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愛した君とここから-04

last update Huling Na-update: 2025-02-13 05:13:25

「杏介、母さんはずっとお前のことで悩んでて――」

父が厳しく咎めようとしたが、母はそれを遮った。

そして小さく頷く。

「……いいのよ。思春期だったもの。私も上手くできなくて相当悩んで荒れたし、お父さんにも相談してたの。だけどもう、杏介くんが元気ならそれでいいかなって思って。……家を出て、そこで紗良さんと知り合って結婚するんだもの。今までのことは紗良さんに出会うための布石だと思えば安いものよ」

ね、と母は同意を促す。

どう考えても安くはないと思った。

結婚して幸せな家庭を築きたいと願っている杏介にとって、母が結婚してから今まで味合わせてしまった負の感情は取り返しもつかない。

ましてや自分が産んだ子のことでもないのに。

「本当に申し訳なかったと……思う。紗良に出会って海斗と接したり紗良のお母さんと話をして、ようやく気づけたというか、その、なんていうか、今まで……すみませんでした。許してはもらえないかもしれないけど……」

「杏介くん……」

大人になって、その立場になってようやくわかる気持ち。

子どもの頃はなんて浅はかで未熟だったのだろう。

もう戻れやしないけれど、誠意だけはみせたいと思った。

「ううっ……」

突然隣から鼻をぐしゅぐしゅ啜る音が聞こえてそちらを見やる。

「さ、紗良?」

「あらあら、紗良さんったら」

紗良は目を真っ赤にして涙を堪えていた。

慌てて杏介がハンカチを差し出す。

「す、すみません。わたし、杏介さんが悩んでいたのを知ってたし杏介さんが私の母を大切にしてくれてるから、お母様とも仲良くできたらと思ってて……ぐすっ。だからよかったなって思って……ううっ……」

「俺は紗良がいてくれなかったらこうやって会いに来ようとも思わなかった。ずっと謝ることができないでいたと思う」

紗良とその家族に出会って、杏介は過去を振り返り変わることができた。

杏介は紗良の背中をそっとさする。

この杏介よりも小さい体で杏介よりも年下の紗良に、どれだけ助けられてきただろう。

自分の黒歴史でしかない親との確執に付き合ってくれ泣いてくれる。

その事実がなによりも杏介の心を震わせた。
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    「本当に、いい人と巡り会えたのね。ね、お父さん。って、あら? やだ、何でお父さんが泣いてるの? ここで泣くのは私と杏介くんだと思うんだけど?」「いや、俺も父親として夫としていろいろ申し訳なかったな、と思ったら……つい……ぐすっ」父は目頭を押さえて上を向く。 寡黙な父で言葉数は少ないが、父には父なりの想いがあった。 それは言葉にならず涙として込み上げる。「……みんな、なんでないてるの? かなしいことあった?」大人たちの会話の意味はわかるが背景を知らない海斗は理解できずきょとんとする。 ずっと神妙な面持ちでいるかと思えば急に泣き出したのだから海斗としてはわけがわからない。「違うよ、海斗。嬉しくても涙は出るのよ」「海斗くん、これからよろしくね。お昼はピザでも取りましょうか? 海斗くんピザ好き?」「すきー! やったー!」「海斗、お利口さんにする約束!」「はっ! し、してるよぅ」紗良に咎められ慌てて姿勢良くする海斗。 微笑ましさに母は思わず口もとがほころぶ。「ふふっ、私ちょっとやそっとじゃ驚かないわよ。杏介くんで鍛えられてるから」と茶目っ気たっぷりに言われてしまい杏介は頭を抱えたくなった。 とはいえすべて自分が元凶なので謝ることしかできないのだが。「……いや、本当に申し訳な……」「杏介」涙のおさまった父が低く落ちついた声で名を呼び、はい、とそちらを向く。「いろいろ経験したお前だ。これからは紗良さんと海斗くんと幸せになりなさい」「父さん……」紗良は改めて杏介の手を握る。 杏介も応えるように握り返す。 今日、ここに来て本当によかった。 心からそう思った。顔を見合わせればお互い真っ赤な目をしていて、可笑しくなってふふっと微笑む。杏介と母とのぎこちなさがなくなったわけではない。 それでも暗く閉ざされていた部分に光が差し込み、今まで見えなかった出口が見えてきた気がした。

