジフファイルだ」「イグジフファイル?」「撮った場所とか時間が埋め込まれてる画像ファイル」 そうか、文字だけが情報じゃないよな。「どうしてわざわざそんなファイルをアップしてんの? この人」「位置情報ONにしてるスマフォとかだと、設定変えないままだと勝手にこのファイル形式で撮影したりすることある」「ってことは」「抽出した緯度・経度をゴリゴリマップで検索して」 作業慣れした感じする。ユサ元々SEだからあたりまえか。「場所が特定できるっと。来た。青墓の杜」 いっつも暗くて陰気臭くて、辻っ子は夜に絶対近寄らない場所。こんなところで何してるんだろ、町長と深夜の2時に。「衛星画像で拡大してみて」 あるね。森の中にちょっと開けた場所。少し離れたところにも広場ある。こっちは広くて建物があるな。行くとしたら、辻沢バイパスから間道入って真っ直ぐ青墓の杜に入って、間道から先はこれじゃ分からないな。行ってみるしかないのかも。一人で行くのは嫌だな。ユサは青墓詳しいけど、一緒に行ってもな。 気付くとカーテンの外が明るくなっていた。朝か。「そろそろ帰るよ」「また来てくれる? ここ一人じゃ広すぎて、なんか嫌なんだ」 そうだね、あたしらのお給料じゃ住めない広さだね。ユサ、頑張り方変えないと。「じゃあね。今度また二人で子ネコちゃんたちに会いに行こう」「うん。でも、こんなことしてたら、あの子たちに怒られちゃうかも」
おひさー。女バスの子たちとは卒業式以来。みんな元気そーでナニヨリ。ナナミは安定の肩幅だね。あれ? セイラやつれてない? 地元のシステム会社に就職したって聞いたけど、ソッカー。やっぱキビシーよね、実社会は。特に女子にはさ。ミワおかーさんだけだね、輝いてるの。ムセッかえるっての? ムネやけするっつーか。最近トミニ匂いがきっついな、ミワちゃんのそばいくと、くらくらするから離れて座ろ。ゴメンね。何これ?「あ、おとーしになりますー」 ゴマスリセットが? で、なんでみんなしてゴマスリし始めてんの? 席に着くなりゴリゴリゴリって、変じゃね? ナナミがゴリゴリゴリ。「ミワ、まゆまゆ誰に預けてきたの?」「ママ友。気楽に頼める人がいて助かる」「「「それ希少種。レッドデータ、イマドキ」」」「ところでセイラ、なんで金髪にした? 前の黒髪の方があんたらしくてよかったのに」「彼氏でもできたの?」「うん、そんなとこ」「似合ってるよ。セイラ」「ありがと。ミワ」「おまたせー」 カリン来たー。遅かったね。スーツにスラックス。かっこいい。ナナミがゴリゴリゴリ。「おー、カリン」 ミワちゃんが(以下、略)。「遅かったねー」 セイラが(以下、略)。「待ってたー」「仕事がね、たまっちゃってて」 ナナミが(以下、略)。「かせーでるね」「サービスありきっての? よう、レイカ。おひさ」「んっちわ」 みんな思ってたほどじゃなくてよかった。落ち着いてる感じ。やっぱ、四年も経つと忘れてくるのかな。さみしー気もするけど、事件が事件だから、これでいいよね。 エッグノックって初めて飲んだけど、おいしかったな。ミワちゃんがウチの前に次々置いてくれるんでいい気になって5杯も飲んじゃった。酔って寝ちゃったんだ、ウチ。ふわー。あれ? カリンとセイラだけだ。ミワちゃんたちは?「用事済ませて三〇分くらいしたら戻るって」「ナニやってるの、それ」「ゲーム」 すげないね
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜は
