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君よ、彼女を探して のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 26

26 チャプター

第21話

「手伝おうか」振り返ると、庄司が玄関に寄りかかり、心配そうな眼差しを向けていた。友梨は聞こえなかったふりをし、その言葉に応じなかった。庄司も気まずそうな様子もなく、独り言のように話し続けた。「こんな大雨が降ったのは、一年前だったかな。あの日は二人とも家で休んでいて、君が手作りケーキを焼くって言い出して......」彼の声はしとしとと降り続ける雨音に混ざりながら、時の流れの中に埋もれた思い出を語り続けた。どこにも行けない友梨は、否応なく彼の追憶に耳を傾けることになった。聞いているうちに、頭の中にいくつかの場面が浮かび上がり、静かだった心も揺れ始めた。雨の日から最初のデート、結婚後から大学時代まで、庄司は追憶に浸りきったかのように、懐かしむ気持ちを込めた口調でどんどん語っていく。彼の口から語られる思い出は美しく楽しいものばかりだったが、友梨の耳には、去り行く人の後に残された寂しさだけが響いた。とうとう我慢できなくなった彼女は、彼の言葉を遮った。「そんなに暇なら、車で送って小遣い稼ぎでもしたら」目的を達成した庄司は、すぐに彼女を車に招き入れた。これ以上邪魔されないよう、乗車するなり友梨は目を閉じて居眠りのふりをした。庄司はもう何も言わなかった。彼女が隣に座っているのを見るだけで、彼の心は徐々に落ち着いていった。目的地に着くと、友梨は財布から2000円を取り出して渡した。「ご苦労様。お釣りはいいわ」庄司も遠慮せずに、にこにこしながら受け取った。「ご利用ありがとうございました。また送迎が必要な際はご連絡ください」友梨は彼とこれ以上言葉を費やす気もなく、車のドアを開けて立ち去ろうとしたが、呼び止められた。「美咲が君の連絡先が欲しいって言ってるんだけど、いいかな」その名前を聞いた瞬間、友梨の心臓が一拍飛んだ。以前こっそり彼女をフォローしていたことを思い出した。でもすぐに、そのアカウントはもう削除したことを思い出し、安心して軽く頷いた。友達申請が来ると、友梨はすぐに承認した。画面に「入力中」の表示が続くのを見て、彼女は胸が高鳴った。なぜ突然美咲が連絡を取りたがっているのだろう。何か知ってしまったのだろうか。そう推測している間に、一通のメッセージが届いた。「友梨さん、明日お
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第22話

カフェで美咲と会った時、友梨は何か遠い昔のような感覚に襲われた。一ヶ月ぶりの再会で、彼女は少し憔悴し、元気もなさそうに見えた。その変化に友梨は少し驚いたが、それでも丁寧に挨拶を交わした。注文を済ませた後、あまり親しくない二人は何を話せばいいのか分からなかった。結局、美咲が先に沈黙を破った。「友梨さん、今日お会いしたのは謝りたいことがあって......申し訳ありませんでした」その真摯な謝罪に、友梨は驚きの表情を浮かべ、慌てて手を振った。「私たちの間には何もなかったでしょう。謝らなくていいのよ」こんなにも寛容で気にしていないという言葉を聞いて、美咲の目には更に強い罪悪感が浮かんだ。「あの日、私は友梨さんが庄司さんと結婚していたなんて知らなくて、余計なことを言って傷つけてしまって、本当にごめんなさい」こんな些細なことだったのか。友梨の心に小さな波紋が広がり、彼女を見る目が優しさを帯びた。「私が隠していたのが先だもの。あなたは本音を話しただけで、気にしていないわ。それに、あの時私はもう離婚を決めていたの。むしろあなたの言葉で決心が固まったくらいよ。感謝してもいいくらいね。あなたの言葉がなければ、こんなに早く立ち直れなかったかもしれないわ」美咲は慰めの言葉だと分かっていても、心の中の壁を越えられず、目に涙が光った。「こんな結果になってしまったのは、私と庄司さんの責任です。私たちが友梨さんを裏切ってしまったんです」彼女が頑なに責任を背負おうとするのを見て、友梨は一瞬言葉を失った。罪悪感に囚われた美咲の感情は徐々に高ぶっていった。「友梨さん、実は私と庄司さんはもう話し合って、これからは兄妹としての関係だけにすることにしました。もう一度、彼にチャンスをあげていただけませんか」この突然の話題転換に、友梨は固まってしまった。二人は相思相愛で、離婚した日にすぐに入籍するような関係だったはずでは?どうして皆、揃って復縁を勧めてくるのだろう。この疑問は友梨の心の中で長い間渦巻いていて、今回ついに聞かずにはいられなくなった。「私たちは既に離婚したのに、どうしてあなたたちは一緒にならないの」美咲の声は既に涙声になっていた。「庄司さんが私のことを好きだったってことは、ずっと前から知っていた。でも私は彼を
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第23話

