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君よ、彼女を探して のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

26 チャプター

第11話

京北を去った友梨は駅へ向かい、適当に選んだ行き先の切符を買い、離婚後初めての旅に出た。一日の間に北から南へ、気温が徐々に上がり、空気も湿り気を帯びてきた。荷物を持って、見知らぬ街、龍城に到着した。京北の慌ただしさとは違い、小さな街は何もかもがゆっくりとしていた。荷物を宿に預け、目的地を決めない散策を始めた。麺を注文し、賑やかな通りで冷たい飲み物を飲みながら、心も体もリラックスした。携帯が鳴り、新しいSNSアカウントには数人しかいない。開くと山本弁護士からの二通のメッセージ。「義妹さん、身分を明かさずに離婚とは。庄司が怒って大変でした。手紙を預かったので、読んでみてください」庄司が怒るのは予想していた。でも手紙を書くとは、意外だった。文書を開くと長文で、まず文字数に目が留まった。8000字。離婚するだけなのに、8000字も。必要?全部非難の言葉かしら。でも晴れやかな気分を壊したくなかった。そのまま文書を閉じ、携帯をサイレントにし、届いた麺をすすった。食後は夜市を一人で食べ歩き、心の中の複雑な感情は食欲と共に消えていった。夜、ホテルに戻り、山本弁護士にお礼を送り、一つの文書を返信した。庄司は文書を受け取り、期待を持って開いた途端、凍りついた。「長すぎ、読めません。離婚は成立。以後連絡不要」たった二行の言葉が、落ち着きかけた心に大波を立てた。急いで長文を打ち始めたが、「長すぎ」を思い出し、イライラと削除した。ついに我慢が限界に達し、携帯をベッドに投げ、床に崩れ落ちるように座り、疲れた目を閉じた。混乱した頭の中で、あのビデオの場面が次々と蘇った。机のカメラを手に取り、最後の部分を何度も再生し、美咲の場面で止めた。友梨が去って36時間、庄司は離婚の理由を理解した。彼と美咲のことを知っていたのか。その考えが浮かんだ瞬間、心臓が跳ねた。かつてない動揺が押し寄せた。頭を抱え、どこで間違えたのか必死に思い出そうとした。過去の出来事が次々と浮かび、引っ越しの日で止まった。一輝と階段を行き来している間、美咲と友梨は二人きりの時間があった。でも熟慮期間の九日目。何かを知ったとしても、予測はできないはず。全ての始まりは、法律事務所での出会い、不動産契約と騙して署名さ
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第12話

友梨があのアルバムを見つけたと気付き、庄司は一睡もできなかった。一晩中、この数年の出来事が頭の中で巡り続けた。最初の十数年は美咲を追いかけていたとすれば、彼女の結婚後の三年は、彼女を諦める日々だった。彼女が結婚した瞬間から、妹としてしか見ないと決めていた。そして、ずっと彼を追いかけてきた友梨は、最初は友人でしかなかった。おそらく同じような叶わぬ恋の苦しみを知っていたから、ずっと申し訳ない気持ちを抱えていた。その後ろめたさは三年前の再会まで続いた。再会した瞬間、彼は分かっていた。彼女はまだ諦めていないと。結婚を迫られた時、長い間ずっと同じことを考えていた。親の言う通り、見知らぬ相手と結婚するか。それとも友梨に機会を与えるか。結局、彼女と結婚すれば、少なくとも彼のような苦しみは味わわせないだろうと考えた。若かった庄司は、彼女の願いを叶えることで、叶わぬ恋の絶望を和らげられると思っていた。でも当時は知らなかった。望まない結果は、時として叶わぬ恋よりも受け入れがたいことを。そして、誰かの願いを叶えることは、簡単なことではなかった。失った恋の深い苦しみと、これから入る結婚という檻の間で。彼は両方の間を行き来し、心が引き裂かれそうだった。崩壊寸前の状態で、隠婚を提案し、友梨は即座に承諾した。人を忘れる方法も、結婚生活の営み方も分からないまま、庄司は結婚した。結婚後の三年、美咲とはほとんど連絡を取らず、たまの食事会で顔を合わせる程度だった。大勢で撮った写真は全てそのアルバムに収めていた。日々の生活の中で、少しずつその想いを手放そうとしていた。でも、手放すのは簡単ではなかった。長年の習慣で、無意識に彼女を見つめ、彼女のことで感情が揺れ動いた。特に彼女の離婚を知った時、苦しみから解放されて新しい人生を始めてほしいと切に願い、だからこそ全力で助けようとした。本当に愛した人だからこそ、一緒になれないと分かっていても、幸せになってほしかった。でもこれは全て庄司の胸の内で、誰にも話したことはなかった。片思いは一人の心の中の出来事だと思い、うまく隠せていると思っていた。でも友梨も彼に片思いしていたから、簡単に見抜かれていたのだ。失ってから気付いた。とっくに気持ちは見透かされていたこと
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第13話

