「奥様、本当に7日後に海外に定住するための航空券をキャンセルしていいんですか?」電話越しに秘書の困惑した声が聞こえた。春日はバルコニーに立ち、下に広がる枯れた木々を一瞥しながら、決心を固めた。「ええ、私にその日の実家行きの航空券を手配して、それと雪葉にその日の海外行きの航空券を予約してちょうだい」「7日後、私が彼らを空港まで見送るわ。それから実家に帰るの」電話の向こうで秘書は少し驚いた様子だった。雪葉は奥様の結婚生活における第三者。奥様はいったい何を考えているのだろう?不思議に思いながらも、秘書は了承した。「かしこまりました、奥様」春日は電話を切った。リビングに戻ると、湊が立ち上がり、不機嫌そうに言った。「考えはまとまったか?彼女が俺の返事を待ってるんだ」10分前、春日が夕食を作り終えた頃、湊は帰宅するなりこう切り出した。「もう隠したくないんだ。実は雪葉は隣の団地に住んでいる」「彼女は九年間も俺に寄り添ってくれた。彼女には恩があるたから、今回の海外定住では彼女を連れて行くつもりだ」春日は料理をテーブルに置きながら、その笑顔を一瞬で凍りつかせた。実は、湊が雪葉を連れて海外に行きたいと提案したのはこれが初めてではない。最初に彼がその話を持ち出したとき、春日はリビングをめちゃくちゃに壊しながら、彼を激しく罵った。二度目には、春日は彼に平手打ちをし、家を飛び出して7日間戻らなかった。その7日間、湊からは一本の電話もなかった。今回は、春日は彼らを成就させることに決めた。「秘書に頼んで彼女の航空券を予約させたわ。一緒に行って」「やっと分かってくれたのか」湊の険しい顔が和らぎ、薄い唇がゆっくりとほころんだ。春日は視線を落とし、箸で一粒のご飯をつまむ。胸に苦味が広がる。「彼女を国内に一人で残すのが心配だと言ったでしょ」「彼女は人に騙されやすい性格だから」言い出すと止まらないのか、湊は雪葉の話題になると満足げな笑みを浮かべた。「雪葉はお前よりもずっと良い妻になれたはずだ」「でもお前の方が運が良かった。俺と出会ったのが彼女より数年早かったからな。海外に行ったら、彼女から男の扱い方を学ぶといい」その言葉を最後に、湊のスマホが震え、彼はバルコニーへと電話を取りに行った。
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