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第59話
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永遠の毒薬 第60話
「乃亜、聞こえてる？」乃亜は我に返り、軽く返事をした。電話を切ると、急いでバッグを手に取り、慌てて外へ向かった。玄関を出たところで、ちょうど凌央と美咲が入ってきた。彼女は二人を無視して、そっとすれ違った。「乃亜、どこに行くの？」彼女は関わりたくなかったが、美咲はしつこく声をかけてきた。乃亜は足を止め、ゆっくりと振り向き、美咲を見て冷静に言った。「病院に行く」新型特効薬のことを、どうしても凌央に言い出せなかった。どうにかしなければ。試してダメだったら、最後の手段として凌央に頼むしかない。以前なら、凌央が一番最初に思い付く人物だったはずだが、今はそれも難しい。凌央は眉をひそめ、山本が言っていたことを思い出した。 乃亜の祖母は今、新型特効薬が必要。乃亜は彼に頼らず、自分で高額の薬を買うつもり。彼女は少しずつ、彼との距離を置いているのだ。「先に話を終わらせてから行きなさい！」美咲はちらっと凌央を見たが、顔色一つ変えず、彼が今の会話を聞いていたかどうかも分からなかった。もし聞いていたとしても、彼が助けてくれることはないだろう。「急いでいるから、今すぐ行かなきゃ。この件は後で話す！」乃亜は表情を変えずにそう答えた。一時間前、凌央は美咲と一緒にいることはないと言ったのに、今、目の前には二人が並んでいる。まるで幸せな夫婦のように見える。その光景は、まるで虫を飲み込んだような気分になった。「乃亜、怒ってるみたいだけど、俺が美咲を送ったからか？」美咲は凌央に向かって顔をわずかに横に向け、困ったような表情を浮かべた。乃亜は美咲をちらっと見て、思わず笑った。「気にしてないよ、考えすぎだよ！それより、あなたたちは先にオフィスに戻った方がいいんじゃない？ここでこんなに長く話していると、他の人に三角関係だって噂されちゃうわ。次もし私が『凌央と寝た』なんて噂が流れたら、結婚証明書をグループに送っちゃうからね！」祖母が必死に治療を受けているというのに、美咲は彼女を引き止めて二人の愛を見せつけようとしている。乃亜が怒らなかったのは、ここが桜華法律事務所だからだ。人に笑われたくなかっただけ。でも、怒りがないわけじゃない。美咲がどんなに優遇されても、結局はただの愛人だ。乃亜こそ、正式に結婚した凌
永遠の毒薬 第61話
「さっきも言ったように、急いでいるって言ったのに、彼女は無理に私を引き留めようとした。今、私の祖母が救急室で必死に手当てを受けているのに、あんたは『きちんと話をしろ』って言うの？」乃亜はしばらく我慢していた涙が、とうとう止められずに流れ落ちた。「凌央、美咲が少しでも不満を感じたらすぐに気を使うのに、私が急いでいても全く気にしないんだね。美咲が気を使うのがそんなに大事なら、彼女に仕事させなければいいのよ。どうせお金には困ってないんだから！」凌央の表情が固まった。凌央は乃亜の祖母が救急処置を受けていることを全く知らなかった。「凌央、もう行ってもいいよね？遅れたら祖母に最後のお別れもできなくなるかもしれないの」乃亜は涙を拭うと、すぐに彼を押しのけてドアを開け、外に出た。ドアの外では、美咲が躊躇しながらノックするかどうか迷っていた。その瞬間、乃亜がドアを開けたため、美咲は驚いて後ろに一歩下がった。反応する間もなく、乃亜はすでに遠くへ歩いて行ってしまった。美咲は声をかけようとしたが、その瞬間凌央が出てきた。美咲はすぐに凌央に駆け寄り、柔らかな声で言った。「凌央」凌央は冷たい表情で、美咲の顔をちらりと見ただけで言った。「乃亜がどこに行くか、お前に許可を取る必要はない」そう言うと、背を向けて去って行った。美咲はその背中をじっと見つめ、歯を食いしばりながら怒りをこらえていた。さっき、凌央が乃亜をオフィスに引き入れたとき、明らかに怒っていたのに......乃亜が何を言ったのか、どうして凌央の態度がこんなに変わったのだろう？乃亜は車を運転して駐車場を出ようとしたが、突然、凌央のベンツに道を塞がれてしまった。乃亜はクラクションを鳴らしたが、相手は全然動かなかった。彼女は深く息を吸い込み、仕方なく車のドアを開けて降り、運転席の窓を叩いた。山本が窓を開け、すぐに丁寧に「奥様」と呼びかけた。「車のドアを開けて」乃亜は手を伸ばして、ドアを開けた。ドアが開くと、彼女はパソコンに向かって仕事をしている凌央を見上げながら、冷静に言った。「凌央、どうすれば私を解放してくれるの？」凌央はパソコンのキーボードを打ち続け、顔を上げずに命じた。「乗れ」乃亜は歯を食いしばりながら言った。「凌央、急いでるの。夜に話すこと
永遠の毒薬 第62話