友梨が去って三日目、庄司はあらゆる手を尽くしても連絡が取れなかった。時が過ぎるごとに、心の不安は膨らんでいった。この数日、美咲から何度も連絡があったが、全て断っていた。だから彼女が訪ねてきて憔悴した姿を見た時、心配そうな目を向けた。「庄司兄、何かあったの?」今となっては、美咲を目の前にして複雑な感情が湧いた。愛情は既に家族愛に変わっていたが、伝える機会を見つけられずにいた。しかし友梨が二人の関係を誤解して去った今、もう先延ばしにはできない。全てを説明しなければ。「美咲、ずっと友梨を探しているんだ」「友梨さん?どうかしたの?」美咲の表情に浮かぶ緊張を見て、庄司の後悔は深まった。「消えてしまったんだ。見つからない」「えっ?なぜ突然......離婚のこと?元夫と何か?」「離婚のことだし、元夫とも関係がある。より正確には、私との関係だ」美咲は更に困惑した。その困惑した表情を見て、庄司は勇気を振り絞って告白した。「私が友梨の元夫なんだ。三年前に結婚していた。ずっと黙っていてごめん、美咲」その言葉は鈍器のように美咲の心を打ちのめした。その場で凍りついた。あの違和感、第六感は間違いではなかったのだ。理解はしたものの、現実を受け入れられず、声を震わせて問いただした。「なぜ黙っていたの?友梨さんに対して、フェアじゃない」庄司は言葉を失い、複雑な感情をどう説明すればいいのか分からなかった。その沈黙に、美咲の感情は高ぶった。前回の友梨との会話を思い出し、後悔と罪悪感で胸が潰れそうになった。もし友梨さんの夫が庄司だと知っていれば、余計な感情は全て押し殺し、あんな話もしなかったはず。無意識とはいえ、二人の結婚生活を壊す一因になってしまったことに、耐えられない痛みを感じた。「謝るべき相手は私じゃなくて、友梨さんでしょう!」「分かってる。でも離婚後、消えてしまって見つからないんだ」それを聞いて、美咲は友梨が完全に諦めたのだと悟り、胸が締め付けられた。友梨さんの気持ちは誰よりも分かった。「人は跡形もなく消えることなんてできない。連絡する方法が全くないということは、あなたが彼女を全く心に留めていなかった証拠よ!」その一言が血なまぐさい真実を突き、庄司の胸に鋭い痛みが走った。
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第14話

