All Chapters of 青空と海と大地ーそらとうみとだいちー: Chapter 21 - Chapter 30

30 Chapters

021 再始動

 「いらっしゃいませ!」 喫茶とまりぎで。  海が元気よく声を上げた。「あらあら海ちゃん、今日も元気いっぱいね」「あはははっ、ありがとうございます濱田さん」「ほんと、海ちゃんが来てから、ここの雰囲気が明るくなったわ」「そんなそんな。褒めても何も出ないですよー」 照れくさそうに笑う海。  そんな彼女に微笑みながら、浩正〈ひろまさ〉が濱田に声をかける。「いらっしゃいませ濱田さん。スタッフを褒めてもらって嬉しい限りなのですが……前は暗かったですか」「ああ浩正くん。ごめんなさいね、そういう意味じゃないのよ。ここはいつ来ても和やかで楽しくて、私たちにとって憩の場所なんだから。海ちゃんが来てくれて、もっともっと楽しい場所になったってことよ」「はははっ、ありがとうございます」「海ちゃんのおかげで青空〈そら〉ちゃんも楽しそうだし。ほんと、いい人が入ってくれてよかったわ」「そんなー。濱田さん、褒めすぎですってばー」「うふふふっ。ほんとのことだから、照れなくても大丈夫よ」 客と海のやり取りをパントリーで眺めながら、誰に話すともなく大地がつぶやいた。「なんだよこの状況……」  * * * 大地と海が過去を打ち明けあったあの時、海は言った。  あんたを幸せにしてみせると。  その言葉にどんな意味が込められているのか、その時の大地には分からなかった。 全てに絶望し、人を信じることを放棄した自分には、この世界で生きる資格がない。  そして自分にとって最も大切な存在、青空〈そら〉の幸せの最たる障害。それが自身であり、一刻も早く取り除きたいと思っていた。そして事実、行動を起こした。  しかしその時、海と出会ってしまった。 海の死を見届けるまで、俺は死なない。  彼女と交わした約束を、大地は後悔していた。  当の海が、まさかここから復活するとは思ってもなかった。  確かに
last updateLast Updated : 2025-04-18
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022 女子会

  二人が向かった先は、近くの居酒屋だった。  店に入ると青空〈そら〉は店員に声をかけた。店員はうなずき、奥の個室へと二人を案内した。「ここ、よく来るんですか」「うん、これでも常連。と言うか、他の店だと入れてもらえないことが多いから。飲む時はここって決めてるの」「入れてもらえないって、青空〈そら〉さん、ブラックリストにでも載ってるんですか?」「んな訳ないじゃん、なんでそうなるのよ」 そう笑顔で突っ込む。「見た目の問題だよ。40が目前に迫ってるのに、私は未成年にしか見えない」 ああなるほどと、海は妙に納得してしまった。「はいそこ、納得しないの」「あはははっ……すいません、分かっちゃいましたか」「未成年が煙草吸って酒飲んでる。店の人は分かっていても、他の客が気になって仕方がない。だからここで飲む時は、いつも個室に連れてかれる」「だから今日も個室なんですね。空いてる席が多いのに、なんでだろうって思ってました」「まあそれと、今日は色々話せればと思ってるからね。個室の方が都合いいんだ」 その言葉に、海が肩をピクリとさせた。「それって……どういう意味でしょう」「ああ店員さん、とりあえず生ふたつで」 手馴れた様子でそう店員に告げ、青空〈そら〉がメニューを閉じる。「海ちゃんは嫌いなものとかある?」「いえ、特にはないです」「じゃあ店員さん、いつものようにおまかせで。予算1万ぐらいでよろ」「分かりました」 しばらくして、店員が付け出しと生ビールを持ってきた。「それじゃあ海ちゃん、とりあえずお疲れ」「お、お疲れ様です」 そう言ってジョッキを重ね、二人がビールを口にする。「うまい! この一杯の為に生きてるわー」 青空〈そら〉が満足そうに笑顔を見せる。しかし海は落ち着かない様子で、「あはははっ、そうですね」と愛想笑いを浮かべた。
last updateLast Updated : 2025-04-19
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023 たくさんの不幸、たくさんの幸せ

