井原玖遠は眉をひそめ、両手を高く上げて声を少し乾かしながら言った。「君の傷は早く消毒しないと、感染しやすいから」 「今すぐ救急箱を取りに行くよ」 井原玖遠は杉原瑠美を優しく押しのけたが、杉原瑠美は腰に手を回し、甘い声で明確な暗示を含ませて言った。「私は包帯なんて必要ないよ。私があなたに対する思い、分からないの?」 「こんなに長い間、私に心が動いたことはなかったの?」 「岡田芽衣もいないし、誰にも言わないから、二人の秘密にしようよ......」 杉原瑠美はそう言いながら、つま先立ちして井原玖遠の唇に近づいた。 井原玖遠は顔をそらして彼女の手を振り払おうとしたとき、突然彼の携帯電話が鳴った。 彼はすぐに電話に出たが、話し出す前に相手の急いだ声が聞こえてきた。「隊長、西山で野獣にかじられた二体の遺体が発見されました、急いで救援をお願いします」 井原玖遠の表情が暗くなり、急いで服を整え外に向かって走り出したが、杉原瑠美は彼の袖を引き止めた。「私も連れて行って」 井原玖遠は袖を引き抜いて言った。「やめろ!」 杉原瑠美は不満そうに窓辺に走り寄った。「連れて行ってくれないなら、窓から飛び降りるわ」 彼女は井原玖遠を見つめ、彼が動かないのを見ると、四つん這いになって窓に向かって登り始めた。 登りながら杉原瑠美は振り返って言った。「あなたはそんなに冷酷なの?私が飛び降りるのを見ているだけなの?連れて行こうともしないの?」 井原玖遠は眉をひそめて杉原瑠美を見つめ、長い間ためらった後、ようやく頷いた。 杉原瑠美は得意げに窓から降りてきた。井原玖遠は真剣な表情で杉原瑠美に救援現場での注意事項を説明し、二人のやり取りを見ていると、心が苦しくなった。 やはり、泣く子には甘いものが与えられるのはこういうことか。 結婚した当初、私たちの関係が一番良かった頃も、井原玖遠に頼んで救援現場を見に行かせようとしたが、彼は真剣な顔で、私を連れて行くことを許可しなかった。 結婚して何年も経った今、再度提案した時、彼は苛立ちをあらわにして言った。「俺は隊長なんだから、身を以て示さなきゃならない。俺の限界を挑戦しないでくれ」 杉原瑠美は死を以て彼を同意させていたが、誰が見ても彼女は絶対に死なないことは明らかで、井原玖遠はその賭けすらも恐れ、
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