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第2話

著者: 阿愚魚
last update 最終更新日: 2024-12-24 10:47:45
しばらくして、玲奈が着替えから戻ってきた。彼女が身にまとっていたのは、ビキニだった。

偽物のお腹をつけていても、彼女の美しいスタイルは何一つ損なわれていない。

光翔の視線は、最初から最後まで彼女の体から離れなかった。

「玲奈、君は本当に綺麗だな。ほら見ろ、俺が言った通りだ。この水着、絶対似合うって。君は間違いなく一番美しい妊婦だよ」

玲奈は頬を赤らめて、ふざけたように言う。

「気に入ったならよかったわ。またいくつか買って帰るから、家でも着てあげる」

俺は横で無言のまま照明をセッティングしていたが、手が思わず止まった。

彼女は俺の前では、いつも控えめな服装をしていた。

足首まで隠れるような長いスカートばかり選び、たとえ夏でもしっかり全身を覆い隠していた。

肌どころか、顔も帽子やマスクで隠していた。

俺はそれを、彼女が美意識を持ち、自分のスタイルを大切にしているのだと思っていた。

だが今になって分かった。玲奈は俺に自分の体を見せたくなかったのだ。一寸たりとも。

思わず彼女を見上げてしまった俺に、彼女は驚いたように防御の態勢を取った。

慌てて上着を羽織り、光翔の後ろに隠れながら警戒心むき出しの声を上げる。

「あんた、勝手に見るんじゃないわよ!訴えるわよ」

光翔は彼女の頭を優しく撫でながら、穏やかな声でなだめた。

「いいんだよ。カメラマンがわざとやったわけじゃない。君が綺麗すぎるから、男なら誰だって目が行ってしまう」

「でもダメなの!私は光翔にしか見せたくないの!」

たった数言で、玲奈はまた光翔に甘える優しい顔に戻っていた。

その変わり身の速さを、俺はただ黙って見ているしかなかった。

俺は道具を取りに外へ出た。

すると、玲奈が追いかけてきた。

彼女は俺を物置部屋へと引っ張り込み、声を押し殺して言う。

「神崎陸斗、あんた、いつまでちんたらやってんの?もし撮れないなら、さっさと他の人に代わりなさいよ。私たちの時間を無駄にしないで」

俺は眉を寄せ、静かに言った。

「やっと俺が誰か分かったのか?何か説明する気はないのか?」

すると彼女は逆にイライラした様子で答えた。

「説明って何?ただの妊婦写真を撮ってるだけでしょ?あんた、仕事ばかりで私に構う暇なんてなかったじゃない。それくらい許してくれてもいいじゃない」

まるで俺が悪いとでも言うように、彼女は言葉を続けた。

「そもそも、あんたに許可を取るのを忘れてたみたいね」

一瞬、彼女の言葉が詰まったが、すぐに気にしないように手元のネイルを眺めながら言い放った。

「ただの気まぐれよ。その場にいた人を誘っただけ。他意なんてないんだから、あんたもいちいち細かいこと言わないで。光翔も善意で協力してくれてるだけ」

「じゃあ、『旦那』と呼ぶのも善意か?」

俺が問い詰めると、彼女はますます堂々とした態度で言い返した。

「当然でしょ。誤解されたらどうするの?光翔に悪い噂が立つのは絶対に嫌だから、私が守ってあげてるのよ。

私たちのことを邪魔する気?もし光翔の評判が落ちたら、あんたには必ず責任を取らせるからね。忘れないで。今の彼は、私の旦那なんだから」

