涼奈たちが到着したのは、北都の有名な別荘地だった。ここは一寸の土地も高価で、住んでいるのは権力者たちばかりだった。一般人は入れない場所だ。華の庭。涼奈が車を降りると、そこに書かれた文字が目に入った。どの名家の手によるものかは分からないが、その筆跡は力強く、堂々とした雰囲気があり、無意識に圧迫感を与えてくる。宗太も車から降りたが、車のドアを閉めず、入る気配もなかった。彼は手続きをこなすように注意し、「涼奈、ここでしっかり暮らせよ。ここでの生活は家なんか比べ物にならないくらい良いんだから。お前がここにいれば、私も安心だ」と言った。この言葉を述べた後、宗太は車を発進させ、涼奈の反応を見ることもなく去っていった。二分もかからず、彼の背中には面倒を振り払いたいという急ぎが見えた。ふん、安心?涼奈は冷笑した。宗太の言う「安心」は、きっと「厄介ごとを切り捨てた安心」だろう。華の庭の大門は開いていた。涼奈は荷物を持ってそのまま入っていった。周囲を見渡せば、敷地内の建物が一望できた。華の庭への第一印象は「広い」だった。そして第二印象は「洗練されている」。華の庭には長い回廊があり、その全てが上質な沈香木で作られている。回廊を歩くと、淡い木の香りが漂ってくる。回廊の先には庭園風の建物があり、その中央にはあずまやがあった。あずまやの下には蓮が植えられていて、清らかな池の中で紅白の錦鯉が優雅に泳いでいるのが見える。ここはすべてが古風で趣のある雰囲気に満ちており、典型的な庭園式の建築で、その豪華さと美しさに圧倒される。黒い制服を着た執事が出迎え、涼奈を案内した。客間に入ると、そこには高価な骨董品や名画が至るところに見られた。どんな大舞台でも慣れている涼奈でさえ、冷泉家のこの圧倒的な規模と財力には思わず息を呑んでしまった。今日、涼奈は白いコットン生地のワンピースを着ていて、髪はポニーテールにまとめられ、柔らかな印象を与えている。普段よりも少しだけおとなしく見える。彼女は周囲をじっくり観察しながらも、まったく物怖じすることなく堂々としていた。見るものがあれば、ためらうことなく視線を向け、純粋に鑑賞するかのような余裕さえ感じられる。そんな彼女を観察している人間もいたことには気づいていなかった。涼奈
Last Updated : 2024-11-22 Read more