「山本さん、凌央を庇わないで！彼が私にどう接しているか、私はちゃんと知っているから！」乃亜は冷静に言った。もし凌央が本当に山本に祖母のことを聞いていたなら、祖母がよく昏睡していることくらい知っているはずだ。でも、凌央は新しい特効薬の話を一度もしたことがない。これは明らかに、山本がわざとそう言ったのだ。「それに、凌央様と美咲様の関係について......」山本がここまで言うと、突然凌央が怒鳴った。「早く車を運転しろ！そんなこと言ってないで、乃亜を連れて来い！」山本は......これで、凌央様のために話すことはできなくなった。乃亜は山本が困ったような顔をしているのを見て、思わず笑った。「凌央と美咲の関係、私だけじゃなくて、桜華市の誰もが知っているわ！いくらあなたが彼をかばっても、無駄よ！」凌央は運転席に座り、乃亜の顔をじっと見ていた。彼女が山本に笑顔を見せたことに、なぜか胸がざわつく。山本は乃亜の言葉を聞いて、二人の間にある誤解がとても深いことを理解していた。この距離を縮めるには、簡単にはいかないだろう。しばらく考えてから、彼はやっと言った。「そのうち、分かるようになるよ」その後、どうにかして二人のために手助けしようと思った。乃亜は軽く笑って言った。「さすがは凌央の右腕ね！美咲の前で、彼のために甘い言葉を言ったこともあるんでしょう？」山本は慌てて手を振った。「いやいや！そんなことは一度もありません！」彼はただ凌央様のためにプレゼントを買い、美咲様に渡しただけだ。情熱的な言葉なんて言うはずがない。だって、凌央は絶対に美咲様にそんなことを言わない！それは単なる補償のつもりだった。「そんなに慌てないでよ。もしそうだとしても、私には関係ないわ！それじゃ、私の車は家まで運転よろしく！私は先に行くわね！」凌央が怒る前に、乃亜は車のドアを開けて乗ろうとしたけれど。その瞬間、男の声が耳に入った。「乃亜、俺を運転手だと思ってるのか？」乃亜は心の中で「またか......」と思いながら、車のドアをバンと閉めて、車の後ろを回って助手席のドアを開けて座り、真剣な顔で言った。「凌央、よろしくお願いします」凌央はちらりと彼女を見た。その横顔だけでも、目を奪われるほど美しい。しばらく黙っていたが、乃亜
永遠の毒薬 第63話
以前、桜華法律事務所で受けた辛い思いも、凌央の行動で少しずつ楽になってきた。時々、乃亜は思う。実は、自分はとても満足しやすい人間かもしれない。ただ、凌央が少しでも真心を見せてくれたら、それだけで十分だった。けれど、凌央は彼女に心さえ見せようとしない。真心なんて、到底あり得ない。黙っている乃亜を見て、凌央は時々チラっと彼女を見た。そのたびにガラスに映る、穏やかな表情の彼女を見て、何となく心が安らぐ。自分が乃亜を愛していないことはわかっている。だけど、彼女と一緒にいる、あの静かな時間がとても心地よかった。結婚してまだ三年だけど、まるで何十年も一緒に過ごしてきたかのように感じる。乃亜が焦っているのを察して、凌央は車を少し速めに走らせ、あっという間に病院の前に到着した。車が止まると、乃亜は軽く手を振って別れを告げ、急いで車のドアを開けて飛び出した。凌央は車を駐車場に停め、建物に向かって歩き始めた。エレベーターを降りると、すぐにその細い姿が目に入った。救急室の前で両手を合わせて祈っている彼女の姿を見て、なぜか胸が少し痛んだ。これまでも、彼女はいつもこうして祈っていたのだろうか？深呼吸をして、廊下の奥へと歩き、煙草を取り出して火をつけた。少し気が楽になった気がした。時間がゆっくりと過ぎていく。気づけば、一箱の煙草をすっかり吸い終わっていた。窓を開けて、煙草の匂いを外に逃がした。その後、乃亜の元に歩み寄り、彼女の背後に立った。そして、そっと手を回して、彼女の腰に手を添えた。乃亜は反射的に手首をつかみ、肩越しに投げ飛ばそうとした。「乃亜、俺だよ！」声を聞いた乃亜は少し驚き、目の前に現れたそのイケメンな顔を見て、少しぼーっとしてしまった。「どうして帰らなかったの？」「俺が一緒にいるから。おばあさんは大丈夫だよ、心配しなくていい」凌央は優しく言った。乃亜は少しぼんやりとしていた。三年間一緒に過ごしてきた中で、凌央がこんな風に彼女を慰めてくれるのは初めてのことだった。凌央はそこほど冷たくはない、と思った。その時、救急室の扉が開き、担架が運び出された。ベッドに横たわった老人は、体中に管が刺さり、骨と皮だけのように、非常に弱々しく見えた。乃亜はその姿を見ると、感
永遠の毒薬 第64話
