宏は深雪のベッドに横たわり、写真とラブレターをぎゅっと抱きしめたまま、彼女の残り香をかぎ続け、それでも眠りには落ちられなかった。目を閉じるたび、脳裏に浮かぶのは深雪が別れを告げる時の姿ばかり。「行くな……行くな!」あの時の自分に叫びたかった。引き留めさえすれば、彼女は死なずに済んだかもしれない——そんな妄想が、夜明けまで彼を苛んだ。冷蔵庫は金を積めば一夜で完成する。氷の棺に横たわる深雪の傍らで、宏は薄いシャツ一枚のまま寄り添っていた。肌の冷たさは、もはや亡骸と変わらなかった。このままずっと一緒にいたい。だが、まだそれが許されない。深雪の携帯を調べると、最後の着信は風見満からのもの。会った人物も彼女が最後だった。「あの日まで……彼女はここまで絶望していなかった」満と会った直後、深雪は急に意味ありげな言葉を呟き、自ら命を絶った。彼女の死に、風見満が関わっている——宏は確信した。身なりを整え、車で満のアパートへ向かった。到着時、彼女はまだ寝静まっていた。宏はパスコードを知っていた。ドアを開け、室内へ踏み込む。一室しかない部屋ながら、至る所に高価な品が飾られていた。限定香水にオーダーメイドの置物、ブランドの洋服……コップさえも庶民の手が届かない代物だ。「金なんて価値がない、か」唇を歪ませた。「綺麗事を並べた女の家がこれか」一方で「自分は拝金主義だ」と嘯いていた深雪は、治療費のために倹約を重ねていた。嗤いたくなるほどの皮肉だった。ベッドから満を引きずり下ろし、浴槽で亡くなった深雪の写真を突きつける。「説明しろ。お前が彼女を追い詰めたんだろう?」荒れ狂う形相に、満は震えあがった。ようやく絞り出した声は、涙で滲んでいた。「私じゃない……信じて……本当に……」震える手で宏に抱きつこうとするが、彼は冷たく振り払った。「触るな」低くうなる声が部屋に響く。「深雪が死んだ。お前を許さない……たとえ無実でもだ」
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