その言葉を聞いて、怒るべきなのに、俺はただ疲れを感じていた。

他の男を「旦那」と呼び、何事もなかったかのように振る舞う彼女に。

俺はこの一年間、必死に働き詰めだった。

彼女のために六年間かけて積み重ねてきた思いが、すべて無駄だったように思えてきた。

一年前、玲奈の両親に挨拶に行った日のことを思い出す。

彼女の家族がニ千万円の結婚資金を要求してきたとき、彼女は泣きながら言った。

「お金なんてなくてもいい。たとえ駆け落ちしても、私はあんたと一緒にいたい」

俺はそんな彼女を悲しませたくなくて、頑張ることにした。

馬鹿にしていた結婚式の写真だって、金になるなら喜んで撮った。

この一年、体を削りながら必死に働いて貯めたお金。

そのすべては、今、別の男に寄り添う彼女の背中で空しく消えていった。

「ピン――」

玲奈がスマホの通知を確認して、幸せそうに微笑む。

「ちょっと長居しすぎたわ。旦那が心配しちゃう。私はもう帰るから、他のカメラマン探しておいてね」

彼女が去っていく背中を見送りながら、俺は決意を固めた。

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    撮影は一週間後に予約されていた。俺はその準備を完璧にするため、すでに仕事場に泊まり込みで作業を進めていた。 そんなある夜、玲奈から電話がかかってきた。 ちょうど写真の編集をしていて、発信者を確認せずにそのまま応答してしまった。 「ねえ、今どこにいるの?家に入れないんだけど。鍵を変えたの?早く開けてよ。あんた、私を怒らせたらどうなるか分かってる?」 その聞き慣れた高圧的な口調に、瞬時に眉をひそめた。 玲奈だと気づいた瞬間、やる気がごっそり削がれる。 「どこに行こうが好きにしろ。俺たちはもう別れたんだ」 俺の冷たい対応に、玲奈は一瞬驚いたようだったが、すぐに不満をぶつけてきた。 「陸斗、あんたそれはひどすぎる。ずっと連絡してこないどころか、こんな態度を取るなんて。 こっちは折れてあげてるんだから、少しは素直になりなさいよ!あんた、いったいどうしたいわけ?」 彼女の声には、少しばかりの悲しげな響きさえ混ざっていた。 おそらく、あの日の俺の別れの言葉なんて、彼女はまともに受け止めていなかったのだろう。 冷却期間をおけば、自然と元に戻るとでも思っていたのか。 俺はさらに不機嫌そうに言い返した。 「お前、俺の言葉が理解できないのか?俺たちはもう終わったんだ。俺の態度に文句を言う権利なんかない。 もう二度と電話してくるな」 そう言って電話を切り、そのまま彼女の番号を着信拒否にした。 だが、翌日。外で食事を済ませて仕事場に戻ると、そこには玲奈が待っていた。 まるで何事もなかったかのように、彼女は軽やかに近づいてきて俺の手を掴む。 「ねえ、今夜一緒にご飯行きましょうよ。この前の誕生日を埋め合わせしてあげる」 俺は彼女の手を乱暴に振り払うと、汚いものを見るように何歩も後退した。 警戒心を露わにして問い詰める。 「ここで何してるんだ。さっさと帰れ」 玲奈は怒るどころか、まるで俺が駆け引きをしているとでも思っているのか、ため息交じりに微笑んでみせる。 その目には、どこか甘やかすような色さえ浮かんでいて、ただただ寒気がした。 彼女は自信満々の笑みを浮かべると、俺のオフィスの後ろに掛けてあった布を引き剥がした。 そこには、ぎっしりと貼られた玲奈の写真が――俺がこれまでに撮り、印刷したものだ。

