All Chapters of 命の借り錠: Chapter 1 - Chapter 10

寮に戻り、私は机に座って鏡を開いた。鏡には血の気のない顔が映っていた。頬はこけ、目は異様に飛び出し、眉間には黒い気が漂っていて、誰が見ても死相が出ている。私は特別美人というわけではないが、目鼻立ちは整っていて、会う人みんなが透き通るような白い肌で、指でつまめば水が出そうなほど瑞々しいと褒めてくれていた。今日のようなくすんだ荒れた肌とは正反対だった。仁藤さんの話では、運気を借りられると全ての福運が相手に渡ってしまうという。借りられてしまえば、自分には何も残らない。だから私はこんな悲惨な結末を迎えることになったのだ。帰る前に、彼はお守りを一つくれた。寮の部屋を見回すと、私以外の三つのベッドはカーテンが閉められていた。親友の松尾遥だけが私が戻ってきた時に気遣ってくれた。他の子たちはベッドに隠れて声も出さない。私の長命のお守りはずっと身につけていて、お風呂の時だけ一時的に外してベッドの頭か机の上に置いていた。お守りに触れることができたのは、同室の人たちだけのはずだ。仁藤さんによると、運気を借りられた状況を解決するには、まず運気を借りた人を見つけなければいけないという。そうしないと時間が経つにつれて、体調と運勢が衰え、病死する前に悪霊に取り憑かれて死んでしまうかもしれない！ドラマを見ている松尾遥の方を見た。彼女は幼い頃からの友達だ。中学生の頃、父が仕事で最も忙しかった時期。両親が家にいない時は、松尾家が私を引き取ってくれた。私は松尾の両親を義理の両親として慕い、実の両親が亡くなった時も、葬儀の手配を手伝ってくれた。そして何より、松尾家はずっと普通の暮らしで、特に変わったことはなかった。私の視線が奥の二つのベッドに移ると、ちょうど河野暖が上段ベッドから降りてきた。彼女は心配そうな表情で言った。「梨子ちゃん、まだご飯食べてないでしょう？私、余分に持ってきたから温めようか？」河野は確かに奨学金を受けている学生だけど、性格はとても優しく穏やかだ。先月のセールの時に買い過ぎた化粧品を彼女にあげたら、自発的にノートを見せてくれたり、食堂からご飯を持ってきてくれたりした。話し声を聞いて、四番目のベッドのカーテンが突然開いた。「夜遅くにうるさいわね。あなたたちが寝なくても、他の人は寝たいのよ！」四番ベッドの木

木下令花は目を転がした。「学級委員が宿題の提出を催促してきて、早く先生に送ってあげないと、グループ全員の単位が下がるって。そうじゃなかったら、あなたのパソコンを開けたりしないわよ」私たちの寮は一つのグループになっていて、よく先生に宿題を送るのを手伝い合っていた。その時は特に変だとは思わなかった。でも、しばらくして気が付いたとき、私は突然自分のパソコンにLINEもログインしていることを思い出した。松尾のアカウントをピン留めしていたから、木下は一目見ただけで、私たちのチャット履歴を見つけられてしまう！案の定、私がベッドから降りて止める間もなく、木下の表情が一変するのが見えた。彼女は横目で私を見た。「やっぱりね。あなたと親友は、ずっと陰で私の悪口を言ってたのね！」私は自分が悪いと分かっていたので、思い切って彼女に尋ねることにした。「運気を借りた人は必ずこの寮にいるはず。私とあなたは仲が悪かったから、あなたを疑うのも当然でしょう。もし私が誤解していたなら謝りますけど、あなたじゃないってどうやって証明するの？」「私、木下令花は、やったことはちゃんと認める！確かに前にあなたに良くないことをしたけど、今のあなたの状態で、私があなたに手を出す必要なんてあるの？」「それに、うちの運も一朝一夕に良くなったわけじゃないわ。父と兄は今年、どれだけ営業回りをしたと思う？胃が出血するまで付き合い酒を飲んで、やっと入札が取れたのよ。どうしてあなたの家の運を借りたなんて言われなきゃいけないの！」言い終わると、彼女は少し間を置いて、斜め向かいの３番ベッドの方に目を向けた。木下は唇の端を歪めて言った。「私は表裏のある小人じゃないわ」木下は振り返りもせずに出て行った。私はその場に残され、彼女の言葉を一生懸命考えていた。よく考えてみれば、確かに木下は寮の中で私を騙る必要が一番ない人だった。家柄も容姿も才能も私と同じくらいで、いつ発覚して反動を受けるかもしれないリスクを冒してまで、私の運を借りる必要なんてなかった。木下の先ほどの表情を思い出し、私は少し呆然として河野暖の方を見上げた。河野は勉強が山奥から抜け出す唯一の道だと思っていて、私たちはまだ二年生なのに、もう大学院受験の準備を始めていた。授業以外の時間は、河野は朝八時から夜六時