最後まで聞いて、友梨の心には大きな石が投げ込まれたかのような波紋が広がった。美咲の視点からは、こんなにも異なる物語として映っていたとは思いもよらなかった。驚きはあったものの、これが真実だとは思えなかった。結局のところ、恋愛とは水を飲むがごとく、温かいか冷たいかは自分にしか分からないもの。もし庄司が本当に彼女のことを好きだったのなら、それを少しも感じ取れなかったはずがない。だから美咲の懸命な説得と説明に対して、しばらく沈黙してから答えた。「彼があなたに抱く感情が恋愛なのか、家族愛なのか、それとも友情なのか、それは分からないけれど、元妻の私よりもずっと深いものだと思います。私が離婚を決めたのは、あなたの存在だけが理由じゃないの。昔からの大小様々な出来事が積み重なって、結婚の本質が見えてきて、完全に失望してしまったの」彼女が冷静に事実を語るのを見て、美咲も深く感じるものがあった。まだ口に出していない説得の言葉は、唇の間に留まったまま。二人の視線が空中で交差し、友梨は彼女の赤く潤んだ瞳を見つめ、軽くため息をついた。「結局これは私と庄司の問題で、あなたは何も悪くない。巻き込まれるべきじゃなかったの。今は私たちの離婚は既成事実になって、当事者の私でさえ受け入れて前に進めているのに、傍観者のあなたが悩む必要なんてないわ。全てを手放して、自分の人生を歩んでいけばいい。あなたも私も、まだやり直せる時期なんだから」この会話は終わったものの、美咲の心の中の感情はなかなか収まらなかった。一人で席に座ったまま、長い時間をかけてようやく友梨の言葉の意味を理解した。昨日のことは、昨日と共に死に。今日のことは、今日と共に生まれる。一瞬にして、彼女の心に積もった暗雲は晴れていった。美咲は立ち上がり、隣の個室に向かってドアを開けた。部屋の中は静まり返っていて、椅子に寄りかかったまま黙り込む庄司を見て、彼女は優しく声をかけた。「庄司兄、大丈夫ですか」先ほどの二人の会話は、一言も漏らさず庄司の耳に入っていた。彼は決して大丈夫ではなかったが、美咲の前では全ての感情を抑え込み、平静を装った。「大丈夫だよ」声にかすかな震えが混じり、美咲はすぐにそれに気付いた。彼女は俯いて、彼の向かいに座り、しばらく考えてから慰めの言葉を
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第24話

友人たちと別れを告げた後、友梨は荷物をまとめ、中断していた世界一周の旅を再開する準備を始めた。皐月は空港まで見送り、離したくないかのように彼女を抱きしめていた。「気を付けて行ってきてね。何かあったらすぐに電話して。美味しいものとか、面白いところとか、綺麗なものを見つけたら写真を送ってね。疲れたら休みたいけど泊まるところが見つからないときは、そのまま帰ってきて。私の家の暗証番号知ってるでしょう......」延々と続く言葉を聞きながら、友梨は困ったような表情を浮かべた。「旅行に行くだけで、遠くに嫁いで行くわけじゃないのよ。皐月ママ、そんなに心配性にならないでくれる?」そんな軽い冗談で別れの雰囲気が壊れ、皐月は思わず友梨の頬をつねった。「このママは、あなたがまた羽目を外すんじゃないかって心配なの。この前だってメッセージを数日も返さなかったじゃない。だから念を押すのよ」「もう何百回も説明したでしょう。念力で返信したのよ。まだそのことを根に持ってるの!」二人は子供のようにしばらく言い合い、搭乗時間が近づいてきてようやく名残惜しく別れた。友梨がバッグを背負って保安検査を通り、機内で座席を探していると、早くも皐月からメッセージが届いた。「!!!今、庄司さんに似た人を見かけたわ!」その一言で、友梨は警戒心を抱いた。反射的に周りを見回したが、あの見慣れた顔は見当たらず、少し安心した。「見間違いじゃない」「絶対に彼かもしれない。気を付けて!」友梨は半信半疑だった。誰にも告げていない旅程を、庄司がどうして知り得るだろうか。念のため、山本弁護士にメッセージを送って確認してみた。「庄司君は一昨日辞表を出しました。今どこにいるのか分かりません」そのメッセージを見た瞬間、友梨は不吉な予感が込み上げてきた。庄司が辞職した?では皐月が先ほど見かけた人は、本当に彼だったのか。そう推測している時、背後から聞き慣れた声が謎を解き明かした。「すみません、通していただけますか」その声を聞いた瞬間、友梨の体は凍りついた。呆然と振り返ると、庄司が後ろに立っており、驚いたふりをして挨拶をしてきた。「友梨?なんて偶然だ」偶然かどうか、お互いの胸の内は明らかだった。友梨は彼の芝居に付き合う気もなく、眉をひそめ
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第25話