ウチはセイラの本棚物色。うーん、ブンガクな本ばっかり。ダザイオサム。ニンゲンシカクの人。サカグチヤスゴ? 誰だっけ。サクラノシタとかの人か。ナカジマアツシ。おー、サンゲツキの人。高二の現代文で冒頭の文章を暗記させられた。「ロウセイノリチョーハハクガクサイエー、テンポーノマツネン、ワカクシテナヲコボーニツラネ、ツイデコウナンイニホセラレタガ、セイ、ケンカイ、ミズカラタノムトコロスコブルアツク、センリニアマンズルヲイサギヨシトシナカッタ」。覚えてるねー。この人発狂して虎になっちゃうんだけど、それが妙にリアルでみんなすごく真剣に授業受けてたよね。 ウチはしばらくの間はうとうとしながら、カリンとセイラがゲームしてるのを遠くのほうの出来事みたいに感じてた。ときどき、「すごい。カーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラ、一撃」 とか、「こんなに早くメアリー・シェリーにたどり着くって」 とか、「黒幕はバイロン卿だと思ってたのに」「どうしてここで、ポリドリ?」 って、気になる名前が聞こえてた。トム・ホランドの『真紅の呪縛』面白かったな。パパの本棚にあったヴァンパイア小説で3番目くらいに。 なんて考えてたらウチはいつの間にか寝落ちしちゃってて、カリンが、「よっし裏ゲーム、ゲットー! 『スレイヤー・R』」 って叫んで、ビックリして起きた。いま何時ですかね。お日様出てますね。「3時間でクリアだって。さすがチート・モード」「『スレイヤー・R』はどんな感じ? カリン」「位置ゲーみたいだけど」「カリン見て。この地図、どこか分からないように省略してあるけど、位置許可してやると、ホラ、この地形、青物市場っぽい」「フィールドロケーションは辻沢なんだ」「辻沢で何をするゲームだと思う? モンスター集めて回るとか?」「まさか。モーケモンGOじゃないよ」 お二人さん、ウチには分からない世界の住人になってる。このままゲームをやり続けるって言うけど、ウチそろそろ。「どうしたの? 用事?」「ううん。PK」「なにそれ」「パンツ変えたい」
あそこの二人は、控え目に牙付けて口に血のりシール貼ってるだけだけど、さっきすれ違った二人組なんか、全身ヴァンパイアコスプレだった。紫と赤の全身タイツ着てマントつけて。気合入ってんなーって、注目の的だった。二人ともスタイルよかったし。 ウチらジモティーは夜店で買ったヴァンパイアのお面、頭に乗っけておしまい。あー、そうね。あそこにもいるけど、沿線のJKは、制服にヴァンパイアメークってのが流行りみたい。お揃いコーデ、メンドーだからだと思うけど。けっこー、かわいい。スカートの丈つめて、ブットい足晒して。 ヒ! ちっさいおばーちゃんたち。チョー怖い。 「なんか、今年の志野婦の神輿、ちん(ピー)の形してるんだって」(ナナミ、ファール) 「やめてよー。ナナミ」 「セイラ、お前。何ぶりってんだ?」 「ないわ、辻沢の祭りは女祭りだよ」 「山椒の木の寄木造りって書いてある」 「レイカ、お前はどこの人だ。さっきからパンフばっか見て」 ケッコー面白いよ。 「山椒の木ってのは最悪だね。宮木野さんとこNGのはずなのに」 「どぃうこと?」 「宮木野さんは山椒の木の元で死んだから、神社に山椒は持ち込めないことになってる」 ふーん。そーいえば、役場の宮木野さんも山椒の木の下に寝転がってた。 「年女があの神輿に跨がるってパンフに書いてある。豊作祈願だって」 ちん(ピー)に女の子が乗るって、恥ずい。(レイカ、ファール1。反省) 「セイラ、今年、年女でなくてよかった」 「そーだねー。セイラは乗せらんないね」 「ミワちゃんは?」 「あたしは、別に気にしない」 「ちん(ピー)にのったミワの姿って、ワラエル」(ナナミ、ファール2) 「ウケル。そん時は、ナナミも同乗してるから。同い年、二人とも笑」 「レイカもそん時は年女だろ。ママハイ仕込みが」 「ほっとけや」 って、ナナミ、ヤマハイ仕込みでなくってママハイって言ってたんだ。ママの言うことハイハイ聞くって意味か。ウチ、そんなでもなかったよ。とくにコーコーの頃は。ナナミにテクニカルファールみとこ(ナナミ、ファール