友梨が去って七日目、庄司は追い詰められていた。背後は万丈の谷底、後には引けない状況で、かえって冷静さを取り戻した。熟慮期間は終わっていても、手続きはまだ完了していない。離婚証明書の発行にも訴訟にも、友梨は戻ってこなければならない。それを理解すると、落ち込んでいた庄司は立ち直った。休暇を切り上げ、事務所に戻って最初に山本弁護士を訪ねた。この数日、山本弁護士は彼のために何度もメッセージを転送していた。痩せ衰えた姿を見て、胸が痛んだ。慰めようとした時、庄司が落ち着いた声で切り出した。「山本先生、友梨に伝えてください。離婚に同意します。戻って手続きを」山本弁護士は茶をこぼしそうになった。「もうあきらめるの?三年の夫婦なのに!」「彼女は話し合いを拒否している。私に何ができる?裁判所まで行くわけにもいかない」山本弁護士は溜息をつき、首を振った。「分かった。宮本さんに伝えよう。あまり落ち込まないように」庄司は黙ってオフィスに戻った。椅子に座り、緊張が少し解けた体で、次の段階を考えていた。実は離婚するつもりなどなかった。山本弁護士にそう言ったのは、友梨に会うためだけ。京北に戻れば、説明のチャンスがある。十年も好きでいてくれた。誤解さえ解けば、やり直せるはずだ。山本弁護士からの連絡が入った時、友梨は海辺で日光浴をしていた。一週間以上、二三の街を巡り、離婚のことなど忘れていた。庄司が同意したと聞き、疑問が湧いた。ずっと連絡してきたのに、急に同意?また何か企んでいるのでは?念のため山本弁護士に確認すると、夫婦そろって手続きが必要と分かり、天を仰いだ。離婚するだけなのに、なぜこんなに難しいの!旅行の予定は一時保留だ。溜息をつき、サングラスをかけてホテルに戻り、荷物をまとめ始めた。翌日午前十時、京北に戻った。皐月が空港で待っていて、驚いた声を上げた。「友梨、随分焼けたわね?」「焼けたんじゃなくて、健康的な小麦色よ!」笑顔を見て安心した皐月は、彼女を家に連れ帰った。道中、友梨は旅の話をし、皐月は羨ましがりながらも離婚のことを心配した。「庄司さん、本当に同意したの?」友梨も確信は持てなかった。でも今回は決意を固めて戻ってきた。「熟慮期間は過ぎたわ。同
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第15話

山本弁護士から友梨の帰京を聞いた庄司は、すぐに面会を求めたが、冷たく断られた。失望したが仕方なく、彼女からの連絡を待った。その間、離婚協議書と財産分与協議書を何度も読み返し、旧居の間取りを参考に多くの物を買い集めた。友梨が許してくれることを願いながら、元通りの配置を再現し、全てを正常に戻そうとした。日が過ぎ、九月末、ついに山本弁護士から電話が来た。友梨が会いたいと。だが場所は区役所の前。庄司の期待は一瞬で消え失せた。それでも約束通り、何も持たずに向かった。友梨は手ぶらの彼を見て、離婚同意が嘘だと悟った。予想していたため怒りはなく、ただ苛立ちを滲ませた声で言った。「離婚に同意して、何も持って来ない。これがあなたの誠意?」半月ぶりの再会で最初の言葉が離婚とは。庄司の目が暗く曇った。彼女の表情に悲しみや辛さを探そうとした。そうすれば引き止められる自信があった。しかし彼女の表情は湖面のように穏やか、離婚前より何倍も生き生きとしていた。この間、苦しんでいたのは自分だけだったのか。庄司は胸が押し潰されそうになった。「話がしたいんだ。友梨」「離婚届を出してから、何でも聞くわ」一言で、庄司のかすかな望みは消え去った。掌に爪を立て、嗄れた声で言った。「身分証明書を忘れた。一緒に取りに行ってくれない?」友梨は即座に断った。「自分で行って。ここで待ってる」断られ、別の言い訳を探した。「家に残してある荷物、場所が分からなくて。時間がかかりそうだ」これは本当のことだった。だが友梨は何か企んでいると感じ、皐月にメッセージを送ってから同意した。助手席に座り、二人とも思いに沈んだ。庄司は母校へ向かった最後の楽しい会話を思い出していた。あれが最後だと知っていれば、決して立ち去らなかった。十年の青春を共に振り返り、本当の気持ちを伝え、傍に留めただろう。でも後悔はできず、時間も戻せない。自業自得の苦さを飲み込むしかなかった。静寂が続き、庄司は話題を探った。「この間、どこにいたんだ?」友梨は窓の外を見たまま、冷たく答えた。「もう離婚したのに、関係ないでしょう」その言葉が庄司の心を突き刺した。唇を噛み、失意に満ちた目で言った。「熟慮期間が終わっただけで、
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第16話

