バスルームでシャワーを浴びる時間が好きだ。彼の顔を見ずに済むし、嫌な記憶に苛まれることもないから。けれど、洗面台の鏡をぼんやりと眺めていると、曇ったガラス越しでも、肌に刻まれた消えない痕跡がはっきりと目に映った。充血した瞳で、私は鏡の中の自分をじっと見つめた。すると、不意にバスルームのドアをノックする音が響く。智秀が、ゆったりとした調子で言った。「ずいぶん長いな?出てこないなら、入るぞ」「……」彼は以前にも、何の前触れもなくバスルームに入ってきたことがある。私はすぐにシャワーを止め、バスタオルを体に巻きつけた。朝食は、いつも通りきちんとテーブルに並べられていた。けれど、智秀は手をつける気配がない。テレビでは朝のニュースが流れ、彼はすらりとした指で、手際よくネクタイを締めていた。私がぼんやりと彼を見つめていると、ふいに顔を近づけ、鼻を軽くつままれる。「そんなに見るのが好きか?次は君が締めてくれる?」私は視線をそらした。彼は、まるで面白がるように低く笑う。そして、わざわざ私の飲んでいたミルクを手に取り、唇の跡が残る部分に口をつけて飲んだ。「いい子にして待ってろよ。今夜、ウェディングドレスを見に行くぞ」智秀が出て行った。私はただ、呆然とテレビを見つめ続けた。気がつけば、彼が口をつけたグラスを手に取り、テレビに向かって思いきり投げつけていた。テレビはかすかに揺れただけ。けれど、グラスは床に叩きつけられ、粉々に砕けた。鋭い音が静寂を切り裂き、使用人たちの驚いた声が遠くから聞こえた。私は膝を抱え、その場に座り込み、泣いた。智秀――それは、私にとっての悪夢だった。高校時代、あのグループの中で、誰よりも執拗に私をいじめたのが彼だった。彼は私のカバンを開き、教科書をすべて校舎の窓から放り投げたことがある。彼の一声で、クラスの誰もが私を避けるようになった。彼のそそのかしで、女子たちは私をトイレに連れ込み、頬を叩いた。彼が先頭に立って私を笑い者にする限り、誰も助けてはくれなかった。なぜなら、智秀は某大企業の会長の息子だったから。私たちの学校には、彼の家が寄付した校舎が建っていた。彼が笑えば、教室中が笑った。彼が嘲れば、私を嘲る声が渦巻いた。彼の端正な顔立
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