今夜は三社祭です。ミワちゃんとナナミとセイラと来てる。カリンも誘ったけど仕事だって、こんな日に。かなりブラック、カリンの会社。ミワちゃんの黄色地に白い花柄の浴衣キレー。ナナミ、相変わらず肩幅広っろ。その浴衣おとーさんの? 渋すぎでしょ。セイラはいったいいつからそーいう趣味になった? ゴスロリ浴衣って。でもアンガイ似あっててカワイイ。ウチはママの拝借。ちょっとオトナな感じの赤地に黒い縦じまの浴衣。高倉さんにママの浴衣出してって頼んだら着付けまでしてくれた。《《おはしょり》》長すぎて腰紐高くしてるのは内緒。 三社祭は宮木野神社と志野婦神社のお祭り。二社しか参加しないのに三社っていうのは、カゲ社といって数揃えを入れてるから。二より三の方が縁起いいしょ。でも、三つ目は青墓の杜にむかーしあった青墓神社のことって言う人もいる。ホントのところは分かんない。ウチは俗説の、宮木野さんと志野婦さんの双子の姉妹の他にもう一人男の兄弟がいて、三社ってのが好き。 ウチは8年ぶりの三社祭。もとは4年ごとのお祭りで、ちょうど4年前にはあの事件があって中止になってた。でも、ミワちゃんたちは毎年参加だって。ヒマワリのパパが商店街振興を掲げて町長に当選してすぐの仕事が、三社祭を毎年開催に変えたこと。無理っていわれてたことを共催企業を募ることで実現したって。これはお祭りのパンフの受け売り。「ヤオマンの提灯と、三社祭の提灯、半々って感じ」「ほんとだー。んっぐぐ」「レイカ、お前、その腐れ牛乳好きだな。何本目だ?」「3本目。おいしーよ。あれ? なんて名前なんだっけ。ラベルない」「辻沢ダイゴ。あのノボリに書いてある」「ダンス・飲・ザ・辻沢ダイゴ!」「ほれ、レイカ。踊れ!」「あ、かっぽれ、かっぽれ」「なにそれ?」「知らない」 あぶな、人にぶつかりそーになった。あんなでっかいヴァンパイアの被り物二人でしてたら邪魔でしょに。てか、周りヴァンパイアだらけ。 宮木野さんと志野婦さんの双子姉妹がヴァンパイアって言い伝えをもとに、女の人はヴァンパイアの格好をして参加するように呼びかけてるんだって。二人一組でね。お揃いヴァンパイアコーデってやつ。
なんとか説明して、北村シニアマネに分かってもらった。「すまなかったね。いやー、勘違い。ここに座るのはみんなそーなのかと思ってしまって」 そんなのは、北村シニアマネだけでしょう。バランスボール、座りたくなくなった。「なに聴いてたの?」 これですか?「三味線の音がもれてたから」 スピーカーON。「あれ? 片っ方のイヤホン、渡して聞かせてくれないの? よく公園のベンチで恋人同士がやってるじゃない」 どうしてあんたと恋人同士みたいなことしなきゃならない? 変な親近感持ってもらっちゃ困るんだよ。ぢー仲間じゃないからな。「これ、宮司の奥さんの声に似てるな。三味線も?」 北村シニアマネお知り合いなんですか? 実は、役場のカルチャーで……。「やっぱりそうなんだ。懐かしいな。あの時、千福オーナーのところで宮司の奥さんにもお稽古つけてもらった」「二人だけかと」「千福オーナー三味線弾けないからね」 そうなんだ。「宮司の奥さんも美しい人でね。お姉さんだけあって」「え? お姉さんなんですか?」「そうだよ。双子のね。美しいと思わないかい?」 それは認めます。物腰がおちついているからそれなりのお年だとは思うけど、「20代に見えるくらい若々しいです」 大げさなようだけど、実際あたしとタメに見えることある。「そう、僕の時も20代に見えたけど。美人は年を取らないものなんだね」 20年前から年を取らない?「あの頃は、二人は仲睦まじくてね。まるで恋人同士のようだったんだよ」 まるで恋人同士。「ひょっとしてですけど、お師匠さんて千福オーナーのこと人に話すとき」「《《あの人》》って言うよ。弟だけどまるで彼氏みたいにね」「じゃあ、志野婦神社の土地の所有者って、千福オーナー?」「そうだよ。以前はもっとあったが今はあそこだけだよ」 お師匠さんのターゲット間違ってた。宮司さんでなくって、千福オーナーだった。なら、あの人がしてる危