乃亜は恥ずかしそうに目をそらし、「いや......」と小さく言った。凌央を誘惑しなくても、彼は毎回彼女を疲れさせてベッドから起きられなくなる。もし誘惑なんてしたら、数日間寝たきりになってしまうかもしれない。医者はふと、乃亜の隣にいる男性を見た。創世グループの社長、凌央――さっき彼が乃亜を「蓮見夫人」と呼んでいた。二人は夫婦なのか？乃亜にこんな後ろ盾があるなら、もう心配する必要なんてないだろう......しばらく考えた後、医者は乃亜に向かって真剣に言った。「私、これから忙しくなるので、乃亜さん、頑張って新型特効薬を探してください。そうすれば、お祖母さんの状態もずっと良くなりますよ」年齢を重ねた人の体は本来弱い。頻繁に救急室に運ばれていると、長くはもたない。もし特効薬があれば、少しでも楽に過ごせるだろう。「わかりました、ありがとうございます、先生。お疲れ様です！」乃亜は顔を赤くしながら答え、凌央の手を振り払って、手押し車に向かって歩き出した。祖母が苦しそうにしている姿を見て、思わず涙が浮かぶ。「乃亜さん、まずはおばあさんを病室に戻しましょう」看護師が小声で声をかけた。「はい！」乃亜は答え、再び凌央の方に向き直った。凌央はじっと彼女を見つめ、唇を軽く結んで、彼女が何か言うのを待っていた。実は、乃亜の祖母のことを知った時点で、凌央は山本にすべての手配をさせることができたが、あえて乃亜が直接頼んでくるのを待っていた。商人として、彼は常に利益を重視する。乃亜が自分に頼めば、その時に自分の要求を出し、見返りを得られるからだ。「凌央」乃亜は彼の前に立ち、かすかな声で名前を呼んだ。結婚して三年、二人の関係はそれほど親密ではなかった。彼女がこんな柔らかな声で彼の名前を呼ぶのは久しぶりだ。凌央は彼女を見下ろし、喉がわずかに動くのを感じた。正直、乃亜の声はとても心地よい。特にベッドで彼女が自分の名前を呼ぶと、何もかも忘れてしまいそうになる。ふと考えると、彼の目の色が少し深くなり、唇を軽く開いて言った。「蓮見夫人、ここで誘惑しようっていうのか？」微笑みながら、冗談交じりに言った。今、彼はなぜかすごくご機嫌だった。乃亜は顔を真っ赤にし、手をもじもじさせながら、唇をかんで、しどろもどろに言った。「今晩、いい？」
永遠の毒薬 第65話
この瞬間、乃亜の胸には、今夜が来ることへのわずかな期待があった。「わかった」凌央はそう言って、手を伸ばして乃亜の鼻先を軽くつついた。「おばあさんのところに行ってて。俺は会社に戻る」乃亜はずっと言いたかった。数日前、祖母の意識が戻った時、何度も彼に会いたいと言っていたことを。結婚して3年が経つのに、祖母は一度も凌央に会ったことがない。ためらった末、乃亜はようやく口を開いた。「凌央、お願いが――」しかし、その言葉は突然鳴り響いたスマートフォンの着信音に遮られた。凌央は慌てて携帯を取り出し、乃亜はその画面に表示された名前をしっかり見てしまった。美咲。その瞬間、胸の中で期待と希望が音を立てて砕け散った。これは三人の愛。どんな形であれ、決して満たされることはない。「少し横になって休んでて。すぐ行くから！」凌央の急いだ声が耳に届いた。乃亜は我に返り、瞳にかすかな悲しみを浮かべた。その時、凌央の声が再び響く。「おばあさんのところに行ってやれ。俺はちょっと法律事務所に寄る。美咲が腹痛で辛いみたいなんだ」乃亜はその顔をじっと見つめた。その表情だけで、彼が美咲のことをどれほど心配しているかが伝わってきた。胸が締めつけられるような感覚が広がった。それでも、乃亜は何とか頷いた。「行ってあげて。気をつけてね」ほんの少し前まで、乃亜は彼に言おうとしていた。「私も妊娠している」――と。彼女もまた、妊婦なのだ。しかし、言わなかった。凌央のような人に言ったら、「美咲と争うために嘘をついている」と思われるだけだろう。言わない方がいい。凌央は優しく彼女の顔を包み、唇を寄せた。乃亜はそっと顔を背けた。凌央の唇は、彼女の頬に軽く触れた。凌央は眉をひそめた。「乃亜、機嫌が悪いのか？」明らかに、不満げな声が響いた。さっき美咲のことを説明したばかりなのに、まだ不機嫌なのか？乃亜は無意識に手をぎゅっと握り、無理に微笑んだ。「不機嫌なんてそんなことないわ。ほら、行ってあげて。夜は一緒に夕飯を食べよう」——祖母を助けるための特効薬は、凌央からもらうしかない。自分の気持ちなんて、どうでもいい。凌央はじっと乃亜の顔を見つめ、まるで彼女の心の中を読み取ろうとしているようだった。乃亜は軽く彼を押し、微笑ん
永遠の毒薬 第66話