「あのアルバムを見たから、離婚を決めたのか」庄司はあの疑問をまず口にした。友梨は迷うことなく、正直に答えた。「そうね、でもそうじゃないわ。離婚の考えはずっと前からあったの。アルバムは導火線に過ぎなかった。たとえアルバムを見なくても、いつか我慢の限界が来て、離婚を切り出していたはずよ」その確信に満ちた口調に、庄司はまた後ろめたさを感じた。「私の至らなさで、君がこんなにも不満を抱えていたのに、どうして言ってくれなかったんだ」友梨は彼を横目で見て、さらりとした口調で答えた。「あなただって美咲のことを好きだって言わなかったでしょう。私はただ、あなたを真似て黙っていただけよ」今でも誤解していることを知り、庄司は急いで説明を始めた。「確かに好きだった。でもそれはずっと昔のことで、結婚してからは少しずつ彼女のことを忘れて、君と一緒に......」友梨はそんな空虚な言葉を聞きたくなくて、遮った。「あなたがいつ彼女のことを諦めたのかも、私に本気だったのかも、もう興味ないわ。全て過去のことだもの。もう価値のないことに心を費やしたくないの。分かる?」その澄んで決意に満ちた瞳を見て、庄司は用意していた説明の言葉を飲み込むしかなかった。両手を強く握りしめ、力が入り過ぎて関節が白くなり、目には深い諦めと暗さだけが残っていた。友梨は彼の今の気持ちなど全く気にしていなかった。ただ世界が再び静かになったことに安堵し、イヤホンとアイマスクを取り出して、しっかり休もうと準備した。飛行機は京北の上空を飛び、雲の頂きを翔けていた。機内が静かになり、庄司は顔を傾け、すぐ近くにある安らかな寝顔を見つめながら、激しく揺れる心が少しずつ落ち着いていった。彼女がこれほど過去を拒絶するなら、もう諦めるしかない。でもそれは、彼が全てを諦めるという意味ではなかった。二時間後、飛行機は江城空港に着陸した。友梨が荷物を押して車に乗ろうとした時、バックミラーに映る庄司の姿を見て、思わず睨みつけた。「言うべきこと、言うべきでないこと、全て話し終わったでしょう。まだ付きまとうの」「話し終わったとは言えないよ。結婚後のことは水に流したとしても、その前の七年間と、これからの人生について、まだ話すことがあるはずだ」「七年間片思いして、離婚後はそ
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第26話

十月の江城は気温が徐々に下がり、秋風が疲れを吹き飛ばしていく。友梨はホテルの予約情報を確認しながら、ゆっくりとロビーに向かった。フロントに着くと、またしても庄司と鉢合わせた。一度や二度なら偶然だが、三度目となると友梨も我慢の限界だった。「こんなに大きな街で、これだけホテルがあるのに、また偶然なんて言わないでよね!」彼女の怒りの詰問に、庄司は平然とした顔で答えた。「偶然にも、天意と人為がある。どちらにしても、出会うには運が必要だろう。私は運がいいのかもしれない。君と縁があるってことさ」友梨はこめかみを押さえ、気を取り直した。「もし本当に縁があるなら、離婚なんてことになったはずないでしょう。嘘はやめて、庄司」「もしかしたら、私たちの縁は離婚の後から始まるのかもしれない」もっともらしく言うが、友梨にはただの戯言にしか聞こえず、思わず皮肉った。「じゃあ私たちの縁は離婚の日に尽きたって言えるわね。今はただの因縁よ!」庄司は大いに賛同するように頷いた。「因縁かもしれないね。でもそれも悪くない。七年前、君が偶然を装って何度も現れて、私に深い印象を残してくれなかったら、結婚相手の第一候補に君を選ぶこともなく、こんなにも縺れて、今日まで続くこともなかった。君が求めた因縁が尽きたと思うなら、今度は私が君の昔のような粘り強さと諦めない精神を見習って、私たちの縁を更新したいと思う」友梨にとって、庄司を四年間追いかけたことは、まるで前科のように人生の記録に残っていた。特に本人の口から語られると、恥ずかしさと怒りが込み上げてきた。「過去のことばかり蒸し返して!」「偶然の出会いも演出できるよ」友梨は彼のこの頑なな態度に呆れ笑いが出そうになった。「私が何をしたっていうの。なぜこんなにつきまとうの!」庄司は深い眼差しで彼女を見つめ、複雑な感情を滲ませながら言った。「十年前、君が私に関わってきたことが間違いだったんだ、友梨」友梨は珍しく彼に同意した。拳を握りしめ、落ち着きを取り戻して、理性的な会話を試みた。「じゃあ、どうしたら私から離れてくれるの」「わざとつきまとっているわけじゃない。全て縁のなせる業だよ。どうして信じてくれないんだ」そんな神秘的な言い訳を盾にするのを見て、友梨は完全に我慢が限界に達
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