 「初めて海ちゃんを見た時、すぐに分かったよ。ああ、この子は今、絶望の中で生きてるんだなって」 運ばれてきたビールに口をつけ、青空〈そら〉が静かに言った。「でも……確かにそうなんですけど、青空〈そら〉さんたちに比べたらこんなこと、全然大したことじゃないって言うか」「それは誰にも決められることじゃないよ。自分にとって大したことじゃなくても、その人にとっては人生の一大事だってことはいっぱいある。例えばそうだね、学生さん。テストの点が悪くて絶望してる。それが理由で死ぬ人だっている。海ちゃんはどう思う?」「それは……また次に頑張ればいいと思います。それに成績ぐらいで死ぬなんて、大袈裟過ぎると思います」「でもそれはね、私たちにとって過去の話だからなんだ。何年も経ってる今だからこそ、言えることなんだ。一度失敗したぐらいで死ぬだなんて、そんな暇があるならもっと勉強しろよって思っちゃう。勉強以外にも大切なことはあるよ、もっと世界は広いんだよって思っちゃう」「……」「でもその人からすれば、それが全てなんだ。それ以外何も見えなくて、世界から見捨てられたぐらいの絶望なんだ。  人によって悩みは様々。そしてその大きさも違う。自分の物差しだけで判断して、他人の苦しみを一蹴するのは馬鹿のすることだ」「言いたいことは分かりますけど……」「だからね、海ちゃんが私たちに同情する必要はないし、自分の悩みがちっぽけだなんて卑下することもないんだ。海ちゃんが抱えてる問題は、海ちゃんにとっては世界から消えたくなるぐらいの絶望なんだ。それが例え、虫歯が痛いって理由だとしても」「ふふっ、なんでそこで虫歯なんですか」「だって痛いじゃない虫歯。悪化した時に歯医者が休みだったら、絶望以外の何物でもないよ? 生き地獄だよ?」「そうですけど、ふふっ……もっと別の例えがありそうじゃないですか」「あはははっ、確かにね。でもそういうことなんだよ。生きていればいっぱい悩む。困難なこともあるし、絶望だってそこら中に転がってる。だからね、自分がちっぽけだなんて思う必要はないんだよ。
last updateLast Updated : 2025-04-20
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024 あのシスコンめ

  海は全てを話した。  両親を亡くしたこと。裕司〈ゆうじ〉との出会い。  そして裕司を失って、全てに絶望したことを。  時折声が震え、涙がこぼれ落ちた。 青空〈そら〉は黙って海の話を聞いていた。  4本目の煙草を消し終わった頃に、海の話はひと段落ついた。「そっか……」 そうつぶやき、ビールを飲み干す。  結構なペースだ。この小さな体のどこに入っていくんだろう、そう思った。「今私のこと、ちっこいって思ったろ」 この人は本当、なんですぐに分かっちゃうんだろう。海が引きつった笑顔で首を振った。「ちっこい方がいいことだってあるんだよ」「どんな時ですか?」「うっ……海ちゃん、結構辛辣だね」「そんなことないです。ただの好奇心です」「勿論それは……って、あんまりないな」「……ないんですね」「でもほら、浩正〈ひろまさ〉、浩正くん! この体のおかげで、私はあいつをゲット出来た!」 そう言って胸を張り、ドヤ顔をした。「あいつロリコンだからね。未成熟なこの容姿にメロメロなんだよ」「そうなんですか? この前大地と話してるのを聞いたんですけど、巨乳で有名な女優をべた褒めしてましたよ。綺麗な人ですねって」「なっ……海ちゃん、その話詳しく」「あ、それは……あははっ、またの機会に」「絶対だよ」 そう言って5本目の煙草に火をつけた。 海は深呼吸した。  この先の話は、大地のことでもある。  果たして話していいのだろうかと、少し躊躇した。  そんな海に気付いたのか、青空〈そら〉は白い息を吐いて笑った。「庇う必要はないよ。まああいつのことだ、大体のことは察しがついてる」 やっぱりこの人、心が読めるんじゃない? そう思った。「裕司の49日が終わって、私がするべきことは全部終わったんだと思いました。裕司のご両親は優しい方で、こんな私に
last updateLast Updated : 2025-04-21
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025 青空の決意