乃亜は凌央と知り合って三年になる。普段の会話はいつも祖母の病状についてで、互いに顔馴染みではあるが、プライベートなことを気軽に話せるような関係ではなかった。だからこそ、彼女はすぐに話題を変えた。「さっき凌央さんに特効薬のことを話したんです。明日には手に入るはずです。それを祖母が飲み始めたら、少しずつ良くなりますよね？」乃亜はずっと祖母の回復を願っていた。元気になったら、外の世界を見せてあげたい。医師は、彼女が凌央との関係について話したくないことに気づき、心の中で彼女を気遣いつつも、それ以上は何も言わなかった。「しばらく様子を見ないとわかりません。今のところ、どんな効果が出るか保証はできません」患者の状態は常に変化する。どんな薬も万能ではない。乃亜は少し落ち込んだが、うなずいた。「わかりました。じゃあ、おばあさんのところに行ってきます」「行って来てください」乃亜が病室へ向かった後、医師はため息をついた。――この子、いつかきっと今日の決断を後悔する。男に、どれだけ誠実なやつがいるっていうんだ？乃亜は重い気持ちのまま病室に入った。介護士がすぐに気づき、椅子を持ってきてくれた。「乃亜さん、どうぞ」乃亜は微笑んだ。「ありがとう。いつも大変ね」介護士は何度も首を振った。「いえいえ、大丈夫です！全然大変じゃないですよ！」これまで見てきた患者に比べれば、彼女が世話をしているこのおばあさんは本当にいい人だった。穏やかで、優しくて。それに、給料も悪くない。多少の苦労なんて、どうってことない。「少し休んできて。ここは私がいるから」「じゃあ、何かあったら呼んでくださいね」乃亜がうなずくと、介護士は祖母の布団を直してから部屋を出て行った。乃亜は病床の祖母を見つめた。皺だらけの顔が、痛々しくて、胸が締め付けられる。「凌央が特効薬を用意してくれるって。それを飲めば、今みたいにずっと眠ってばかりじゃなくなるよ。少しずつ、元気になれるはず」「おばあちゃん、頑張って生きて。お願いだから」「小さい頃、聞いたことがあるよね？おばあちゃん、一度もあの町を出たことがないって。実は外の世界を見てみたいんでしょ？」「だから、元気になったら一緒に旅行しよう。行きたいところ、全部連れて行って
永遠の毒薬 第67話
凌央は眉をひそめた。「乃亜とは関係ない。お前の体が静養を必要としているんだ！仕事が忙しすぎて、もしお腹の子に何かあったら、大事になるぞ」美咲はその言葉を聞いて、心が温かくなり、顔を赤くして微笑んだ。「凌央、私のことを考えてくれてありがとう。でも、もし仕事を休んだら、毎日家にいるだけで退屈になっちゃうわ。もし鬱になったらどうしよう？」「お前は友達とショッピングに行ったり、アフタヌーンティーを楽しんだり、美容に行ったりできるだろう。誰かと一緒なら、退屈しないだろう」凌央は美咲のことを真剣に考えていた。「でも、信一が亡くなった後、義母が家と車、それに二千万をくれたし、以前は舞団で稼いでいたから、お金の心配はなかったわ。でも今は妊娠して舞団を辞めたから、働かなくなったら、友達とショッピングに行ったり、アフタヌーンティーを楽しんだりするどころか、まともな服すら買えなくなっちゃうわ！」美咲は目を潤ませながら言った。凌央は眉を上げて、「母さんと話してみるよ」と言った。信一の死後の財産分配には関心がなかったが、母親がこんなことをしているとは思ってもいなかった。美咲は驚きながら焦りを感じて言った。「義母は面子を気にする人だから、私があなたに言ったことを知ったら、きっと私を蓮見家から追い出すわ！そうなったら、家政婦を雇うお金も必要だし、生活費も自分で出さなきゃならなくなる。それじゃ、ますます困ってしまう！」信一が亡くなった後、彼女と真子の間で取り決めがあり、美咲は蓮見家に残り、奥様としての待遇を受けていた。けれど、家と車、二千万だけでは足りなかった。彼女は今、お金よりも創世グループの株を欲しがっていた。たとえ1％でも、毎年数十億円の配当を期待できるからだ。おじいさんは株を渡すつもりはないし、真子も同じだ。だから、彼女の唯一の希望は凌央にかかっていた。だから、美咲は凌央の前でわざと「お金がない」と訴えていたのだ。もし凌央が真子にそのことを話したら、すべてがばれてしまうし、凌央が彼女の言うことを信じなくなるだろう。「わかった、食べよう」凌央は箸を取って食べ始めた。美咲はこっそりと彼を見たが、彼の心の中を読むことはできなかった。でも、今自分が言ったことは、凌央にはしっかり伝わったに違いないと思った。この時間を使って、もっと努力してみよう
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永遠の毒薬 第194話
乃亜が顔を上げると、幸恵が顔を歪めながら突進してくる姿が見えた。彼女は無意識にお腹を守るように、手をお腹に当てた。凌央は冷たい表情で彼女を背後に引き寄せ、突進してくる幸恵に向かって蹴りを放った。「誰に向かって手を上げるつもりだ！」彼が酒を勧めたのも、全て乃亜の顔を立ててのことだ。感謝もせず、逆に暴力を振るおうとは。こんな恩知らずには、もう遠慮する必要もない。幸恵は蹴り飛ばされ、床に転がって悲鳴を上げた。隆は慌てて駆け寄り、彼女を介抱し、起こそうとした。恵美は乃亜を憎悪に満ちた目で睨みつけた。きっとこの女が凌央にそう仕向けたに違いない。凌央の背後に立つ乃亜の心には、底知れぬ悲しみが広がっていた。今や彼らと縁を切ったのだから、もう二度と傷つけられることはない！これは彼女にとって、一種の解放でもあった。