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第2話

Author: 肥田きのこ
last update Last Updated: 2025-01-10 10:23:06
死後のことを手配した私は、安心して去ろうとした。

しかし、車に乗る前に、ここにいるはずのない3人を見かけた。

佐藤明日菜は薄井政安の腕の中に座って泣いていた、薄井宇太は隣に立ち、悲しそうに明日菜の手を握った。

3人はまるで家族のようで、その光景は温かさすら感じられた。

私は思わず眉をひそめた。

「あなた、大事なクライアントはどうしたの?」

私の出現により、3人は明らかに驚かせた。

特に政安は気まずそうな表情を浮かべた。

彼はすぐに明日菜を放して、急いで私に向かって近寄った。

「美咲、まず話を聞いてくれ。今日は、明日菜さんが道端で死んだ野良犬を拾ったんだ。彼女はどうしたらいいのか分からないから、仕方なく僕に助けを求めたんだ。それから僕たちは犬を火葬場に連れていき、火葬した......」

私が明日菜を見つめると、彼女はチラッと私を見て、誇らしげな笑みを浮かべた。

重苦しい表情を見せた私に、宇太も緊張しながら弁解した。

「明日菜さんはとても優しいから、パパと僕は助けたいと思って......」

明日菜はとっさにかわいそうな表情に変え、わざと卑しい感じで私に謝った。

「奥様、ごめんなさい、薄井さんの仕事を邪魔するつもりはなかったのですが......」

政安は私を抱きしめているけど、なぜ私が火葬場にいるのか全く気にかけなかった。

彼の頭には明日菜のことでいっぱいで、まるで私が彼女を困らせることを恐れているかのように、言い訳をし続けた。

「明日菜さんは何だかんだ言っても佐藤さんの娘だからな。佐藤さんには長年うちのために働いてもらってきたし、明日菜さんに少し目をかけるのも当然だろう」

「そう言えばそうね......」

私は淡々と政安を見て、本心を暴かせずに、ただそのまま立ち去りたいと思った。

なのに彼は一瞬険しい表情になって、緊張しながら私を腕に抱き、ささやかな声でなだめてくれた。

「なあ、美咲、予定変更することを知らせなかったのは僕が悪かったよ。お詫びに、一番高いビルのレストランを貸し切って食事をご馳走するよ」

私の反対にもかかわらず、彼は強引に私を抱きしめながら車に乗させた。

宇太も私の手を握り、なだめ続けていた。

目の端に、明日菜のその嫉妬と怒りが溢れている表情が見えた。

着いたレストランは本当に豪華で、床に飾られた無数のバラと丁寧に並べられたロウソクの台を見て、プロポーズされたあの頃に戻ったような気分になった。

しかし、その次の瞬間、レストランのマネージャーが私の気分を台無しにした。

彼は手が込んでいるケーキを捧げて、敬意を持って明日菜の前に歩いた。

「奥様、今日はあなたと薄井様の愛の千日記念日です。毎月、ご家族と一緒に当レストランをご愛顧くださる薄井様に感謝の気持ちを込めて、奥様のためにこのケーキを特別にご用意しました。ご夫妻の末永い人生と、家族の幸せを願いいたします!」

店内の空気は瞬時に凍って、一瞬、氷室に放り込まれたように低気圧となった。

政安のその怒りと気まずさが混ざって、ころころと変わっている表情を見て、私はやるせなさを感じながら軽く笑った。

「私はね、一番嫌いな食べ物がチョコレートなのよ」

どうやら、世間的には、薄井政安の「公式の奥さん」は佐藤明日菜だった。

私の笑い声で政安は我に返せた。

彼は激怒して、さらにケーキを地面に叩きつけた。

「おい、どうやってマネージャーなんかやってるんだ?本物の薄家の妻も分からないのか?こっちが僕の妻だ!」

彼は強気に私の手を引っ張って、結婚指輪を見せた。

「今日初めてこの店に来たってのに、こんな大失態をやらかして……このままじゃ、この店もう営業なんてできないと思えよ!」

マネージャーは困惑した表情を浮かべた。

しかし、政安が送った視線に気づいたマネージャーは、ハッとしたように、一瞬で状況を理解した。

彼は慌てて私の前に来て頭を下げて謝罪した。

「奥様、本当に申し訳ございませんでした!お祝いする相手を見間違いしまいました!」

宇太も前に出て私を抱きしめて、ひたすら駄々をこねった。

「ママ、きっとこのマネージャーが人を見間違えたよ。パパママと一緒にここに来るのは今日が初めてだよ」

心の優しい息子だと思っていたのに、今では平然と嘘をつけるようになってしまった。

その場にいる全員が、誤魔化そうとしていた。

明日菜さえ歯を食いしばって、前に出てフォローをした。

「奥様、きっと何か誤解があるんでしょう。私のような身分で、こんな高級レストランに来るはずがないんですよ。どうかこんな行き違いくらいで、薄井さんをお怒りにならないでくださいね」

