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愛されなかった娘의 모든 챕터: 챕터 1 - 챕터 10

15 챕터

第1話

ベッドの上には頬が腫れ、髪が乱れ、すでに息絶えた私の肉体が横たわっている。私はふわりと近づき、その丸い顔立ちと、ほどよいスタイルに目をやった。こんなに長い間、自分をちゃんと見つめたことはなかった。死んでしまった今、見慣れているはずの自分の体が、なんだか見知らぬものに思える。それを不思議な気分で眺めていた。大家の村上さんは五十代の中年男性で、これまでは私に親切で、こんな恐ろしい表情を見せたことなど一度もなかった。しかし今、その顔は恐慌と悔恨に歪んでいる。私は至って冷静だった。ただ見つめているだけ。彼が取り乱し、後悔の念に沈もうと、何の意味がある?だって私はもう死んでしまったのだ。「莉子ちゃん、いるの?」ドアの外から女性の声が聞こえた。私の死体を前に硬直していた村上さんは、その声でハッと我に返り、死体を見て尻餅をついた。外で必死に声をかける女の人、彼女は上島 唯(うえしま ゆい)だ。唯さんは私より八つ年上のバーテンダーで、いつも私を気遣ってくれる姉御肌の女性。今、彼女は右手にケーキを、左手でドアをガンガン叩いている。顔には焦りがにじんでいた。「莉子ちゃん、早く開けてよ!」返事がないことに焦れた唯さんは、ドアマットをめくって合鍵を取り出し、鍵を開けようとしている。「ダメ、開けちゃダメ!あいつがまだ中にいる!」私は必死に唯さんに呼びかけ、腕を掴もうとする。だが私の手は、彼女の腕をすり抜けてしまった。ぼんやりと自分の手を見る。もう触れられない事実を悟った。唯さんが合鍵でドアを開け、中へ入る。その瞬間、悲鳴が響いた。「莉子ちゃん!」慌てて私も中に戻ると、村上さんの姿はなく、カーテンが揺れる窓だけが残っていた。どうやら逃げたらしい。私の部屋はとても狭く、ドアを開けたらすぐにベッドが見えるほどだ。唯さんは床にへたり込み、震える指で携帯を取り出し、「9110」に電話した。唯さんは現場を荒らさぬよう、私の死体に触れず、ただうずくまって泣きじゃくっている。その姿を見て、胸がチクリと痛んだ。ごめんね、唯さん。最後なのにまた泣かせてしまった。警察はすぐに駆けつけた。十分ちょっとで七、八人ほどがやってきた。私は唯さんのそばにしゃがみ込み、何もできぬまま見守った。「これからはも
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第2話

「あなたは被害者とどういう関係ですか?」「友達です」「では、彼女のご両親の連絡先はわかりますか?」「いいえ、彼女は何も教えてくれなかったので......」唯さんは首を振り、声を震わせながら言った。そう、私は何も話さなかった。私は立ち上がり、部屋の隅に飾ってある家族写真に目をやる。そこには四人が写っている。三人は肩を組んで笑っているのに、私は無理やり貼り付けたような不自然な笑顔。明らかに余所者のようだった。実際そうだった。あの家では私は嫌われ者でしかなかった。鼻で笑い、また唯さんのそばに戻る。警官たちは私の遺体を運び出し始めた。自分の体が目の前を通り過ぎる光景なんて、妙な気分だ。唯さんは私の遺体を目にして、再び顔を覆って号泣した。現場を調べ終えた警官が、唯さんに事情を聞くため署へ連れていく。私もついて行った。女性警察官が私の携帯から両親へ連絡する。「もしもし、八角 莉子(はっかく れいこ)さんのご両親でしょうか?」出たのは八角 信昭(はっかく のぶあき)、私の父だ。彼は何かくぐもった声だった。ガヤガヤとした音が背景に混ざっている。どうやら麻雀でもしているのだろう。女性警官は少し苛立ちを含め、語気を強めた。「こちら静岡県警察署です。八角莉子さんが今日20時半頃、殺害されました。身元確認のため、来ていただけますか?」父の方は「わかった」とも「了解した」とも言わず、よくわからない曖昧な相槌の後、「ロン!金払え!」という歓喜の声とともに、電話を早々と切った。女性警官は呆れ顔で携帯を見下ろした。「なんて人たちなの......」期待はしていなかったが、やはり胸がちくりと痛む。唯さんが取調べ室から出てきたところで、女性警官が状況を説明すると、唯さんの目には怒りの炎が宿った。「唯さん、そんなに怒らないで。私はもう慣れてるから。怒ると老けちゃうよ?」私はいつもみたいに変な顔して笑わせようとして、ハッと気づく。もう変顔すら見せられないんだ。ため息混じりに空を仰ぐ。「はぁ......一体いつ生まれ変われるのかな......」「すみません…もう一度、莉子ちゃんを見てもいいですか?」唯さんが女性警官に頼む。電話越しの対応で察したのか、警官は同情気味に頷いた。
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第3話

