All Chapters of 私が死んだら、冷徹夫が狂いだした件: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

第11話

一年後。神崎グループが新たに立ち上げたエンターテインメント会社は、設立から非常に多忙を極めていた。時には食事を取る時間もないほどだった。そんな俺の生活を気にかけた母が、家に来て世話を焼いてくれるようになった。だが、本当の理由は分かっている――母は自分の友人の娘との縁談を進めたいのだ。家に帰ると、母がスープを手にしてダイニングテーブルに置くところだった。その視線を感じ、俺は食事を始める前に声をかけた。「母さん、何か話があるんだろう?」母は微笑みながら、スマートフォンを取り出してアルバムを開き、俺に見せてきた。「この子ね、岸谷さんの娘さんよ。今年留学から帰ってきたの。すごく綺麗な子で、性格もいいのよ。お母さんも直接会ったけど、いい子だったわ」俺は母の手をそっと握り、低い声で言った。「母さん、もうこういうお見合いの話はしないでくれ。俺はもう結婚しない」桜は俺が誰かと再婚することを望んではいないだろう――けれど、それでも俺は彼女を守り続けたい。母はしばらく無言だったが、深くため息をつくと頷いた。俺は運転手に彼女を家まで送るよう指示し、一人残された広い屋敷に戻る。ソファに仰向けになり、リビングのシャンデリアをぼんやりと見上げた。そのシャンデリアは桜が選んだものだった。――彼女が目を輝かせてこれを選んでいた姿を、今でも鮮明に思い出す。俺は安眠薬を2錠飲み込んだ。この一年間、ろくに眠れない日々が続いている。――まだ一度も夢で桜に会えていない。ただ話したい。彼女を抱きしめたい。「ごめん」と伝えたい。俺は桜の部屋に足を踏み入れ、そのベッドに身を投げ出した。夜の訪れ。町全体が夜の闇に包まれる中、俺は微睡みに落ちた。「幸也」顔に触れる柔らかい感触で目を覚ますと、そこには桜がいた。俺は一瞬呆然とした後、彼女を強く抱きしめた。彼女の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、涙を流す。「桜......会いたかった」彼女の肌は温かく、俺は抱きしめた手を離せなかった。「まるで子どもみたい」桜は優しく俺の髪を撫でた。目を閉じたまま、俺は彼女に口づけた。首筋から顎、顔、そして瞳に。「くすぐったい......」桜が身をよじるようにして俺を避けた瞬間、俺は目を開けた。
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第12話

食事が運ばれてくると、店員が笑顔で勧めてきた。「お二人にお店からサービスでマンゴーアイスをお出しできます。食後にいかがですか?」桜井は礼儀正しく首を振った。「遠慮させていただきます」「美味しいよ」「マンゴーにアレルギーがあるので......」その言葉を聞いて、俺の手が一瞬止まった。――桜もマンゴーアレルギーだった。付き合い始めた頃、彼女をマンゴーアイスに連れて行ったことがある。桜は楽しそうに2杯食べたが、あとで全身に赤い発疹が出ていた。彼女はその時、一言も文句を言わなかった――ただ俺に水を差したくなかったのだろう。俺は目を閉じ、胸を締め付ける痛みに耐えた。神崎グループは、新たに買い取ったミステリー系ホラー作品の映画化を進めていた。キャスティングディレクターは主役の候補として川崎司(かわさき つかさ)を推し、ヒロインには別の事務所に所属する女優を提案してきた。しかし、俺はシナリオを読み終えると、ヒロイン役には桜井が適していると判断した。その知らせを受けた桜井は、喜びを隠せず俺の前で飛び跳ね、思わず抱きついてきた。俺をぐるぐる回すその様子に、目の前にいるのが若い頃の桜に思えてしまい、俺は一瞬言葉を失った。桜の命日に寄せて。数日後は桜の命日だった。俺は決めていた――これから毎年、桜を連れてどこかへ旅をする、と。彼女がいないこの世を生きる限り、その約束を守り続けよう。そして、いつか俺も彼女に会いに行ける日が来るまで。最近、俺は彼女との過去の記憶を何度も夢に見るようになっていた。その夢は甘く、美しく、しかし目覚めるたびに俺の心を切り刻む。時には、夢と現実の区別がつかなくなるほどだ。夢の中では桜と俺に子どもがいて、家族の時間を楽しんでいた。目が覚めた後も、しばらくその延長線上で生活しているかのように振る舞ってしまうことがある。だが、現実の静まり返った部屋や、使用人が驚いた顔をするたびに、自分がいかに滑稽かを思い知らされる。桜はもういない――その事実を誰よりも知っているのは俺だ。それでも、どうしても受け入れられない自分がいる。映画の撮影が終わる頃、SNSに衝撃的なニュースが駆け巡った。「神崎エンターテインメント所属の新進女優、桜井愛と演技派俳優の川崎司が交際
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