All Chapters of 青空と海と大地ーそらとうみとだいちー: Chapter 11 - Chapter 20

30 Chapters

011 初めてのことだらけで

  ワゴン車の後部ドアが開き、スタッフが手際よく車椅子の利用者を下ろしていく。  大地と青空〈そら〉、浩正〈ひろまさ〉が手を貸すと、「今日もよろしくお願いします」と笑顔を向ける。  海はどうしていいのか分からず、その場に立ちすくんでいた。そんな海に気付き、大地が声をかけた。「海はそこで待ってて。要領も分からないだろうし、準備が出来たら声をかけるから」 そう言われてほっとする気持ちと、何も出来そうにない自分に苛立ちを覚えた。  車椅子なんか、学生時代の体験授業で少し触った程度だ。どう動かしていいのかも覚えてない。下手に手伝って、事故でも起こしたら大変だ。  大地の言う通り、今自分に出来ることはない。そう思い、準備が整うのを待った。「今日は中山さんも来られてるんですね」 最後に一台、異彩を放つストレッチャー型の車椅子がゆっくりと降ろされた。そこには中山と呼ばれた男性利用者が、車椅子に横たわった状態で乗せられていた。「こんにちは中山さん、お久しぶりですね。体調、戻ったようで何よりです」 大地が声をかけると、中山と呼ばれた男が笑顔で手を上げた。「大地くん。中山さんと山田さん、下川さんはお任せしていいですか。後の方たちは僕が誘導しますので」「分かりました」 そう言って、大地が三人を運動場のテーブルへ誘導していく。「青空〈そら〉さんと海さんは、残りのみなさんの誘導をお願いします」「分かったわ」 青空〈そら〉がスタッフと共に、一人ずつ中に誘導していく。「海ちゃん。そちらの方、大沢さんをお願い出来る?」「え? は、はい!」 青空〈そら〉にそう言われ、海が反射的に答える。そして大沢と呼ばれた女性利用者の後ろに回り、慌てて車椅子を押した。「ひゃっ」 突然車椅子を動かされた大沢が、手すりを握り締めて足を浮かせた。「ご、ごめんなさい……大丈夫でしたか」「うふふふっ、お嬢さん、初めてなのね」「は、はい……す
last updateLast Updated : 2025-04-08
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012 幸不幸の境界線

 「では海さん、こちらを外のテーブルにお願いします」 浩正〈ひろまさ〉がそう言ったトレイには、ティーカップとゼリーの2セットが乗っていた。「わ、分かりました」 外のテーブルには車椅子の山田と下川、そしてストレッチャー型の車椅子で横になっている男性、中山がいた。「すいません、おまたせしました」 海がぎこちない笑顔を向ける。「そんなに緊張しなくていいよ。大丈夫、ここのテーブルの人は優しいから」「あら大地ちゃん、中の人は意地悪?」 そう言って下川が笑う。「いやいや下川さん、いじめないでくださいって。勿論みなさん優しいですよ。その中でも下川さんたちは、特別優しいってことで」「うふふふっ、ありがとう」「あ、あの、その」 海が緊張気味にトレイを見つめる。 どちらのカップにも紅茶が入っている。でも一客にはスプーンが差してあって、色が少しくすんでいた。この違い、一体どういうことなの? そしてこのテーブルには3名の利用者がいる。それなのに2セットしかない。意味が分からずうろたえ、不安な視線を大地に向けた。 そんな海に大地がうなずく。「それでいいんだよ。分からないことは確認する、勝手に判断しない。今の海の行動、何も間違ってないから」 大地の言葉にほっとした表情を浮かべ、海もうなずいた。「この子は大地ちゃんのいい子かい?」「いやいや山田さん、若い女ってだけでそこに結び付けないでよ」「うふふふふっ、ごめんなさいね。でもね、この歳になるとそういうお話に縁がなくなるもんだから、ついついお節介焼きたくなっちゃうの」 山田の言葉に苦笑し、大地が海に伝える。「スプーンの入ってない方がこちらの山田さん。入ってる方が下川さん」「分かった。すいません山田さん、下川さん。おまたせしました」「ありがとう。海ちゃんって言うのね」「は、はい、海です」「可愛いお名前ね。お父さんとお母さん
last updateLast Updated : 2025-04-09
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013 葛藤