あの光景を見た瞬間、私は心が完全に凍りついた。信昭はまるでゴミでも放り出すように、私を家の門の外へ引きずり出して手を離した。髪を無理やり掴まれていた頭皮が解放され、まとわりついていた髪がはらはらと彼の手から落ちていく。その髪を見た途端、目頭が再び熱くなった。私が泣いているのを見て、信昭は苛立ちを隠さずに言い放つ。「なんだ、泣くんじゃねえ疫病神が!俺のツキが全部お前の泣き声で飛んじまうだろ!」さらに腹を立てたのか、私の腹に二発、強烈な蹴りを入れた。「俺は飯も食わせてやってんだぞ、これ以上お前に尽くせってのか?二度とこの家に戻ってくるんじゃねえ、このクソガキ!」突然の蹴りで息が詰まり、私は反射的に体を丸め込んだ。耳鳴りが止まず、彼の口がパクパク動いてるのは見えたが、何を言ってるかはもう聞き取れない。「おい、このクソ娘、まだ俺を睨むのか?反抗する気か?いいぜ、今日ここで叩き殺してやるよ!てめえがどんだけ強情なのか見せてもらおうじゃねえか!」拳を振り上げる信昭を、私は無気力に見上げるしかなかった。立ち上がるどころか避ける力もない。ぎゅっと目を閉じ、拳が落ちるのを待つ。――しかし、拳は振り下ろされなかった。隣家の一彦(かずひこ)が現れたのだ。信昭は世間体を何より気にする。人に見られるのが嫌で、悔しそうに私を睨みつけると、低く唸った。「失せろ!」私はかすかな安堵から、早鐘を打つ心臓を押さえ、痛む体を引きずってあの路地から逃げた。「ノブさん、なにやってるんだ!子どもをそんなに殴って......」「カズさん、知らねえだろ?このクソガキは兄貴の食い物を盗むわ、金まで盗むわでどうしようもねえんだ。今のうちに叩き直さねえと先が思いやられる」「でも、莉子ちゃんは普段おとなしいじゃないか......」私が路地を離れかけたときに耳に残った言葉は、父が私を貶める嘘の言葉だった。涙がまた滲む。私が太っているのは、母、美穂が息子陽翔用の成長ホルモンを捨てるのを惜しみ、無理やり私に飲ませたからだった。そのせいで太っただけなのに、彼らは私が貪り食う泥棒扱いをしている。あの夜、痛みに堪えながら公園のベンチで夜を明かした。秋風が冷たく身を刺した。金もないので、ゴミ箱から拾った新聞紙を敷き、もう一枚を上にかけた。大して暖
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第4話