    Huling Na-update : 2025-02-14
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    ◇年も明け、紗良と杏介は婚姻届を提出するため役所を訪れていた。ドキドキとしながら書いた婚姻届は、あまりの緊張に二枚ほど書き損じてしまった。 年末には再び杏介の実家を訪れ、証人欄に名前を記入してもらった。 杏介の本籍は実家にあるため、そちらで戸籍謄本も取った。着々と準備が進むごとに結婚するんだという実感がじわじわとわいてくる。 そして今日という日を迎えた。「おめでとうございます」窓口に提出すると職員がにこやかに対応してくれる。 不備がないかなど確認し、滞りなく受理された。 案外あっけなく終わり紗良と杏介は時間を持て余したため、以前訪れたことのある公園まで足をのばした。まだ北風冷たく春になるにはもうしばらく先。 杏介は紗良の手を握り、自分のコートのポケットへ入れた。 吐く息は白いけれど、くっついていれば寒さなど感じないくらい手のひらからお互いのあたたかさを感じる。小高い丘の上にある展望台までのぼるとちょうど飛行機が通り抜けていった。 以前来たときはまわりの木々には緑の葉が生い茂っていて葉々を揺らしたが、今は冬のため枝がむき出しの状態だ。ところどころライトが付けてあることから、夜にはちょっとしたイルミネーションが見られるのだろう。「そういえば、本当に結婚式はしなくていいの?」「うん、だって家も建てるし海斗の卒園式もあるし、やってる暇なんてないよ。お金もないし」「紗良がいいならそれでいいけど……」杏介は顎に手を当ててうむむと考え込む。 あまりにも悩んだ表情をするため、紗良は自分の考えばかり押しつけていたのかもと思い焦る。「もしかして杏介さん、結婚式したかった?」「ああ、いや、そうじゃなくて、紗良のウェディングドレス姿を見てみたいと思っただけで。だって絶対可愛いし」「ええっ? そんなこと言ったら、杏介さんのタキシード姿だって絶対かっこいいよ」お互いにその姿を想像してふふっと笑う。

    Huling Na-update : 2025-02-18
  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   愛した君とここから-10

    紗良が望めば結婚式だって何だって杏介はするつもりでいた。だが紗良はあっさりと、しなくていいと言った。三月には新居も完成予定で引っ越し作業が待っている。そして四月になれば海斗は小学一年生になる。何かと慌ただしい日々。これ以上予定を詰め込むのは難しい。なにより、杏介と結婚できたという事実が一番嬉しいため今は結婚式にまで頭が回らない。「紗良、好きだよ」「……杏介さん」「前は断られたからリベンジ」杏介は照れくさそうに笑う。ポケットにこっそりと忍ばせていたマリッジリングを取り出し、紗良の左薬指にはめる。マリッジリング自体は二人でデザインを決めて購入した。けれどそれを杏介が持ってきていただなんて――。紗良は喜びで胸がいっぱいになる。薬指にはまった指輪はダイヤモンドが複数並んでおり、揺れるような光沢はまるで水面のようにキラキラと輝いた。「杏介さん、私のこと好きになってくれてありがとう。ずっと待っててくれてありがとう」「こちらこそ。俺のこと信じてくれてありがとう。見捨てないでいてくれてありがとう。これからもずっと紗良のことを愛し続けるよ」「……ずっとだよ?」「うん、ずっと。約束する」「私も、杏介さんのこと愛し続けるって約束する」「……まるで結婚式みたいだな」「確かに。セルフ結婚式だね」ふふっと微笑む二人は自然と唇を寄せる。甘く優しい口づけは冬の寒さなど微塵も感じない。あの時とは違う胸の高鳴りが聞こえてくる。たくさんのことを乗り越えて季節をまたぎ、次の春がまたやって来る。愛した君とここから始まるのだ。二人の進む未来は明るく輝いていた。【END】

    Huling Na-update : 2025-02-19
  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編① 泡沫の恋心-01