凌央は振り向いて乃亜の手を取った。「ほら、家に帰るぞ！」拓海と恵美の結婚式の日取りも決まったことだし、これ以上ここにいても意味はない。家に帰る方がましだろう。乃亜は軽く頷き、拓海を一目見るとすぐに視線を落とし、大人しく凌央の傍らに立った。それはまるで子どものように従順な様子だった！凌央は彼女の俯いた姿を見て、理由もなく苛立ちを感じた。法廷ではあれほど雄弁だった女が、どうして今は黙り込んでいるのだ？バカの一つ覚えみたいに、今すぐ何か言ったらどうなんだ！「料理も出たことだし、せめて食事をしていってください！」隆が急いで近寄り、乃亜の前に立った。「乃亜、私たちは血の繋がった家族だ。縁を切るなんて言うものじゃない、そうだろ？さっきの言葉は聞かなかったことにしよう。これからも頻繁に家に帰ってきてくれ！」もし本当に乃亜と縁を切ったら、凌央から金をせびることもできなくなる。それは彼にとって計り知れない損失だ。愛人と息子を養うためにも、収入源は絶やせない。乃亜は、凌央の背後から覗き込むように隆の慌てた様子を見て、唇の端がかすかに上がった。「私を虐待していた事を忘れたの？結婚して3年、あなたたちは凌央から大金をせびりながら、一度も家に帰れとは言わなかった！むしろ早く縁を切りたかったんでしょう？今私を引き止めるのも、私が惜しいからじゃなく、凌央という金の源が手放せないからよ」彼女は隆の偽善を容赦なく暴き
永遠の毒薬 第193話
しかも、隆が養っている愛人は一人じゃなかった。もしさっき幸恵が手を出さなければ、乃亜はこの事実を絶対に口にはしなかっただろう。あの夫婦と関わり合いになるのは心底嫌だったから。「乃亜、本当なの？」幸恵は乃亜を切り裂くほどの目で睨みつけた。父親の不倫を知っていながら、こっそり教えることもせず、わざとこんな場で暴露して恥をかかせるなんて！この小娘、心底腹黒い。「言ったのに信じないなら仕方ないでしょう？見ないふりしてる人に何を言っても意味ないじゃない」乃亜は涼やかに笑いながら、酒瓶を手に三つのコップに酒を注いだ。凌央が眉を上げた。一体何をするつもりだ！乃亜はコップを取り、一つずつ幸恵と隆に手渡すと、自分のコップを高く掲げた。「この杯で、私を産み、育ててくれた感謝を申し上げます。そして今日を限りに親子の縁を切ります。これからは凌央から金をせびるのはやめてください！」この三年間、彼らは凌央から数千万もむしり取り、欲望と傲慢にまみれて生きてきた。乃亜を利用して金を水のように使いながらも彼女を殴りつけ罵倒してきた。子供の頃は抵抗できなかったが、今の乃亜はもう甘んじて受け入れない！縁を切れば、彼らは凌央に金をせびることもできなくなる。凌央も乃亜を脅す材料が一つ減るのだ。乃亜の手はかすかに震え、コップの酒は積もりに積もった感情を宿しているようだった。彼女はきっぱりと頭を仰け、決然と酒を飲み干し、空のコップをテーブルに叩きつけた。硬質な音が孤独に響き渡った。彼女の目頭が次第に赤く染まっていく。それは酒のせいではなく、長年抑え込んでいた感情がついに溢れ出したからだ。涙は目に浮かびながらも、一滴も零れ落ちない。一粒一粒が過去との決別を象徴しているようだった。周囲の空気が張り詰めた。乃亜の一挙手一投足が重く、決然としているように見えた。彼女の視線は、驚愕と複雑な表情を浮かべる両親の顔を掠め、やがて空のコップに止まった。そこにはかつて安らぎを求めた最後の拠り所があったが、今は冷たいアルコールの残り香だけが残っている。凌央は傍らに座り、夜空のように深い眼差しで乃亜を観察していた。普段は冷静なその瞳に、今は測り知れない感情の渦が巻いている。彼の沈黙は、むしろ無言の支持のように感じられ、乃亜に立ち向かう力を与えていた。向かい側に座る拓海は
永遠の毒薬 第192話
幸恵は怒りを爆発させそうになったが、周囲の目を気にして堪え、冷たい声で叱りつけた。「夫の世話をするのは当然でしょう！何をグチグチ文句を言っているの！」乃亜は必死に怒りを抑える母の姿を見て、複雑な思いが込み上げてきた。さっき凌央に牽制されたばかりなのに、少しも態度を改めようとしない。本当に自分はこの人の実の子なのか、疑わしくなる時があった。十か月もの間胎内で育て、生死を彷徨う出産を経験して生んだ子供なら、母親にとって最も大切な存在のはずなのに。母は恵美を愛し、小さい頃から恵美の言う事は何でも聞き入れてきた。一方で彼女には憎しみと冷酷さしか向けてこなかった。一体自分は母親に対して何の罪を犯したのか、ずっと理解できずにいた。凌央は椅子にもたれ、深い黒い瞳で乃亜を見つめていた。さっき助けてやったのに、この恩知らずは他人の肩を持つとは。「乃亜、酒を注ぎなさい、早く！」幸恵は動かない乃亜を見て我慢できず、怒鳴りながら髪を掴もうとした。乃亜が小さい頃は、よく髪を掴んで床に叩きつけたものだ。一度、額を切って血を流させたこともある。