信号で車が止まり、庄司は深い眼差しで彼女を見つめた。「不満なんてない。どうしても離婚したいなら、全財産を放棄してもいい。脅すつもりもない。ただ、分からないことが多すぎて、納得できないだけだ」納得できないという言葉に、友梨は驚きの色を見せた。「何に納得できないの?知らないうちに離婚されたこと?私が先に切り出したこと?」「違う、友梨」彼女の困惑した表情を見て、庄司は苦笑いを浮かべ、深いため息と共に答えた。「誤解されたこと、チャンスをくれないこと、これで終わりにされることに納得できない」今度は友梨が黙り込んだ。彼の言葉の意味が理解できなかった。美咲のことを長年想い続けていたはず。離婚したら、すぐにプロポーズするはずじゃない?なぜこんな曖昧な態度で、余計なことを言うの?その沈黙に、庄司は心の内を明かす機会を得た。「あのビデオを見て、なぜ去ったのか分かった。私がまだ美咲のことを......そう思ったんだろう?」「違うの?」その問い返しに、庄司の胸は更に痛んだ。込み上げる苦さを押し殺し、静かな、しかし誠実さと謝罪の念に満ちた声で言った。「ごめん。とっくに話すべきだったことを先延ばしにして、こんなに長く誤解させて、苦しませて、全て私が悪かった。ごめん、友梨」友梨には、この謝罪が唐突で不可解に思えた。でも深く追求する気はなかった。自由を得ることだけを考え、遅すぎた懺悔を聞く気はなかった。「確かに私を傷つけた。償いたいなら、さっさと離婚に同意して。離婚証明書さえもらえれば、全て許すわ」長年温めていた言葉が喉に詰まった。庄司の目の悲しみが深まった。「でも離婚したくない。引き留めたいんだ。もう一度チャンスをくれないか」友梨は固まり、眉を寄せて彼を見つめ、目をこすった。目の前の人が本当に庄司なのか、また何か罠がないのか疑った。「あなたは三年間、失恋の傷から立ち直れなかった。私が三年間どれだけ近づこうとしても動かなかった。この結婚は最初から軽率な間違いだったってことよ。離婚は、その間違いを正すだけ。今、美咲は離婚してあなたに気があるんでしょう?私の決断を支持して、本当の愛を追いかければいいじゃない。なぜ離婚を断るの?」「美咲が結婚した日から、妹としか見ないと決めたから。そして私にとって、こ
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第17話

友梨は彼を信じなかった。庄司にとって、それは大きな打撃だった。だが、彼女の信頼を自分の手で失ったのだと、自分を責めるしかなかった。この結果は何度も心の中で予想していた。受け入れられないものではなかった。深く息を吸い、むしろ声は一層確かなものとなった。「証明させてくれ。友梨、もう一度チャンスを」車は駐車場に停まり、友梨はシートベルトを外してドアを開け、うんざりした様子で答えた。「離婚証明書をくれたら、好きなように証明すれば」そう言い捨て、エレベーターホールへ向かった。話題が結局離婚に戻り、庄司は彼女の決意の固さを悟った。拳を握りしめ、腕の血管が浮き出るほど力が入ったが、心の痛みは抑えられず、ただ彼女の後を追うしかなかった。暗証番号を押すと、ドアが開いた。友梨は下を向いたまま入り、靴を脱ごうか迷っていると、下駄箱のウサギ型スリッパが目に留まった。旧居で使っていたものと全く同じスリッパ。でも確かに出て行く日にゴミ箱に捨てたはず。なぜ同じものが?疑問に思って顔を上げ、部屋の様子を見て、その場で固まった。カーテンからティーカップまで、棚から結婚写真まで、部屋の広さ以外は全て旧居を完全に再現していた。時空が歪んだような光景に、友梨はついに口を開いた。「なぜこんな風に?これらの同じ物は、どこで買ったの?」庄司も部屋を見回し、懐かしむような声で答えた。「新しい生活を一緒に始めると思っていた。でも君は去る準備をして、私一人をここに置いていく。この形にしないと、家がないように感じる。これらは、少し手間をかければ見つかるものばかりだ」過去の記憶が深すぎなければ、友梨は彼を見捨てた罪悪感を覚えたかもしれない。今はもうこの芝居に付き合う気もなく、靴も脱がずに中に入った。「いいじゃない。探しやすくて。早く資料を見つけて、早く終わらせられる」再会以来、友梨の言葉は全て庄司の心を突き刺した。彼女は本来優しく従順な性格ではなく、むしろ言葉に棘のある性格だと気付いた。本当の自分を隠していたのは、彼の世界に入るため、この結婚を維持するため。この三年間、彼女が耐えた無視と冷遇、隠してきた辛さと痛み、彼の想像の何百倍もあったはずだ。本性に逆らって彼に合わせ、心に背く結婚に耐えてきた。なのに
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第18話