  お茶会が終わり、利用者たちがワゴン車に乗り込んでいた。「海ちゃん、今日はありがとうね。楽しかったわ」「こちらこそ、ありがとうございました」「また来月、会えるかしら」 そう聞かれ、海は一瞬複雑な表情を浮かべた。しかしすぐに、「はい。またよろしくお願いします」 そう笑顔で答えたのだった。「大地ちゃん。青空〈そら〉ちゃんは大丈夫なんかい?」「ありがとうございます。じきに落ち着くので安心してください」「久し振りだったからね、びっくりしちゃったわ」「そうですね。でもいつものことですし、大丈夫ですよ」 誰かが海の頭を撫でる。  見ると、ストレッチャーに乗った中山が手を伸ばしていた。「中山さん……」 中山がゆっくり口を動かす。 ――ありがとう―― 海が肩を震わせる。「またお会い出来るの……楽しみにしてます」 涙ぐみ答えると、中山は笑顔で何度もうなずいた。  * * *「ごめんね、途中でぶっちしちゃって」 片付けをしている頃に、青空〈そら〉が照れくさそうに戻ってきた。「青空〈そら〉さん、その……大丈夫ですか」「ごめんね海ちゃん、変なところ見せちゃって。もう大丈夫だから」「でも……顔色、まだすぐれないようですが」「大丈夫だよ」 大地が海の肩に手をやる。「さっきも言ったけど、いつものことだから。心配しなくていいよ」「そんなこと言っても……青空〈そら〉さん、私が何か」「いやいやほんと、気にしないで」「でも……」「後で大地に聞くといいよ。そうしたら海ちゃんのせいじゃないって分かるから」「そうだな。このまま有耶無耶にしてたら、海も気持ち悪いだろうしな」「と言うことで海ちゃん、後は大地に任せたから。帰ってから聞くといいよ」
last updateLast Updated : 2025-04-10
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014 つぶやき

  ベッドに寝転び壁を向いた大地。その背中を海が抱きしめた。「一緒に寝ろって、こういうことか」「顔を見ながらだと、話せそうにないから……」「まあ、向き合って話すのは戦いみたいなもんだからな」「そうなの?」「何かで読んだことがあるんだ。相手の顔を見据えて話すのは、歓談というより交渉に近い。リラックスして話すには、隣同士に座ってとかの方がいいらしい。車の運転席と助手席、なんてのが理想の形だそうだ」「確かに……面と向かってると、お互い自分の主張を通そうとしてるって感じがする。大地って、色々博識なんだね」「ただの雑学だ。それよりほら、聞く準備は出来てるぞ」「……そういうところは本当、デリカシーに欠けるんだけど」「俺に多くを求めるな。これでも精一杯なんだ」「他人に興味を持つ。そのことから逃げてるから?」 核心を突かれた、そう思った。「……青空姉〈そらねえ〉から聞いたのか」「うん。でも聞いてなくても、何となくそんな気はしてた」「……そうか」「私が死にたいのは裕司〈ゆうじ〉に会う為。そう言ったよね」「ああ」「まあ、話の着地点がそこなのは間違いないの。だからこれからする話は、大地にとっては聞いても仕方のないこと。聞いたところで、どうすることも出来ない訳だし」「さっきも言った通り、俺はただ聞くだけだ。まあ、合いの手ぐらいは入れてやるが」「そうだったね、ふふっ……私の両親は、本当に優しい人だったの。たくさんの愛情を注いでくれて、いつも温かく見守ってくれた」「……」「でもだからと言って、叱らないってことはないんだよ? 悪いことをした時には、それはもう怖かったんだから」「親としての責務を、立派に果たしてたんだな」「うん、そう。叱る時にはちゃんと叱る、褒める時には全力で褒める。私が社会で生きていけるよう、愛情深く接してくれた。だから私、お父さんのこともお母さんのことも大好きだった。嫌いだなんて思った
last updateLast Updated : 2025-04-11
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015 あなたは幸せだったと思います