しかし手が届く前に、乃亜にしっかりと掴まれた。「いい加減にして！」乃亜が彼女を見る目には鋭い刃のような冷たい光が宿っていた。それは眼光鋭く、不気味で恐ろしい雰囲気を放っていた。凌央と長く一緒にいるうちに、どんどん彼に似てきているのかもしれない。行動だけでなく、眼光までも。幸恵はその視線に心臓を激しく鼓動させた。この子、どうしてこんなに恐ろしい目をしているんだ！「乃亜！この親不孝者が！母親に手を上げようだなんて！」恵美が仲介に入ろうとした。拓海は眉をひそめ、立ち上がって彼女を引き止めた。手を掴まれた恵美は振り返り、「何するのよ！」と睨みつけた。乃亜が母に手を上げそうなのを止めなければならないのに！彼が手を離さないと、彼女は阻止できない！それとも拓海はわざと邪魔しているのか？「これは俺が処理する。君は関わるな」拓海は事の経緯を理解しており、既に対処法を考えていた。恵美が入り込めば、事態はさらに複雑になるだけだ。「まず私の手を離してよ！」恵美は足を踏み鳴らした。拓海は声を落として言った。「恵美、もし手を出したら、結婚は無しだぞ！」恵美と別れる方法はいくらでもある。結婚を考えた理由はただ一
永遠の毒薬 第191話
彼はゆっくりと、しかし強く言った。感謝というより、二人を牽制するような口調だった。隆はグラスを持つ手を震わせ、額に汗を浮かべながら言葉を詰まらせた。「親として、乃亜を大事に思うのは当然です。蓮見社長、お気遣いなく！」幸恵は全身が震え、恐怖でまともに話せない状態だった。「乃亜、これからもたまには家に帰ってきてちょうだい。みんなあなたに会いたがっているのよ！」凌央の言葉の真意を察し、彼女の心臓は高鳴った。凌央は外で愛人を養っているという噂ではなかったのか？どうしてこんなにも乃亜のことに執着するのだろう？どうやらこれからは乃亜をもっと大切に扱わなければいけないようだ。でないと、凌央が会社への投資を止めてしまうかもしれない。明日でも乃亜を連れて買い物に行き、機嫌を取っておこう。一方、恵美は拳を握り締め、乃亜を殺したい衝動に駆られていた。凌央は杯の酒を一気に飲み干すと、横を向いて乃亜に命じた。「乃亜、酒を注いでくれ！」乃亜は彼を一目見ると、酒を注いだ。両親の言葉など、一言も耳に入っていなかった。もうすでに他人同然なのだから、仲良くしているふりをする必要もなかった。彼女の静かで従順な様子に、彼の気分は少し落ち着いた。二杯目は、凌央と田中夫婦が飲んだ。飲み干すと、再び乃亜に注ぐよう命じた。乃亜は思わず向かい側に座る拓海を盗み見た。顔色が悪く、体調がまだ回復していないようだった。このまま酒を飲めば、間違いなく体を壊す。躊躇しながらも、凌央に小声で訴えた。「拓海はお酒が飲めないの。もう彼とは飲まないでちょうだい。もし何かあったらあなたも巻き込まれるわ」昼間に急性アルコール中毒になったばかりなのだ。また飲めば命にかかわる。そんな危険を冒す必要はない。凌央の表情が一気に険しくなった。「お前は蓮見家の夫人だぞ！」彼は「蓮見家の夫人」という言葉を特に強調した。妻でありながら、他人の肩を持つのか。腹立たしいことこの上なかった。「だからこそ、あなたに間違ったことをしてほしくないの」向かいにいるのが拓海でなければ、彼女は決して口を挟まなかっただろう。しかし向かいにいるのは拓海だった。彼は酒を一滴も受け付けない。飲めばすぐに体調を崩す。彼女はそのリスクを冒せなかった......凌央の逆鱗に触れる危険を承知で、止めるしかな
永遠の毒薬 第190話
「優しくして、痛い！」乃亜は眉をひそめ、凌央を押しのけようと手を伸ばした。 この男、まったく女性を大切にしない。 腕が壊れそうだし、さっき胸に顔をぶつけて、すごく痛かった。 「勝手に見ないで！」凌央は低い声で、耳元でささやいた。 その言葉には威圧がこもっていた。 乃亜は息を呑んで、茶を取ろうとした。少しでも気まずさを隠そうとしたけれど、 拓海が先に茶を取って、彼女の前に差し出した。「お前、お茶が苦手だよね。確か、味が嫌いだった。無理して飲まなくていい」 その言葉は二重の意味を含んでいた。 茶が目の前にある。受け取るかどうか、どうすればいいのか分からない。 子供の頃から、茶が嫌いだった。 その理由は単に、茶の味が苦手だったから。 でも、こんなに長い時間が経っても、拓海は覚えていたんだ。 凌央の顔色がすぐに変わった。 ここにいるのに、拓海が乃亜に優しくして、誤解を招くようなことを言うなんて、 自分が無視されているように感じて仕方なかった。 「拓海、私はお茶が好きよ」恵美が不満そうに口を開いた。 乃亜という女、結婚しているのに、拓海を誘惑しようとしている。恥知らずだ！ 拓海はじっと乃亜を見つめた。「飲まないのか？」 乃亜はどうすればいいのか分からず、受け取ることもできなかった。 その時、凌央は茶を取り、一気に飲み干した。 