志野婦神社の神輿完成報告して社長によろこんでもらうはずが、あたしが余計なこと言ったせいで、社長室の温度、2度くらい下がった感じ。「ヒビキ、あんた何言ってるの? 宮大工が一生懸命仕事するのは当たり前、納期までに完璧に仕上げるのは当たり前。違うか?」「そうです」「なら、どうしてご祝儀をはずまなきゃならない? わが社は仕事に見合った金を払ってないとでも?」「いいえ。十分払ってます」「あまいぞ、ヒビキ。《《ひさしぶりに女バス仲間に会って》》、仲良しごっこが懐かしくなったか?」 ユサのこと? ひさごのことまで知ってる? まさかね。「すみません」「どうせ、現場に言っちまったんだろ」「いいえ、それはしてません。社長に相談してからと」 今のは、ほんの軽口のつもりですし。「まあ、いいよ。とにかくおまえがやってるのは、ビジネスだ。金儲け。わかった?」「わかりました」「わかったら、行っていいよ」「しつれいします」 何年ぶりだろ怒られたの。 社長室出たらカワイがすり寄ってきた。「ねーさん。めずらしいですね。社長、昨日からナンカ機嫌悪いみたいっすよ。御神輿見に行ったらしいんすよ、できあがったの。それ見て怒ったんじゃないっすかね。だからあんだけ僕がチ〇コはまずいって……」 まとわりつくなよ。一人にしてくれねーかな。そっだ、厚生室行こう。なるほど、こういう時こうやってあの部屋が呼ぶんだ。知らなかったよ。あった、バランスボール。紫の復活してる。こっちは北村シニアマネ専用だから、あたしは黄緑のにしよー。ぶーらぶーら。ケツがこそばゆい。これ、本当に心の水平リーベ棒になるのかな。もちょっと、やっててみるか。そっだ、お師匠さんのベンベン節聞きながらやってみよう。〈ビエン、ビエン。なげきのむちもあにぇはなおー、ビエン。いもとがしぇなを、ビ、なで、ビ、おろしー、ビエン、おーお、そなやにおもやるももっとも。しかし。そなたがちちははに、なごおそやったみのかほおー。これこのあねをみやいのおー……〉やっぱ癒される、
女子会、結局参加した。シラベは置いといてみんな変わってなかった。修学旅行でフスマ破った張本人がシラベだったってのには納得。夜中に暴れ出したから、スオウさんとセンプクさんの二人掛かりで取り押さえたって、ははは。笑えない。高2の秋だよ、修学旅行って。例の件、センプクさんせっついたら餌やってるとこって、イミフ。 休み明け、出社早々やられた感。三社祭の公式飲料に乳製品だと? どこの誰が神輿担いで汗かいてミルクをがぶ飲みする? そこはビールとかせめてスポドリだろ?「でも、風呂上りの牛乳は格別って」 そうやってすぐに迎合するのは悪い癖だぞ、カワイ。「風呂上りじゃねーの、祭りなの」「ねーさん。とりあえず、名前考えましょ、これの」 名前すら決まってねーのよ。ついでに。ラベルとかポスターとかどうすれっての? 今から間に合わねーだろ。だれのごり押しだよ。「社長っす」 だよな。社長以外ないな。このタイミングでこれぶっこんで来れるのは。あ、社長出て来た。「ヒビキ、ゴメン。懇意の人がこれをどうしてもってさ」「商品名もまだないって」「できたばっかなんだよ。昨日。でも、おいしいから飲んでみてごらん、ホントに」 そーですね、「自分の体験を売れ!」(BY ジュース・ウェルチ)でした。うそ、ウェルチそんなこと言ってない。 ただの牛乳じゃないのは分かってる。やばい色してるんだけど、大丈夫なのかなホント。うえー、何これ。ミルクって言うより、チーズのような豆腐のような、それでいて甘くて、酸っぱくて、呑み込めない。「どう、おいしいでしょ」 おいしいですって、言いたいデスけどいまちょっと口の中に残ってるんで感想ひかえさせていただいていいですか?(無声) カワイ、お前、何とか言えよ、ん? どうした。ねーさん、苦しい(無声)。鼻から出てんぞ、牛乳。「とにかくうちはこれを大々的に売り出す。分かった?」「「ほぇーいす。」」 社長、宣言だけして帰って行った。「社長逆切れだったな。カワイ、名前何てしようか?」 「窒息牛乳。窒息ミルク。窒息ちち」 窒息から離れろ