鉛筆は揺れながらテーブルに落ち、すぐに動き出して、最初は木下令花の前で止まり、それからゆっくりと河野暖の方を指した。私が口を開こうとした瞬間。鉛筆の先が再び動き始めた。今度は、松尾を指していた。......突然、河野がドタッと床に膝をついた。「ごめんなさい、佐藤さん。私が金のネックレスを盗んだの！」「あの時期、父が工事現場で給料を滞納されて、その上足を折ってしまって、うちには収入が全然なくて、だから私、あなたの金を盗んで、お金を借りようと思ったの！」「でも私、良心の呵責に耐えられなくて、結局売らずに筆箱の中に隠して、いつか返せる日が来たらって思ってたの」私が反応する前に、テーブルの上の鉛筆が震え始め、紙の上に「報い」という二文字を書いた。ろうそくが突然フッと消えた。まるで冷たい風が吹き抜けたかのように、私は震えが走った。でも寮の窓は開いていなかったはず。河野は恐怖で悲鳴を上げた。「もうやめて、もうやめて、悪かったわ、早く電気つけて！」私はすぐにドアの所まで走ってスイッチを押したが、電気は故障したようで、十数回押しても点かなかった。この状況に私たち女子学生は恐怖に震えた。私はまず木下を抱きしめ、それから松尾の手を握り、お互いの体温を感じることで、やっと少しだけ安心感を得られた。松尾が突然聞いた。「河野さんは？河野さんはどこ？」「あなたの隣にいたんじゃない？」「私の隣には誰もいないわ！」私の心が凍りつく思いがした。前に数歩進んで、空中で手を探ったが、髪の毛の束しか掴めなかった。そして、カーテンが真っ直ぐに吹き上げられ、ベランダのドアが大きく開いた。河野は何かに首を絞められているかのように、手すりに押しつけられていた。彼女の両足は地面から離れ、今にも落ちそうだった。私たち三人は急いで彼女を引っ張ろうとしたが、ドアまで行った途端、バタンと音を立てて閉まってしまった。私たちは窓越しに、彼女が口を開いたり閉じたりしているのを見ることしかできなかった。何か言っているようだった。突然、河野が大声で叫んだ。「私が呪いをかけるべきじゃなかった！」言い終わるや否や、彼女はベランダから転落した。私は一瞬固まった。急に電気が点き、河野のベッド周りが散らかり放題で、机の上の物が乱