十分で、友梨は情報を照らし合わせながら、全ての資料を見つけ出した。確認を終え、書類を持って出てきた時、入口で崩れ落ちている庄司を見て、目を細めた。また何を演じているの?離婚を引き延ばすために病気のふり?彼の前に立ち、警戒心を露わにした声で尋ねた。「具合でも悪いの?」それは心配ではなく、疑いの言葉だった。庄司にも分かっていた。首を振り、ドアに寄りかかって立ち上がり、無理に笑顔を作った。「大丈夫だ。行こう」ドアを開けるのを見て、友梨はようやく警戒を解き、後に続いた。区役所への道中、二人とも黙っていた。友梨は時計を見続け、時間を気にして、車を降りると彼の手を取り、急いで階段を上がった。結婚の日、反故にされることを恐れて、彼女もこんなに焦っていたと庄司は思い出した。あの時は気持ちが晴れなかったが、彼女の焦る様子に思わず笑みがこぼれ、結婚への不安も和らいだ。三年後、同じ場所に離婚のために来ることになるとは。離婚に来た夫婦たちを見て、離婚も大したことではないと突然思えた。友梨が結婚は間違いだと言うなら、終わらせよう。間違いをここで止めれば、新たに始められる。結婚に縛られず、別の立場で彼女の元に戻ればいい。今度は彼が一からその思いを証明する番だ。彼の時のように機会をくれるかは分からないが、もう迷いはなかった。十年でも一生でも彼女を追い続ける覚悟があった。結婚の誓いを守るため。生涯を共にすると決めた以上、後悔はしない。手続きは五時、退社時間に終わった。新しい離婚証明書を見て、友梨はほっとした様子で、庄司の顔さえ好ましく見えた。手首を回しながら、明るい声で言った。「お世話になりました。これで清算ね。さようなら!」そう言って歩き出したが、手首を掴まれた。「誰が清算したって?」友梨は離婚証明書を見て、彼の顔を見て、その自信に満ちた表情を疑わしげに見た。「法的に離婚が成立したのに、まだ清算じゃない?」「そうだ。法的には夫婦じゃなくなった。でも同級生という関係は変わらない」「言っておくけど、学生時代そんなに親しくなかったし、これからも付き合う理由なんてない」庄司はそれを否定しなかった。「確かに、当時は冷たかった。君がずっとついて来るからね」友梨は
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第19話