  • 浮気相手の妊婦写真を撮った結果、俺の人生は最高になった件_   第5話

    玲奈にはほとんど触れたことがないし、この一年忙しさにかまけて、彼女と親密な時間を過ごすことすらなかった。 だから、もし彼女が本当に妊娠しているなら――その子の父親が俺であるはずがない。 しばらくして、玲奈が顔面蒼白のまま洗面所から出てきた。 彼女は俺の目を避けるように視線を落としている。 俺は直接切り出した。 「妊娠してるんだろう。相手は月白光翔だ」 玲奈は必死で否定する。 「妊娠なんてしてない!ただ、食べ過ぎて胃の調子が悪いだけ……」 だが彼女の体は正直だ。そう言い終わると、またえづくような音を立てた。 俺はさらに皮肉めいた笑みを浮かべた。 「ちょうどいいな。これでお別れだ。これからは、お腹の中の子どもの父親と仲良くやればいい。 さっさと、ここから出て行け」 玲奈は動けず、その場で硬直していた。 俺は彼女の腕を掴み、無理やり玄関へ引っ張ろうとする。 すると彼女は激しく抵抗し始めた。 「妊娠なんてしてない!本当に妊娠なんてしてないの!陸斗、お願い、信じて!」 俺が無反応でいると、玲奈はついに錯乱したように、自分の腹を何度も叩き始めた。 「ほら見てよ!これで証明できるでしょ!本当に妊娠なんてしてない!」 その姿を見ても、俺はただ冷めた目を向けるだけだった。 「そのへたくそな演技、見てて呆れるよ。とっとと帰って、胎教でも頑張れ。俺は付き合わない」 そう言って、俺は彼女を玄関の外へ押し出した。 玲奈は顔を真っ赤にして怒りをぶつけてきた。 「神崎陸斗、あんた絶対に後悔するから!」 俺は扉を閉めながら短く返した。 「心配無用。絶対に後悔なんかしない」 それ以上彼女に言葉をかける気も起きず、扉をきっぱりと閉めた。 その夜、見知らぬ番号から電話がかかってきた。 通話ボタンを押すと、聞き覚えのある声が響く。 「もしもし、神崎さん。今日はお世話になりました。月白です。玲奈から、あなたが彼女の彼氏だって聞いて、本当に驚きましたよ。まさか今日のカメラマンがあなたとは――偶然ってすごいですね」 芝居がかった調子の話し方からして、玲奈が今光翔のところにいるのだろう。 彼は続ける。 「玲奈がね、神崎さんがちょっと誤解してるって言うから、俺が代わりに説明しようと思って。俺と

  • 浮気相手の妊婦写真を撮った結果、俺の人生は最高になった件_   第4話

    家に戻り、リビングのソファに腰を下ろした。 狭い部屋の中、50平米もないこの空間には、壁一面に玲奈の写真が飾られている。 笑顔の写真、泣いている写真、怒っている写真、静かに佇む写真。 そのすべてが、俺が撮ったものだ。 本当なら、今日はここで玲奈にプロポーズをするつもりだった。 俺たちが出会ったのは大学時代。 当時の俺はプロのカメラマンを目指していて、よく友人たちを誘って写真の練習をしていた。 だけど、彼らからよく言われていたのは「君の写真は悪くないけど、何かが足りない。魂がない」 それが変わったのは、玲奈と出会ったときだ。 初めて彼女を見た瞬間、俺の心はあっという間に引き込まれた。 湖のほとりで静かに本を読んでいる彼女。微風にそよぐ髪、優しく降り注ぐ日差し――すべてが完璧だった。 まるで誘われるように俺はカメラを構え、ファインダー越しに彼女を見たとき、胸が高鳴るのを感じた。 「俺は見つけたんだ……人生で最も撮りたい被写体を」 ドキドキしながら、彼女のもとへ歩み寄り、そっとその写真を見せた。怒られるのではないかと覚悟していたのに、玲奈は驚くほど優しく微笑んでこう言った。 「これは私が今まで撮られた中で、一番きれいな写真だと思う」 その日から、玲奈は俺の専属モデルになった。 周りの友人たちは、「最近の写真、どれも愛に溢れてるね」と冷やかしてきた。 やがて俺も自分の心に素直になり、玲奈に告白した。 彼女は一瞬も迷わずに応えてくれて、こう言ったんだ。 「私のことを、ずっとカメラで見守ってね。私の一番美しい瞬間を、全部撮っておいてほしいの」 大学時代の恋愛は、そんな風に純粋で真っ直ぐだった。 だけど、人は変わるものだ。 大学を卒業してから、俺のカメラマンとしての道は順調とは言えなかった。 俺は風景写真にこだわり、玲奈以外の人物を撮る気にはなれなかったからだ。 最初は彼女も応援してくれていたが、やがて収入が安定しない俺に苛立ち始めた。 ある日、いつものように彼女を撮ろうとカメラを構えた俺に、彼女は突然怒りを爆発させた。 「毎日毎日、写真ばっかり!何も結果を出してないくせに、ただ邪魔なだけ!」 そう叫ぶと、彼女は俺のカメラを奪い、床に叩きつけた。 割れたレンズを見つめる

