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第166話

Author: 小春日和
冬城は舞台の中央へ急ぎ足で向かい、群衆をかき分けながら、舞台中央の道化師に鋭い視線を向けた。

今日こそ、最上道央の正体を暴いてやる。

真奈は群衆の中から冬城が勢いよく近づいてくる姿を見て、眉をひそめた。

冬城は何をするつもりだろう。

「まずいわ。冬城、まさか真奈の仮面を皆の前ではがすつもりじゃないでしょうね」

幸江の表情が曇った。

彼女たちはただ冬城に最上道央が仮面舞踏会に現れるところを見せたいだけで、真奈の仮面を公衆の面前ではがされるつもりなどなかったのに。

伊藤も胸を締め付けられた。「くそ、冬城は落ち着いた大人だって聞いていたのに。何を焦っているんだ、後先考えていないのか」

真奈は心臓が激しく脈打つのを感じていた。

冬城が近づいてくるのが見えたが、この場から逃げ出すわけにもいかない。

その時、真奈の目の前が暗くなり、何かに包まれたような感覚があった。顔を上げると、そこには端正な顎が見えた。

「行くぞ」

黒澤の声を聞いて、真奈は不思議と安心感を覚えた。そして黒澤のマントに守られながら、静かに群衆の中へと姿を消した。

冬城は気を取られている間に真奈の姿を見失い、後ろから追いついてきた中井が言った。「総裁、そんな衝動的な行動は危険です。大勢の人がいる中で、もし正体がバレでもしたら大変なことに。ここは一旦退きましょう」

冬城は諦めきれず、群衆の端まで視線を走らせた。

確かにさっきまでそこに最上道央がいたのに、まばたきする間もなく消えてしまった。

「社長、早く行きましょう!」

中井は冬城を急いで連れ出そうとした。また最上道央が現れて、冬城が衝動的な行動に出るのを恐れたのだ。

中井に連れられて会場を出ると、冬城はすぐに言った。「真奈に連絡を取れ。今どこにいるのか確認しろ」

「承知いたしました、総裁」

一方、黒澤は真奈を安全な場所まで連れて行った。真奈は顔を上げ、ヴァンパイアメイクをした黒澤の顔を見て、こんな状況で笑うべきではないと分かっていながら、つい吹き出しそうになった。

黒澤は真奈の様子を見て、口元を緩め、溺愛するような目で見つめながら言った。「まだ笑えるのか?さっきはあやうくバレるところだったぞ」

「あなたが助けてくれたから大丈夫ですよ。それに、たとえ冬城が仮面を取っても、私だと気付かないはずです」

真奈は自信に満ちた様子
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kyanos
佐藤はワンコなのか? 真奈大好きな佐藤だけど、 やっぱ黒澤に一票!
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