友梨の笑みが引きつった。確かにそんなことを言った。でも離婚を急がせるための言葉で、深い話をするつもりなど毛頭なかった。離婚証明書を手にした後に元夫と気まずい会話なんて、誰がするの?友達と飲んでお祝いするものでしょ!約束は守る主義だけど、この晴れがましい時に気分を害したくなかった。「確かに言ったけど、今とは言ってないでしょう?今度、時間があるときに」庄司は手を離さなかった。「前回、離婚協議書で騙されて、君が突然消えた後じゃ、信用できない。連絡先も全部変えて、今日また居なくなったら、約束はどうやって果たすの?」弁護士らしい正論に、友梨は妙に後ろめたさを感じた。その微かな表情の変化を見逃さず、庄司は優しく攻め続けた。「離婚には反対だったけど、結局は君の望み通りにした。少し引き延ばしはしたけど。君の意思を尊重して、騙された件も追及せず、ただ話がしたいだけなのに、その機会すら与えてくれないの?四年の同級生で三年の夫婦、そこまで冷たくする?」離婚証明書を手に入れた高揚感で、それまでの冷徹な態度を忘れていた。こんな謙虚な庄司は初めてで、少し心が揺らぎ、携帯を取り出した。「分かったわ。連絡先は教えるけど、この前みたいに執拗なメッセージは駄目。言葉遣いにも気を付けて。会うのは、また時間を合わせてから」庄司は彼女が考え直す前に素早く連絡先を追加し、手を離して階段を降りながら念を押した。「じゃあ君も約束して。ブロックしない、削除しない、返信もする。約束は守って」友梨は耳にタコができそうで、また苛立った声で言った。「同級生としての礼儀を守って、線を越えなければ、削除しないって約束するわ!」その言葉で、庄司はようやく安心した。助手席のドアを開け、丁寧に招く仕草をした。友梨は見なかったふりをして、タクシーを拾おうとした。背後から切ない溜息が聞こえた。「離婚したら、相乗りもダメか。冷たいなぁ」鳥肌が立って、急いでタクシーに乗り込み、運転手に急ぐよう促した。皐月の家のドアを開けると、クラッカーの音に飛び上がった。部屋中の風船と花、テーブルの上のお菓子やケーキ、独身祝の横断幕を見て、目が潤んだ。皐月は泣かれそうで、急いで抱きしめ、優しく慰めた。「おめでたい日に何泣いてるの。涙は飲み込んで!
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第20話

二日酔いで、友梨は午後まで寝込んでしまった。皐月はすでに仕事に出かけており、簡単な昼食を済ませた後、暇を持て余した彼女はバッグを手に取り、先日立てた計画を片付けようと外出した。階下の八百屋でフルーツバスケットを受け取り、そのまま法律事務所へタクシーで向かい、山本弁護士と面会した。この二ヶ月間、山本弁護士は彼女の離婚について多大な尽力を注ぎ、法に則って彼女の個人情報を守り、仲介役として数々の言葉を伝え、おそらく庄司を何度も諭してくれたからこそ、円滑な離婚が実現できたのだ。彼がしてくれたことの多くは弁護士の職務を超えており、友梨は随分と迷惑をかけてしまったと申し訳なく思い、直接お礼を言いに来たのだった。二人が離婚届を提出したことを知り、山本弁護士の表情には残念そうな色が浮かんだ。「義妹さん、なぜ私に黙っていたのですか」山本弁護士に対して、友梨は本当に申し訳なく思いながら謝罪し、同時に彼の言い間違いを訂正した。「私たちはもう離婚しましたので、義妹さんというのは適切ではないと思います。山本弁護士、もしよろしければ、友梨と呼んでください」「実は黙っているつもりはなかったんです。ただ、ご存知の通り、私たちは入籍を公表していなかったので、先生を困らせたくなくて、お伝えしなかったんです」入籍の非公表について触れると、山本弁護士も彼女の気持ちを理解し、それ以上この件を追及しなかった。「そうですね。全て庄司が悪い。彼が私たちに黙っていたのが良くなかった。古い同級生同士だと聞いていますが、こんなに慌ただしく離婚してしまって、心の整理もついていないのではないですか?今後は本当に付き合いをなくすつもりですか」この質問は友梨の心の琴線に触れた。昨日までは、庄司との付き合いを絶つつもりでいた。しかし昨日の彼の様子を見ると、完全に縁を切るのは難しいと感じた。同級生という関係は置いておいても、離婚後どのように両親に説明するかということだけでも頭が痛い。彼女の両親の性格を考えると、おそらく庄司のところまで押しかけて一悶着起こさないと気が済まないだろう。その時にはやはり事前に彼に説明しておく必要がある。どうやら二度と関わらないというのは、全てが片付いた後でないと実現できそうにない。そう理解すると、友梨はため息をつきたくなったが、それ
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