  • 浮気相手の妊婦写真を撮った結果、俺の人生は最高になった件_   第3話

    スタジオに戻ると、玲奈が床に寝そべり、光翔を見つめていた。視線はとろけるように甘く、光翔の手は彼女の体を軽く弄ぶように動いている。 最後には、玲奈を妖艶なポーズに整えて、彼は満足そうに微笑んだ。 「玲奈、君は最高に美しいよ。本当に君が妊娠してたらもっと素晴らしいのにな」 玲奈は大胆に言い返す。 「それは今夜のあなた次第でしょ」 彼女が投げた媚びるような視線に、光翔は一気に興奮した様子を見せる。 二人は撮影スタジオの中で完全に周りを気にせず、今にも実演を始めそうな雰囲気だった。 ――ならば俺は、その「最高の監督」を務めてやろう。 俺は冷静に指示を出した。 「いいですね。奥様と旦那様、感情がとてもいい感じです。このまま撮りましょう。 奥様、指で旦那様を誘うような仕草をしてみてください。旦那様、今度は奥様の上に体を乗せるようにして、熱い視線を向けてください」 光翔は俺の言葉通り、玲奈に覆いかぶさるように半身を倒した。 だが、玲奈はさっきまでの余裕たっぷりの様子とは違い、ぎこちなさを見せ始める。 プロのカメラマンとして、その不自然さを見逃すわけにはいかない。 俺は穏やかな声で促した。 「奥様、リラックスして。いつも家でしているような感じで構いませんよ。普段の仲睦まじさを、そのまま見せてください」 玲奈は硬直した体のまま、信じられないものを見るような目で俺を見つめた。 俺はあくまで普通のクライアントに接するような表情で、光翔に向かって笑いながら言った。 「では、旦那様、奥様をリラックスさせるために軽くキスをどうぞ」 光翔は笑顔を浮かべ、優しい声で言う。 「玲奈、カメラの前だと緊張してる?大丈夫だよ。普段みたいにすればいいんだ。いつも家で撮るときと同じようにね」 声を潜めたその言葉も、広いスタジオに響き渡り、俺にはすべて聞こえていた。 冷え切った視線で玲奈を見つめる俺に気づくことはなく、光翔の唇は彼女に近づいていく。 だが、玲奈は突然、何か恐ろしいものでも見たかのように彼を押しのけた。 彼女の視線が不安そうに俺をうかがう。 それに対して俺は、平然とした顔で尋ねた。 「奥様、撮影はもうやめますか?」 玲奈は緊張した表情を崩さずに、口を開く。 「なんで怒らないの……?」

