第3話

私は佐川理恵のことで氷川将生と何度も言い争ったことがある。

私は彼と佐川理恵の関係がすでに普通の友人の範囲を超えていると非難したが、彼は私が些細なことを大げさにしているだけだといい、「心が汚れているから何でも汚く見える」と主張した。

一番ひどかったのは、奈々が高熱で苦しんでいたとき、当時まだ運転ができなかった私を置き去りにして、彼が佐川理恵の家に行き、子供の日を祝っていたことだった。

さらに、婚約式の日、親友が集まる中で私を気にも留めず、礼堂を飛び出し、佐川理恵のもとへと駆けつけた。

それは、佐川理恵が「将生がいないと生きていけない、自殺したい」とメッセージを送ったからだった。

氷川将生は佐川理恵を甘やかし、彼女に旦那と呼ばせることすら許していた。

なぜなら、佐川理恵は彼の幼馴染で、自殺未遂の経験があったからだ。

だからこそ、佐川理恵の妹である佐川綾子も、自然と彼を兄さんと呼ぶことができた。

また、佐川理恵が全く関係のない職業経験しか持っていないのに、氷川将生は彼女をそばに置き、事件の処理にも同行させることを許していた。

私は他のパートナーがこれについて不満を持つことを恐れ、当事者のプライバシー情報を考慮して、何度も氷川将生に「仕事中は佐川理恵に干渉させないように」と説得した。

だが、佐川理恵は私がわざと彼女を目の敵にしていると考え、彼の前で私を冷たく嘲笑し続けた。

だから、彼女からの脅迫メッセージを受け取っても、私はただの口先の脅しだと思い、気にも留めなかった。

しかし、彼女が本当に私の車に細工をし、私を轢き殺そうとするなんて思いもしなかった。

彼女が車を運転して猛スピードで私に突進してきたとき、私は狂ったようにブレーキを踏み、回避しようとしたが、何の役にも立たなかった。

車が横転する直前、私は佐川理恵の得意げな笑い声を聞いた。

彼女は自分の服を乱し、体に数か所傷をつけ、氷川将生が到着する前に、事故を起こして恐怖に怯える被害者のふりをしていた。

氷川将生は、彼女が彼の胸にしがみついているのを押しのけ、目に明らかな嫌悪の色を浮かべながら言った。「何もないのにいちいち彼女を引き合いに出すな。自惚れた女だ。冷戦して私に謝らせるつもりか？そんなことは絶対にあり得ない！」

彼は口ではそう言っていたが、心の中で少し動揺していた。彼は携帯を取り出し、私の番号に電話をかけるか迷っていた。

しかし、佐川理恵に止められ、甘えるように言った。「将生、彼女はちょっと生意気だけなのよ。今はきっと怒ってるだけだから、触らぬ神に祟りなしだよ！」

その言葉で氷川将生は安堵し、迷いを捨てたように言った。「そうだな、雨時は分別がないやつだ。僕たちの理恵みたいに素直じゃない」

氷川将生の手が佐川理恵の顔に触れ、事故の破片でついた傷跡を撫でた。「きっと痛かっただろう。理恵、心配しないで。君を傷つけた奴には必ず代償を払わせる」

痛かった？私が炎に焼かれているとき、氷川将生、君は一度でも私に「痛くないか」と聞いてくれたか？

君はすでに私に代償を払わせた。私は「愛のない女」という烙印を押され、娘を失い、命を失ったんだよ。

その後の日々、氷川将生は私のことには一切触れず、佐川理恵と一緒にショッピングをし、映画を見て、彼女の誕生日の準備をしていた。

私が既に亡くなったため、親友が出廷せず、裁判所は最終的に氷川将生側の勝訴を決定した。

なんて皮肉なことだ。私の彼氏は有名な弁護士なのに、死後は代理人すらつかなかった。

判決を待つ日々の中、氷川将生はずっと機嫌が良かった。

理性的に言えば、今回の案件は彼の弁護士キャリアの新たな成功であり、将来のキャリアに大いに役立つものであったからだ。感情的にも、彼の存在が佐川理恵の責任を免れさせ、保護欲を満たしていたからだ。

私は氷川将生のそばに漂い、彼と佐川理恵が仲睦まじく「あなた」「旦那」と呼び合うのを見ていたが、最後の一線を越えない彼に皮肉を感じていた。

氷川将生、君の今の行動は、やっていることもやっていないことも何も変わらない。この「信念がある」とでも見せかける姿は、一体誰に見せているんだ？

君はすでに、私たちの関係において距離を置くことを認めているんだ。

判決書が下りる前夜、彼は珍しく私にメッセージを送ってきた。

「雨時、そろそろやめろ。今帰ってくるなら、今回の子供じみた態度については追及しないでやる」

彼の言葉には、まるで私にとって名誉であるかのような施しが感じられた。

少し考えた後、彼はさらに言葉を加えた。「奈々がいるから、心配しなくていい、君を捨てたりしないよ。理恵はあくまで妹として扱っているだけだ」