 「で? ファーストコンタクトはどんな感じだったんだ」「最悪よ最悪。それも私が、一方的に最悪なことをしたの」「お前……何をしたんだ」「リビングに入ってすぐ、裕司〈ゆうじ〉目掛けてクッションを投げたの」「……アグレッシブだな」「今思い出しても、いいコントロールだったと思うわ。裕司の顔面にヒットしたんだから」「裕司はどうなった?」「床にひっくり返ったの。男の癖にバランスの悪いやつだって思ったわ」「確かにな。クッション程度じゃ、そうそう椅子から転げ落ちたりしないだろう」「その瞬間、叔母さんが悲鳴をあげて裕司に駆け寄って……」 肩が震える。「なんなのよこいつって思った。貧弱男子が夏休み、人の家で避暑してるんじゃないわよ。そんな暇があるんだったら、ジムでも行って体鍛えろよって思った。  でもすぐに、私は自分の行動を後悔した。傍にあった松葉杖を見て」「そいつ、怪我でもしてたのか」「それを見てね、やりすぎたって思った。のぼせていた頭が一気に冷えていくのが分かった」「裕司は大丈夫だったのか?」「うん。裕司、笑いながら『大丈夫です』って言って……私と叔母さんの手を取って立ち上がったの。その時に気付いた」「何にだ」「裕司の右足がね、おかしな角度に曲がってたの」「折れたのか?」「ううん、違う。裕司の右足、義足だったんだ」「……」「転んだ時に義足が取れてしまったの。裕司、笑いながら付け直してた」「……」「裕司、子供の頃に事故で右足を失ったらしいの。それ以来、ずっと松葉杖を使ってるって」「……そうか」「私、叔母さんに言ったの。どうして教えてくれなかったのかって。学校から私の家まで、徒歩で20分以上かかる。それなのに裕司、毎日ここまで歩いて来てたんだよ? 教えてくれてたら私、4か月も無視しなかったのに。これじゃあ私、本当に酷い女じゃないって。  そう
last updateLast Updated : 2025-04-12
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016 好きなだけ泣いていいぞ

  部屋の電気をつけ、海が冷蔵庫からビールを取り出した。「大地も飲む?」「そうだな。あと一本いっとくか」 ビールを受け取り床に座ると、海は隣にクッションを置いて腰を下ろした。「隣……なんだな」「この方が話しやすい。そう言ったのは大地でしょ?」「そうなんだけどな……それで? 続きがあるなら聞くぞ」「二学期から登校するようになって、それからはまあ、普通に女子高生してたと思う」「裕司〈ゆうじ〉とは」「私から告白したの。裕司、嘘でしょって顔して面白かったよ」「そうなのか」「私は出席日数の関係で留年。裕司と同じ大学には一年遅れで入学したの。で、私の卒業と同時に一緒に住むようになって、結婚資金を貯める日々が始まったんだけど。ある日裕司に癌が見つかって」「……」「発見した時には手遅れだった。若いから進行も早くて。旅立ったのが今年の9月」「そうしてお前はまた、大切なやつを失った訳だ」「裕司のご両親、私のことをずっと気にかけてくれてね。親族でもないのに骨上げにも参加させてくれて、分骨までしてくれたの」 そう言って微笑み、胸のペンダントを撫でた。「裕司は今、ここで眠ってるの」「……そうか」「とまあ、私の話はこんなところかな。どうもご清聴、ありがとうございました」 おどけた様子で頭を下げる。 その海の頭に手を乗せ、大地が乱暴に撫でた。「……大地?」「そういうのはいいから。過度な強がりは見ててきつい。辛いなら泣いていいんだ」 その言葉に。 海の目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。「でも……私が泣いたら、裕司が困っちゃうから……」「お前を置いて勝手に死ん
last updateLast Updated : 2025-04-13
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017 十字架