  • 浮気相手の妊婦写真を撮った結果、俺の人生は最高になった件_   第2話

    しばらくして、玲奈が着替えから戻ってきた。彼女が身にまとっていたのは、ビキニだった。 偽物のお腹をつけていても、彼女の美しいスタイルは何一つ損なわれていない。 光翔の視線は、最初から最後まで彼女の体から離れなかった。 「玲奈、君は本当に綺麗だな。ほら見ろ、俺が言った通りだ。この水着、絶対似合うって。君は間違いなく一番美しい妊婦だよ」 玲奈は頬を赤らめて、ふざけたように言う。 「気に入ったならよかったわ。またいくつか買って帰るから、家でも着てあげる」 俺は横で無言のまま照明をセッティングしていたが、手が思わず止まった。 彼女は俺の前では、いつも控えめな服装をしていた。 足首まで隠れるような長いスカートばかり選び、たとえ夏でもしっかり全身を覆い隠していた。 肌どころか、顔も帽子やマスクで隠していた。 俺はそれを、彼女が美意識を持ち、自分のスタイルを大切にしているのだと思っていた。 だが今になって分かった。玲奈は俺に自分の体を見せたくなかったのだ。一寸たりとも。 思わず彼女を見上げてしまった俺に、彼女は驚いたように防御の態勢を取った。 慌てて上着を羽織り、光翔の後ろに隠れながら警戒心むき出しの声を上げる。 「あんた、勝手に見るんじゃないわよ!訴えるわよ」 光翔は彼女の頭を優しく撫でながら、穏やかな声でなだめた。 「いいんだよ。カメラマンがわざとやったわけじゃない。君が綺麗すぎるから、男なら誰だって目が行ってしまう」 「でもダメなの!私は光翔にしか見せたくないの!」 たった数言で、玲奈はまた光翔に甘える優しい顔に戻っていた。 その変わり身の速さを、俺はただ黙って見ているしかなかった。 俺は道具を取りに外へ出た。 すると、玲奈が追いかけてきた。 彼女は俺を物置部屋へと引っ張り込み、声を押し殺して言う。 「神崎陸斗、あんた、いつまでちんたらやってんの?もし撮れないなら、さっさと他の人に代わりなさいよ。私たちの時間を無駄にしないで」 俺は眉を寄せ、静かに言った。 「やっと俺が誰か分かったのか?何か説明する気はないのか?」 すると彼女は逆にイライラした様子で答えた。 「説明って何?ただの妊婦写真を撮ってるだけでしょ?あんた、仕事ばかりで私に構う暇なんてなかったじゃない。それく

  • 浮気相手の妊婦写真を撮った結果、俺の人生は最高になった件_   第1話

    今日は俺の彼女、玲奈の誕生日だ。ここ一年、俺は仕事に追われる日々を送っていて、撮影依頼を毎日こなすうちに、彼女に構う時間がほとんど取れなかった。だけど、次の妊婦写真の撮影を終えれば、結婚に必要な資金がついに揃う。今日はそのことを伝えたくて、彼女にサプライズをしようと考えていた。スタジオの扉を開けようとしたそのときだった。中から聞こえてきた彼女の声に、俺は足を止める。「彼、いつも仕事で忙しいんです。だから、今日は私がサプライズをしようと思って。大切な人と一緒に、最高に幸せな写真を残したいんです」俺はその言葉に胸を高鳴らせた。まさか、彼女も俺を驚かせようとしているのか?その思いに応えるため、喜びを抑えながら部屋に飛び込んだ。けれど、そこにあったのはサプライズではなく――冷たく突きつけられる現実だった。彼女は、見知らぬ男の腕に抱かれながら、恥ずかしそうに微笑んでいた。「彼には、今日は誕生日記念の写真だって伝えてあります。本当は妊婦写真を撮るためなんですけどね。父親として、夫としての気持ちを先に少しだけ味わってもらいたくて」その男は「仕方ないな」と言うように微笑みながら、玲奈の鼻を軽くつついた。「今日は君の誕生日だろう?君が主役なんだから、俺は君と一緒にいられるだけで幸せだよ」二人は見つめ合い、微笑み合う。その光景は、これまで俺が撮影してきた数え切れないカップルたちと同じだった。 俺はドアの前に立ち尽くし、胸が切り裂かれるような痛みを感じていた。 同僚は感慨深げに言った。 「本当に仲がいいよな。安心しろよ、神崎さんは、こういうラブラブな新婚夫婦の写真を撮るのが一番得意だからさ」 そうだな。もしこの女が俺の彼女じゃなかったら、俺だってきっともっと気楽に、心からこの撮影に集中できただろう。 でも、彼女は俺が体を酷使してまで働き、何とかして貯めた二千万円の結婚資金で、迎え入れようとした女性なんだ。 ドアの前で呆然とし、手は握りしめすぎて真っ白になり、体がまったく動けなくなった。 そんな私を見つけた同僚が、彼女には何も知られないままこう声をかけた。「神崎さん、早く来て!お客さんが来てるよ!」同僚はさらに、彼女たちにこう紹介した。「この人が、うちで一番腕のいいカメラマン、神崎陸斗(かんざき

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