あの日、通りがかりの人に助けられてから退院するまでの約1カ月、彼女からは一切連絡がなかった。 俺に届いた唯一のメッセージは、事件が起きた当日のものだった。 「たかが電話に出なかったくらいで、家出なんて子供じみた真似しないでよね?さっさと帰ってこないなら、もう二度と戻らなくていいから!」 その後、俺の番号はブラックリストに入れられていた。 昼も夜も、体の痛みは引かず、彼女への想いが胸を締めつけた。 それでも俺は、毎日彼女のSNSを確認し続け、自らの心を痛め続けた。 そこに映っていたのは、彼女の秘書の朝比奈恭一(あさひな きょういち)と娘が一緒に遊園地へ行く写真ばかりだった。まるでその三人こそが本当の家族のように。 結婚して7年になるが、俺は一度も彼女の投稿に登場したことがなかった。 彼女が「そういうのが好きじゃない」と思っていたが、別の男との写真なら喜んで載せるらしい。 つまり、俺が嫌だっただけなんだ。 過去の小さな疑念が、鋭い矢となって心臓を射抜いていく。 胸の刀傷は蛇のようにうねり、腹部にまで達していた。 首の傷跡は目立つ縫合痕となり、見るだけで醜かった。 今でも、唾を飲み込むだけで痛みが走る。 身体の痛みに加え、愛する人の裏切り。ダブルパンチだった。 俺は生きる気力を完全に失い、何度も死にたいと思った。 俺が集中治療室で何度も死線をさまよっている間、彼女は家で娘と「新しい父親」を迎え入れていたらしい。 心が深い絶望に沈む中で、自分の存在が滑稽で、哀れに思えた。 退院後、醜い首の傷跡を隠すため、真夏だというのに分厚いマフラーを巻いていた。 それから1カ月、ついに俺は自宅の玄関に立った。 指紋認証を押しても、警告音が鳴るばかりで、鍵は開かない。 負傷した指紋が原因だと思い、何度も試したが、ついに警報が鳴り始めた。 やがて、霧島美智瑠(きりしま みちる)が車で急いで戻ってきた。 彼女の視線が、無力感に満ちた俺に触れた瞬間、その表情は心配から嫌悪へと変わった。 冷たい態度で鍵を開けると、嘲笑を浮かべながら言った。 「ずいぶん早かったわね。陽真(はるま)、まだ家の場所、覚えてたんだね」 胸が痛んだ。首の傷跡が疼くのを感じた。 一人で耐えてきた苦しみが、一気にこみ
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