「兄さん、私の写真が国際的なフォトコンテストで金賞を取ったよ!」桐谷煙月は嬉しくて神崎庭志の部屋へ飛び込むと、子供の頃から何度も甘えたように彼の胸に抱きついた。しかし次の瞬間、彼女の頬に強烈な平手打ちが飛んできた。お風呂からバスタオルを巻いて出てきた白石莉花(しらいし りか)が煙月を叩いたあと、強い力で彼女を突き放した。「煙月、私という兄さんの恋人がいるのに、堂々と彼に抱きつくってどういうつもり?恥ずかしくないの?自分の兄まで誘惑する気なの?」煙月の頬はひりひりと痛み、目には涙が滲んだが、決して泣きはしなかった。そうだ、どうしてさっきは忘れてしまったんだろう?神崎庭志にはもう恋人がいて、まもなく結婚する。煙月は幼い頃から孤児で、神崎家に引き取られ、庭志にずっと甘やかされて育った。だからいつも彼に頼ってきた。煙月は庭志を見つめ、目には期待と悔しさが入り混じっていた。彼なら、どんなことがあっても自分がいじめられるのを見過ごさないはず。しかし、庭志の目は冷たく、声はさらに冷たかった。「煙月、自分の立場をわきまえろ」自分の立場?煙月は自嘲的に笑った。「ごめんなさい、私が悪かったね」そう言い残して部屋を飛び出した。ドアが閉まる瞬間、莉花の声が聞こえた。「庭志、さっきはわざと叩いたわけじゃないの。ただ、あなたを愛しすぎて、つい嫉妬しちゃっただけなの」庭志の淡々とした声が響く。「別に構わない。煙月もそろそろ分別をつけるべきだ」分別をつけるべき……?煙月は部屋に戻ると、すぐ電話をかけた。「青山先生、決めました。ヨーロッパに行きます」電話の向こうで青山先生は喜びに満ちていた。「やっと決心したか! 君の実力ならもっと早く来ていれば、今頃は世界的な写真家になっているよ。いつこっちに来るんだ?」煙月は少し考えてから言った。「半月後くらいでしょうか」ここにある全てに別れを告げるためには、少し時間が必要だった。そもそも白石莉花は庭志の秘書だった。当時、庭志は何人かの履歴書を煙月の前に置き、「煙月、この中から一人選んでくれ」と言った。煙月は少し戸惑った。「私はよく分からないよ。専門の人事担当者に任せたら?」だが庭志は言った。「俺の秘書は君と顔を合わせることも多い。君が気に入った人なら、きっとや
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