Home / ロマンス / さよなら、お父さん / Chapter 11 - Chapter 12

All Chapters of さよなら、お父さん: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

第11話

「彼女は重力により肺が破裂し、血液が肺と気管に満たされて窒息死しました。検査結果では自殺と見られ、他殺の可能性は現在のところ......」その後の警察の言葉が、お父さんにはもう耳に入らなかった。だって、お父さんには分かっていたから。私が飛び降り自殺をしたのは、まぎれもなくお父さんのせいだったと。お父さんが私のことを気にもかけず、治療のチャンスを逃させた。信じようともせず、助けを求めた私を侮辱した。だから、娘を死なせた「犯人」は他でもなく、お父さん自身だった。私の病気は本当だった。お父さんにほめられたくて、必死に勉強したのも、病気を治すために助けを求めたのも、全部本当だった。でも、お父さんはただ母さんへの憎しみだけで私のすべてを拒絶し、どんな思いも届かなかった。お父さんは、急に肩を震わせて笑い出した。疲れ切った顔に、狂気のような笑みを浮かべて。誰もがその姿に声を失っていた。お父さんは、私の青白く血の気のない顔を見つめ、何度も視線をさまよわせていた。まるで、私が生前に感じた痛みを追体験しようとするかのように。医者は、お父さんに言っていた。「この病気はとても痛みが強いんです」と。痛がりの私が、どれだけの苦しみを味わい、どれだけ絶望して自ら命を絶ったか......お父さんには、想像もつかないだろう。だけど、私は分かっていた。どんな苦しみよりも、お父さんの無関心こそが私を傷つけたのだと。お父さんの目に涙が浮かび、床にひざまずくと、口からこぼれるように何度もつぶやき始めた。「全部......俺のせいだ......全部俺の......」その眼差しは空虚で、まるで魂が抜けてしまったかのように見えた。その日、警察署にいた人々はみな、テレビに何度も映るあの有名な俳優が、ひとりの遺体の前で取り乱して泣き叫ぶ姿を目撃した。最後にお父さんは、ぽろりと血を吐き、その場で倒れ込んだのだった。
Read more

第12話

お父さんが病院で目を覚ましたとき、彼のそばには美羽が付き添っていた。彼が目を開けると、美羽はすぐに水を持ってきて、お父さんに差し出した。だけど今のお父さんは、まるで錆びついたロボットのように、誰かに動かされるままのぎこちない反応しかできなかった。何かを思い出したのか、突然、こう言い出した。「詩凜は......詩凜を迎えに行かなくちゃ。そうだ、ここにいたらダメだ、今日は学校まで迎えに行くって約束してるんだ」それは、私が小学校一年生の頃のことだった。通学路で、私を連れて行ってくれるはずの家政婦と別れ、私が見かけたのは美羽を学校へ連れて行っていたお父さんだった。私は泣きながら走り寄って、お父さんの足にしがみついてこう言った。「パパ、私も一度でいいからパパに迎えに来てほしい」おそらく、涙で顔をくしゃくしゃにした私があまりにみじめに見えたからだろう。もしくは、美羽を遅刻させたくなかったのかもしれない。お父さんはそのとき「放課後、迎えに行く」と約束してくれた。父親から初めて受け取った温かくも力強い約束に、私は胸をときめかせて、放課後が来るのを心待ちにしていた。だけど、お父さんは来なかった。父親としての約束を、お父さんはすっかり忘れてしまったのだ。そして十数年経った今になって、ようやくそのことを思い出したなんて。お父さんがふらつく足で立ち上がろうとしたその時、美羽は少し慌てた様子で彼の腕を引き止めた。表情にはどこか焦りが見えた。生きている者が死者に勝つことはできない。美羽は分かっていた。もし私が生きていたら、おそらくお父さんが私を気にかけることはなかったかもしれない。でも、今私はもうこの世にいない。お父さんの罪悪感は増幅して、全てが美羽にとって不利に働くのだと。「月夜おじさま、あまりご自分を責めないでください。詩凜ちゃんのために、十分なことをしてあげましたよ。彼女の死なんて、誰も望んでなかったんです。でも......今となってはもう......それに、詩凜ちゃんがいなくなっても、月夜おじさまには私がいますから。私は小さい頃からずっと、月夜おじさまを本当のお父さまみたいに思ってきたんです。私は、おじさまの娘ですから」美羽の気持ちはいつも隠されていたけど、このときばかりは、その焦りが隠し切れていなかった。美羽が言い終わら
Read more
PREV
12
DMCA.com Protection Status