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第 2 話

作者: スイカのキノコ
彼女の声は冷ややかで、その眼差しは決然としていた。

だが、その言葉が言い終わらないうちに、尚吾の携帯が鳴った。

彼は携帯を取り出し、着信表示を一瞥すると、眉をひそめて電話に出た。「どうした?」

電話の向こうで何事かあったらしく、彼はすぐに低い声で言った。「すぐ行く」

彼はもう一度真依を見ることもなく、振り返りもせず寝室を出て行った。

真依は冷たく笑い、それ以上は何も言わなかった。

眠気は完全に覚めてしまったので、もう寝るのは諦めた。

ベッドから起き上がり、荷物をまとめ、離婚協議書を作成し、自分の名前をサインすると、数枚のカードと一緒にリビングのテーブルの上に置き、それから尚吾と暮らした家を後にした。

紗月は長い脚を組み、気だるそうに車のボンネットにもたれかかっていたが、真依が小さなスーツケース一つしか持っていないのを見て、すぐに姿勢を正し、驚きのあまり目を見開いた。「うそでしょ?えっ、それだけ?」

真依は慣れた手つきで荷物をトランクに積み込み、助手席に乗り込むと、わざと明るい声で言った。「全部、どうでもいいものよ!少なくとも、今の私は自由なの」

「え、マジで?離婚しちゃったの?」紗月はまだ実感わかないみたいな顔をしていた。

真依は気にしていない様子で肩をすくめた。「恋の話は終わり!ね、気分転換にパーッと遊ぼ!」

紗月はそれ以上何も聞かず、ハンドルを切って車を発進させると、いきなり悪態をついた。「ったく、瀬名尚吾ってあんなに金持ちなんだから、何十億円かはもらえたんじゃないの?」

真依は軽蔑するように口を尖らせた。「彼の財産は全部婚前からのものよ。私には手出しできないわ」

お金に関しては、尚吾は実際、とても気前が良かった。

もし本当に法的に厳密な財産分与をしていたら、彼女が手にできる額は、数十億円どころではなかっただろう。

だが、彼女が最初から欲しかったのは、彼のお金ではなかったのだ。

紗月は彼女が黙り込んだのを見て、すぐに話題を変えた。「まあ、離婚して良かったのよ。スタジオには未処理の注文が山積みで、私、腰が砕けそうなくらい頭下げて回ってたんだから。あなたが帰ってきてくれてちょうどよかったわ。じゃないと、私一人で全部やらなきゃいけなくて、本当にこのスタジオが私だけのものみたいになっちゃう」

真依は大学を卒業した後、紗月と共同で「H.MOON」という名の服飾デザインスタジオを立ち上げた。ブランド名は真依の姓と紗月の名前にちなんでおり、日本国内では「氷月(ひづき)」として展開されている。

二人はそれぞれビジネスの才能とデザインの才能に恵まれ、スタジオは順調に成長していった。

ただ、その後、真依は最も勢いのある時期に、尚吾と結婚することを選び、専業主婦になった。

氷月はそれ以来、紗月が一人で経営し、真依は裏方としてデザイン画を提供するだけだった。

紗月は仕事に打ち込み、その優れた能力もあって、わずか数年で氷月を転換させ、オーダーメイドの高級婦人服デザインスタジオへと成長させた。

氷月の唯一のデザイナーであり、共同経営者でもある「真依」は、紗月によってエースデザイナー「橘陽(たちばな あき)」としてプロデュースされ、今では上流階級の間で非常に有名になっていた。

尚吾との離婚で、彼女はほとんど無一文になった。

これからは生活のことを考えなければならない。もともとスタジオに戻るつもりだったが、紗月から未処理の注文があると聞き、思わず真剣な表情になった。「前にたくさんのデザイン画を渡したはずだけど、まだ注文が残ってるの?」

紗月はそのことを思い出すと、頭が痛いというように顔をしかめた。「あなた、知らないのね、あのお金持ちのお嬢様や奥様方、それから芸能界のトップ女優たちって、本当にわがままなのよ。デザインが他の人と被るのはダメ、色もダメ。だから、デザイン画は基本的に一枚につき一着しか作れないの。あなたが前回くれたデザイン画は、前回の予約分で使い切っちゃった」

「ちょっと欲張って、予約ちょい多めに取っちゃったのよね……」彼女はそう言いながら、指先で指を数えた。「ほんのちょっとだけよ」

「ほんのちょっとって、どれくらい?」真依は心配になって問い詰めた。

紗月はニヤリと笑った。「たった……66着」

一瞬の間を置いて、彼女は付け加えた。「ドレスよ」

その声は、明らかに先ほどよりも弱々しかった。

真依は深呼吸をした。どこに住むか考えていたところだったが、もう決まった。スタジオに住み込むしかない。

66着……1日1枚描いても2ヶ月か……さらに、細部の確認や素材の選定もしなければならない。年末まで休みなしになりそうだ。

助手席にもたれながら窓の外をぼんやり眺めていたら、ふと気づいた。結婚してた数年間、デザイン画以外、ほとんど何もしてこなかったな……

彼女は紗月に言った。「紗月、この数年間、本当に大変だったわね」

紗月は大げさに言った。「まあね、私たちの関係でしょ?今更何言ってんの?それに、あなたのデザイン画がなかったら、私がいくら頑張っても無駄だったわ。これからは二人で力を合わせて、そうね、とりあえず芸能界のイケメンたちをターゲットにしましょうか。尚吾のあの仏頂面よりずっといいわよ!イケメンは見ても良し、楽しんでも良し!」

そう言うと、紗月は憤慨した様子で、しかし真剣な口調で続けた。「いつか必ず、瀬名尚吾をあなたの足元にひざまずかせて、復縁を懇願させてやるわ」

真依は、昨日以来初めて心からの笑顔を見せた。

その名前を聞いて、尚吾のあの顔が、またもや脳裏に浮かんだ。せっかくのイケメンも、あの仏頂面じゃ台無しよね。

だが、彼女は心の中で知っていた。尚吾の心は玲奈でいっぱいで、彼女という邪魔者を早く追い出したくてたまらないのだ。

彼女に復縁を求める?

ありえない。

真依は軽く目をそらした。「もうちょっとマシなこと言えないの?」

尚吾という腐れ縁は、もう二度とごめんだ。

氷月スタジオは浜城市の旧市街にあり、最初は一軒の店舗だったが、今では通りに面した店舗を全て借りるまでに拡大し、内部は400平方メートル以上、アシスタントだけでも7、8人雇っていた。

紗月は真依をスタジオに送り届けると、すぐに出張に出かけて行った。出発前に、彼女は念を押すように言った。「近いうちに、大口のクライアントが来るかもしれないの。所属タレントのために、長期でドレスをオーダーしたいって。ずっと前から約束してたのよ。あなたがいてくれて、本当に助かるわ」

「安心して。これからは、そういうことは全部私がやるから」

スタジオの2階には専用の休憩室があり、真依は荷物を整理し、とりあえず寝泊まりできる場所を確保すると、アシスタントが持ってきた依頼内容に目を通し、すぐに仕事モードに入った。

そうすることでしか、離婚の事実を一時的に忘れることができなかった。

昼も夜もなく三日間働き続け、ようやく急ぎの原稿を仕上げてサンプル製作に回し、横になろうとしたところ、アシスタントが慌ててやってきて言った。「真依さん、お客様です。私たちでは対応できなくて」
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