そして、茶碗を置いた後、乃亜に酒を注いだ。「お前は酒が得意だろう？今日は大事な日だから、一杯どうだ？」 拓海は凌央を冷たい目で見た。「そんなに酒を飲ませて、奥さんが気分を害さないか？凌央さん、本当に女性を大事にしないのね」 乃亜は自分が中心になっていることに驚き、眉をひそめた。 言いたいことは山ほどあったが、まだ口を開く暇もなく、凌央が先に言った。「彼女は俺の妻だ。彼女が喜ぶことは、何でもしてあげる。それが間違いだと思うか？拓海さん、お前はこれから結婚する妻のことを気にするべきじゃないのか？俺の妻のことに干渉するのはどうかと思う」 拓海は無言で凌央を見つめた。 その無言のやり取りがすべてを物語っていた。 拓海母は二人の間の微妙な空気を感じ取り、もしこのまま争いが続けば、後々ビジネスにも影響が出るか
永遠の毒薬 第189話
全部乃亜のせいだ、あのクソ女。 拓海の両親は冷たい目でその場を見守っていた。心の中で、乃亜に対する印象はどんどん悪くなっていった。 こんな嫁を迎えるなんて、家族にとっても不幸だ。 廊下の突き当たりで、拓海は煙草を吸い、深く息を吐いた。煙が夜空に漂う。その煙のように、彼の心の中も複雑で深い思いが渦巻いていた。 煙草を消し、彼は歩き出す。部屋の中で人々を探すと、ようやく乃亜を見つけた。目が合った瞬間、拓海の心は波のように高まった。 彼の瞳は深く、熱い。まるで彼女を吸い込んでしまいそうだった。その隠しきれない愛情は、夜空で一番輝く星のように、光り輝いていた。 乃亜はその熱い視線を感じ、思わず目を上げる。拓海と視線が交わった。彼女は彼の漆黒の瞳の中に、読み取れない感情を見た。それは強烈な引力のようで、目をそらすことができなかった。 しかし、その温かな空気は長く続かなかった。 「久遠夫人から聞いたが、田中家と久遠家は結婚の話を進めているよね。日取りは決まったか？」 凌央の声が静けさを破った。 「まだ決まっていない」久遠父は恵美を引き寄せ、にっこりと凌央に尋ねた。「凌央さん、日取りを決めてもらえる？」 どちらが決めても問題ないと思っていた。 凌央は携帯を取り出し、運勢暦を確認し始めた。 乃亜はその姿を見て、まるで詐欺師のように感じた。こんなに真面目に運勢暦を見て日取りを決めるなんて。 「それじゃ、1月1日、元旦にしましょう！今から20日あれば準備も間に合う」凌央は笑いながら言った。 これで、拓海はもう乃亜のことを考えなくなるだろう。 凌央は私情があることを、もう認めていた。 恵美は一瞬驚いたが、すぐに気づいて、慌てて父親の手を取った。「お父さん、1月1日にしよう！あと20日で拓海と結婚だなんて、考えるだけでワクワクする！」 「それじゃ、田中さんと田中夫人はどう？」久遠父は自分で決められず、田中夫婦に尋ねた。 もちろん、早く結婚を決めて欲しいと思っていた。これで自分の希望も叶うし、田中家と親しくなれるからだ。 田中家は蓮見家ほど裕福ではないが、頼めば数千万はすぐに手に入るだろう。 「いいね、1月1日で決まりだ！拓海と恵美の結婚式、少し近いが、全力で準備
永遠の毒薬 第188話
乃亜は思わず凌央を見た。彼女のきれいな目には驚きが浮かんでいた。 今日は一体どうしたんだろう？ 美咲の前では一度も彼女の味方をしてこなかった凌央が、今日はずっと乃亜を助けている。 その行動が理解できなかった。恵美は腹を立てて手を振り上げたが、腕を誰かに掴まれて動けなくなった。 腕が痛むほど強く握られ、思わず声を上げた。「痛い！放して！乃亜、放しなさい！」 乃亜はただ黙って見ていた。何もしていないのに...... それにしても、凌央の行動が謎だった。 今日はどうして彼女をずっと助けているのか、まったく分からない。「犬を叩くにも飼い主を見ろと言うだろう。乃亜は俺の妻だ。俺の前で彼女を叩くなんて。今すぐ謝罪しろ！」 凌央の目に冷気が満ち、その声は凍りつくように冷たかった。乃亜は心の中で湧き上がった好意が一瞬で消えるのを感じた。 彼女は自分が命の恩人だと思っていたが、凌央はただ彼女を犬のように扱っているだけだった。 恵美が自分にこんな態度を取ったのは、結局凌央の逆鱗に触れたからだ。 そのことに気づくと、乃亜は少し冷静になった。「私が............」恵美が口を開こうとしたその時、凌央が鋭い視線を恵美に向けた。「謝罪しろ！早く！」 その目に怯んだ恵美はすぐに言葉を飲み込んだ。 凌央は彼女に対して、これ以上は許さないと決めていた。恵美は歯を食いしばりながらも、「ごめんなさい」と言った。 どうして凌央がこんなにも乃亜の味方をするのか、恵美は全く理解できなかった。 以前、ネットでは彼らが表面上は仲が良いと言われていたが、凌央が浮気しているとも噂されていたはずだ。 だが、なぜか今日は彼が乃亜を助けている。 もしかして、これは全部演技なのだろうか？その瞬間、恵美は何かを思い付いた。 そうか！乃亜も私と同じように、男に愛されていないんだ！ その考えが頭に浮かぶと、心が軽くなった。 乃亜が不幸なら、自分は少しでも幸せを感じることができる。 ただ、乃亜が幸せになったら、自分は気が狂いそうになるだろう。乃亜は唇を軽く噛んで言った。「誰に謝ってる？」 凌央が彼女を助けてくれているから、今はその手を借りることにした。 もし拒絶
