第3話

麻衣をなだめた後、深津は陰鬱な目で私を見つめた。「俺が黙って彼女と結婚して子供を作ることを告げなかったことに、ずっと不満を持っているのは分かる。俺に怒るのは構わない。事前に言わなかった俺が悪い」

「でも麻衣を傷つけるのは許さない。彼女は体が弱くて、もう十分可哀想なんだ」

「彼女はただ一度母親になりたいだけなんだ。それが何か悪いのか？なぜ君の怒りを向けられなきゃいけないんだ？」

彼は私を指差して怒鳴った。「今すぐ麻衣に謝れ！」

私は震える体を必死に抑えた。

「私が何を間違えたっていうの？」

「一体何が悪かったの？」

深津は私の真っ赤な目を見て、一瞬言葉を失った。

「もういいわ、お兄さん。私は階段から転げ落ちそうになって命の危険があったけど......」

「お姉さんを責めないわ。謝ってもらう必要もない」

「お兄さんとお姉さんはこれから結婚するんだもの。私のせいで喧嘩して欲しくないの」

深津は溜息をつき、愛おしそうに言った。「麻衣、君の思いやりに時々胸が痛くなるよ」

彼は冷たい目で私を見た。「結局、君は麻衣を妬んでいるだけだ。彼女が幸せになるのが気に入らないんだろう」

「今日は麻衣が君のために言ってくれたから、謝らなくてもいい」

「でも、これからもし彼女を傷つけたら、許さないからな」

彼は麻衣を抱き上げ、去り際に失望した表情で私に言った。「君は妹には全然及ばないな」

静まり返ったリビングには私一人が残された。

窓の外で舞い落ちる枯れ葉を呆然と見つめる。

とうとう耐えきれず、その場にしゃがみ込んで顔を覆って泣き出した。

最後よ......

深津のために泣くのは、これで最後。

その日の午後、深津はインスタに投稿した。

九枚の写真を並べた投稿だった。

写真には新居の九つの異なる角度が写っていた。

「ここの部屋も家具も飾りも、全て俺が丁寧に選んで配置した。ただ愛する人に温かく心地よい家を作りたかっただけだ」というコメント付きだった。

多くの祝福のコメントが寄せられた。

「深津社長、おめでとうございます！」

「深津さんと優子さん、できちゃった婚だったんですね！おめでとうございます！」

「深津さんみたいな素敵な旦那様をもらえて、奥様は幸せですね！羨ましい！」

「三ヶ月後の結婚式は、億単位の商談を断ってでも必ず出席させていただきます」

祝福のコメントで賑わう中、突然麻衣が書き込んだ。「みなさん、誤解しないでください。これは蒼介お兄さんの新居ではなく、私の家です」

コメント欄は一気に気まずい雰囲気になった。

私は沈黙を破り、こう書き込んだ。「三角関係なら、私が身を引くわ。お二人の幸せを祈ってます」

書き込んだ後、彼らが何を言おうと関係ない。

すぐに深津と麻衣を友達リストから削除した。

数分後、深津から電話がかかってきた。

「優子、もういい加減にしろ」

私は冷静に答えた。「暴れてなんかいないわ」

深津は激怒した様子で言った。「インスタのあのコメント、明らかに麻衣を汚そうとしているだろう」

「わざと不倫相手みたいに仕立て上げて、それで満足なのか？」

「もし麻衣を中傷し続けるなら、結婚なんてなしだ！」

彼の冷たく情け容赦ない非難を聞きながら、私の心は死んだ水のように、何の波紋も立たなかった。

「深津蒼介、あなたは何様のつもり？私が中古品で我慢すると思ったの？」