  夕食と風呂を済ませた二人は、ベッドにもたれてビールを飲んでいた。「また隣……なんだな」 ため息交じりに大地がつぶやく。「……駄目?」「いやいや、俺、前にも言ったよな。その小動物が餌をねだるような顔はやめろ。お前ずるいぞ」「だって……この方が落ち着くから……嫌なら離れるけど」 そう言われ、大地が困惑気味に手を上げる。「分かったよ。好きにしろ」「やたっ」 笑顔で腕にしがみつく。「おいこら、そんなことまで許してないぞ」「……駄目?」「くっ、こいつ……」 何を言っても勝てそうな気がしない。なんで俺、こんなにこいつに弱いんだ? そう思いながらビールを流し込む。「明日、何時から仕事なの?」「明日は昼からのシフトだ。12時から閉店まで」「じゃあ朝はゆっくり出来るね。でもそうなると、夕飯遅くなるのかな」「俺のことは気にするな。勝手に食ってろ」「またそういうこと言う……」「なんだよ。俺か帰るまでお前も食うな、そう言った方がいいのか」「そんなこと言ってないでしょ。でもまあ、大地はそれぐらいの方がいいかもね」「どういうことだ?」「他人を尊重しすぎてるってことよ」「いいことじゃないか」「あのね、物事には限度ってものがあるの。それに尊重するって行為には、自分のこともないがしろにしちゃいけないって縛りがあるんだからね」「初耳だ」「当然よ。私が今考えたんだから」「なんだそりゃ」「とにかく。帰りは何時ぐらいになるの?」「21時過ぎかな」「分かった。それまでに夕飯作っておくから、寄り道せずに帰ってくるのよ」「なんか俺、お前に主導権握られてないか」「そんなことないわよ。この家の主は大地、ちゃんと心得てるわよ」「まあ近い内に死ぬ訳だし、どうでもいいけ
last updateLast Updated : 2025-04-14
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018 悪夢

 「俺が小学2年の時だった。仕事をクビになったとかで、親父とおふくろが喧嘩を始めた。  俺はいつものように視界に入らないよう、部屋の隅で息を潜めてたんだけどな、おふくろに口で負けそうになった親父が、『何見てるんだお前』って俺に突っかかってきた。『見てません、ごめんなさい』そう言って頭を抱えた瞬間、蹴りが入って吹っ飛ばされた」「ひどい……」「そっからはいつものパターンだった。何をやっても報われない、嫁はキーキーまくしたててくる。勝ち目がなくなった親父が弱い存在、俺をボコボコにする」「小2の息子に八つ当たりって、その人どれだけ子供なのよ」「でもな、虐待の本質はそういうもんだと思う。親父もある意味、社会の閉塞感が生んだ被害者なのかもしれない」「かもしれない、かもしれないんだけど……どんな理不尽な目にあったとしても、自分がどれだけ犠牲になったとしても。子供を守るのが親でしょ?」「まあでも、それは強者の理屈なのかもしれない。この世界、そんな正論だけじゃ生きていけないやつがゴロゴロいるんだ」「納得出来ない……そんなの、納得出来ないよ……」「今俺が話してるのは過去のことだ。今更何を言おうが、どれだけ責めようが何も変わらない。それにまあ、親父らもそれなりの報いを受けた訳だし、海がそこまで怒る必要はないよ」 そう言って海の頭を優しく撫でた。「また始まった。抵抗したら余計に殴られる。あの時の俺はそう思って、ひたすら親父の暴力に耐えた。でもな、その日の親父は少し違ってた。  いつもの親父たちは、これ以上はやばいってラインをちゃんと心得ていた。その筈だったのに、どう見ても自制が効かなくなっていた。  身の危険を感じた俺は、『ごめんなさい、ごめんなさい』って叫びながら逃げようとした。その時腹に入った蹴りが強烈でな、息が出来なくなった。そして吐いた」「それって……かなり危ない状況ってことだよね」「かもな。でもその時の俺は、反吐で怒りが増した親父のことで頭がいっぱいだった。親父は顔を真っ赤にして、『部屋を汚しやがって!』って怒鳴りながら俺に椅子を
last updateLast Updated : 2025-04-15
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019 俺は誰も信じない