そんな記憶を思い出したせいで、警察署の長椅子を見るなり、私はそこに横になりたくなった。幽霊になった今、固いはずのベンチが不思議とふわふわに感じる。どれくらい経っただろう。八角夫妻が警察署に現れた。私はもう五年も家に戻ってない。記憶の中の彼らはもっと若かったが、今は皺が増え、背も少し曲がっているようだった。信昭が先頭に立ち、美穂がその後ろに立っていた。美穂はおどおどと彼に付き従う。「警察の方、俺たち、八角 莉子の親です......」家で威張り散らしていた信昭が、警察の前では愛想笑いを浮かべ、衣服の端をもじもじさせている。女性警官は無表情な夫婦を観察する。電話での冷淡な対応とは違って、見かけはおとなしそうだ…。「八角莉子さんは機械的な窒息、つまり首を絞められて死亡しました。ご遺体は今、遺体安置所にあります。確認しますか?」二人は顔を見合わせてから、美穂が怪訝そうに尋ねる。「すみません、その......『窒息』って何ですか?」「首を絞められたということですよ」彼らの顔には悲しみの色はまるでない。依然として無関心のようだ。死んだ我が子を見ようともしない。偽りの悲しみすらも装わない。結局、八角夫妻は私の最期の姿すら見に来なかった。法医学者が必要なサンプルを採取した後、彼らはすぐに私を火葬場へ運んだ。骨壺代すら出し惜しむ始末。上島唯はそれら全てを見ていた。彼女は全行程に付き添い、その光景に眉をひそめる。私が彼らを話題にしなかった理由が、これで分かったことだろう。火葬場で骨壺代を巡って大喧嘩を始める信昭。「なんだ、こんな少しの灰なのにこんな高い金取るのかよ!死んだ奴で儲けるなんてお前ら鬼か?」私の心はもう、痛みに麻痺している。それでも、彼らが骨壺代さえ惜しむとは想像できなかった。まさかビニール袋で済ませようとするなんて......「もういい、私が払います」唯さんは紫檀の骨壺を買い、私の灰を納め、冷ややかな視線で二人を見やった。結局、火葬代も骨壺代も唯さんが出してくれた。彼らは厚顔無恥にそれらを受け取った。「なんだよ、助かるなあ」信昭はヘラヘラするが、唯さんは取り合わず、私の骨壺を抱いて立ち去った。
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第5話

「莉子ちゃん、こんな家族、よく今まで耐えたね」「何でこんな大事なこと、教えてくれなかったのよ......」唯さんの嘆きに、私は胸が温かくなる。こんなこと言えるわけないよ、唯さん。私の人生は苦しみだらけだったけど、あなたが現れてくれたから少しは変わったの。私が唯さんと出会ったのは、私が橋の下で暮らしていた頃。その時、唯さんは川辺で風に吹かれていた。金もなく、身を寄せる家もない私が橋脚下に潜んでいると、唯さんは驚きながらも勇気を出して近づいてきた。彼女は懐中電灯で私の全身を照らし、驚愕のまなざしを向ける。「どうしてこんなところにいるの?」私は恥ずかしくて黙りこんだ。私より背が高い唯さんは、私を彼女の借家へ連れ帰った。風呂に入れてくれ、清潔な服を着せてくれ、温かいごはんを食べさせてくれた。そんなことは、私の流浪の日々では夢のまた夢だった。しかし唯さんは当たり前のように私を受け入れ、優しく声をかけ、寝かしつけてくれた。家族から得られない温もりを、彼女は惜しみなく与えてくれた。「あなたは私の妹みたい」と唯さんは笑った。その言葉がどれほど嬉しかったか。1800日以上もの長い日々を、唯さんはずっと私のそばにいてくれた。「待てよ、莉子はうちの娘だろ?お前、彼女をどこへ連れて行くつもりだ!」私が過去に思いを馳せていると、信昭が記憶を断ち切るように叫んだ。気づけば、信昭が唯さんの前に立ち塞がっていた。唯さんは怒りで声を震わせる。「莉子ちゃんは外で何年も働いていたわ。あなたたち、骨壺ひとつ買うことも惜しんだくせに、なにを今さら偉そうに!」強気でならしてきた信昭は、生まれて初めて他人からこんなに恥をかかされ、顔色を変えた。彼は陰険な笑みを浮かべ、低い声で脅すように言った。「お嬢ちゃん、あんまり首を突っ込むなよ。俺たち農家は手加減なんて知らねえからな。もしケガでもしたら大変だろ?」私は思わず両手を広げ、唯さんの前で仁王立ちする。「信昭、唯さんを傷つけるなんてことは許さない!」もちろん、声は届かない。だが私は必死だった。二人は睨み合い、唯さんは一歩も退かなかった。信昭も都会で人を殴れば捕まると分かっているので、実力行使には出られなかった。そこへ美穂が合流した。美穂は信昭が窮地
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第6話