「佐藤さん、私もずっとあなたのことを一番の親友だと思っていました」「でも、ずっと言えなかったの。去年、母が骨がんの末期と診断されて。私たちの親戚に医者がいて、この病気は治らないって教えてくれたの。骨がんは原発性じゃなくて、他の場所のがん細胞が骨に転移したもので、切断して延命するしかないって」「その時期、父は家のすべての貯金を使い果たしたけど、何の役にも立たなくて、母は毎晩病室で痛みに苦しんで、私の心も痛かった」「西洋医学も漢方も、国内の名医は全部診てもらったけど、父は母を諦められなくて、結局、霊能者を頼ることにしたの」「ある霊能者が父に言ったの。母の運命は最悪で、病死する定めだって。でも運気の強い人から運を借りることができれば、運命を変えられるって。父はあなたのことを思いついて、狂ったように土下座して私に頼んできたの。家族のために助けてって」「あなたも母も、どちらも失いたくなかった。私が死ねばよかったのに」「でも、あなたに直接言う勇気がなかったの」この手紙を読み終えると、私の涙は止めどなく流れ落ちた。まさか私の運気を借りた人が、私が最も信頼し、最も親しい友達だったなんて。だから先ほど警察署で、警察が松尾の両親に連絡した時、二人とも姿を見せなかったのね。おそらく自分たちが天道に背くようなことをしたことを知っていて、その報いが娘に及んだから。だから娘の遺体を見る勇気も、私に会う勇気もなかったんでしょう！私の心は複雑な思いで一杯になった。そのとき、携帯が鳴った。画面には「義理の母」と表示されていた。電話に出ると、私はすぐに市立病院に向かった。集中治療室の外で、松尾の母が息も絶え絶えにベッドに横たわっているのを見た。体中にチューブと配線が繋がれていた。数日前の血色の良かった女性とは正反対だった。彼女と目が合うと、彼女の目から涙が止めどなく流れ落ちた。松尾の父は私を隅に連れて行き、突然ドタッと床に膝をついた。彼は三度、響くほど強く頭を床に打ちつけた。「梨子ちゃん、叔父さんが心を魔に囚われて、遥ちゃんにそんな因果の悪いことをさせてしまった！」「今、私たち家族は全員因果応報を受けているんです。遥ちゃんは死に、お母さんはがんが転移して切断手術を受け、私は会社をクビになって大きな借金まで抱えてしまった。私

私が生まれて数年後、世界金融危機が勃発した。父が購入した株が暴落して、元手も失い、会社も倒産寸前だった。そんな時、私は高熱が下がらず、寝たきりの状態で小児病院に運ばれ、急性白血病だと分かった。治療費を工面するため、父は友人の紹介で香港に渡ることを決意した。戻ってきた時、父は別人のように変わっていた。それまでの疲れ果てた様子は消え、生き生きとして、数百万円のロレックスを身につけていた。父は母にたくさんのブランドバッグを買って帰っただけでなく、香港から最高峰の血液病の専門医を呼んでくれた。私は完治し、家の暮らしも以前より豊かになった。それ以来、父は神仏を信じない人間から、家に仏壇を置く実業家に変わった。でも私は知っていた。父が仏様に財を求めているのではなく、加護を求めているのだと。死者に取り憑かれないように、報いを受けないようにと。そうして父は毎年、運気の良い人を選んで運気を借り、自分のビジネスプランが順調に長く続くようにした。仁藤達也もその一人だった。それだけではない。私も幼い頃から運命を取り替えられていた。私が十八歳の時、霊能者が私の運命に避けられない災いがあると占った。以前、私たちの家が運気を借りて死なせた三人が、親の借りを子に返そうとしていて、全ての因果が私に及ぶのだと。その時になってやっと、父は目が覚めた。運気を借りることを止めたが、すぐに代償を払うことになり、母と共に暴走したトラックに撥ねられて死んだ。そして私は毎晩悪夢に魘されるようになった。半分眠り、半分覚醒している時、いつも三人の女性が私のベッドの頭に立ち、黒い瞳のない目で、恐ろしい形相で私を見つめているのが見えた。私は痩せ細り、狂いそうになった。そしてある日、河野の本を探していた時、長い間失くしていた金のネックレスが河野の筆箱に隠されているのを見つけた。私は一瞬呆然として、そっとネックレスを元の場所に戻した。私の当初の計画は、河野に私の気が付いたネックレスを持たせて、幽霊に取り憑かれさせ、私の代わりに死んでもらうことだった。松尾の死だけは予想外だった。私の一つの災いを経験することになった人が、彼ら一家三人になるとは思ってもみなかった。松尾は私の図書カードを持っていたため、同じように私の気が付き、私がコックリさん