 「親父とおふくろは逮捕。俺と青空姉〈そらねえ〉は施設に保護された」 震える海を気遣って、大地が紅茶を淹れた。「それからご両親とは」「会ってないな。会いたくもないし、どんな判決が出たのかも知らない」「……そうなんだ」「ひょっとしたら、青空姉〈そらねえ〉は知ってるのかもしれない。でも何も言わないし、俺も聞きたいと思わない」「……」「あの時の怪我が元で、青空姉〈そらねえ〉の右目は光を失った」「え……」 出会った時から気になっていた、青空〈そら〉の眼帯。その意味を知り、海はまた全身が震えるのを感じた。「眼帯で何とか隠せてるけど、傷跡も残ってる。悪いことをしたなって思ったよ」「そんなこと……なんで大地が思わないといけないのよ。大地は青空〈そら〉さんを守ろうとしたんでしょ? 何も悪くないじゃない」「でもな、あの時俺に力があったら。冷静な判断が出来ていたら。違う結果になってたと思う」「それでも、それでもだよ。それに大地、まだ小学2年だったんでしょ? 青空〈そら〉さんだってそんなこと、思ってないに決まってるじゃない」「そうだな、それは確かだ。失明して、顔に傷が残ると分かった時。眼帯をした青空姉〈そらねえ〉、笑って俺に言ったんだ。『どうどう? お姉ちゃん、格好良くない?』って」 その時の青空〈そら〉の様子、それが当たり前のように目に浮かんだ。 ああ、青空〈そら〉さんならきっとそう言うよね。心配させたくなくて。大地に罪を感じて欲しくなくて。 でもきっと、心は泣いていた筈だ。そう思った。「……大地も青空〈そら〉さんも、どうしてそんなに強いのよ……」「それから俺たちは、新しい生活を始めることになった。生まれて初めて、家に帰ってもビクビクしないでよくなった。でもな、強がってたけど。俺が心配しないよう、い
last updateLast Updated : 2025-04-16
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020 矛盾だらけの決意

  海のことも信じていない。 そう言ってから、部屋の空気が重くなったと思った。「……」 大地は頭を掻き、小さく息を吐いた。「俺たちの話はこんなところだ」「うん……」「でもまあ、聞いたからと言って、青空姉〈そらねえ〉に変な気を使わないでやってくれ。そういうの、青空姉〈そらねえ〉はすぐ分かるから」「……分かった」「浩正〈ひろまさ〉さんにもな」「どういうこと? 今の話に浩正さん、全然出てこなかったけど」「浩正さんは、青空姉〈そらねえ〉の婚約者だ」「そうなんだ……」 確かに二人の距離は、雇い雇われの関係よりずっと親密だった。そう思い納得した。「浩正さんは全部知ってる。でも浩正さんにとって、それは大した問題じゃないんだ。 それは全部過去の話。僕が知りたいのは、これから青空〈そら〉さんがどんな人生を歩みたいのか、それだけなんですって」「……」「どれだけ幸せな過去を持っていても。どれだけ立派な人生を歩んでいても。これから堕ちていく人もたくさんいます。僕にとって過去というのは、その程度のものなんですって笑ってた。 どれだけ辛い過去を背負っていたとしても、それでも前を向き、幸せを求めて進もうとしてる青空〈そら〉さんのことが好きなんですって」 その言葉に海が微笑む。 そして思った。 浩正さんって、裕司〈ゆうじ〉とちょっと似てるかも、と。「青空姉〈そらねえ〉もそんな浩正さんのことが好きで、いずれ結婚したいと思ってる。何より浩正さんの夢を応援したい、一緒に叶えたいと思ってる」「いつかあの場所で、介護施設を立ち上げるって夢?」「ああ。今みたいな協力じゃなく、自分が理想とする施設を立ち上げたいって夢だ」「浩正さんなら出来ると思う」「俺もそう思う。まあ、
last updateLast Updated : 2025-04-17
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