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第2話

必死で窓枠に手をかけ、中の様子をもっと覗き込もうとした瞬間、手が滑って転落してしまった。その拍子に足首まで捻ってしまったのである。

「早く戻りましょう」と急かすと、さくら姉は「もう少し」を繰り返すばかり。結局、たっぷり一時刻も過ぎてから、ようやく姿を現した。

私は壁際で痛む足首を摩りながら、さくら姉の姿を待っていた。

「ゆめちゃん、少し支えて」さくら姉は荒い息を繰り返し、まるで水浴びを終えたかのように全身を濡らし、私の体に寄りかかってきた。

壁を越えようと姉を支えた時、ふと上を見上げてしまい、さくら姉が下着すら身につけていないことに気付いてしまった。

祭殿の中で何があったのかと尋ねると、さくら姉は頬を染めて口ごもり、しばらくして「からかわないで。ゆめちゃんも大人になれば分かるわ」とだけ答えた。

ふん、教えてくれないのなら、この目で確かめてやる。

お腹が痛いと嘘をつき、さくら姉と別れて、こっそりと祭殿へ引き返したのである。

そこで目にしたのは、大勢の人々に何かを運び出すよう指示を出す祖母の姿であった。

厚手の油紙で包まれた細長い荷物を、二人がかりで運び出している。

その時、一人が足を滑らせて階段で転倒し、油紙が破れてしまった。

祖母は慌てた様子で荷物を入念に確認すると、幾重にも油紙を巻き直すよう厳命したのである。

私は恐怖に震えながら、壁の陰に身を潜めた。

破れた油紙の隙間から覗いていたのは、紛れもなく蒼白い人の手であった。

「これらを至急処理するように。新しい品が間もなく到着する」

祖母は威厳に満ちた声で、先頭に立つ四番目の叔母に命じた。

一行は荷車を引いて山の中へと消えていった。私はその場に崩れ落ち、長い間、現実感を取り戻すことができなかった。

私は帰宅するなり高熱に見舞われ、その後数日にわたる成女儀式を見ることは叶わなかった。

さくら姉は毎晩、祭殿へと壁を越えて通っていた。見張り役が不在のため、すぐに戻ってくると、何やら満ち足りた表情で眠りについていくのである。

その間、祖母が見舞いに訪れた。私は殺人の件について問いただそうとしたのだが―

言葉が喉まで出かけた瞬間、祖母の荒れた手が私の手の甲を撫で、鋭い痛みが走った。

数日ぶりに目にした祖母の手は、もともと痩せ細っていたものの、さらに荒れてひび割れ、まるで剥がれ落ちそうな角質のように乾燥していた。

私は思わず、言葉を飲み込んでしまった。

村の中を何度も巡ってみたが、不思議なことに村人の数は変わっていない。

では、あの日祭殿から運び出された人々は、一体誰だったのか?

成女儀式が終わると、祖母の容体は驚くほど急速に衰えていったのである。

かつては生き生きとしていた祖母も、今では杖なしでは歩けなくなっていた。

氏族の人々は祖母の命も残り僅かと噂し、宗主の座を狙う氏族のお姉さんたちは、涙ながらに祖母の枕元に付き添い、献身的な世話を焼いていた。

「ふん!醜い芝居を打つ者たちめ。おばあさまは既に、宗主の座は私のものだとおっしゃったのよ」さくら姉は嘲るような笑みを浮かべ、まるでサーカスの道化を見るかのように、彼女たちの見せかけの孝行を眺めていた。

その夜のこと。私が深い眠りについていると、屋外から物音が聞こえてきた。

さくら姉が真夜中に化粧を始め、着飾り始めたのである。また祭殿へ向かうのかと思った私は、あの夜目撃した不可解な出来事を打ち明けようとした。

だが、言葉を発する間もなく、さくら姉に口を押さえられ、部屋の中へと押し戻された。「シーッ。今夜、おばあさまが私に村の秘められた伝承を教えてくださるの。誰にも漏らしてはいけないって。大人しく眠っていなさい。今夜のことは何もなかったことにしましょう」

さくら姉は晴れやかな表情で部屋を後にしたのである。

しかし、翌日私たちの元に戻ってきたのは、さくら姉の冷たい遺体であった。

一報を受けて祭殿に駆けつけると、白布に覆われたさくら姉の遺体が、静かに中庭に横たえられていた。

「ああ、さくらちゃんも分別がなかった。真夜中に山に入るなんて無謀な…。命を落としただけでなく、野獣に襲われてこのような姿になってしまうなんて」

「違います!これはさくら姉のはずがない!」

震える手で白布に触れようとした私を、祖母が制止する。「ゆめや、さくらの最期はあまりに無残じゃ。見ない方がいい」

私は祖母を鋭く睨みつけた。昨夜、確かにさくら姉は祖母に会いに行ったはず。なぜ裏山で命を落としているというのか。

私は祖母の手を振り払い、意を決して白布をめくり上げた。

「う、うぅっ…!」その瞬間、私は壁際に駆け寄り、激しい嘔吐を繰り返したのである。

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