唯さんの言葉ははっきりしていて、周りの人々も納得したようにどよめいた。「そうだそうだ!そんなのが親かよ!」「最低だな、恥知らず!」怒りと軽蔑の声が上がる。私は何もできず、ただ唯さんの背中を見つめた。いつも私を守ってくれ、涙をこぼしながらも踏ん張る彼女。その姿が私の胸を締めつける。面と向かって非難され、信昭は言葉に詰まった。「莉子は死んでも生きてても、八角家の娘だ。部外者が口を挟むな!」と強がるが、もう遅い。唯さんははっきりと答える。「私にとって莉子ちゃんは妹も同然、大切な家族なの」その言葉が人々の耳に届き、私は胸が熱くなり涙がこみ上げそうだった。唯さんは踵を返して去っていく。私はその場に留まり、信昭が悔しげに顔を歪めているのを見つめた。人々から非難された信昭は、その怒りを美穂にぶつけた。「てめえのせいで俺が恥かいたじゃねえか、この役立たずが!お前を見ると気分が悪い!」そう言って、彼は美穂を殴り、蹴り始めた。美穂は「痛い、痛い」と泣き叫ぶ。目の前の光景は、あの夜と重なった。加害者は同じだが、被害者が私から彼女に変わっただけ。私は冷淡にその様子を見守った。因果応報とはこのことだろう。周囲の人が止めに入り、家暴劇は中断された。乱れた髪と涙でぐしゃぐしゃの美穂が路人に支えられて立ち上がる姿を見て、私は嘲笑したくなった。「警察呼びますか?」通行人が尋ねると、美穂は首を振る。「だ、だめよ......あの人は私の夫なの......」夫?この畜生を夫と呼ぶなんて、私は笑いが止まらない。あんな男は奴隷のように一生苦しめばいい。子どもの頃から疑問だった。なぜ私を産んだ?嫌いなら生まないでよ。物心つく頃から地獄だった。罵声、暴力、数えきれない傷跡、兄の無関心な態度、普通に食べることすら許されない環境。これが私の日常だった。理由などわからない。だから私は八角夫妻と一緒に「家」へ戻ることにした。幽霊として、すべてを見届けようと思った。
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第7話

懐かしい路地。飄々と敷地内に入ると、5年前に出ていった時と何も変わっていなかった。つまり、この家は貧しく、何の進展もないということ。美穂は当たり前のように台所へ行き、料理を始める。私が死んだところで彼らの生活は微塵も変わらない。私がいた痕跡など最初からなかったかのようだ。狭い庭、安っぽい道具類。昔、私が寝ていたのは柴置き場のような物置。そこへ行ってみるが、もう何もなかった。ああ、そうだ。期待するだけ無駄だと苦笑する。私は陽翔の部屋へ行った。かつての私が踏み入ることを許されなかった神聖な領域だ。そこには明るい照明、清潔な壁、パソコンやフィギュア、専用のバスルームまである。胸が苦しくなる。いいものは全て陽翔に、次に父の信昭、最後に母の美穂、私には何もなかった。社会に出て気づいた。女の子だって自由に好きな物を持てるし、両親は子を平等に愛することもできる。ただ私の運が悪かっただけなんだ。その時、聞き慣れた声がした。「莉子、本当に死んだの?」「うん」「じゃあ、俺の婚約者との結婚料金はどうすればいい?」これは陽翔と信昭の会話だった。信昭が答えた。「はるちゃん、心配するな。必ずお前が嫁をもらえるようにしてやる」私は食卓付近まで漂い、三人の姿を見つめた。怒りが沸騰する。もし私が死んでいなかったら、今度は私を売って陽翔の結婚料金に充てる気だったのか?彼らにとって私は商品に過ぎないのか。母よ、父よ、忘れたの?私はあなたたちの娘なのに。十月十日、お腹で育てたはずの子なのに。魂が震え、笑いが止まらない。なんてひどい笑い話だろう。昔は大きくなって見返してやろうと思った。だが彼らは私の生死にすら興味がなく、ただ兄を優先するだけだった。私が苦労し、わずかな賃金で家賃を工面しながら生き延びたところで、奴らには関係ない。女だから給料が安くても必死に働いた。彼らを見返してやろうと必死だったのに。結局、私なんてただの道具でしかなかったんだ。生まれた時から結末は決まっていた。私の不幸は逃れられない運命だったのかもしれない。
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第8話