 「じゃあ、あいつはまだ死ぬ気なんだね」「……はい」 締めの雑炊を食べながら、青空〈そら〉がため息をつく。「海ちゃんを追い出したら、また男を漁りに夜の街に向かう」「漁りにって……色情狂みたいに言わないでくださいよ」「色情狂なら救いがあるけどね。少なくとも快楽が目的なんだから、自分にとってもメリットがある。でも海ちゃんのそれは、ある種の自傷行為でしょ」「……」 大地と同じこと言うんだな、そう思った。「だから海ちゃんを泊めさせたのは理解出来る。あいつがしそうなことだ」 箸を置き、手を合わせる。「ごちそうさまでした。最高でした」 そう言って微笑んだ。「それで海ちゃん、いつまであいつのところにいる予定?」「それは……」「裕司〈ゆうじ〉さんのところに行くって気持ちは、まだ生きてるんだよね」「勿論です。私は裕司のこと、片時も忘れてませんから」「近いうちに行動を起こす、そういうことかな」 そう言われ、言葉に詰まった。  どうしてだろう。ついこの前までは、即答出来たのに。「私は……そんなに度胸のある人間じゃありません。あの日電車に飛び込もうとしたのだって、覚悟に覚悟を重ねて無理矢理動いたんです。あんな覚悟、そうそう出来るものじゃありません。だから……その覚悟が出来るまで、泊まらせてほしいって言ったんです」「大地はなんて?」「構わない、それまで面倒みてやるって。私が死んだのを見届けてから、自分も死ぬって」「それなのに海ちゃん、覚悟を育てるどころか、とまりぎで働くことになって。大地も当てが外れたんじゃない? と言うか、海ちゃんのその心変わり、どういうことなの?」「……大地の過去を聞いて、死にたい理由を聞いて……私、腹が立ったんです」「腹が立った、ね……でもさ、死にたい理由なんて、人それぞれでいいんじゃない?」「そうなんですけど……あの時の大地を見てたら、怒りが抑えられ
last updateLast Updated : 2025-04-22
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026 未来の扉

  青空〈そら〉の結婚宣言に、大地が固まった。「おーい、生きてるかー」 そう言って肩を叩かれ、我に帰る。「……」 青空姉〈そらねえ〉、今なんて言った?  結婚?  なんで急に?  と言うか、なんで今?  そんな思いが脳内を巡り、混乱した。「いやいやいやいや、待て待て待て待て。なんでいきなり、そういう話になってるんだよ」「あははははははっ、大地テンパリすぎ」「笑ってんじゃねーよ。ちゃんと説明しろ。大体浩正〈ひろまさ〉さんの了承はとれてるのかよ」「勿論です。僕はずっと待ってましたからね、嬉しいですよ」 浩正が微笑む。「プロポーズしたのも、随分昔のことですし」「5年くらい前だっけ?」「はははっ、もうそんなになりますか」「と言うか青空姉〈そらねえ〉、一体何があったんだよ。訳分かんねえぞ」「あんただって、さっさと結婚しろって言ってたじゃない」「そうなんだけど……いやいや、俺が聞きたいのはそうじゃなくて」「お姉ちゃん……お嫁にいっちゃ、駄目?」「猫撫で声出してんじゃねーよ。締め落とすぞ」「分かった! 大地、お姉ちゃん取られて寂しいんだ!」「んな訳ねーだろ。歳考えろ」「あははははははっ、可愛いなー、私の弟はー」 青空〈そら〉に抱きしめられ、赤面した大地が慌てて離れる。「とにかくその……本当なんだな」「祝ってくれる?」「勿論だ。まあ、青空姉〈そらねえ〉に嫁が務まるか不安だけどな」「それは大丈夫。浩正くんの家事スキル、無敵だから」「いやいやいやいや、青空姉〈そらねえ〉がしろよ」 そう言って苦笑し、照れくさそうに浩正に頭を下げる。「浩正さん。こんな姉ですけど、どうかよろしくお願いします」「こちらこそ。今日まで青空〈そら〉さんを守ってくれて、ありがとうございまし
last updateLast Updated : 2025-04-23
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027 揺れる心

