「手伝おうか」振り返ると、庄司が玄関に寄りかかり、心配そうな眼差しを向けていた。友梨は聞こえなかったふりをし、その言葉に応じなかった。庄司も気まずそうな様子もなく、独り言のように話し続けた。「こんな大雨が降ったのは、一年前だったかな。あの日は二人とも家で休んでいて、君が手作りケーキを焼くって言い出して......」彼の声はしとしとと降り続ける雨音に混ざりながら、時の流れの中に埋もれた思い出を語り続けた。どこにも行けない友梨は、否応なく彼の追憶に耳を傾けることになった。聞いているうちに、頭の中にいくつかの場面が浮かび上がり、静かだった心も揺れ始めた。雨の日から最初のデート、結婚後から大学時代まで、庄司は追憶に浸りきったかのように、懐かしむ気持ちを込めた口調でどんどん語っていく。彼の口から語られる思い出は美しく楽しいものばかりだったが、友梨の耳には、去り行く人の後に残された寂しさだけが響いた。とうとう我慢できなくなった彼女は、彼の言葉を遮った。「そんなに暇なら、車で送って小遣い稼ぎでもしたら」目的を達成した庄司は、すぐに彼女を車に招き入れた。これ以上邪魔されないよう、乗車するなり友梨は目を閉じて居眠りのふりをした。庄司はもう何も言わなかった。彼女が隣に座っているのを見るだけで、彼の心は徐々に落ち着いていった。目的地に着くと、友梨は財布から2000円を取り出して渡した。「ご苦労様。お釣りはいいわ」庄司も遠慮せずに、にこにこしながら受け取った。「ご利用ありがとうございました。また送迎が必要な際はご連絡ください」友梨は彼とこれ以上言葉を費やす気もなく、車のドアを開けて立ち去ろうとしたが、呼び止められた。「美咲が君の連絡先が欲しいって言ってるんだけど、いいかな」その名前を聞いた瞬間、友梨の心臓が一拍飛んだ。以前こっそり彼女をフォローしていたことを思い出した。でもすぐに、そのアカウントはもう削除したことを思い出し、安心して軽く頷いた。友達申請が来ると、友梨はすぐに承認した。画面に「入力中」の表示が続くのを見て、彼女は胸が高鳴った。なぜ突然美咲が連絡を取りたがっているのだろう。何か知ってしまったのだろうか。そう推測している間に、一通のメッセージが届いた。「友梨さん、明日お
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