    ドキドキと心臓が音を立てる。 聞こえないはずなのに耳に響いてくるよう。「き、杏介さんっ」「ん?」さっきから杏介さんは私の頭を撫でたり頬を撫でたりと手つきが優しい。……というよりあやしい。 そのたびに私はビクッと体が反応してしまって……。あああ、嬉しいんだけどこの先に待ち受けてるコトを想像して体が熱くなる。 っていうか、落ち着け私。こんな初心者丸出しで大丈夫だろうか。 上手くできなくて杏介さんに幻滅されないだろうか。「紗良……」杏介さんに名前を呼ばれ顔を上げる。 甘くて艶を含んだ瞳で見つめられ、より一層心臓がドキンと音を立てる。ギシッとベットが歪んで私は押し倒される寸前。あわわわわっ。 えっと、えっと、どうしてこうなったんだっけ?杏介さんと結婚すると決めてから、いろいろなことを同時進行しながら準備をしていた。 お母さんはまだ入院しているし海斗もいるし、杏介さんとはなかなか休みも合わなくて。 だけど杏介さんが「二人で指輪を買いに行こう」って誘ってくれて。そんなわけで私が平日に休暇を取って、海斗を保育園へ預けた直後からデートしていたわけなんだけど――。無事に指輪も選んでウキウキとしていたら、「紗良、俺のマンション来る?」って言われて「うん」って答えた。そういえば杏介さんの家に行ったことなかったし、一人暮らしってどんな感じなんだろうって興味もあったし。だけど杏介さんのマンションに近づくたびに、「あ、もしかして……」と気づいちゃった私。 むしろなんで今まで気づかなかったんだろうって、自分の鈍感さを恨んだ。そしたらもう、心臓バクバクしてきてやばい。 口から出そうになってた。

    Huling Na-update : 2025-03-04
  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編① 泡沫の恋心-02

    私だってもう大人なんだから、杏介さんが求めてきてるのはわかるし(いや、途中で気づいただけなんだけど)、私だって杏介さんとイチャイチャしたいって思ってたけど。けどっ……!こっ、心の準備がっ! だっ、だって、だって、まさか今日そんなことになるなんて思わないじゃない。 いや、むしろ察しろ私。 二人でデートなんだから予想できたでしょうに。こんなことなら可愛い下着を身につけてくるべきだったと、嘆いてももう遅い。杏介さんとキスする寸前。 キスしちゃったら、私、絶対そのまま流される自信ある。 あるけど、あるけどっ。大丈夫なの、私?そういうことちゃんと調べておけばよかった。 無頓着にもほどがあるだろ、わたしぃぃぃ。 毎日イルカのぬいぐるみ抱きしめて、海斗と一緒に早寝してる場合じゃなかった。「……紗良? 緊張してる?」キスする直前、杏介さんがふとそんなことを聞いてくるものだから、私の頬は一気に赤く染まった気がする。 熱い、頬が熱い。「……緊張……してるよ。だって、私……は、初めて……だし……」って何言ってるんだろう。 そんなことを申告してしまったら、余計に恥ずかしさが増して杏介さんをまっすぐ見られなくなった。 私はふいと視線をそらす。と、急に塞がれる唇。「んぐっ!」突然すぎて可愛くない声が出てしまった。 だけど杏介さんは今までより深く口づけたかと思うと、ついにそのまま私を押し倒した。 まるでスローモーションのようにベッドへ身が沈む。