 「青空姉〈そらねえ〉が結婚……浩正〈ひろまさ〉さん、あんな女相手によく決心したな」 夕飯時。そうつぶやいた大地に、海が間髪入れず突っ込んだ。「ちょっと大地、実の姉にその言い方はないんじゃない?」「え? ああすまん、声に出てたか」「思いっきりね。じゃなくて、出さなきゃいいって問題でもないでしょ」「ははっ、確かにそうだ」「でもよかったじゃない。仲良し姉弟としては、お姉さんの幸せは何よりでしょ」「確かにそうなんだが……でも青空姉〈そらねえ〉、ほんと家事が酷いからな。浩正さんには同情しかないよ」「そんなに?」「ああ、そんなにだ。まず料理が壊滅的だ。卵も割れない」「……マジで?」「マジだ」「でもほら、野菜を切るぐらいなら」「青空姉〈そらねえ〉が包丁握れると思うか?」「あ、そうだったね……ごめん」「謝らなくていいよ。特殊な青空姉〈そらねえ〉に問題があるんだから」「じゃあ、大地が料理得意なのって」「ああ、青空姉〈そらねえ〉と暮らすようになってからだ。でないと二人共餓死してしまうからな、ある意味命がけで覚えたよ」「その辺の話、聞いてみたいって言ったら怒る?」「別に。隠してる訳でもないしな」「じゃあ聞かせてほしい。あと出来れば、浩正さんとの出会いとかも」「そんなの聞いてどうするんだよ。好奇心か?」「それもあるんだけど……あのね、前に大地から話を聞いて。そして青空〈そら〉さんと話して思ったの。本当に私は恵まれてたんだなって」「いいことじゃないか。わざわざ悪い環境に身を置く必要もないだろ」「そうなんだけど、ね……大地たちと出会ったことで、私の中で何かが変わろうとしてるの。それが知りたいって言うか」
last updateLast Updated : 2025-04-24
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028 理不尽な世界

  自分の中で、何かが変わろうとしている。 その事実に戸惑い、海は首を振った。「とにかく……私はまだ死なない。矛盾だらけだって分かってる。でも私は、この偶然の出会いを大切にしたい。例えそれが、人生最後に見てる夢だとしても」「……そうか」「だから大地、聞かせてくれる?」「ああ、構わない。じゃあ風呂に入ってから話すか」「うん」 海の中で、様々な葛藤がうごめいているのが分かる。しかしそれは、決して悪いことではないんだと大地は思った。 こうやって人と出会い、人の人生に触れて。 絶望が希望に変わっていくのも悪くない。 お前ならまだやり直せる。 その一助になると言うなら、もうしばらく付き合ってやるよ。そう思った。  * * *「青空姉〈そらねえ〉の高校卒業と同時に、俺たちは施設を出た」「その頃の大地って、まだ中学生よね」「ああ、中二だった。だから働くことも出来ない。青空姉〈そらねえ〉はそんな俺を引き取って、面倒をみてくれた。 と言っても青空姉〈そらねえ〉、あの見てくれだ。正規で雇ってくれるところはなかった。だから色んなバイトを掛け持ちして、生きる為の金を生み出してくれた。そんな青空姉〈そらねえ〉の力になりたくて、俺は青空姉〈そらねえ〉名義でよく内職をやってた。あと家事と」「……」「青空姉〈そらねえ〉の作った料理は、正に殺人兵器だった。あれなら食材をそのまま食べた方がマシだった。とにかくなんだ、命の危険を感じた俺は、必死になって料理を覚えた」「なんか……ふふっ、想像したら笑っちゃうね」「笑いごとじゃねえよ。ああ、俺はもうすぐ死ぬんだな。でもまあ、青空姉〈そらねえ〉に殺されるなら悪くないか、そこまで覚悟を決めたんだからな」「……どんな料理だったのか、見てみたい気はするけど」
last updateLast Updated : 2025-04-25
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029 出会い