感情が高ぶりすぎているせいか、辺りに不気味な風が吹きはじめた。「ん?父さん母さん、窓ちゃんと閉めてるのに風が入ってくるよ?」陽翔が不審そうに言うと、信昭は美穂に目配せする。美穂は箸を置いて窓を確かめに行った。「全部閉まってるわよ!」そう言い終わるや否や、また冷たい風が一陣吹き、美穂は震え上がる。そして不安げに信昭を見て、唇を震わせた。「ね、ねえ......もしかして莉子が戻ってきたんじゃ......」その一言で居間は静まり返った。真っ先に反応したのは信昭だった。彼は茶碗を勢いよく床に叩きつけ、椅子を軋ませながら立ち上がると、美穂の髪をわしづかみにした。「てめえ、このクソ女!余計なこと言いやがって!」「何であのガキの話なんかするんだ!死にてえのか!」美穂は悲鳴を上げるが、陽翔は無表情でしばらく見てから、自分の部屋へ戻りヘッドホンを装着した。完全なる無関心だ。美穂よ、それがお前が溺愛した息子の本性だ。こんな連中に未練なんて1ミリもない。私はその場を離れ、唯さんのもとへ向かった。その頃、唯さんはベッドでぼんやりと私の骨壺を抱えていた。「ねえ、そんなに落ち込まないで。笑ってよ。お金は枕の下に隠してあるから、それ取って。あいつらに持ってかれたくないし!」私は必死で呼びかけるが、もちろん聞こえない。突然、唯さんは号泣しはじめ、私はどうしていいか分からず右往左往する。「泣かないで、唯さん!私はもう死んじゃったけど、あなたは生きていかないと!ほら、唯さんがいなかったら私はあの秋を生き延びられなかったかもしれないんだよ。あなたがいてくれたから私は救われたんだよ!」私の目頭も熱くなるが、もう涙は出ない。ただ見守ることしかできなかった。唯さんは泣き疲れたのか、いつしか眠りについていた。私はなんとか冷気を操り、彼女に寒さを感じさせ、布団に潜り込ませることに成功した。骨壺を胸に抱いたまま眠る唯さんを眺めながら、しみじみと思う。彼女は私を守ってくれた。優しくて、まるで姉のような人だ。あの頃、私は仕事に不慣れで、遠い職場までは歩いて通い、水ぶくれだらけだった。唯さんはそれに気づいて自転車で送り迎えしてくれた。私がこれまで受けた温もりは、彼女がくれたものばかりだ。
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第9話