    Huling Na-update : 2025-03-05

Pinakabagong kabanata

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-11

    カシャカシャカシャッその音に、紗良と杏介は振り向く。そこにはニヤニヤとした海斗と、これまたニヤニヤとしたカメラマンがしっかりカメラを構えていた。「やっぱりチューした。いつもラブラブなんだよ」「いいですねぇ。あっ、撮影は終了してますけど、これはオマケです。ふふっ」とたんに紗良は顔を赤くし、杏介はポーカーフェイスながら心の中でガッツポーズをする。ここはまだスタジオでまわりに人もいるってわかっていたのに、なぜ安易にキスをしてしまったのだろう。シンデレラみたいに魔法をかけられて、浮かれているのかもしれない。「そうそう、海斗くんからお二人にプレゼントがあるんですよ」「えっへっへー」なぜか得意気な顔をした海斗は、カメラマンから白い画用紙を受け取る。紗良と杏介の目の前まで来ると、バッと高く掲げた。「おとーさん、おかーさん、結婚おめでとー!」そこには紗良の顔と杏介の顔、そして『おとうさん』『おかあさん』と大きく描かれている。紗良は目を丸くし、驚きのあまり口元を押さえる。海斗とフォトウエディングを計画した杏介すら、このことはまったく知らず言葉を失った。しかも、『おとうさん』『おかあさん』と呼ばれた。それはじわりじわりと実感として体に浸透していく。「ふええ……海斗ぉ」「ありがとな、海斗」うち寄せる感動のあまり言葉が出てこなかったが、三人はぎゅううっと抱き合った。紗良の目からはポロリポロリと涙がこぼれる。杏介も瞳を潤ませ、海斗の頭を優しく撫でた。ようやく本当の家族になれた気がした。いや、今までだって本当の家族だと思っていた。けれどもっともっと奥の方、根幹とでも言うべきだろうか、心の奥底でほんのりと燻っていたものが紐解かれ、絆が深まったようでもあった。海斗に認められた。そんな気がしたのだ。カシャカシャカシャッシャッター音が軽快に響く。「いつまでも撮っていたい家族ですねぇ」「ええ、ええ、本当にね。この仕事しててよかったって思いました」カメラマンは和やかに、その様子をカメラに収める。他のスタッフも、感慨深げに三人の様子を見守った。空はまだ高い。残暑厳しいというのに、まるで春のような暖かさを感じるとてもとても穏やかな午後だった。【END】

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-10

    その後はスタジオ内、屋外スタジオにも出てカメラマンの指示のもと何枚も写真を撮った。残暑の日差しがジリジリとしているけれど、空は青く時折吹く風が心地いい。汗を掻かないようにと木陰に入りながら、紗良はこの時間を夢のようだと思った。「杏介さん、連れてきてくれてありがとう」「思った通りよく似合うよ」「なんだか夢みたいで。ドレスを選んでくださいって言われて本当にびっくりしたんだよ」「フォトウエディングしようって言ったら反対すると思ってさ。海斗巻き込んだ壮大な計画」「ふふっ、まんまと騙されちゃった」紗良は肩をすくめる。騙されるのは好きじゃないけれど、こんな気持ちにさせてくれるならたまには騙されるのもいいかもしれない。「杏介さん、私、私ね……」体の底からわき上がる溢れそうな気持ち。そうだ、これは――。「杏介さんと結婚できてすっごく幸せ」「紗良……」杏介は目を細める。紗良の腰に手をやって、ぐっと持ち上げた。「わあっ」ふわっと体が浮き上がり杏介より目線が高くなる。すると満面の笑みの杏介の顔が目に飛び込んできた。「紗良、俺もだよ。俺も紗良と結婚できて最高に幸せだ」幸せで愛おしくて大切な君。お互いの心がとけて混ざり合うかのように、自然と唇を寄せた。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-09

    カシャッ「じー」小気味良いカメラのシャッター音と、海斗のおちゃらけた声が同時に聞こえて、紗良と杏介はハッと我に返る。「あー、いいですねぇ、その寄り添い方! あっ、旦那様、今度は奥様の腰に手を添えてくださーい」「あっ、はいっ」カシャッ「次は手を絡ませて~、あっ、海斗くんはちょっと待ってね。次一緒に撮ろうね~」カシャッカメラマンの指示されるがまま、いろいろな角度や態勢でどんどんと写真が撮られていく。もはや自分がどんな顔をしているのかわからなくなってくる。「ねえねえ、チューしないの?」突然海斗がとんでもないことを口走るので、紗良は焦る。いくら撮影だからといっても、そういうことは恥ずかしい。「海斗、バカなこと言ってないで――」と反論するも、カメラマンは大げさにポンと手を叩いた。「海斗くんそれいいアイデアです!」「でしょー」カメラマンと海斗が盛り上がる中、紗良はますます焦る。海斗の失言を恨めしく思った瞬間。「海斗くん真ん中でパパママにチューしてもらいましょう」その言葉にほっと胸をなで下ろした。なんだ、それなら……と思いつつ、不埒な考えをしてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。「うーん、残念」杏介が呟いた声は聞かなかったことにした。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-08