ウチはセイラの本棚物色。うーん、ブンガクな本ばっかり。ダザイオサム。ニンゲンシカクの人。サカグチヤスゴ? 誰だっけ。サクラノシタとかの人か。ナカジマアツシ。おー、サンゲツキの人。高二の現代文で冒頭の文章を暗記させられた。「ロウセイノリチョーハハクガクサイエー、テンポーノマツネン、ワカクシテナヲコボーニツラネ、ツイデコウナンイニホセラレタガ、セイ、ケンカイ、ミズカラタノムトコロスコブルアツク、センリニアマンズルヲイサギヨシトシナカッタ」。覚えてるねー。この人発狂して虎になっちゃうんだけど、それが妙にリアルでみんなすごく真剣に授業受けてたよね。 ウチはしばらくの間はうとうとしながら、カリンとセイラがゲームしてるのを遠くのほうの出来事みたいに感じてた。ときどき、「すごい。カーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラ、一撃」 とか、「こんなに早くメアリー・シェリーにたどり着くって」 とか、「黒幕はバイロン卿だと思ってたのに」「どうしてここで、ポリドリ?」 って、気になる名前が聞こえてた。トム・ホランドの『真紅の呪縛』面白かったな。パパの本棚にあったヴァンパイア小説で3番目くらいに。 なんて考えてたらウチはいつの間にか寝落ちしちゃってて、カリンが、「よっし裏ゲーム、ゲットー! 『スレイヤー・R』」 って叫んで、ビックリして起きた。いま何時ですかね。お日様出てますね。「3時間でクリアだって。さすがチート・モード」「『スレイヤー・R』はどんな感じ? カリン」「位置ゲーみたいだけど」「カリン見て。この地図、どこか分からないように省略してあるけど、位置許可してやると、ホラ、この地形、青物市場っぽい」「フィールドロケーションは辻沢なんだ」「辻沢で何をするゲームだと思う? モンスター集めて回るとか?」「まさか。モーケモンGOじゃないよ」 お二人さん、ウチには分からない世界の住人になってる。このままゲームをやり続けるって言うけど、ウチそろそろ。「どうしたの? 用事?」「ううん。PK」「なにそれ」「パンツ変えたい」
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜は
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜
おひさー。女バスの子たちとは卒業式以来。みんな元気そーでナニヨリ。ナナミは安定の肩幅だね。あれ? セイラやつれてない? 地元のシステム会社に就職したって聞いたけど、ソッカー。やっぱキビシーよね、実社会は。特に女子にはさ。ミワおかーさんだけだね、輝いてるの。ムセッかえるっての? ムネやけするっつーか。最近トミニ匂いがきっついな、ミワちゃんのそばいくと、くらくらするから離れて座ろ。ゴメンね。何これ?「あ、おとーしになりますー」 ゴマスリセットが? で、なんでみんなしてゴマスリし始めてんの? 席に着くなりゴリゴリゴリって、変じゃね? ナナミがゴリゴリゴリ。「ミワ、まゆまゆ誰に預けてきたの?」「ママ友。気楽に頼める人がいて助かる」「「「それ希少種。レッドデータ、イマドキ」」」「ところでセイラ、なんで金髪にした? 前の黒髪の方があんたらしくてよかったのに」「彼氏でもできたの?」「うん、そんなとこ」「似合ってるよ。セイラ」「ありがと。ミワ」「おまたせー」 カリン来たー。遅かったね。スーツにスラックス。かっこいい。ナナミがゴリゴリゴリ。「おー、カリン」 ミワちゃんが(以下、略)。「遅かったねー」 セイラが(以下、略)。「待ってたー」「仕事がね、たまっちゃってて」 ナナミが(以下、略)。「かせーでるね」「サービスありきっての? よう、レイカ。おひさ」「んっちわ」 みんな思ってたほどじゃなくてよかった。落ち着いてる感じ。やっぱ、四年も経つと忘れてくるのかな。さみしー気もするけど、事件が事件だから、これでいいよね。 エッグノックって初めて飲んだけど、おいしかったな。ミワちゃんがウチの前に次々置いてくれるんでいい気になって5杯も飲んじゃった。酔って寝ちゃったんだ、ウチ。ふわー。あれ? カリンとセイラだけだ。ミワちゃんたちは?「用事済ませて三〇分くらいしたら戻るって」「ナニやってるの、それ」「ゲーム」 すげないね