翌日、警察から唯さんに連絡が入った。どうやら犯人がわかったらしい。あの村上丈士(みらかみ たけし)が私を殺した張本人だった。防犯カメラなど決定的な証拠があるらしく、捜査は簡単だったようだ。「村上さんが犯人?」唯さんは驚きを隠せない様だった。普段の村上さんは人当たりが良く、そんな凶行に及ぶとは想像できなかっただろう。警察の説明を聞き、唯さんは骨壺を抱きしめて呟く。「莉子ちゃん……私があなたをここに住まわせなければ、あなたは死なずに済んだのかもしれない……」「違うよ、唯さん。あなたのせいじゃない!」私は必死で否定しようとするが、声は届かない。唯さんの罪悪感に私の心は締めつけられる。そこへ再び電話が鳴る。「もしもし、上島さんですか? 被害者の両親が、遺骨を返してほしいと要求しています。お手数ですが警察署まで来ていただけますか?」私は冷笑した。またあの連中か。今さら私の骨をどうしたいんだ?骨壺すら渋った奴らが。唯さんは涙を拭いて、タクシーで警察署へ向かう。私も彼女についていく。警察署のオフィスには、八角夫妻がすでに座っており、唯さんを見るなりヘラヘラと媚びた顔を浮かべる。「上島さんだっけ?莉子を返してくれないかねえ」美穂が目を潤ませて芝居がかった声を出す。「今更誰に見せるつもり?観客はいないわよ」唯さんは冷ややかに答える。「あなたたちは莉子ちゃんが死んでも、全然悲しんでないじゃない。5年間も探しもしなかったくせに」その時、会議室のドアが再び開き、手錠をかけられた村上丈士が入ってきた。村上は唯さんを見ると怯えたような表情になり、八角夫妻を見るなり、いきなり土下座した。「申し訳ない、申し訳ない!お金を払うから、許してくれ!頼むから嘆願書を書いてくれ!」殺人犯がいきなり土下座だと?夫妻は面食らい、一瞬手を伸ばしかける。その滑稽な動きに私の心は微動だにしなかった。「何で手を貸すのよ!あんたたちの娘を殺した犯人よ!」唯さんが怒鳴る。その場にいる全員が真相を知っている中、八角夫妻だけはまるで無関心。いや、関心はある。金に対してだけ。夫妻はちらりと目を合わせると、村上はさらに声を張り上げた。「1000万円出します!」信昭は動揺を隠せない額だった。「20
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第10話

信昭は歯を食いしばり、周囲をぐるりと見回してから「いいだろう!」と叫んだ。その一言で、示談金を受け取って加害者を許すことが、ほぼ確定したも同然だった。唯さんは、周囲が息を呑む間もなく、信昭の前に躍り出た。「あなたに、莉子ちゃんが許すかどうか決める資格なんてない!」「この畜生が!莉子ちゃんはあんなに苦しんで死んだのに、あんたは金さえ手に入ればそれでいいの?」「人間じゃないわね、あんた!」そう言うなり、唯さんは信昭の頬を3、4発続けて平手打ちした。あまりの突然さに、その場の全員が固まり、信昭が我に返る頃には唯さんは警察官に引き離されていた。「このクソガキ、俺様を殴るなんて……」「生意気だ、殺されてえのか!」信昭は激昂し、今にも唯さんに飛びかかろうとしたが、警察官が大声で止めに入った。「やめろ!これ以上騒ぐなら、全員留置場に入れるぞ!」その一言で場が静まった。唯さんは憎悪に満ちた目で信昭を睨み、信昭も悔しそうに歯ぎしりしながら睨み返す。警察官は「落ち着いて」と双方をなだめ、唯さんは別室に連れて行かれた。私は唯さんにはついて行かず、八角夫妻を睨み据えた。彼らは私が死んだというのに、示談金の話で笑みすら浮かべている。「ねえ、こんだけ金があれば、はるちゃんは楽に嫁さん迎えられるね」美穂がそこそこ聞こえる声で言うと、周囲の警察官たちは一瞬で顔を曇らせた。こんな親がいるのか、といわんばかりの怒りと悲しみが混じった視線を向ける。その視線に気づいた信昭は、はっとして振り向くと、美穂の頬を思い切り打った。「てめえ、バカなこと言うんじゃねえ!」美穂の口元に血が滲むが、彼女は怯えた笑顔で「ご、ごめんなさい……警察の方が見てるからやめて……」と縮こまる。信昭も慌てて警察にペコペコする。「へ、へへ、すみませんねえ、警察さんよ」あまりの異常さに、警察官たちは言葉を失っている。心中ではこの夫婦を逮捕したい気持ちでいっぱいだろう。信昭は美穂に警告するような視線を送り、美穂は小さく身を縮めたまま椅子で小さくなっている。私はこの茶番を冷ややかに見つめるのみ。こうして彼らを見ていても、もう何も感じなかった。この期に及んでまだ金のことしか頭にない親……私の中で、彼らに愛されたいという小さな望
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