その甘い声と可哀そうな表情で、政安はこころが痛むそうに彼女を見つめた。

けど、私を騙すためにこんなに苦労をしたのは無駄だった。

私は首を振り、冷淡な表情を浮かべた。

「もういいよ。お腹が空いた、まずご飯を食べよう」

どうせ死ぬから、彼らがどうなるかは、私にとってはもう関係のない話しだ。

政安と宇太は目を合わせて、明らかに安堵のため息をついた。

しかし、政安に連れられて座ると、用意された料理には、私にアレルギーを起こすパクチーがいっぱいふりかけられていることに気づいた。

以前、彼と外食に行くたび、彼はいつも店にパクチーを入れないよう頼んでいた。

たまにパクチーが必要な料理があると、彼はまた一つ一つ丁寧に取り出してくれた。

だから、今目の前の緑一色を見て、その刺激的な香りを嗅いで、私は箸を握る力さえ湧いて来なかった。

長い間箸を動かないことを見て、政安は一瞬固まって、その目には微かな後ろめたさが浮かんだ。

「ごめんね美咲、シェフに言うのを忘れてしまった......別のレストランに変えよう」

私は手を挙げて、彼を止めた。

「いいじゃない、明日菜さんがこんなにおいしそうに食べてるんだから。パクチーが好きなら、ここで付き合って食べてあげなよ」

そう言ってから、私はテーブルの向こうの明日菜を見た。

彼女は誇らしげに眉を上げて、恥ずかしそうなふりをした。

「奥様、ありがとうございます。おかげで、こんなに美味しいミシュランの料理を食べることができました。本当にお幸せそうで羨ましいです。私もいつかあなたのように、薄井さんのような素敵な男性と結婚して、宇太ちゃんみたいにお利口な息子を授かりたいものです」

私は苦々しい顔で口角を下げて、それ以上何も言わなかった。

焦らなくてもいいわ。あと6日で、すべてがあなたのものになるから。

政安と宇太は気まずそうな感じだが、明日菜が気が済むまで食べまくってから、私を連れて帰った。

しかし、レストランから出た瞬間に事故が起こった。

制御不能になったスポーツカーが恐ろしいスピードで私たちに向かって突進してきた。

こんな極めて危険な場面で、私はよろめきながら逃げることしかできないだが、目の端に政安と宇太が明日菜に向かって飛んでいくのを見た。

「明日菜、危ない!」

「明日菜さん、避けろ!」

大地を揺るがすぐらいの衝突の後、私は無力なまま、親子2人が私の目の前で明日菜を守る姿を目にした。

めまいがする。

冷たい涙の粒を目の端に一滴たらしながら、私はゆっくりと目を閉じた。

「ねえ、システム......これは、私がもう早く帰ってもいいってことなの?」

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    システムが直ちに現れた。「プレイヤー様、7日後に迎えに参ります。この一週間は、任務世界の家族に別れを告げるために使ってください」聞き慣れた機械音が響いた。その声に、私はぼんやりとした目で壁を見つめながら、青ざめた顔にかすかな苦笑を浮かべた。「待ってるよ」振り返って、壁に貼られた家族写真をぼんやりと眺めた。写真の中に、父と息子の2人が私をしっかりと抱きしめていた。しかし今は、たぶん同じポーズで他の女性を抱きしめているんだろう......かつて私にとても誇りを感じさせたこの家族写真は、今となってはまるで胸に突き刺した鋭いナイフのように、内臓が引き裂かれるような激しい恐怖を感じた。すると、私はその家族写真と結婚式の写真をすべて外して、地下室に放っておいた。そして、別荘にいる薄井政安が私のために買ったものを片付け始めた。別荘を空けるくらい、それらを10数個の箱に詰めた。夜に引っ越し業者に連絡を取り、荷物を一時的に預かってもらうよう依頼した。さらに多額の料金を支払い、伝言を託すことにした。「1週間後、この荷物をこの受取人に届けてください」佐藤明日菜が私の前で政安の残したキスマークを何度も晒すことを思い出して、私はこう強調した。「くれぐれも彼女にそれを伝えてください。『薄井政安が買ったものだけじゃなく、彼も、彼の息子も、全部あなたにあげる』と」ちょうど業者と話し終わるところに、政安が息子を連れて玄関口に現れた。「何をあげるって?」見上げると、息子の薄井宇太がキャンディーを一掴み持ってそばに走ってきた。「ママ、どうして不機嫌そうなの?お菓子あげるよ」一方、政安は眉をひそめて、空いたリビングルームを見ながら、驚いだ表情を浮かべた。「おい、美咲、僕があげたものを全部捨てたのか?」私は目を伏せて首を振り、お茶を濁した。「福利施設に寄付しただけよ」以前なら、政安はきっと、「なぜ寄付したの」とか、「何か不満があるのか」とか、緊張気味で尋ねるでしょう。けど今、彼はただ淡々と微笑んだ。「そうか。じゃあ、代わりに新しいものを買ってあげるよ」宇太も跳んだり跳ねたりして、私を抱きしめ、「ママは優しいね」と言いながら、壁に飾ってあった家族写真が消えたことに全く気付かなかった。夜になると、彼らはまだいまま

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