永遠の毒薬 第187話
拓海父と拓海母は視線を交わしたが、二人の考えは全く違っていた。 拓海父は心の中で思っていた。拓海と恵美が結婚すれば、今後は凌央とも家族になれる。 もし田中家が創世グループと提携できれば、田中家の未来に大きな利益がもたらされるだろう。 一方、拓海母はこう考えていた。拓海が恵美と結婚すれば、もう乃亜への未練も完全に断ち切れるだろう。 息子は自分が育てた。彼の性格はよく分かっている。責任感が強く、情を大事にする。ただ、唯一の欠点はあまりにも一途過ぎることだ。凌央は冷たい声で言った。「いつ食事が始まる？乃亜はもうお腹がすいているだろう」 乃亜はいつも決まった時間に食事を取っていた。毎晩6時半にきっちり食事が始まる。 結婚当初、乃亜は毎日彼が帰るのを待って一緒に食べ、食事を温め直していた。だが、しばらくすると彼女はもう彼を気にせず、食後はすぐに片付け、彼が遅く帰ってきても食事を用意しなかった。 今は8時近い。きっとお腹がすいているだろう。 体調も良くないし、これ以上空腹が続いたらどうなるのか。乃亜はちらっと彼を見た。心の中で冷笑を浮かべた。 両親は自分の命すら気にかけていないのに、どうして彼が自分の腹を心配するのか。 凌央が「お腹がすいている」と言ったところで、両親はきっと適当に流して終わるだろう。久遠母は乃亜が腹をすかせていることを聞き、反射的に言った。「お腹がすいてたら死ねばいいじゃない！」 あんなに意地が悪い子、誰が心配するものか。凌央は冷たい目で久遠母を見つめ、ますますその冷気が強くなった。 結婚してすぐに、乃亜の背中に大きな傷があることに気づき、彼は尋ねた。「これはどうしたんだ？」 乃亜は「母にやけどさせられた」と答えた。 凌央は耐えきれず、二人のDNAを調べた。親子だと分かったが、なぜ母親がそんなことをするのか理解できなかった。 その後、乃亜にはその傷を治すように勧めた。久遠父は凌央の冷たい視線を感じ、急いで久遠母に向かって怒鳴った。「今すぐ料理を出すように言え！」 怒鳴った後、久遠父はすぐに凌央に向き直り、にこやかに言った。「凌央、先に座って。すぐに料理が出るから」久遠母は凌央の視線にビクっとなり、久遠父に怒鳴られて急いで去った。心の中で乃
永遠の毒薬 第186話
拓海は眉をひそめ、恵美の手を引き剥がして言った。「座って」 彼と恵美の関係は...... ただの取引に過ぎない。 他人に愛を見せつけることが、どれだけ自分を不快にさせるか、拓海はよく分かっていた。「この個室はみんな自分たちの身内よ、拓海、そんなに恥ずかしがらないで！」 恵美は拓海の不機嫌な顔を無視して、再び彼の腰に腕を回し、甘く柔らかい声で言った。 乃亜には負けたくない。それだけが彼女の思いだった。香水の強い香りが鼻をつき、拓海の優しい表情が一瞬で冷たくなった。 彼は恵美を押しのけ、立ち上がって言った。「ちょっと外で煙草を吸ってくる」 このままだと、怒りを抑えきれなくなりそうだった。 温かい一面を壊したくなかったから、少し空気を入れ替えたかった。「拓海！行かないで！」 恵美は怒りで立ち上がり、彼の腕を掴んで引き止めた。 もし拓海が出て行ったら、恵美はどうすればいいのか分からなかった。 彼女の面子が潰れてしまう。拓海母は少し顔をしかめた。 恵美はわがままで、何も分かっていない。 こんな女性が、田中家の奥様になる資格があるのか。久遠父は眉をひそめ、久遠母に目を向けた。 久遠母は急いで恵美を座らせようと立ち上がり、「早く座りなさい！こんなところで恥を晒すな！」 恵美は不満そうだったが、久遠母は強引に彼女を椅子に押し込んだ。 「もう、騒がないで！」 久遠母は恵美が拓海を失うことを恐れているのは理解していた。 でも、この場で恥をかくわけにはいかなかった。田中家はまだ恵美を迎え入れると決めていない。 こんな風に騒いでしまうと、また結婚の話が延びてしまうだろう。恵美は久遠母が怒ったのを見て、渋々座り込んだ。 久遠母は一度恵美を見てから拓海に向かって言った。「拓海、煙草を吸ってきなさい」 拓海は立ち上がり、凌央の前に歩み寄った。 乃亜の顔を一瞬見、凌央と目を合わせた。 「最近、蓮見社長はお忙しいんじゃないか？どうしてわざわざこちらへ？」彼は凌央が来るとは思っていなかった。 彼はあんなに忙しい人だから。「お義母さんから電話があって、今夜は結婚の話をするから、乃亜と一緒に来たんだ」 凌央は少し皮肉な笑み