    ウエディングドレス用の、少しヒールのある真っ白なパンプスに足を入れた。かかとが上がることで自然と背筋もシャキッとなるようだ。目線が少しだけいつもより高くなる。「さあ、旦那様とお子様がスタジオでお待ちですよ」裾を持ち上げ、踏んでしまわないようにとゆっくりと進む。ふわりふわりと波打つように、ドレスが繊細に揺れた。スタジオにはすでに杏介と海斗が待っていた。杏介は真っ白なタキシード。海斗は紺色のフォーマルスーツに蝶ネクタイ。紗良を見つけると「うわぁ」と声を上げる。「俺ね、もう写真撮ったんだー」紗良が着替えて準備をしている間、着替えの早い男性陣は海斗の入学記念写真を撮っていた。室内のスタジオだけでは飽き足らず、やはり屋外の噴水の前でも写真を撮ってもらいご満悦だ。海斗のテンションもいい感じに高くなって、おしゃべりが止まらない。「紗良」呼ばれて顔を上げる。真っ白なタキシードを着た杏介。そのバランスのいいシルエットに、思わず見とれてしまう。目が離せない。「とても綺麗だよ。このまま持って帰って食べてしまいたいくらい」「杏介さん……私……胸がいっぱいで……」紗良は言葉にならず胸が詰まる。瞳がキラリと弧を描くように潤んだ。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-07

    そんなわけであれよあれよという間に着替えさせられ、今はメイクとヘアスタイルが二人のスタッフ同時に行われているところだ。あまりの手際の良さに、紗良はなすすべがない。大人しく人形のように座っているだけだ。(私がウエディングドレスを着るの……?)まるで夢でも見ているのではないかと思った。海斗を引き取って、一生結婚とは無縁だと思っていたのに、杏介と結婚した。そのことすらも奇跡だと思っていたのに。結婚式なんてお金がかかるし、それよりも海斗のことにお金を使ってあげたいと思っていたのに。そのことは杏介とも話し合って、お互い納得していたことなのに。今、紗良はウエディングドレスに身を包み、こうして花嫁姿の自分が出来上がっていくことに喜びを感じている。こんな日が来るなんて思いもよらなかった。この気持ちは――。嬉しい。声を大にして叫びたくなるほど嬉しい。ウエディングドレスを身にまとっているのが本当に自分なのか、わからなくなる。でも嬉しい。けれどそれだけじゃなくて、もっとこう、心の奥底からわき上がる気持ちは一体何だろうか。紗良の心を揺さぶるこの気持ち。(早く杏介さんと海斗に会いたい)心臓がドキドキと高鳴るのがわかった。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-06

    鏡に映る自分の姿がどんどんと綺麗になっていく様を、紗良はどこか他人事のようにぼんやりと見つめていた。一体どうしてこうなったのか。海斗の入学記念写真を撮ろうという話だったはずだ。それなのにウエディングドレスを選べという。掛けられていた純白のウエディングドレスは、そのどれもが繊細な刺繍とレースでデザインされている。素敵なものばかりで選べそうにない。「どうしたら……」ウエディングドレスを着ることなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。だから果たしてこんなに素敵なドレスが自分に似合うのか、見当もつかない。ドレスを前にして固まってしまった紗良に「ちなみに――」とスタッフが声をかける。「旦那様の一押しはこちらでしたよ」胸元がV字になって、透け感レース素材と合わせて上品な雰囲気であるドレスが差し出される。肩から腕にかけては|五分《ごぶ》くらいのレースの袖が付いており、デコルテラインがとても映えそうだ。レース部分にはバラの花がちりばめられているデザインで、それがまるで星空のようにキラキラと輝く。純白で波打つようなフリルは上品さと可憐さが相まってとても魅力的だ。「でも自分の好みを押しつけてはいけないとおっしゃって、最終的には奥様に選んでほしいとこのようにご用意させていただいております」そんな風に言われると、もうそれしかないんじゃないかと思う。杏介の気持ちがあたたかく伝わってくるようで、紗良は自然と「これにします」と答えていた。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-05