  その日、青空〈そら〉は繁華街にいた。 大地が高校を卒業してから、何となく家に居辛くなっていた。 どこで働いても長続きしない。華奢な体と眼帯のおかげで、周囲とうまく馴染めなかった。それでも頑張れていたのは、大地がいたからだった。 父親に殴られ、母親に罵倒され。姉である自分だけが頼りで、いつも後をついてきた大地。そんな大地のことが愛おしかった。もし自分が見捨てれば、大地は生きていけないだろう、ずっとそう思っていた。 そう思っていたのに。成長した大地はいつの間にか、自分より社会に順応出来るようになっていた。 頭もよく、家でいつも資格の勉強をしている。そんな弟に対し、青空〈そら〉は強烈な劣等感を持つようになっていった。「青空姉〈そらねえ〉、今までありがとな。これからは俺が青空姉〈そらねえ〉を守るから」 そう言った大地を直視出来なかった。 悪気がないのは分かってる。心からそう思っていることも理解していた。 しかしその時の青空〈そら〉は、お前の役目は終わったんだよ、そう言われたような気がしていた。 事実、あっさりと自分の稼ぎを越えられてしまい、青空〈そら〉の自尊心は音を立てて崩れていった。 私にはもう価値がないのだろうか。そんな自虐的な思考にさいなまれ、いつしか青空〈そら〉は働く意欲をなくしていった。 そんな青空〈そら〉に対し、大地は愚痴のひとつもこぼさなかった。それがまた、青空〈そら〉を苦しめた。 一緒にいると息苦しくなり、大地が帰宅する頃を見計らって、こうして夜の街を徘徊する。そんな日々が続いていた。 その日も適当な場所に座り煙草に火をつけると、家から持ってきた缶ビールを開けて飲みだした。  * * *「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、こんな時間に何してるの?」 またか……そう思い顔を上げると、男が二人、自分を見降ろしていた。 茶髪と黒髪。見た感じ、大学生と言ったところか。「何か用?」 容姿に不似合いな大人びた物言いに、
last updateLast Updated : 2025-04-26
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030 ちっぽけな自分にさよならを

 「それで? 何があったのか、聞かせてもらえますか」 警官の問い掛けに、浩正〈ひろまさ〉が状況を説明する。 穏やかに、淡々と。 青空〈そら〉は男に手をつかまれた時、いわゆるフラッシュバックが起きていた。もう一人の警官が肩に手をやると叫び声を上げ、過呼吸状態に陥った。 一通りの説明を済ませた浩正がジャケットを脱ぎ、青空〈そら〉の肩にかける。そして、「落ち着いて、ゆっくり息をしてみてください。大丈夫、もう怖くないですよ」 そう言って微笑んだ。 そして鞄からコンビニの袋を取り出し、青空〈そら〉に差し出した。 青空〈そら〉は袋を受け取ると口をつけ、浩正の言う通りゆっくりと息をした。 そうしてる内に震えが収まり、袋を外すと、「……もう大丈夫です。ありがとうございました」そう言って袋を返した。 浩正が笑って「今日の記念にどうぞ」と言うと、「何それ、ふふっ」と笑顔を見せた。「ええっと、落ち着いたところ恐縮ですが……大体の事情は分かりました。こういう場所ですから、次からは気を付けてください、と言いたいところなんですが……君、歳はいくつかな」 若い方の警官が青空〈そら〉に聞いた。 青空〈そら〉は見るからに面倒臭そうな表情を浮かべ、大きなため息をついた。「君、未成年だよね。未成年がこんな時間、こんな場所で何してるんだ? それに君、飲酒喫煙もしてるようだけど」「私、23歳なんですけど」 青空〈そら〉が吐き捨てるように答える。その言葉に、若い警官は呆気にとられた表情の後、苦笑した。「どう見ても君、中学生じゃないか。身分を証明するものは?」「持ってません」「なら親御さんに連絡を。連絡先は?」「親はいませんよ。生きてるかもしれないけど、はてさてどこにいるのやら」「君、ふざけた言い方はやめなさい」「ふざけてなんかいませんよ。本当のことですから」「嘘
last updateLast Updated : 2025-04-27
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