周防京介(すおう きょうすけ)という親友の兄と、相川詩織(あいかわ しおり)は秘密の恋愛関係を7年続けてきた。彼が近々政略結婚を控えるという噂が駆け巡っていたが、結婚相手は詩織ではなかった。詩織が急いで京介がいるはずの個室へ駆けつけ、まさにドアを開けようとした瞬間、彼の親友の声が聞こえてきた。「京介、これで念願叶ったんだな。ついに本命が帰ってきて、両家もこの政略結婚を後押ししてるんだからな。今日がお前にとって最高の日だろう。あの身代わりの女って、そろそろ捨てる頃合いだろ。お前も大概ひどい男だよな、代わりを見つけるために、妹の親友にまで手を出すなんて......」その言葉を耳にした途端、詩織は全身がこわばり、まるで頭から冷水を浴びせられたようだった。ドア越しでは彼の表情は見えないが、声に滲むそっけなさははっきりと聞き取れた。「まあ、待ってやれ。あの子は俺にベタ惚れで、俺なしじゃいられないんだ。真相を素直に打ち明けたら、ショックで泣き崩れるだろうからな。もう少し時間を置いてからにするさ」二人は七年間、人目を忍んで付き合ってきた。彼は詩織を溺愛し、大切にしてくれたが、ただ一つ、関係を公にすることだけは頑なに拒んだ。最初、彼は笑ってこう言った。「詩織、待ってくれ。妹の美緒(みお)に親友を手を出したって知られたら、殺されるぞ」その後、詩織が大学を卒業し、彼の秘書になると、彼はまた言った。「詩織、もう少し待ってほしい。社内恋愛は何かと都合が悪い。君にあらぬ噂を立てられたくないんだ」彼女はその言い訳をことごとく信じてきた。そして、京介の秘密の彼女として、長年日陰の存在であったのだ。しかし今、自分の耳で本当の理由を聞いてしまったのだ。公にしなかったのは、それらとは全く関係がなかった。それは単に、彼が一度も彼女を好きではなかったから。それは単に、最初から彼は彼女を身代わりとして見ていたから。中の人が出てくる気配を察し、彼女はよろめきながら走り去り、慌ててその場を後にした。別荘に駆け戻った詩織は京介の「秘密の部屋」へと向かった。そこは以前、彼女がどんなに甘えても、好奇心を示しても、彼が決して入室を許さなかった部屋だった。今、彼女はその部屋のドアを勢いよく押し開けた。机の上には、数十冊のアルバ
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