    「ではお着替えしましょうか。海斗くんとお父様はこちらに。お母様はあちらにどうぞ」スタッフに従ってそれぞれ更衣室に入る。どうぞと案内された更衣室のカーテンを開けると、そこには大きな鏡とその横に真っ白なウエディングドレスが何着もズラリと掛けられていた。「えっ?」紗良は入るのを躊躇う。 今日は海斗の入学記念写真を撮りに来たはずだ。 せっかくなので着物を借りて写真を撮ろうと、そういう話だった気がする。いや、間違いなく杏介とそう話した。昨日だって、何色の着物がいいかと杏介とあれやこれや喋った記憶がある。それなのに、紗良の目の前にはウエディングドレスしか見当たらない。着物の一枚すら置いてないのだ。「あ、あの、お部屋間違ってませんか?」「間違っていませんよ。さあさ、奥様こちらへどうぞ。お好きなドレスを一着お選びください」「いえ、今日は子供の入学記念写真の予定なんですけど……」「何をおっしゃいますか。旦那様とお子様が楽しみに待たれていますよ」「えっ、えええ~?」スタッフはふふふとにこやかに笑い、困惑する紗良を強引に更衣室へ引きずり込むと、逃がさないとばかりにシャッとカーテンを閉めた。わけがわからない紗良は、スタッフに勧められるがまま、あれよあれよと流されていった。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-04

    杏介が予約したフォトスタジオを訪れた紗良は、思わず「うわぁ」と声を上げた。四季折々の風景をコンセプトにしている屋内スタジオに加え、外でも撮影できるよう立派な庭園が設えられている。海斗はランドセルを大事そうに抱えながらも、フォトスタジオに興味津々で今にも走りださんと目がキラキラしている。「いらっしゃいませ。ご予約の滝本様ですね」「はい、今日はよろしくお願いします」「ねえねえ、あの噴水さわってもいい?」「こら、海斗、ご挨拶!」「あっ。こんにちは。おねがいします」ピシャッと紗良が戒めると、海斗は慌てて挨拶をする。その様子を見てスタッフは海斗に優しい笑みを浮かべた。「噴水が気に入ったかな? あのお庭でも写真が撮れるから、カメラマンさんに伝えておきますね」「やったー!」海斗の入学記念に写真を撮りに来ただけなのに、そんなシチュエーションもあるのかと紗良は感心する。なにせフォトスタジオに来ること自体初めてなのだ。杏介に任せきりで予約の仕方すらわからない。まあ、杏介が「俺に任せて」と言うから、遠慮なくすべて手配してもらっただけなのだが。「海斗すごく喜んでるね」「浮かれすぎてて羽目外しそうでヒヤヒヤするよ」「確かに」紗良と杏介はくすりと笑った。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-03

    「どうしたの、海斗」「これを見て!」海斗はおもむろにランドセルを背負う。 まだまだピカピカのランドセルを、紗良に見せつけるように体を捻った。「ランドセル?」「そう! ランドセル! 写真撮りたい。リクもさなちゃんも写真撮りにいったんだって」「写真? 写真なら撮ってあげるよ」紗良は自分のスマホのカメラを海斗に向ける。「ちがーう。そうじゃなくてぇ」ジタバタする海斗に紗良は首を傾げる。 咄嗟に杏介が「あれだろ?」と口を挟む。「入学記念に家族の記念写真を撮ったってことだよな?」「そう、それ! 先生わかってるぅー」「ああ~、そういうこと。確かに良いかもね。お風呂で何か盛り上がってるなぁって思ってたけど、そのことだったのね」「そうそう、そうなんだよ。でさ、会社が提携しているフォトスタジオがあるから、予約してみるよ」「うん、ありがとう杏介さん」ニッコリと笑う紗良の頭を、杏介はよしよしと撫でる。 海斗に関することなら反対しないだろうと踏んでいたが、やはりあっさりと了承されて思わず笑みがこぼれた。「?」撫でられて嬉しそうな顔をしながらも、「どうしたの?」と控えめに上目遣いで杏介を見る紗良に、愛おしさが増す。「紗良は今日も可愛い」「き、杏介さんったら」一瞬で頬をピンクに染める紗良。 そんなところもまた可愛くて仕方がない。夫婦がイチャイチャしている横で、海斗はランドセルを背負ったまま「写真! 写真!」と一人でテンション高く踊っていた。

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